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Maxで行く自然1(ウエストサイド編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪2005年07月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

ポートランドのダウンタウンと郊外を電車網が結んでいる。
全米で最も優れた都市型交通システムと言われるこの電車は、
マックス(Max)の愛称で呼ばれて市民の足となっている。
電車キャラバンでガス代をセーブ……。これぞ“エコい”自然探訪。

シャクナゲ

マックス沿線のエリアをウエストサイド・ポートランド・イーストサイドの3つに分け、西から順に3回のキャラバンで紹介しよう。今回はウエストサイド。ブルー・ライン路線の西の始点Hatfield Government Center駅からMerlo Road / SW 158th Ave駅 (上の図を参考にしながら読んでもらいたい)。

歩き出す前に

電車を降りたらしっかり歩くことになるので、履き慣れたハイキング・シューズなどウォーキングの準備から。マックスの使い方、路線、料金、スケジュールなどについては、出掛ける前にウェブサイトなどで調べておこう。“エコい”自然探訪には1日乗車券(All Day Ticket)がお勧め。ポートランド・メトロの全路線に加え、バスと路面電車(Portland Streetcar)共通で$3.50(2005年6月現在)。ダウンタウン・ポートランドは、無料乗降区間だ。各駅のホームの時刻表のそばには、駅を基点にしたわかりやすい市街地図が設置されている。それでもストリート名まで記載されている市街地図は必ず持って歩きたい。そして、歩き出す前にもう一度地図をよく見てトレイル・ヘッドまでの道順を頭に入れておこう。

ジャクソン・ボトム遊水池
▲Maxの沿線風景。 開発を免れた原野は、天気のいい日にはのどかな趣きがある
ジャクソン・ボトム遊水池
▲Quatama / NW 205th Ave駅。電車から降りると、まだ開発の手が掛からない自然の原野が残っている。春から夏にかけてお花畑となるこの景色が楽しめるのはいつまでのことか
ジャクソン・ボトム遊水池
▲ビーバートン周辺のもともとの自然の姿はその名の示すごとくビーバーが多く棲んでいるような湿地帯(Marsh)であった。小さなクリークを渡るトレイルにはボードウォークが設けられている
Orenco / NW 231st Ave駅の光景。
▲Orenco / NW 231st Ave駅の光景。
オークの大木の木陰には小さな憩いの場がしつらえてある


広大な遊水地

1.ジャクソン・ボトム遊水池
(Jackson Bottom Wetlands Preserve)

Hatfield Government Center駅の数ブロック南に沼と湖、草原などから成る見渡す限りの自然空間が広がっている。トレイルの入り口にビジター・センター(Wetland Education Center)がある。ここまで駅から1.5マイルの距離を夏の暑い日に歩くのは大変かもしれない。自転車を使うのも手だ(情報参照)。

この辺りはウィラメット川の支流トゥアラティン川の水系で、盆地の底に当たり、古来このような遊水地が広がっていた。後述のビーバートン同様、まるでゲーム「シムシティ」よろしく開発の波が押し寄せて来ている。将来の都市化を考えると、水源の確保、排水の浄化、動植物などの自然環境の保護が大きな課題となっている。そこで0.5平方マイル近い土地、この遊水池が水源涵養地として保全されることになった。ここはこれから紹介するほかの場所と異なり、いわゆる「公園」ではない。それでもこの自然景観の広大さは沿線一素晴らしいものだ。遊水地の南側は環境教育の目的も兼ねて、水辺と草原の中にトレイルと野生生物を観察するためのシェルター、ブラインドがいくつも設けられている。一帯の水辺には130種以上の野鳥、水鳥、渡り鳥が棲息している。鵜、鷺、鴨、雁、白鳥、シギ、ハゲタカ、白頭鷲などの大形の鳥からカワセミやハミングバードまで、野鳥愛好家にとっては垂涎に違いない。中でも白頭鷲は人気の的だが、その巣の辺りは手厚く保全されて、上空を飛ぶ姿を遠くから眺められるだけである。

ジャクソン・ボトム遊水池
▲ジャクソン・ボトム遊水地で羽を休めるカナダ・グースの一群。
住宅地がすぐ近くまで迫って来てい
ジャクソン・ボトム遊水池
▲ジャクソン・ボトム遊水池内のトレイルにて。野鳥の巣箱があらゆるところに設置されている。この日、上空を白頭鷲が舞っていた。エデュケーション・センターの観察デッキに設置してある望遠鏡で観察できる


ここが本当の「シリコン・フォレスト」?

