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面白いほどよくわかる!2012年アメリカ大統領選挙

アメリカ建国以来、初の黒人系大統領が誕生して早4年。任期満了を迎える2012年、再び決戦の火ぶたが切られる! 政治学の専門家が米大統領選挙をわかりやすく解説。   文/佐々田博教

第1回:大統領候補者の顔ぶれ

『ゆうマガ』読者の皆さんこんにちは。今号より連載を担当するHiro Sasadaです。タイトルにもあるように、2008年の大統領選挙の際にもこのコラム(www.youmaga.com/seattleite/politics)を担当していたので、覚えておられる方もいるかと思います。3年前に帰国したので、今回は日本からの執筆になりますが、また1年間よろしくお願いします。

今月は、今回の候補者の顔ぶれを紹介します。現職の大統領が出馬しなかった前回の選挙では、民主党・共和党両方で党の公認候補を選ぶ予備選挙が行われました。今回民主党からは現職のオバマ大統領が出馬するので、予備選挙は共和党だけで実施。以下の候補が1月11日現在立候補しています。

ニュート・ギングリッチ元下院議長は、90年代に共和党のリーダーとして当時のクリントン政権と激しく対立しました。保守的な政策(社会保障制度の削減、同性愛結婚・中絶禁止など)を支持していますが、過去の金銭スキャンダルや不倫、2回の離婚歴などが保守層への支持拡大を難しくしています。

リック・ペリー現テキサス州知事も、保守層へのアピールで一時支持を集めましたが、討論会で自分の政策を忘れてしまう失態を犯し、失速しました。

ミット・ロムニー前マサチューセッツ知事は、前回の共和党予備選でもマケイン候補に次ぐ支持を集めました。企業経営者としての豊富な経験と、知事として州財政の立て直しに成功した実績から、財政・経済政策通と目されている点が強みです。しかしモルモン教徒であることと穏健派と見られていることが、不安材料と言えます。

リック・サントラム元上院議員は、知名度の低い候補でしたが、ほかの保守候補がスキャンダルなどで支持を失う中で、保守票の受け皿となり注目を集めています。

前回の予備選にも出馬したロン・ポール下院議員は、個人の自由を最大限尊重し、連邦政府の権限を最小限に抑えることを主張するリバタリアニズム(自由至上主義)を標榜しています。ほかの候補とは政策面で明確に一線を画し、一部熱狂的な支持者がいますが、全国的な支持の広がりは難しいでしょう。

このほかにも、ジョン・ハンツマン元ユタ州知事も出馬を表明しています。さらに、ピザ・チェーン店を展開する企業の元CEOハーマン・ケインが当初支持を集めていましたが、セクハラ・不倫問題などが発覚し、すでに指名争いから撤退。また、ミシェル・バックマン下院議員は、今回唯一の女性候補でしたが、全国的な知名度と政治経験の乏しさがネックとなり、撤退に追い込まれました。今後の予備選の行方に注目しましょう。

※編集部注:その後、ハンツマン候補とペリー候補が1月16・19日に撤退を表明しました。

この4年で成し得たもの

民主党の候補者は、再選を目指すバラク・オバマ現大統領です。2008年の大統領選挙でオバマ大統領は、「Yes, We Can!」や「Change」などのスローガンを掲げて、黒人系初の大統領として当選を果たしました。オバマ大統領の就任式の盛り上がりはものすごいものでしたが、金融危機や財政赤字、失業問題や対テロ戦争などといった難問に直面し、有権者が期待したほどの変革をもたらすことができたかと言うと、残念ながら必ずしもそうとは言えないのが現状です。今回の選挙の重要なカギとなるのは、オバマ政権に対して有権者がどのような評価を下すかという点です。そこでこのコーナーでは、オバマ政権のこれまで歩みについて毎回詳しくご紹介します。

(2012年2月)

第2回:保守派と「ティー・パーティー運動」

共和党の指名争いは激しさを増していますが、共和党内の勢力争いを語るうえで非常に重要なファクターに「保守派」という存在があります。アメリカ社会において「保守派」と呼ばれる人達は、どのような理念や政策を支持しているのでしょうか?

