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南西部へのキャラバン

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2011年01月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

ブリザード吹きすさぶ高地からサボテンの林立する砂漠へ
それは別々の世界ではない。北米大陸ひと続きの自然なのだ
南へのキャラバンの行く手に見えてきたものは……

ロング・キャラバン

またやってしまったー原稿の締め切り破りのことではない(それもやったが)ーロング・キャラバンである。晩秋の11月、車にキャンプ用品ほか一切合財を積み、アバウトな方角だけを定め旅に出たのだ。今回は南へ向かった。

これまでも隊長は、まるで数年おきの発作のようにアメリカの自然を訪ねてきた。良い機会なので、いつどこへ行ったか覚えのために書き出してみよう。

①1999年、夏ーアメリカ大陸斜断往復。オレゴンから東南へ向かいキー・ウエストへ到達。南辺の国境に沿い西へ進みロッキー山脈の西側を北上。

②1999年、秋ーオレゴンを発ちカナダ国境(グレイシャー国立公園)から、ロッキー山脈の東側を南下。グランド・サークルを回って北上。

③2004年、夏ーオレゴンを発ち、アラスカ・ハイウェイを通り北極海(プルドー・ベイ)に到達。帰路は東南アラスカを経由しカナディアン・ロッキー/カスケード山脈を通り南下。

④2004年、秋ーオレゴン南西部、カリフォルニア、ネバダ、アリゾナ~メキシコ国境までを往復キャラバン。
これら4回のロング・キャラバンは、多様な北米大陸の自然が、決して途切れることなく連続したものであることを実感させてくれた。この感覚は飛行機で行けばわからなかったであろう、ロング・キャラバンならではのものだ。

このほかにも仕事で中西部、東部へと幾度も出掛けている。気が付くと、アメリカ50州のうち、ロード・アイランドとサウスダコタを除く48州へ行き、米国内の主だった国立公園はほぼ訪れた。複数回訪れる場所も多く、「もう良い?」「飽きない?」と言う向きもあるが、実際は行きたいところ、見たい自然が増える一方である。

今回訪れたところ

今回のキャラバン行に基づいた記事を、今号から何回かにわたり書くつもりだ。旅のあらましがわかるように、今回訪れた場所を訪れた順に列挙しておこう。

自然景観では、セコイア・キングス・キャニオン、ジョシュア・ツリー、オルガン・パイプ、サワロ、グランド・キャニオン、ペトリファイド・フォレスト、デスバレー、そしてフォート・ロックの各国立/国定/州立公園。史跡では、フーバー・ダム/ミード湖、マンザナー日系人収容所。訪れた街は、ユージン、サンノゼ、フェニックス、セドナ、フラッグスタッフ、ラスベガス、リノ。

旅程中のいちばんのシーニック・ドライブは、通称イースタン・ネバダと言われている、シェラネバダ山脈の東側、ルート395であった。地吹雪の中で日が暮れてしまい大変心細かったが、それがいっそう思い出深い。そして行った先々の地で久しぶりに再会した知己と話した時間は、今回の旅を暖かい色で彩ってくれた。

旅の終わり近くには、マンザナー日系人収容所史跡に立ち寄った。たまたま地図で見て、石碑があるのかな?と思って訪れたのだが、ビジター・センターは大きく、その展示や小映画はよくできている。そして広い収容所跡を車で回る「Self Guided Program」に感動。結局ここで5時間過ごしてしまった。その場所が最近の日本のドラマ「99年の愛~Japanese Americans~」に登場したシーンだと知ったのは、旅が終わった後だった。

米西部の北と南

私達の住む北西部には、海があり、森があり、火山があり、氷河がある。その自然のイメージを色で表すと、潤いあふれる青と緑だろう。一方、今回隊長が訪れた南西部には、強い日差しと岩と砂漠がある。イメージ・カラーは乾いた赤と茶色だ。対照的な景色と言って良い。