2.トゥアラティン・ヒルズ自然公園
(Tualatin Hills Nature Park)

ビーバートンの西Merlo Road / SW 158th Ave駅を降りてホームの南を見ると、緑の深い森が続いている。目の前が公園の北の入り口に当たる。ここに案内板とトレイル・マップがあるので見ておこう。舗装路とボードウォークのオーク・トレイルを約0.3マイル南に行くと、公園の中心であるインタープリティブ・センターがある。駐車場はここにあり、車の来訪者の正面入り口となる。

ポートランドの西側、ビーバートンからヒルズボロにかけては、もともと沼地(Marsh)と森林、潅木の原野が広がっていた。’80年代から都市開発が進み、今ではその土地本来の自然に替わって、真新しい住宅地や工場、オフィスビルに商業地区、道路などができている。

ナイキの本社などもあるこのエリア、工場の主体は半導体メーカーなどのハイテク産業である。それ故、ハイテク研究のメッカ、シリコン・バレーに対して、このエリアはシリコン・フォレストと呼ばれている。

これまでの都市開発によって、棲む場所を失った動物や鳥が多い。今でも、街の所々に残っている遊水地やクリークに野鳥やカワウソ(Otter)などを見掛ける。まとまった自然のままの一角を保全と公益のため、計画的に残したのがこの公園である。ダグラス・ファー、米杉(Red Cedar)、モミ(Grand Fir)の森林、それとこの辺りが西限となる内陸性のポンデロサパインの樹が珍しい。下生えにはシダやオレゴン・グレープ、ハンノキ(Alder)、メープル(楓)などがあり木々の合間に沼地、クリークが広がっている、木陰と潤いの本来の北西部の自然らしい公園だ。自転車も通れる舗装されたオーク・トレイル(0.3マイル)、バイン・メープル・トレイル(0.6マイル)が園内を横断し、ここから十数本の長短の未舗装のセカンダリー・トレイル(自転車は不可)延びている。

電車の旅はまだまだ続く。(次回へ)

トゥアラティン・ヒルズ自然公園
▲Merlo Road / SW 158th Ave駅で下車。線路の向こうに、トゥアラティン・ヒルズ自然公園の北の入り口がある。案内板の所にトレイル・マップが置いてある


Information【トレイル・ウォークのTips】
・準備する持ちもの:飲み物、食べ物、双眼鏡、花・木・鳥などのポケット図鑑、雨具、帽子、サングラスなど。
・コースの距離、所要時間を事前に知っておく。
・必ず地図を持って歩く。
・ハイキング・ブーツなど足回りをしっかりと準備し、特にアップ・ダウンのあるコースを歩く前には、足腰のストレッチを十分に行う。
・トレイルを外れて歩かない。
・野生生物に食べ物を与えない。

【レンタサイクル店】
■Hatfield Government Center駅周辺のレンタサイクル店
Trail Head Cycles
232 NE Lincoln St., Hillsboro, OR 503-693-7422

【白頭鷲(ハクトウワシ)】
精悍な風貌でアメリカでは憧れ(?)の鳥である白頭鷲(Bald Eagle)は、開発と共に棲息地を追われて今ではアラスカ、カナダにまとまった種集団を残すのみである。
海や川の近くの高い木に巣を作る。白頭鷲の実物を見た人は少ないが映像を見た人は多いはずだ。羽根を大きく広げ、水中の鮭をまさしく“ワシ掴み”にして空に舞い上がるシーンである。しかし鮭が多く川に現われるのは産卵の時期だけであり、その映像は撮影クルーの努力の結晶と言えるだろう。
ちなみに、猛禽類の成鳥の死因のひとつは溺死である。鳥の爪は脚を押さないと外れないようにできているので、爪を立てられた大きい魚が死に物狂いで潜ると共に水中に引きずり込まれてしまうわけだ。苦労の少ない採食行動をするのが生き物(人間も含め)というもので、アイドル白頭鷲とて例外ではない。死んで水辺に打ち上げられた魚の屍肉をつついているのが現実の、だが自然の姿だ。

【ウェブサイト】
■トライメット(TriMet)
Maxの使い方や路線、料金、時刻表などバスの情報も。
ウェブサイト:http://trimet.org

■トゥアラティン・ヒルズ自然公園
(Tualatin Hills Nature Park)
トゥアラティン・ヒルズ自然公園とレクリエーション・ディストリクトのウェブサイトでビーバートン・エリアの公園の情報が得られる。
ウェブサイト:www.thprd.org

■ジャクソン・ボトム遊水地
(Jackson Bottom Wetlands Preserve)
ジャクソン・ボトム遊水池の情報と、行われるイベントを調べることができる。
ウェブサイト:www.jacksonbottom.org

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。
ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan