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Maxで行く自然2(ポートランド編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪2005年08月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

オレゴン州の北辺、西のヒルズボロと東のグレシャムを結ぶ電車網マックス(Max)。
その中心ダウンタウン・ポートランドの街の中にも、折りに触れ訪れてみたい自然がある。

シャクナゲ

前回からマックス沿線のエリアを西から東へと3回のキャラバンで紹介している。今回はポートランド編。ブルー・ライン路線のWashington Park駅からRose Quarter駅まで。

1,600万年前の地底からワシントン・パークへ

1.ワシントン・パーク(Washington Park)

この公園は広い。ポートランド北西の山全部が公園と言っても過言ではない。総面積1,873ヘクタール、隣接するフォレスト・パークへ延びるワイルドウッド・トレイル(Wildwood Trail)はなんと26.3マイル(約42キロ)! 交差する支トレイルが31本もあり、毎年ハイカーの遭難者(?)が出るほど、全米一広い都市公園である。下車駅はもちろんWashington Park駅。

マックスはこの山の地下265フィート(80メートル)にあるトンネルを通っている。駅のホームにはこのトンネルを掘った時に出た土がディスプレイされている。ホーム辺りの深さで1番古い地層は1,600万年前のものだ。地下ホームと地上は4基のエレベーターで結ばれている。

代表的なトレイルをひとつ紹介しよう。
マックスの駅から北へ、日本庭園・バラ園へ至るオーバールック・トレイル(Overlook Trail)。片道約1.5マイル、所要時間約40分。ダグラスファーとシャクナゲの林間を通っている気持ちの良い小径だ。

駅に戻るには同じルートをたどってもいいし、ワシントン・パーク内を15分ごとに巡回するバスに乗るか、バラ園から動物園を結ぶミニ鉄道を使って戻ることもできる

ジャクソン・ボトム遊水池
▲世界中の500種を越えるバラが咲き誇る試験園。テラスには歴代ローズ・クイーン(毎年のミス・ローズ・フェスティバル)のネーム・プレートが埋め込まれている
ジャクソン・ボトム遊水池
▲動物園からバラ園、日本庭園へ向かうオーバルック・トレイル(Overlook Trail)。尾根筋の木立の中を行く気持ちの良い小径
ジャクソン・ボトム遊水池
▲ノースウエストの植生と日本庭園は相性がいいようだ。これは庭園下の入り口の山門風ゲート。園内から望むダウンタウン・ポートランドとその向こうのフッド山の景色は1枚の絵のように素晴らしい


市民の憩いの場

2.ウィラメット川プロムナード

シアトルの街がピュージェット・サウンドに向かって開けているように、ポートランドはこのウィラメット川の東西両岸に街が広がっている。

起点となる駅は西から順に「Yamhill District」「Morrison / SW 3rd Ave」「Oak / SW 1st Ave」「Skidmore Fountain」「Old Town / Chinatown」「Rose Quarter」の6駅。どの駅からも数分で河畔に行ける。

河畔にはヨットハーバー(marina)もあり、川岸はウォーキングやジョギング、サイクリングなどでいつも人通りのある市民の憩いのプロムナードである。 西岸の芝生の広場ではローズ・フェスティバルなどのさまざまな催しが行なわれる。また週末には、隣接のサタデー・マーケットの賑わいから人々が風と緑を求めてここへ集まる。平日も朝夕や昼休みにオフィス街から人々がここへ出てくる。ポートランドの人達が単に“ウォーターフロント”と呼ぶこの水辺のオープン・スペース、正確には東岸のベラ・キャッツ・イーストバンク・エスプラナード(Vera Katz Eastbank Esplanade)の遊歩道と西岸の緑地帯のガバナー・トム・マッコール・ウォーターフロント・パーク(Gov. Tom McCall Waterfront Park)両岸を結ぶ4つの橋から成っている。総延長3マイル(約5キロ)のこの「目」の字形のトレイルは、距離とルートの取り方が自在で、かつどこにいても自分の現在位置が簡単に把握できる。川面を吹き渡る風は心地良く、朝夕ここから望む対岸のダウンタウン・ポートランドのスカイラインと、背後の緑の山並み(ワシントン・パークからフォレスト・パークへ続く丘陵)は素晴らしい眺めだ。街の全体像をつかみ、ウォーキングの足慣らしをするのに格好の場所でもあり、自転車で走るのも気持ちが良い。また、ウィラメット川の上流の両河畔には古い単線電車の路線がそれぞれに残っているのが見られる。

時代をリードしてきたマックス

ジャクソン・ボトム遊水池
▲運休中のサムトラック(SamTrak)の旧Oaks Park駅よりウィラメット河畔の公園に出る。そこから望むダウンタウン・ポートランドのスカイライン

1940年代までは、ポートランドもアメリカのほかの都市と同様、鉄道が交通の主役だった。ダウンタウンと近郊では電車が、遠距離の移動には汽車が用いられた。’50年代に入り、人々の移動の主役は次第に車に取って代わられた。それに伴い都市の様相もどんどん様変わりする。電車の路線は次々に幹線道路とハイウェイに変わっていき、ダウンタウンへ向かう道路も2車線が3車線に拡張された。

さらに車の数は増え続ける’70年代。この街の膨張の速さに「いったいどうなるのだろう?」と人々は心配を抱き始めた。そこで「ポートランド市と近隣の街が一体となって対応せねば」とのコンセンサスの下、ポートランド広域圏(metro)のバス運行を担っていた公共機関のトライメット(TriMet)が主体となって21世紀にも通用する都市交通のグランド・デザインを作っていった。

ジャクソン・ボトム遊水池
▲マックスと交差して、ダウンタウン・ポートランドを走る路面電車(Portland Streetcar)。現在はウィラメット川西岸まで路線が延びている
ジャクソン・ボトム遊水池
▲ウィラメット川東岸の散策路(esplanede)は長い浮きドック構造になっている
ジャクソン・ボトム遊水池
▲正式名称「Willamette Shore Trolley」のポートランド側終点。駅舎は河畔の人気レストラン「Old Spaghetti Factory」 の前にある
ジャクソン・ボトム遊水池
▲最近まで走っていたサムトラック(SamTrak)の線路沿いの遊水地はポートランドの鳥、アオサギ(blue heron)の棲息地となっている


その結果、当初片側4車線に増やす予定だったハイウェイの拡張計画を白紙に戻し、新たに郊外とダウンタウン・ポートランドを結ぶ電車路線Metropolitan Area Express(MAX)を造ることが決められた。1986年、グレシャムとポートランドの15マイルの区間(現在のブルー・ライン)が開通した。郊外の拠点駅には広い駐車スペースを確保してPark & Rideも実現できた。1989年には全米で最も優れた都市型電車交通システムとして米国公共交通協会の表彰を受けた。

バス、路面電車(Portland Streetcar)との連絡もスムーズで同一料金でそのまま乗れる。また、シアトルのバスと同様にポートランドでもダウンタウンは乗降無料区間となっている。

これにより中心部の商店街は個別の駐車場を持たずとも客足を確保できる。こうしてアメリカの他都市に見られるような都市の中心部の空洞化を防ぐことができた。ダウンタウンに近いコンベンション・センターやスタジアムなどにはもちろんパーキングもあるが、大きなイベントではマックスを使った来場者には主催者が帰りの切符を配ることでバランス良くお互いの利便を図っている。

さらに、車両とプラットフォームは車いすやストローラー、自転車でもスムーズに利用できるような設計になっている。バスと違い、旅行者にとって電車はすこぶる使いやすい乗り物で、初めてこの街を訪れる観光客にも好評である。排気ガスも出さず、交通混雑も緩和している。ポートランドへ向かう東の幹線道路I-84では、朝夕のラッシュ時でほぼ時速40マイルで走る車に対し、マックスはそのハイウェイに並行して時速70マイルで走っている。このようにマックスと路面電車はポートランド市民の足となって街に快適さをもたらし、今では「この街の顔」とも言える