北の大地の景観は、何度も繰り返される氷河の消長と火山の噴火が造ってきた。南では十数億年の大陸の浮き沈みが繰り返され、グランド・キャニオンやモニュメント・バレーに代表される、今の地形になった。かたや海洋性、かたや内陸性と、気候も異なる。されど、ひと続きの北米大陸である。

南北の植生は不連続ではなく移り変わっている。内陸の砂漠に生えているサボテンは、南から北へ種類が徐々に変わっていく。同じレッドウッドでも北のコースタル・セコイアと南のジャイアント・セコイアは、何億年ものうちにそれぞれの環境に適応した今の樹形に分化した。

今回、南西部を歩いてみて、北西部の自然の多様さとその恵みの大きさを改めて知らされた気がした。そしてまた、たかだか数千万年の日本列島の歴史に対し、20億年という、文字通り桁違いの北米大地の歴史を目のあたりにすると、その地面の上で、時代の波に一喜一憂している人間のはかなさ、愚かしさも見えてくる。「悠久の大地」という呼称が南西部の自然にはぴったりな気がする。

リシア・パーク
▲南オレゴンにあるフォート・ロック州立公園。内陸平原の真ん中に点在するクレーターのひとつ

リシア・パーク
▲ジョシュア・ツリー国立公園はモハベ砂漠の南東部にある。砂漠と岩山の景色が遠くアリゾナまで続く。右に立っている数本がジョシュア・ツリー、左はモハベ・ユッカ

リシア・パーク
▲キングス・キャニオン国立公園にて。樹齢1,000年以上のセコイアがそびえ立つ
リシア・パーク
▲南カリフォルニア、モハベ砂漠をひたすら東へと車を走らせる
リシア・パーク
▲今回のキャラバンの帰路に立ち寄ったマンザナー日系人収容所史跡。向こう(西側)の山並みはシェラネバダ山脈
リシア・パーク
▲アリゾナ州東部のペトリファイド・フォレスト国立公園。ただ丸太が転がっているように見えるが、これらは木ではなくすべて木の化石である
リシア・パーク
▲現在この日系人収容所跡は国定史跡(National Historic Site)として、国立公園局が管理している。広い史跡内は、自分の車で順路を辿って往時を偲ぶことができる
リシア・パーク
▲シェラネバダ山脈の東側ハイウェイ、ルート395を北上するにつれ次第に標高が上がり、激しい地吹雪の中に入っていく
リシア・パーク
▲一夜明け、北カリフォルニアからオレゴンに入る


Information

■アメリカ合衆国国立公園
今回登場した国立公園は、国立公園局のメインサイトよりそれぞれアクセスできる。
National Park Service
www.nps.gov

※以下は、本文中に登場する国立公園以外の場所
■オルガン・パイプ国定公園
「国定公園」となっているが、原生するサボテンの規模、その中を通るトレイルといい、見応えがある。ビジター・センターの展示も充実しており、国立公園クラスの自然公園である。なお、公園内を通過する道はメキシコへと通じており、その道の途中と国境はボーダー・パトロールが物々しい警備を行っている「国境の公園」である。
Organ Pipe Cactus National Monument
www.nps.gov/orpi

■フーバー・ダム
ニューディール政策のシンボルと言える1935年に完成したダム。アリゾナからネバダに向かうI-93沿いにあり、訪れる人はひきもきらない。
Hoover Dam
www.usbr.gov/lc/hooverdam

■マンザナー日系人収容所史跡
カリフォルニア州、シェラネバダ山脈の東側の谷にあるマンザナー史跡は、施設の性格上どの大都市からも遠い。しかしアメリカ在住の日本人なら、1度は訪れ心に刻むべき場所ではなかろうか。
Manzanar National Historic Site
www.nps.gov/manz

■フォート・ロック州立公園
セントラル・オレゴンの南(南オレゴンと言って良い)にある州立公園。ベンドから1時間余りの距離。
Fort Rock State Park
www.oregonstateparks.org/park_40.php

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。