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2010年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2010年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2010年3月から9月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

補強は万全。優勝候補との呼び声もある今シーズンの戦力

  
 ア・リーグ西地区では、いちばんの戦力補強を行なったと評判のマリナーズ。ライバルのロサンゼルス・エンゼルスには松井秀喜が加入したものの、ジョン・ラッキーら主力が抜けたとあって、マリナーズを優勝候補に推す声もある。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは2010年2月11日現在のものです。
 
  
 

注目の新加入選手
今回のオフも、マリナーズは積極的な補強を見せた。昨年12月、ウィンター・ミーティングの開始に合わせ、エンゼルスからフリーエージェントとなっていたショーン・フィギンスと契約。直後には、フィラデルフィア・フィリーズからクリフ・リーをトレードで獲得している。
1月に入って、マリナーズはフェリックス・ヘルナンデスと5年の契約延長を交わし、ヘルナンデスとリーのコンビは、リーグ屈指の先発1、2番手コンビとの評価を受けている。2月に入ってからは、エリック・ビダードとも再契約。彼の復帰は夏頃の予定だが、彼が本来の力を取り戻した場合、マリナーズの先発1、2、3番手は、確実にリーグ・トップと言える。プレーオフに進むことができれば、これだけのローテーションを持つチームはほかにないだけに、かなり期待が持てそう。
リリーフ陣では、トロント・ブルージェイズからウランドン・リーグをやはりトレードで獲得。ブランドン・モローを放出せざるを得なかったが、実績がある投手だけに、セットアッパーとして安定した活躍を期待できそうだ。

今季のカギは誰が握るのか
フィギンスを加えた打線だが、やはりカギになるのはクリーンナップか。イチロー、フィギンスの1、2番コンビは、高い出塁率が期待できる。しかしながら、還す選手がいなければ、昨年のように得点力に苦しむことになる。
その、昨季リーグ最下位だった得点力に関しては、新加入のミルトン・ブラッドリーがカギを握っていると言える。ケン・グリフィーJr.が残留を決めたものの、昨季19本塁打、57打点の彼に、あまり上積みは期待できない。昨季25本塁打、96打点をマークしたホセ・ロペスだけでは、昨季31本塁打のラッセル・ブラニアンの穴を埋めることはできず、そうなるとシカゴ・カブスからカルロス・シルバとのトレードで獲得したブラッドリーに頼らざるを得ない。
ブラッドリーは昨年、度々トラブルを起こし、成績も打率2割5分7厘、12本塁打、40打点と低調だったが、その前年にはテキサス・レンジャーズで、打率3割2分1厘、22本塁打、77打点という数字を残している。本来、この程度の数字は残せる打者なので、2年前の状態に戻れば、彼にはブラニアンの穴を埋めてあまりある活躍を期待して良い。
なお、ブラニアンの代わりにケーシー・コッチマンが1塁を守るが、こちらは大幅なアップグレード。ロペスの守備はお世辞にもうまいとは言えず、昨年は1、2塁間には大きな穴があったが、コッチマンの守備力には定評がある。オフェンスでブラニアン並みの数字を期待することはできないものの、ディフェンス面では大きく貢献してくれるだろう。

キャンプでの最終調整を待つのみ
さて、まもなくオープン戦が始まるが、ポジション的にいちばんの競争となるのは5番手の先発枠か。
今季の先発は、ヘルナンデス、リー、ライアン・ローランドスミスまではほぼ決まり。4番手もイアン・スネルが有力。しかし5番手は未定で、ダグ・フィスター、ギャレット・オルソン、ジェイソン・バラガスが争う予定。それぞれ決定的な力を持たないだけに、争いはキャンプでの内容が決め手になりそうだ。
野手に関しては、ほぼ固まっている。グリフィーが指名打者で出場する場合は、ブラッドリーがレフト。グリフィーが欠場する場合は、ブラッドリーが指名打者に入って、エリック・バーンズがレフトの守備につく。後のポジションは、サードにフィギンスが入り、あとは昨年と同じ。春のキャンプでレギュラーにけががなく、現時点での予想通りにラインナップが開幕で組めれば、今年は昨年以上に盛り上がるシーズンになりそうだ。
今季が土台固め、基礎作りの1年だとしたら、来季は飛躍の年。プレーオフはまだ無理でも、9月まで争えるチームを作ることがまずは目標か。そのためには、先発2番手の投手の獲得と、打線のてこ入れが急務。3塁手と指名打者に長打を期待できる選手を補強したいところだ。

今月の注目

クリフ・リー投手 Cliff Lee 背番号36

©Seattle Mariners

2008年は22勝をマークしてサイ・ヤング賞を獲得。昨年はクリーブランド・インディアンズからフィリーズにシーズン途中でトレードされ、14勝13敗に終わるも、プレーオフでは5試合に登板して4勝0敗と、健在ぶりをアピールした。シーズン中(8月30日)に32歳となる予定で、そこを懸念する人もいるようだが、球の勢いではなく、制球と鋭い変化球で勝負するタイプでもあるだけに、今季も安定した活躍が期待できるだろう。

マリナーズの2010年シーズンは4月5日スタート

  
 いよいよ開幕。キャンプ中盤までは、大きなけが人もなく、各選手の調整は順調のようだ。本塁打でガンガン点を取る迫力のあるチームでは決してないが、ショーン・フィギンスの加入で機動力を生かす野球に磨きがかかった。接戦を着実にものにする野球ができれば、今年は期待できる。 
  
 

4月5日の開幕に向けて
昨年の今頃は、胃潰瘍のため故障者リストに入り、試合に出場できなかったイチローだが、今年はキャンプ初日から順調で、3月中旬現在、何の不安も感じさせない動きを見せている。
イチローだけでなく、これまでのところ、マリナーズの主力に大きなけがもなく、すべてが順調。逆に、オールスター後になると見られていたエリック・ベダードの復帰が、早ければ6月中になりそうだ、とのうれしい話もある。
今年の開幕は4月5日だが、それまでけが人が出ないようなら、まずは安定したスタートを期待して良い。開幕の対戦相手はオークランド・アスレチックスで、その後はテキサス・レンジャーズ、再びアスレチックス、デトロイト・タイガース、バルチモア・オリオールズと続くが、マリナーズの戦力と比較すれば、すべてのシリーズで勝ち越しても何の不思議はない。日程にも恵まれた感があり、そういう意味でも、けが人さえ出なければ、マリナーズは好スタートを切れるだろうと予想できる。最初の10試合で7回も対戦するアスレチックスとの勝敗が、まずはかぎか。

攻防共に調子は順調!
とりあえず、キャンプに入っての大きな変更点は、サードとセカンドのコンバート。これまで2塁を守っていたホセ・ロペスが3塁に入り、ロサンゼルス・エンゼルスで3塁を守っていたショーン・フィギンスがセカンドを守ることになった。
キャンプ初日、いきなりふたりが違う守備位置についたので、何かと思えば、すでにコンバートが決まっていたのだった。これに関しては、ロペスのほうにやや不安がある。ロペス自身も、「まだ慣れない」とキャンプ序盤までは話しており、ドン・ワカマツ監督も、「ロペスが、無理だと言った段階で諦める」と話している。よって、開幕では従来通り、彼が2塁を守っている可能性もゼロではない。
一方のフィギンスは、元々、外野手などもこなす器用さがあり、どこでも守れるタイプ。中継やダブルプレーなどの動きに関しても問題はないようだ。イチローも、「(細かいプレーを)おろそかにしない」と話すなど、連携プレーの不安を感じさせない。
ロペスが、多少なら平均を下回る程度でも良いからサードをこなしてくれれば、1塁のケイシー・コッチマン、フィギンス、ショートのジャック・ウィルソンという布陣はそれぞれがゴールドグラブ賞の候補者で、かなり計算のできる内野になる。昨年、大きな穴が空いていた1、2塁間などは、相手打者にとって随分狭いエリアとなるだろう。マリナーズとしては、また1歩、守れるチームに近づく。
打線のほうは、やはり中軸に不安が残るものの、今年の攻撃の柱となる1、2番コンビ―イチローとフィギンスが楽しみな存在だ。オープン戦でも、ふたりが出塁した後、重盗を決めて、過去2年連続でサイ・ヤング賞を受賞したティム・リンスカム(サンフランシスコ・ジャイアンツ)から鮮やかに先制点を奪う場面があった。投手にしてみれば、イチローとフィギンスのふたりを同時に出すような展開になれば、相当プレッシャーだろう。その分、あとの打者は楽になる。
今年のチームに、本塁打でガンガン点を取るような野球は期待できない。しかし、中軸も含め、機動力を生かした野球が徹底できるなら、得点力は低くても、僅差の試合をきっちりものにして勝ち星を重ねられそうだ。そのためには、フェリックス・ヘルナンデス、クリフ・リーを中心とした投手陣が常に試合を作ることが必要だが、彼らの調整も順調のよう。今年のマリナーズは、やはり期待が持てそうだ。

今月の注目

ショーン・フィギンス Chone Figgins 背番号9

©Seattle Mariners

昨年までエンゼルスのリードオフヒッター。マリナーズにとっては嫌な選手だったが、小柄ながらも、味方になってこれほど心強い選手もいない。年間30盗塁は計算できる足に加え、昨年は4割近い出塁率を残しており、そんな面からもこれまでのマリナーズにはいなかったタイプと言える。イチローとの1、2番コンビが本当に楽しみだ。

出遅れたマリナーズ

  
 懸念されたオフェンスが、開幕から低調。投手陣では、トレードで獲得し、補強の目玉と言われたクリフ・リーの出遅れも響き、マリナーズは開幕から勝ちを重ねることに失敗した。戦力がそろうまでは、勝率5割前後で耐え、トップを視界に入れておきたいところだ。※本文中のデータは4月15日現在のものです。 
  
 

悪循環なスタート
マリナーズは、スタート・ダッシュに失敗した。開幕戦こそ、ショーン・フィギンス、ケイシー・コッチマンという新戦力が活躍して勝利をあげたが、翌日からは打線が沈黙。投手陣もこらえ切れずに失点を重ねると、それが打線の焦りを生むという悪循環に陥った。開幕9試合まで、マリナーズの1試合平均得点はわずかに3点。これでは、エースのフェリックス・ヘルナンデスが毎日投げても厳しい。
打線に関しては、シーズン前から懸念されていたこと。1番のイチロー、2番のフィギンスまでは高い出塁率を期待できるが、誰が彼らを返すのか? 開幕当初は、コッチマンを3番に入れ、開幕戦こそ機能したが、その後はブレーキとなり、以降、3番が日替わりになるような状況となった。4番を期待されたミルトン・ブラッドリーも、最初の7試合でわずかに1安打。真のクリーンナップの不在は、早々と表面化してしまったと言えよう。

離脱者の復帰を待つ
投手陣では、クリフ・リーの離脱が痛かった。3月の中旬に脇腹を痛めると、そのまま故障者リスト入り。復帰は5月に入ってからとされる。リーが復帰すれば、ヘルナンデスとリーのところで勝ちが計算できるが、リーがいなければ、ヘルナンデスにプレッシャーがかかるだけに、ここでも悪循環。開幕直後は、そうした形ですべてが空回りしてしまった。
しかしながら、うれしい誤算も。ダグ・フィスターが、13日のアスレチックス戦で8回を無安打、無失点に抑えた。どうしても勝ちたい試合での好投は、チームを救った。投球内容も去年に比べて、成長が見られる。彼が安定してくれば、マリナーズは固定されていなかった先発5番手の投手が育ったことになる。
5月以降の戦いだが、間もなくリーが復帰する予定なので、あとは、エリック・ビダードが復帰するまで、なんとか5割をキープして、後半につなげたいところ。ヘルナンデス、リー、ビダードがそろえば、かなり高い確率で3連敗、4連敗ということがなくなるだろう。どのチームに行ってもエースになれる彼らがそろって先発できるようになる日が来れば、オフェンスもカバーできる。

イチローのマイルストーン
ところで、チームの調子に合わせるかのように、イチローもスロー・スタートとなった。開幕10試合で10安打と、1試合に1本ペース。4月11日から14日にかけては、13打数無安打に倒れている。しかし、例年4月は「助走期間」と話しているので、彼に関しては心配ないだろう。
そのイチローには、開幕戦を終えた段階でひとつのマイルストーンが訪れた。大リーガーは、キャリア10年で殿堂入りの資格を得るが、その年1試合でもプレーすれば、それが1シーズン分と換算されるため、メジャー10年目を迎えたイチローは、開幕戦を終えた段階で10年の殿堂入り資格を得たのである。仮に、イチローが明日で引退したとしても、資格が消えることはない。
これまでの実績で、十分に殿堂入りできると言われてきたイチロー。キャリア10年が最後のハードルだったが、イチローはそれもクリアした。殿堂入りへの障害が、これで完全になくなった。

今月の注目

ブランドン・リーグ投手 Brandon League 背番号43

©Seattle Mariners

ハワイ生まれの日系人。2001年のメジャー・デビュー以来、トロント・ブルージェイズでプレーしていたが、ブランドン・モローとのトレードで、今季よりマリナーズに入団。彼にはセットアッパーとして、クローザーのデビッド・アーズマにつなぐ役割が期待されている。腕も含め、体中にタトゥーがあることでも有名だ。

不調の5月、そして事件は続く

  
 5月に入って事件続発のマリナーズ。オフェンスの不振が大きな要因となって8連敗を喫するなど、チーム状態は弱いチームのそれを象徴する。彼らは今後、本来あるべき姿……開幕前に予想された強いマリナーズに戻ることができるのか…?※本文中のデータは5月16日現在のものです。 
  
 

一体何があったのか
5月に入って、マリナーズが揺れた。
まずは、5月4日のミルトン・ブラッドリー事件。彼はこの試合で2度三振を喫するが、チャンスで見逃しの三振を喫した6回の打席が終わると、交代させられたことに腹を立て、帰宅してしまったと伝えられている。最初は判定が不服だった。しかし、ドン・ワカマツ監督らが代わって抗議してくれるわけでもない(当たり前。ほぼ真ん中の球だった)。今度はそのことに腹を立てた。で、帰ろうとした。
ワカマツ監督が慌ててダグアウトの裏で引き留めると、ブラッドリーはいったん納得。しかし、ダグアウトに戻ると、レフトにはもうライアン・ランガーハンズがついていた。ワカマツ監督は説得の前に、すでに交代を告げていたのだ。それを知ってまたブラッドリーが怒った、というのが伝えられているところ。それは、翌日の朝になって報道されたが、その日、マリナーズの各選手が小学校を訪問した際、ブラッドリーはイチローらとちゃんと出席していた。それもまた、状況を混乱させる一因となったが、それより少し前、ブラッドリーは、ワカマツ監督に電話をして、助けを求めたという。その内容は公表されていないが、ブラッドリーが自分の感情をコントロールできないことを認め、それについて助けを求めたと推測されている。
ただ、そんな経緯をたどったところで、帰宅問題は棚上げ。ブラッドリー本人は、7日からチームを離れた。何もかもがわからぬままだ。
グリフィー、居眠りの真相は?
8日には、ケン・グリフィーJr.の居眠り事件が起きた。終盤のチャンスで、なぜか打率が2割にも満たないロブ・ジョンソンがそのまま打席に立った。その日、グリフィーはスタメンを外れており、当然、代打が予想されたものの、その起用はなかった。
2日ほど経って、タコマ・トリビューン紙のラリー・ラルー記者がブログで、グリフィーは試合中に居眠りをしていたために代打に出られなかったと、ふたりの選手の証言を元に報じ、そのニュースは瞬く間に全米を駆け抜けた。12日、遠征先のボルチモアでグリフィー本人とワカマツ監督が居眠りを否定したが、それを証明する客観的な証拠もなく、その先もうやむやのままとなっている。
ただ、グリフィーの記事の本質は、「このチームに必要なのか? 引退すべきではないのか?」という問い掛けにある。12日の試合では、打順が7番まで下がった。翌日からは、スタメンを外れた。代打専門でロースターにおいておくだけの余裕は、今のマリナーズにない。よってラルー記者は、グリフィーが自分から引退しない限り、チームが解雇する可能性もある、と報じたのである。彼は、5月いっぱいでいなくなるかも、と書いていた。
この号が発刊される6月1日にグリフィーがチームにいるのかどうか。いない可能性は否定できない。

テクニック以前の問題……!?
さて、それらの事件の前には、4月30日のことになるが、1死満塁のチャンスでエリック・バーンズがスクイズを試みたものの、バットを引くという前代未聞のプレーがあった。スクイズなら、最悪でもバットに当てる、ということは小学生でも知っている。ただ、バーンズは外角低めの、バットに当てるだけなら難しくないと思われる球に対し、バットを引いたのだった。彼は試合後、素早く着替えを済ませると、記者らの質問に答えることなく、自転車で家に帰って行った……。

今月の注目

マイケル・ソーンダース外野手 Michael Saunders 背番号55

©Seattle Mariners

カナダのビクトリア出身、地元選手のひとりとして数えてもいいだろう。2008年の北京オリンピックではカナダ代表として出場した。マリナーズへの入団は2009年。開幕はマイナーで迎えたが、ブラッドリーらの離脱で昇格すると、最初の5試合で7安打、2本塁打を放つなど、頭角を現した。マリナーズとしては、将来的にレフトのレギュラーになって欲しいと願う23歳の選手である。

来季を見越した布陣へ…

  
 リーグは後半戦に突入したが、マリナーズのプレーオフ進出はもう絶望的。チームもそれを受けて、クリフ・リーをトレードするなど、来季に向けた準備を始めている。久々のポストシーズン進出が期待された今季だが、終焉は早かった……。※本文中のデータは7月15日現在のものです。 
  
 

暗黙の終焉宣言
オールスター直前の7月9日、マリナーズは、クリフ・リーをテキサス・レンジャーズにトレード。同時に、今季の方向性を大きく修正し、ポストシーズンを目指すというよりは、来季を目指すということを、暗黙のうちにファンにも選手にもメッセージとして伝えた。
マリナーズは昨年のオフ、リーをトレードで獲得し、エリック・ビダードとも再契約を交わすと、フェリックス・ヘルナンデスを加えた、実力、実績共に申し分のない3投手を先発ローテーションの軸としたが、結局ビダードの復帰が遅れ、3人が順番に先発のマウンドに立つことはなかった。前半、マリナーズに誤算があったとすれば、それもそのひとつだろう。後半に合わせ、ロースターの入れ替えもあった。今後はさらに若い選手を起用し、来季に備える。誰が使えて、誰が使えないのか。通常9月に始まるオーディションが、7月の半ばから始まったことになる。

レギュラー陣の行方は
同時に、現在のレギュラークラスをどうするかという見極めも始まる。1塁は、レンジャーズから獲得したジャスティン・スモークが、後半戦のレギュラーとなることが確定的だが、それに伴いケイシー・コッチマンが行き場を失う。インディアンズからトレードで獲得したばかりのラッセル・ブラニアンも守備位置をなくし、彼が指名打者に入るならば、今度はミルトン・ブラッドリーが出場機会を失うだろう。もちろんブラッドリーは、レフトを守ることができるが、レフトにはマイケル・ソーンダースがおり、チームとしてはできるだけ彼を使いたい意向。ブラッドリーをトレードできるものなら、今すぐにも放出したいぐらいだが、今年の成績に加え、どこに行ってもトラブルメーカーとなってしまっている彼の引き取り手などなく、マリナーズは来季も彼の起用について、頭を痛めることになりそうだ。
まだ先だが、昨年のドラフトで獲得したダスティン・アクリーが3Aのタコマまで昇格してきた。チームとしては、今季終了後にフリーエージェントとなるホセ・ロペスと再契約するつもりはなく、ショーン・フィギンスを3塁に戻し、アクリーにセカンドを任せるというプランを持っている。おそらく9月になれば、そんな布陣が見られるかもしれない。ただ、マリナーズの場合、そんな問題は氷山の一角であり、さらに言えば捕手も確定できないし、来季のショートも未定。簡単に言ってしまえば、センターのフランクリン・グティエレスとライトのイチロー以外は、野手のレギュラー・ポジションが確定していない。1年前の今ごろと比べれば、チームはこの先の将来性において、わからぬことだらけである。

来季の体制作りへ
投手にしても、ヘルナンデス以外は計算ができない。ダグ・フィスター、ジェイソン・バーガスは、今季と同じようなピッチングが来季もできるのか。ライアン・ローランドスミスやイアン・スネルらも、キャンプでローテーションを勝ち取らなければならない状況だ。ブルペンも、デビッド・アーズマが不安定だけに、代わりのクローザーが必要。その候補だったマーク・ロウも、リーと一緒にレンジャーズに移籍したため、セットアッパーとクローザーの両方が必要となっている。マリナーズとしては、今季勝たなければならない、という態勢でシーズンを迎えたが、それができなかったことで、チームはいちからの態勢作りが求められている。現在、それが少しでも早く始められることが、チームにとって、唯一のポジティブな一面か。

今月の注目

ジャスティン・スモーク内野手 Justin Smoak 背番号17

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クリフ・リーとのトレードで、マリナーズが真っ先に求めた大型1塁手。スイッチヒッターで、マーク・テシェイラ(ヤンキース)の若いころをほうふつさせると評判だ。レンジャーズも彼の放出をためらっていたが、最後に折れたことでトレードが確定。将来というよりは、来季からクリーンナップを打つことが期待されている。

ドン・ワカマツ監督解任の謎

  
 マリナーズが、ドラスティックな改革を続ける。一連の過程では、ついに監督にも手が伸びた。今季終了と共に、残りのコーチ陣の退団も予想され、来季は監督、コーチを一新して臨むことになりそう。伴ってレギュラー選手の顔ぶれも、ガラッと変わりそうだ。 
  
 

ベテラン選手との確執が原因か
8月9日の試合前、初の日系人監督として注目されたドン・ワカマツ監督が解任された。昨年は85勝77敗と、前年度に101敗を喫したチームを見事に蘇らせたが、今季は解雇された時点で、42勝70敗と大きく負け越していた。
ただ、その時点での勝敗はあまり関係ない。チームは7月の時点でクリフ・リーをテキサス・レンジャーズにトレードするなど、白旗を揚げた。それ以降は来季に向けた戦いを模索しており、勝敗は二の次。それが解雇理由とは言えまい。
解雇された最大の要素は、選手の信頼を失ったからとされる。後半に入ってすぐ、ダグアウト内でショーン・フィギンスと監督との間で乱闘まがいの騒ぎが起きた。選手との距離は、修正できないものになっていたようだ。
そもそもの原因は、ケン・グリフィーJr.の引退にあるとの見方がある。ワカマツ監督が、グリフィーに引退を迫り、さらにスタメンを外した。グリフィーは、そうした扱いに納得ができず、突然の引退を決めたとの憶測があるが、その真意は別にして、その時点で、グリフィーを慕っていたフィギンスを始め、ケイシー・コッチマン、ミルトン・ブラッドリーら、ベテランの信頼を失ってしまったのかもしれない。

解雇、残留の裏にある理由とは
その裏にはただ、首をかしげたくなるようなことが多い。たとえば、2年目の監督が、フランチャイズプレーヤーのグリフィーに引退を迫ることなどできるだろうか。それが可能なのはおそらく、グリフィーを呼び戻したチャック・アームストロング社長だけである。
つまり、ワカマツ監督は、泥を被った?
彼の解任と同時に、タイ・バンバークレオ・ベンチコーチ、リック・アダイアー投手コーチも解雇されたが、バンバークレオは仕方がないとしても、現在の投手陣を作り上げたアダイアーの解雇理由も理解が難しい。
ジャック・ズレンシックGMは、「彼らに対する信頼を失った」と話したが、ならば、なおさらわからない。たとえば、チームは7月に走塁ミスを毎試合のように犯した。しかし、その責任を追うべき一塁コーチと三塁コーチは残留。ズレンシックGMは、リーグ屈指の先発陣を管理した投手コーチに対して信頼をなくし、ベースコーチへの信頼は失っていなかったのである。一塁コーチなど、判断のまずさが問われ、三塁コーチ失格の烙印を押されてシーズン途中で一塁に回ったというのに。
まだまだ、わからないことは多い。ズレンシックは、「チームのフロントは、非常に我慢強い」と会見で話したが、この4シーズンで、監督が途中交代するのは、もう3度目だ。監督代行のダレン・ブラウンは、この4年で、マイク・ハーグローブ、ジョン・マクラーレン、ジム・リグルマン、ワカマツ監督に続いて、もう5人目の監督なのだ。最初に耳にした時は、皮肉にしか聞こえなかった。

チームの再建に向けて
ただ、今年はプレーオフに行けるかもしれない―そういう中でシーズンが開幕したのに、早々にペナントレース争いから脱落したことがすべてか。それに対する失望が、すべての引き金になっている。
土台作りと位置付けた昨年の結果がこうなっていたとしても、それがワカマツ監督の責任となることはなかっただろう。むしろ、膿を出し切ることで、来季へのプラス要素と考えることができたかもしれない。
おそらくこのオフは、まず、監督人選が焦点となる。それ次第では、投手陣と守備で勝つという土台も壊して、一からのチーム作りを迫られるかもしれない。
再建、再建と、言い続けて、チームは2年おきぐらいにそれを繰り返しているような。今回もまた、再建が始まる。

今月の注目

ジェイソン・バーガス投手 Jason Vargas 背番号38

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目立たないが、何気に今季のローテーションをきっちり守っている。防御率も3点代前半で、打線が良ければ、7月までにはふた桁勝利に達していただろう。ただ今季は、これまでのどのシーズンよりも、多くの投球回数を投げている。その疲労が来季にどう影響するのか。それが懸念である。

丹羽政善
1967年愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務ののち渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBA、ゴルフなど、現地のスポーツを精力的に取材、コラムや翻訳記事の配信を行う。日本のメディアでは、『サンケイスポーツ』『日本経済新聞』などを中心に活動。海外メディアではかつて、「ESPN.COM」などに寄稿している。著書に『メジャーの投球術』(祥伝社)、『MLBイングリッシュ~メジャーリーグを英語のまま楽しむ!』(ジャパンタイムス、4月発売)がある。在米生活は今年で15年目を迎える。