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ジョシュア・ツリー、サワロ、オルガン・パイプ・カクタス

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2012年01月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

南西部の果てからメキシコ国境の南側へ連綿と続く山並みを眺めつつ、北西部の自然を思いやる
ケシ粒大の人間が北米大陸の広さを掴んだと錯覚してしまう

ジョシュア・ツリー国立公園
▲ジョシュア・ツリー国立公園の位置するカリフォルニア州南部では風力発電が盛ん

このコラム、ノースウエスト自然探訪ではあるが、今回は趣向を変えて南西部キャラバンで訪れたカリフォルニア、アリゾナ州の3つの国立、国定公園について写真を中心に紹介しよう。
南の内陸部、乾いた砂漠である。氷河もなければ火山もない。私達の住む、冬に雨が多く緑の豊かなノースウエストとは別世界のように自然の景観は異なる。この3つの公園は、地名ではなく「レッドウッド国立公園」といった具合に、そこに生えている代表的な植物の名前を冠する。この3種の植物のほかにも、パインやオークといったなじみのある樹木や、ルピナスなどの草花も生えている。だが、いずれも厳しい砂漠の気候条件に適応して変化している。渡ったり、冬眠したりする動物と違い、自らは移動しない植物が適応する姿もまた興味が尽きないものだ。

ジョシュア・ツリー国立公園
▲ジョシュア・ツリー国立公園には大小無数の岩とジョシュア・ツリーが生育している。ロック・クライマーには格好のゲレンデ
ペンシルバニア アーミッシュの人達
▲ジョシュア・ツリー国立公園のほぼ真ん中にあるライアン山より北を見る。岩山が点在する様子がわかる


ジョシュア・ツリー国立公園

ジョシュア・ツリー(Joshua Tree)はツリーと言うが木ではない。さらに砂漠の植物だがサボテンの仲間でもない。正式名称はYucca Brevifolia、観葉植物のあのユッカの仲間である。この公園はロサンゼルスの東に位置し、シェラネバダ山脈の南に広がるモハベ砂漠の南端にある。日本からの海外旅行者のバイブル的ガイドブック『地球の歩き方 アメリカの国立公園』では紹介されていないが、ロサンゼルスとサンディエゴから140マイルと近く、ロック・クライマーやハイカーに人気があ
る。

サワロ国立公園

ひと昔かふた昔かはわからないが、日本人にとってのアメリカの西部、あるいは西部劇のイメージは、モニュメント・バレーに代表される岩山とサボテンであった。日本名は弁慶柱といかにもそれらしい名前だが、アリゾナ州の車のナンバー・プレートのデザインになっている、人の形のような、実物を見なくとも誰もが思い描く、“あのサボテン”である。アメリカでは最大のサボテンで、英語名はサワロ(Saguaro)。実際にはビュートの多く見られるアリゾナの北部は高地で気温が低いために、そのサボテンは生えていない。生えているのはアリゾナ州の南西部でソノラ砂漠を中心としたエリアだ。ツーソンからフェニックス、ラスベガスへ向かう途中辺りまで、ハイウェイのそばでも見られる。地元の人には特段珍しくもないのだが、それでも世界のおおかたの人々にとって1度は見てみたい実物の“あのサボテン”サワロを始め、さまざまな種類のサボテンが自生している場所がこのサワロ国立公園である。
当公園は西地区、東地区に分かれおり、それぞれにビジター・センターと車で廻るシーニック・ループ・ドライブがある。サボテンの種類や見晴らしの良さから言うと、サワロ・ウエストのほうがオススメだ。東地区のビュー・ポイントから眺められる広大なサボテンの林(?)は、70年代の冬の凍害で相当の被害をこうむってしまい壮観ではなくなっている。しかしながら、東地区の魅力は公園の脊梁山脈とも言うべきタンク・ベルデ・リッジのトレイルであろう。ひと汗かくにはうってつけのトレイル・ウォークだが、真夏の日中だとふた汗にも三汗にもなるだろう。歩く時は水を存分に持って。

