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ロゴ 第57回
「ショーシャンクの空に」と聖書

改めて「ショーシャンクの空に」を見て、英語字幕(日本語字幕ではなくて)で内容を追ってみると、その脚本の完璧さには感服してしまう。別に自分が英語ができると自慢しているのではない。日本語字幕では表せない脚本に忠実なセリフでこそ、この作品の素晴らしさが理解できると言いたいのだ。

大まかなストーリーは、無実の殺人で終身刑に処せられたアンディー(ティム・ロビンス)と、同じく終身刑の友人(モーガン・フリーマン)の刑務所での交流、そして所長や看守との相克を通して、“希望とは何か”を見つめる内容である。原題「The Shawshank Redemption」の“Redemption”は、キリスト教用語で「贖罪(しょくざい)」を意味している。なぜ、無実の罪の主人公が贖罪をするのか? なぜ、このようなタイトルが付いているのか? それは、必ず希望を持てば神が救いの手を差し伸べてくれるということ。ラスト・シーンを見ればわかる。

全体的にセリフも聖書からの言葉が多く、アンディーが看守と交換条件で囚人仲間にビールを振る舞う場面は、キリストが水をワインに変えたエピソードを想起させる。クライマックス、所長の汚職がバレて,金庫の裏帳簿を取り出そうとすると、それはアンディーの聖書だとわかる。そこには「所長,確かに救いはこの中に」とある。そして中身を開くと、ロック・ハンマーの形にくり抜かれた跡。この皮肉に満ちたシーンをよく見てみると、ロック・ハンマーのページの隣は、モーセに率いられたユダヤ人がエジプトから脱出する「出エジプト記」だった。ラストでは、日本語字幕ではわかりづらいが、フリーマンが「I hope……」を繰り返すナレーションが感動的だった。

聖書が隠し味になっているアメリカ映画は多く、それが深みの効果を作り上げている。デビッド・フィンチャー監督の「ゲーム」も然り。マイケル・ダグラス演じる主人公がCRS社について尋ねるシーンで、男が答える言葉は「私は以前は盲目だった。しかし、今は見える」というヨハネの福音書の言葉を引用する。もちろんこれは「本当に目が見える」という以上の意味があるのだが、こうした隠し味が物語のサスペンスを盛り上げていることも確かだ。

クエンティン・タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」でも聖書の言葉が出てくる。サミュエル・L・ジャクソン扮する主人公が人を殺す時に叫ぶのがそれだ。公開当時、聖書の言葉を人殺しに使うことに反発されたが、実際はタランティーノお気に入りのソニー・チバ(千葉真一)主演映画「ボディーガード牙」から、インチキ聖書言葉をそのまま引用していたらしい。


前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。 コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。

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