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面白いほどよくわかる 2012 大統領選挙

〜どうなる? アメリカ大統領選挙リターンズ〜

アメリカ建国以来、初の黒人系大統領が誕生して早4年。任期満了を迎える2012年、再び決戦の火ぶたが切られる! 政治学の専門家が米大統領選挙をわかりやすく解説。   文/佐々田博教

★ 第4回 財政赤字が選挙に与える影響

今回の大統領選挙の最も重要な争点として挙げられるのは、経済問題でしょう。世界経済が長期間不況に苦しんでいる理由のひとつに、ヨーロッパでの金融不安があります。ギリシャなどの国が深刻な危機に陥った主な原因は、これらの国が巨額の財政赤字を抱えていることです。財政赤字は、簡単に言うと政府による借金。政府の支出(公共事業費、社会保障費、国防費など)が収入(税収)を上回った場合に生じた財政赤字を穴埋めするために、政府は国債を発行し資金を調達します。

アメリカの2011年の財政赤字は1.6兆ドルで、これはアメリカのGDPの約11%に相当。これまでの借金の総額である債務残高は15兆ドル(約1,200兆円)にも上ると言われています。アメリカの国債を大量に保有しているのは、主に中国や日本なので、アメリカ経済は外国からの借金で支えられている状態と言えます(日本の国債は大部分が国内で保有)。アメリカ国債の信用が落ち、国債による資金調達が難しくなった場合には、欧州の金融危機のような深刻な事態に陥る可能性もあります。

こうした危機感から、オバマ大統領は2011年4月に財政赤字削減案を発表しました。この削減案は、富裕層への増税、国防費の削減、高齢者・低所得者向け医療補助の削減などを行い、政府支出を今後12年で4兆ドル削減するというもので、全国民で財政赤字削減の負担を分かち合うというものでした。しかし、共和党が支配する連邦議会下院からの強い反対を受け、最終的に合意できたのは10年間で1.2兆ドルの削減にとどまりました。これは財政赤字削減への重要な1歩ですが、15兆ドルに上る累積赤字額を考慮すると、根本的な解決策とは言えません。オバマ大統領は更なる赤字削減の努力を野党に呼び掛けています。

共和党の候補者として指名されることが確実視されているロムニー氏は、財政赤字問題に関してどのような政策を持っているのでしょうか。彼は、マサチューセッツ州の知事時代に州の財政を立て直した行政手腕を評価されています。この財政改善策は、社会保障費の削減などで大幅に支出を削減し、法人税・所得税の減税や規制緩和によって景気回復を促すと共に、雇用を増やして税収を増やすことで財政赤字を削減しようとするもので、市場における自由な競争が経済成長につながると考える自由主義経済理論を反映しています。社会保障を削減する一方で、企業や富裕層を優遇しているとの批判もありますが、今のところ世論調査ではロムニー氏の経済政策の方が支持率が高いようです。


人種問題への関与
今年2月にフロリダ州で起きた黒人少年射殺事件によって、再び人種問題に注目が集まっています。2009年にオバマ大統領が、史上初の黒人系大統領に就任した際には、アメリカ社会に存在する見えない壁(Glass ceiling)が打ち破られたかと思われました。オバマ大統領はアメリカ社会の融和を訴え、不法移民が市民権を取得することを可能にすることや、犯罪捜査における人種差別の撤廃などを実現することを公約していました。しかしそれらの公約はいまだに果たされず、これまでオバマ政権において人種問題に関して目立った進展はありません。これはオバマ大統領が黒人などのマイノリティーに肩入れし過ぎると、白人層からの支持を失ってしまう可能性もあり、ある程度の距離をおく必要があるからとも考えられます。今後オバマ大統領が人種問題にどれだけ踏み込めるかが注目されます。
Hiro Sasada
立命館大学国際インスティテュート准教授。1974年生まれ、熊本県出身。カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業後、ワシントン大学大学院政治学研究科博士課程を経て同校で政治学の教鞭を執るなど、2009年まで15年にわたりアメリカに滞在。趣味は野球と格闘技。著書に『制度発展と政策アイディア:満州国・戦時期日本・戦後日本にみる開発型国家システムの展開』(木鐸社)
※同書の英語版も今年6月にイギリスの出版社から刊行予定。
(2012年5月)