サワロ国立公園(WEST) セルフ・ガイデッド・トレイル
▲サワロ国立公園(WEST)のセルフ・ガイデッド・トレイル
サワロ国立公園西地区のセルフ・ガイデッド・トレイル上
▲サワロ国立公園西地区のセルフ・ガイデッド・トレイル上にある先住民の残した岩石線画
サワロ国立公園
▲キツツキが空けたサワロの穴の中は、日中涼しく夜は暖かい。キツツキのほか鷹やフクロウなどこの砂漠に棲む鳥の住み家となっている
サワロ国立公園  サボテン
▲カミナリか凍害か、枯死したサワロ・サボテン。北西部で見慣れた樹木の立ち枯れや倒木と何か違い、どちらかというと‘死骸’という印象を受ける
クレーター・レイク
▲老大樹の風格ただようサワロ。枝下の表皮はすでに枯れている


オルガン・パイプ・カクタス国定公園

パイプ・オルガンのようなサボテン。芸もひねりもない名のついた国定公園である。「国定公園」ではあるが国立公園なみの自然景観だと断言できる。この国定公園はアリゾナ州南部のソノラ砂漠にあり、公園の南はメキシコの国境と接している。アメリカの国定公園内に国境があるのはおそらくここだけであろう(国立公園にはある)。
一面オルガン・パイプの山並みが丘の上から見渡せる。南ははるかメキシコのシェラマドレ山脈に連なっている。その荒々しい景色と強い光の反射を見て、隊長はなぜか背後にずっと続く自然景観を思った。切れ目なく続く自然を、地べたを通ってこの目で見てきた。とても長い道のりだったが(それでもようやく北半球の半分か)、北米大陸の大きさがほぼ腑に落ちた。
この地では1年に1回雨が降ればそれを吸い、溜め込んでこのサボテンは生き延びていく。南の砂漠ではそれが当たり前。北に行けば北の、南に行けば南の自然の苛酷さがある。木も草も、生き物みなそれぞれの自然に適応して生きている。でもやはりすごい。そして自然は本当におもしろい、と感じた。

オルガン・パイプ・カクタス国定公園
▲オルガン・パイプ・カクタス国定公園にて、アーチ・キャニオンとサワロ
オルガン・パイプ・カクタス国定公園
▲国定公園名となっているオルガン・パイプ・サボテン。地面から枝分かれが始まり、これでほぼ人の背丈ほどの高さ
オルガン・パイプ・カクタス国定公園
▲サボテンの内部が見える。木質の管(Woody Ribs)の周りに分厚い保水層(Spongy Flesh)があり、周密な表皮(Waxy Skin)で被われている
オルガン・パイプ・カクタス国定公園
▲オルガン・パイプ・カクタス国定公園の中のキャンプ場。夏は灼熱炎天地獄。キャンプ適期は11~3月


Information

ジョシュア・ツリー国立公園
園内のほぼ中央にあるヒドゥン・バレー・セルフ-ガイデッド・トレイルは、さまざまな植生が見られる大小の岩の丘陵を縫って歩く、オススメのトレイル。その東にあるライアン山(Ryan Mountain 1664メートル)のピークからは360度の展望が利く。
Joshua Tree National Park
www.nps.gov/jotr

サワロ国立公園
東西どちらのエリアもツーソンから30分ほどの距離。
Saguaro National Park
www.nps.gov/sagu

オルガン・パイプ・カクタス国定公園
ビジター・センターの前、キャンプ場から歩くデザート・ビュー・セルフ・ガイデッド・トレイルと車で廻るアホ山ドライブ(Ajo Mountain Drive)がオススメ。さらに歩きたい方はアホ山の麓と谷(Arch Canyon)を廻るトレイル・ウォークもある。
Organ Pipe Cactus National Monument 
www.nps.gov/orpi

(2012年1月)

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。