映画監督 平栁敦子さん

2018年2月掲載

特別インタビュー
:映画監督 平栁敦子さん

2017年、日本人監督作品としては10 年ぶりにカンヌ国際映画祭・批評家週間部門に選出された映画『Oh Lucy!』。メガホンを取った平栁敦子さんは、各国際映画祭でひっぱりだこ。現在、サンフランシスコで暮らす平栁監督に、映画監督になった経緯や映画作りへの思い、日本人が海外で活躍することなどについて伺いました。

 
映画監督 平栁敦子さん

平栁敦子
ひらやなぎ・あつこ◎長野県生まれ。サンフランシスコ在住。ニューヨーク大学大学院映画制作学科在学中に制作した短編映画『もう一回』で、2012年ショートショート・フィルムフェスティバル&アジアのジャパン部門最優秀賞を受賞。卒業制作作品『Oh Lucy!』で2014年カンヌ国際映画際シネフォンダシオン(学生部門)において日本人初の2位獲得。寺島しのぶ主演『Oh Lucy!』は同作品を長編化したもので、2018年インディペンデント・スピリット・アワード2部門ノミネート。授賞式は3月3日(土)にサンタモニカで行われる。

”普段目立たない人物の声なき言葉を拾い上げたい ”

ーもともとは俳優を目指してサンフランシスコ州立大学演劇学科に留学されたそうですね?
幼い頃、ジャッキー・チェンの映画を見て、見る前と見た後では世界が違って見えるという映画の持つ圧倒的なパワーに魅了され、映画に興味を持ちました。ジャッキーのように、アクションもでき、監督もできるような俳優になりたいと演技の道に進みましたが、いつかは監督になるという思いは当時から漠然とですがありました。

ー漠然とした思いを具体的な行動に移したきっかけは? 
2008年に子どもが生まれたことが転機でした。自分の欲求を素直に表現する子どものピュアなエネルギーを目の前にした時、そこに引け目を感じる自分がいました。もっと正直な人間になりたいと思いました。映画作りをいつか学びたいと思いながら後回しにしている自分は自分に正直でない、と。「今しかない」と思い、ニューヨーク大学にアプライしました。

ーその後は在学中に賞を受賞されたり、トントン拍子ですね!
いや、大学院は思っていた以上に大変でした。ただ、導かれているような感覚がありました。俳優を目指していた20代は、頑張っているのに目の前でドアが閉じてしまうことの連続でした。今思うと、親に高い学費を払ってもらったこともあり、義務感や意地で続けていたからうまくいかなかったように思います。監督業という本当にやりたいことに取りかかった30代は、開いていくドアに向かって進んで行く不思議な感覚でした。

ー監督業の醍醐味は?
俳優さんや制作スタッフさんとのコラボレーションで、どんどん肉付けされて、思ってもいなかった化学反応が起きることですね。『Oh Lucy!』の主人公・節子も、寺島しのぶさんが演じた時点で、彼女しかできない節子なんです。私は「こういう映画を作りたい」から始まるのではなく、ただ主人公の声、その主人公の物語を伝えたいというところから始まります。ですから、最終的に何ができたのかを見るのも楽しみです。

ー節子という人物はどこから生まれたのですか?
そもそも私は、通常スクリーンではヒロインにならないような、我々の日常の中でも目立たないキャラクターに光を当てたいと思っています。どんなに静かな人でも、何も感じていないわけではなく、逆に静かな人ほど語りたい物語があると思います。節子に関していえば、アメリカに留学して、当時は英語があまりできなくて、言いたいことがあっても言葉にできず、「物静かなアジア人の子」になってしまった自分の経験が組み込まれているかもしれません。

ー世界各地の映画祭で評価される理由をどう分析しますか?
あえて言えば、限りなく正直にキャラクターを描くことに徹底したからかもしれません。人が持つコアな部分は、国籍を問わず、皆、同じだと思うんです。奥深くまで掘り下げて、そこを表現できたら、国境を越えて繋がることができるのではないでしょうか。

ー監督のように、日本人が海外で国際的に活躍するために必要なことは何だと思いますか?
難しいですね…。別に国際的に活躍しなくても良いと思うんです。「What you resist,persists」というユングの言葉がありますが、何かに抵抗するほどそのことから抜け出せずに堂々巡りになります。絶対こうしたいという執着を手放し、アメリカでも日本でもどこでも、評価されてもされなくても、心が喜ぶ場所で好きなことをする、それが一番なのではないでしょうか。

Oh Lucy!( オー・ルーシー!)
Courtesy of San Diego Asian Film Festival
Oh Lucy!( オー・ルーシー!) サンディエゴ・アジア映画祭 平栁敦子さん
▲ 2017年秋開催のSan Diego Asian FilmFestivalオープニング上映で観客の質疑応答に応じる平栁監督。

平栁敦子監督、寺島しのぶ主演『Oh Lucy!( オー・ルーシー!)』

ぱっとしない独身OL・節子(寺島しのぶ)が、ひょんなことから通った英会話教室でアメリカ人講師・ジョン(ジョシュ・ハートネット)に恋をし、さまざまな騒動が巻き起こる。ジョンを追って節子も渡米するが…? 2月のニューヨーク公開を皮切りに、3月2日(金)LA、3月9日(金)サンディエゴ、3月16日(金)シアトルほか米国各地で順次公開予定。日本ではゴールデンウィーク公開予定。

◎監督・脚本:平栁敦子
◎出演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネット
◎日本アメリカ合作
◎Web: www.oh-lucy.com

*情報は2018年2月現在のものです