最終回 ビジネススクールの1年目を振り返って早いもので昨年留学してからもう1年が経とうとしている。あまり大したことを学んでいないような気がする一方で、実にいろいろなことを学んだような気もする。 ビジネススクールの1年目というのは、まず、企業経営に関わる上で知っておくべき基礎科目を学ぶ。ビジネススクールは大学院ではあるものの、学部時代の専攻や職業経験もさまざまな学生が集まるので、最初はどの科目も学部レベルの基礎から始まる。このためか、どうしても広く浅い学習になりがちで、大学院ということから期待されるほど深い知識を得た気がしない科目も多い。 とはいえ、これまで日本で過ごしてきた自分にとっては、すべてが非常に体系的かつ合理的であり、わかりやすい。驚いたのは、これだけの膨大な企業経営に関する知識・手法の一つひとつが、論理的に整理された形で教えられることについてである。日本企業でそのまま働いていれば、オン・ザ・ジョブ・トレーニングで、これだけの知識をこれだけの短期間に習得する機会が果たしてあったかどうか……。もちろん、現場で学ぶ知識が無駄だと言う訳ではないが。他方、米国では全米各地でこうしたビジネス教育が行われ、社会に共通の知識として普及している。 しかも、こうした知識は、単なる机上の空論ではなく、実際に企業の実務でも活用されているのである。また、米国に来る前は、ステレオタイプな米国式経営と日本式経営を対比させ、日本的経営を礼賛する論調も見かけた。しかし、米国のビジネススクールでは、日本の経営に見られるチームワークや長期雇用、金銭以外のモチベーションの重要性なども教えているし、米国の優れた企業もまた、日本式経営の優れたやり方を取り入れている。自分は米国賞賛主義者では決してないが、日本企業も米国の優れたやり方をもっと学んでいかないと、日米の格差はどんどん開いていくのではないか、とも思われる。 ビジネススクールにいると、授業で学んだ知識を企業とのプロジェクトで活かす機会にも恵まれる。時に学校の授業に飽きてしまうことがあっても、米国ビジネスの現場での経験、刺激も得ることができ、これは非常にためになった。自分の場合、とある企業のマーケティング・プランの立案や、さらに別の会社の新事業立ち上げのビジネスプラン作成にも携わることができた。 この留学で、自分自身の視野は格段に広がったと思う。日本では旅行以外で外国人と知り合う機会はほとんどなかったが、ここでは中国、韓国、台湾など、日本から近くてもあまり馴染みのなかった地域の人達から、南米、東欧など、これまで本当に縁のなかった地域の人達とまで交流することができた。また逆説的だが、英語でいろいろな人と交流できるようになるにつれ、英語だけでは十分交流できない世界がまだまだたくさんあることもわかったので、2年目は仕事や学校の合間に英語以外の言語の習得にもチャレンジしたいと思っている。 そんな訳で、全然予定通りにはならなかったハイキング&ドライブ。でも、自然を満喫し、リフレッシュできた1日だった。来月から夏休みだし、これからの季節、ノースウエストの自然を満喫するのが非常に楽しみである。 学校に限らず、シアトルでの生活で学ぶこともある。同級生の家の湖畔の別荘でパーティーをしたり、気軽にカヌーや釣り、ハイキングなどを楽しんだり。湖でボートを楽しむ人達を見ていると、こういう生き方もあるんだなぁということをしみじみ感じる。会社で働く人や同級生を見ていても、概して仕事を楽しそうに語る人が多い。まぁ、アメリカ人は何でもポジティブに物事を言う人が多いが、こういう姿勢やライフスタイルは、これからも参考にしていければなぁと思うのである。 こうして書いていると、この1年、素晴らしいことばかりのようにも見えるが、必ずしもそればかりでもない。周りの学生はビジネスの実務経験がそれほど長くない(2、3年程度、5、6年程度が多い)せいか、自分のように実務経験を積んでから行くと、議論をしていても深みがなく、おもしろくないと思うことも多い。また、英語力で自分の考えをうまく表現できない自分に嫌気が差したり、アメリカ人中心で自分がマイノリティーであると感じざるを得ない環境や、ほとんどアメリカの実例ばかりが扱われる授業に不満を感じたり、といったこともある。これは、うちの大学に限らず、アメリカの大学であれば多かれ少なかれある現象かもしれない。ただ、学校の外を見れば、いろんな機会が転がっているし、こうした環境をいかに克服するか模索することで、学べたことも多い気がする。 「留学日記」は今回で終わりにしたいと思いますが、私の留学生活はこれから2年目に突入し、まだまだ続きます。ワシントン大学のことなど、何か知りたいことでもあれば、メールでもいただければと思います。これまでお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。 |
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