電車の旅はいよいよ終着駅へと向かう(次回へ)。

Information

【ワシントン・パーク・シャトル・バス】
メモリアル・デー(5月の最終の週末)からレーバー・デー(9月の最初の週末)の間、10:00 a.m.~7:00 p.m.まで15分ごとに運行。ルートなどは以下のトライメットのウェブサイトを参照。
ウェブサイト:http://trimet.org
【ウィラメット川上流の両河畔に残る古い単線電車の路線】
■ウィラメット・ショア・トロリー
(Willamette Shore Trolley)
ウィラメット川の西岸を通りポートランドと南郊のレイク・オスエゴを結んでいる6マイルの路線。1887年に開通し、戦前は住民の足として、’80年代まで貨物線として使われていた。現在はボランティア・グループの手によってが夏の間だけ1日5往復の運行しているレトロな観光電車として人気。
ウェブサイト:http://oregonelectricrailway.org
■サムトラック(SamTrak)
オレゴン科学産業博物館(Oregon Museum of Science and Industry、通称OMSI)からOaks Parkを通りSellwood地区を結ぶウィラメット川の東岸の路線。運休中。かつては市民の行楽の足となっていた。
【トレイル・ウォークのTips】
・準備する持ちもの:飲み物、食べ物、双眼鏡、花・木・鳥などのポケット図鑑、雨具、帽子、サングラスなど。
・履き慣れたハイキング・シューズなど足回りをしっかりと準備し、特にアップ・ダウンのあるコースを歩く前には、足腰のストレッチを十分に行う。
・トレイルを外れて歩かない。
・野生生物に食べ物を与えない。
・ストリート名まで記載されている市街地図は必ず持ち歩く。駅のホームに駅を基点にしたわかりやすい市街地図が設置されている。歩き出す前に地図をよく見て道順を頭に入れておく。
・マックスの使い方、路線、料金、スケジュールなど、出掛ける前にウェブサイトなどで調べておく。自然探訪には1日乗車券(All Day Ticket)がお勧め。Max全路線バス、路面電車共通で$3.50 (2005年6月現在)。
ウェブサイト:http://tri-met.org

【レンタサイクル店】
■ウォーターフロント周辺のレンタサイクル店
Waterfront Bicycle & Skate Rentals
315 SW Montgomery #360, Potland OR
TEL:503-227-1719

【ワシントン・パーク(Washington Park)】
ワシントン・パーク内にはバラ園、動物園、植物園、日本庭園、フォレストリー・センターなどのほか、丘陵地帯の森林の中に多くの施設が点在している。また隣接のフォレスト・パークにも観光名所のピトック・マンションがあり、トレイルも縦横に敷かれている。この公園についてはいつか詳しく紹介したい。
ウェブサイト:www.parks.ci.portland.or.us/Parks/Washington.htm
■バラ園(International Rose Test Garden)
ウェブサイト:www.parks.ci.portland.or.us/Gardens/IntRoseTestGarden.htm

■日本庭園(Japanese Garden)
ウェブサイト:www.japanesegarden.com

■ホイト植物園(Hoyt Arboretum)
ウェブサイト:www.hoytarboretum.org

【ウォーターフロント】
■ガバナー・トム・マッコール・ウォーターフロント・パーク
(Gov. Tom McCall Waterfront Park)

ウィラメット川西岸。ダウンタウン側の広く長い緑地帯。
ウェブサイト:www.parks.ci.portland.or.us/Parks/TomMcCallWaterfront.htm

■ベラ・キャッツ・イーストバンク・エスプラナード
(Vera Katz Eastbank Esplanade)
最近完成した東岸の遊歩道。ここから眺める山をバックにしたダウンタウンの景色は素晴らしい。
ウェブサイト:www.portlandparks.org/Eastbank/esplanade.htm#visitor

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。
ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan