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化石の森/2億年の自然探訪(後編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2014年05月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

地球は、自然の采配と気の遠くなるような時間をかけ
2億年前の樹木を、当時のまま私たちに見せてくれる
それは、「有機が無機に置き換わること」以上の何かに
人間ははたして気付くかな?という謎かけにも思える

ニューベリー火山国定公園
▲ニューベリー火山国定公園。山頂から眺める溶岩台地の様子。溶岩流が樹林帯を押し包んでいった
©James Jaggard-Wanderlust Tours

銀杏石化林州立公園

アリゾナの化石の森国立公園(Petrified forest National Park)を前編で紹介した。
 
2億年の時間を越えた森の姿を化石として見ることと、世界最大級の珪化木の集積地に立つことで、私たちは時空を超えた太古の地球に想いを馳せることができる。それは実に不思議な感じのする体験だ。南西部の国立公園を訪れる機会があれば、この化石の森へも足を延ばすといい。が、北西部(つまり、私たちの身近)にもそれがある。
 
I-90をシアトルから東へ約2時間、コロンビア河西岸に銀杏石化林州立公園(Ginkgo Petrified Forest State Park)がある。ここの化石木(=珪化木)は、アリゾナの化石の森国立公園とほぼ同じプロセスでできあがった。
 
北に位置するゆえ、樹木の種類は銀杏(Ginkgo)、ダグラスファー、スギ、クルミ、スプルース、モミジなど現在の私たちの周りに生えている木々が多い。河岸(とは言っても1万年以上前の河岸で、現在の水面より高い位置)には、まだ地中に埋もれている状態のいろんな種類の化石木を見るトレイルがある。また、ここは、ミュージアムがあり屋外の展示も多い。
 
パークの名前にもなっているGinkgo、つまり東京都の木である銀杏は、生物学的にはセコイア(Redwood)に並ぶ恐ろしく古い(原始的な?)種の木である。扇形の葉で、秋には黄色く色付き、落葉もするので広葉樹と思われがちだが、樹木生理学上は立派に針葉樹である。
 
珪化木は珍しいし、加工すると美しいので、人々は近過去におおかた持ち去ってしまった。大部分は装飾用に加工され売られ、一部は博物館に展示されている。
 
近いところではワシントン大学のバークミュージアムやヤキマのヤキマミュージアムでつぶさにそれらを見ることができるが、往時の地球の原始景観を思い浮かべるにはやはり現場(銀杏石化林州立公園)に立つことに意味がある。

オレゴンでは

オレゴン州には化石の森国立公園のような珪化木ではなく、火山から流れ出す溶岩流で包まれ、炭化した木が溶岩成分に置き換わってできた森林がある。時代は、はるかに現代に近づき約6千年前、火山から流れ出た溶岩流が中腹の森林を押し固めてできた、その名もラバキャスト・フォレスト(Lava Cast Forest)だ。
 
灼熱の溶岩に触れると木なんてあっという間に燃え尽きてしまうと考えがちだが、山火事の跡を思い出してみよう。木の幹は黒く焦げて立ち残っている。一定以上の厚みがある木は、表面が焦げて炭化するとそれが断熱材となって中まで熱を通さないという難燃、耐炎性がある。溶岩流に耐え残った太い幹の木々はほとんどが朽ちたが、一部は石化して現在も残っている。
 
もう1カ所、セントラルオレゴンにある「ジョンデイ化石国定公園」(John Day Fossil bed National Monument)も太古の地球からの遺産を見ることができる国定公園だ。ここはペインテッドヒルズ、シープロック、クラーノの3セクションに分布しており、500以上の化石がシープロックにある考古学センターに展示されている。クラーノでは化石帯を巡るトレイルがあるが、採取は禁止されている。
 
1億1千万年前から9千万年前、当地は熱帯から亜熱帯の気候環境にあった。そのためシュロ、椰子、アボカドなどの幹や葉、種などの化石がある。

世界で、日本で

大きな森林と火山と水と地形の条件が整えば、そして気の遠くなる長い時間が経てば珪化木はできる。その条件に合う世界の各地アフリカや南北米で珪化木が産出されてきた。そして、その珍しさ、美しさから掘り出され観賞用、装飾用の製品に加工されている。
 
日本でも全国に分布しているが、アメリカに比べるとその規模はうんと小さい。温帯モンスーン気候の日本は深く植生で覆われている。化石木ではないが、アメリカに少なく、日本の地勢ならではの古い木の遺物として、列島各地の海辺に「埋没林」がある。
 
隊長の故郷、富山県の魚津市には大規模な埋没林があり、国の天然記念物に指定されている。2千年以上前に一旦地中に埋もれ、その後の海面上昇で海中に保存された状態の大木の主に根の部分だ。
 
その来し方を思うとなかなか壮観な景色が浮かんでくる。2億年と2千年は文字どおりの桁違いではあるが、それでも地球と人間の歴史を推し測る格好の時間のものさしだ。
 
実は、完全でない(=美しくない)石化木は世界中に分布している。それはすなわち石炭そのものであり、あるいは石炭になりそこなった珪化木、あるいは珪化木になりそこなった低質炭である。そして石油やシェールガスもまた、形を変えた石化木である。今日では、これらは「化石燃料」と総称されている。

 

ワシントン大学構内バークミュージアムの外の一角に展示してある石化木
▲ワシントン大学構内バークミュージアムの外の一角に展示してある石化木
ヤキマミュージアムにある石化木の輪切り
▲ヤキマミュージアムにある石化木の輪切り。針葉樹で、はっきりした年輪があり、年代の新しいもの
椰子の葉の化石
▲ベリングハム付近で採取された椰子の葉の化石。5千万年前、この辺りは亜熱帯気候だったことを示している
ニューベリー火山国定公園内
▲ニューベリー火山国定公園内のLava Cast Forest。珪化木の成因である火山灰でなく、溶岩流によるものだが、やはり火山が作った化石の森であるPhoto by Gary Burzell


ヤキマミュージアムの石化木のコーナー
▲ヤキマミュージアムの石化木のコーナー。当時の環境や成因をとても分りやすくディスプレイしてある
セントラルワシントン、コロンビア河中流域の銀杏石化林州立公園
▲セントラルワシントン、コロンビア河中流域の銀杏石化林州立公園。I-90を東に向うときには立ち寄りたい

Information

銀杏石化林州立公園(Ginkgo Petrified Forest State Park)
ワシントン州のほぼ中央部、エレンズバーグの東にある州立公園。コロンビア河の右岸、I-90の橋の西側にある
www.parks.wa.gov/288/Ginkgo-Petrified-Forest

■溶岩流の森(Lava Cast Forest)
ニューベリー火山国定公園にある溶岩流で固められた森林跡
“Newberry National Volcanic Monument”で検索

■ジョンデイ化石国定公園 (John Day Fossil bed National Monument)
太古の地球からの遺産を垣間見るセントラルオレゴンにある国定公園
www.nps.gov/joda

(2014年5月)

Reiichiro Kosugi
54年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、77年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て88年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。国立公園や自然公園のエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱する。