第17回「一寸先は……」 今回の執筆のネタとして、私の頭に真っ先に浮かんだあるモノ。それは、学校主催で毎年行われている遠足、“川下り”だ。 ちょうど2カ月ほど前、その川下りのイベント告知を目にしてからというもの、私の頭の中では「やってみたい」という気持ちが溢れ出していた。川下りといっても、信州の天竜川下りのような甘っちょろいものではない。本格的に救命服を身に付け、ヘルメットを被り、豪快に急流を流れ落ちるラフティングというものだ。カンカンに照った太陽の下、必死にオールを使い、仲間達とひとつになって荒波を駆け抜ける。なんとスリリングなことか! この想像しただけでもワクワクするような遊びを、私が放っておくわけがないことなど、私が一番よくわかっていた。 「行きたい!」と思ったら即行動。まず手始めに、イベント主催の機関に行って話を聞いてみた。費用、日程などなど、結構良い条件だ。念のため「死ぬことはないか?」と尋ねたら、笑いながら「たぶん死なないよ」と、ありがたいお言葉をいただいたので、素直に信じておくことにした。「人生はある程度、楽観的に見ておいたほうが、後の成功の糧となる」と言ったのは、どこの誰だっただろうか。あ、私が言ったのか。 ある程度の資料を揃えた私が次に行うことは、両親の説得だった。そこは大して心配はしていなかった。なぜなら、私は「相手が折れさせるまで、引き下がらない」という手段を過去何度も駆使してきたからだ。久々にパソコン越しに日本にいる母と会話をする。そして小出しにお願いがあることを告げた。最初、母は渋っていたが、そこは上手く丸め込む。そして最後には「まぁ、死ななきゃ何してもいいけど」という言葉をいただいた。おっし! あとはラスボスを攻略するのみ。このラスボスは、たまに自分の意見を土壇場でひっくり返すことがあるので要注意だ。しかし、今回ばかりは譲れない。一度でもOKを取ったら、こっちの勝ちである。 決戦当日、まず父親という名のラスボスと世間話をスタートさせる。久々の会話だったため、思わぬ方向に話が弾んでしまったが、ところどころで軌道を修正させ、川下りの話に持っていった。すると、意外や意外、割と簡単にOKが取れてしまった。そうか、この手の話は、ラスボスのほうが話が通りやすいということを、私はすっかり失念していたようだ。 こうして両親のバックアップを得た私は、さっさと申し込みを済ませ、イベント当日を心待ちにするだけだった。思えば、この単なる学校行事に私は大きな期待を抱いていた。2カ月も前から「川下り!」と叫んでいた私を見て、友人達は何を思っていたのだろうか。しかし、それほど私にはこの川下りは魅力的だったのだ。 だが、その川下り当日。私が風邪をひいて1日中寝たきりだったということを、まだ両親含め、友人達は知る由もない。 |
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