一般に保守派に含まれる人々は、信心深いキリスト教徒が多く、社会や家庭のあり方に関して伝統的な道徳や価値観を持ち、同性愛者の結婚や妊娠中絶の禁止、移民規制の強化などといった社会政策を支持。特に「キリスト教福音派 (Evangelicals)」と呼ばれる人々が、強い組織力を背景に保守派の中心的存在となっています。また経済政策に関しては、いわゆる「小さな政府 (Small Government)」を標榜し、市場への政府の介入や社会福祉面での政府支出の削減、企業への規制緩和や減税などを求めているようです。

保守派の対極にあるのがリベラル派です。リベラル派の人々は主に民主党を支持し、同性結婚や妊娠中絶の合法化、移民規制の緩和、富裕層への増税、社会福祉の拡大などといった政策を支持し、保守派と激しく対立しています。ちなみにこのコラムにあるゾウとロバのイラストは、何を意味しているかご存知でしょうか。ゾウは共和党の、ロバは民主党のマスコットで、古くから使われてきたものです。

最近の保守派の活動に「ティー・パーティー運動」というものがあります。これはオバマ大統領のリベラルな政策に対抗する保守派の人々が、草の根レベルで起こした政治運動です。その名前の由来は、アメリカの独立運動のきっかけとなった「ボストン茶会事件」(1773年)が元になっています。ティー・パーティー運動は、オバマ政権の大企業への公的救済や社会保障制度改革、企業への規制強化などといった政策に反対し、その活動はインターネットやSNSなどを通じて全国的に広がり、議会選挙などにも大きな影響を与え、保守派の政治的影響力を見せつけました。

また共和党内には「穏健派」・「中道派」と呼ばれる人々もいます。社会政策や経済政策などで政治的な妥協を完全否定するのではなく、一部リベラル派の主張を取り入れたりすることで、より現実的な政権運営を行うことを主張しています。

共和党の指名争いでは、穏健派(ロムニー候補)と保守派(ギングリッチ候補やサントラム候補)の対立という構造が見られます。指名争いのトップを走り、保守派の票も取り込みたいロムニー候補ですが、マサチューセッツ州知事時代にリベラルよりの医療保険改革を行ったことや、モルモン教徒であることで、保守派への支持拡大に苦戦しています。しかし反ロムニーの保守票も、ギングリッチ候補とサントラム候補に二分されている状態なので、今後各候補が保守派の票をどれだけ集められるかが、予備選の流れを大きく左右するでしょう。

国民皆保険制度の導入

オバマ政権の目玉政策のひとつに、国民皆保険制度の導入がありました。アメリカで医療保険を持たない人はおよそ4,700万人ともいわれ、こうした人々は病院での治療を受けられなかったり、高額の治療費を請求されて破産するなどして、大きな社会問題になっています。オバマ大統領は2010年に「医療保険改革法」を連邦議会で可決させることに成功しました。しかし当初計画していた、政府が運営する公的な医療保険制度導入への民間の保険会社などからの抵抗が強過ぎたため、民間保険を基礎とした医療保険への加入を義務化し、低所得者には政府が補助金を出すという当初の計画とは違った制度になりました。この新制度は2014年導入予定ですが、連邦地裁でその違憲性が問われたりして、その実現可能性はいまだに不透明です。

(2012年3月)

第3回:ウォール街占拠デモ

最近のリベラル派の活動の中で最もインパクトが強かったのは、「ウォール街占拠デモ」です。参加者は、不況のあおりを受けて職を失った人々や、就職難に直面する若者などが中心。このデモはアメリカ金融の中心地であるニューヨーク市のウォール街で、不況や所得格差問題の元凶となった銀行や証券会社などに抗議し、貧富の差が広がる現状の改善を訴えることが目的です。

読者の皆さんもよくご存じの通り、現在アメリカは深刻な不況に直面しています。2006年には4.6%程度だった失業率(年平均)が、2009年には9.3%まで上昇しました。最近8%台に下がったものの、依然として高い状態が続いています。特に若者の就職難は深刻で、大学を卒業しても就職できず、多額の学生ローンの返済を抱え苦悩する若者が急増。若い世代の失業率は15%程度にものぼると言われています。ウォール街占拠デモは、主にリベラル派の活動ですが、デモ参加者の多くはオバマ大統領に対して、必ずしも良い印象を持っているわけではありません。デモ参加者が問題視しているのは、オバマ大統領が経営危機に瀕した自動車会社や銀行、証券会社などに対して巨額の公的資金を投入したことです。このように倒産寸前の企業に対する救済措置を「Bailout」と言いますが、大企業や銀行の倒産による失業率の急増や、金融システムの大混乱などを未然に防ぐためにはある程度必要と考えられています。しかし銀行や証券会社などを巨額の資金で救済したのに、不況で職を失ったり、サブプライム・ローンで家を失った人々に対してはほとんど救済措置がなかったことで、オバマ大統領に対する不信感が生まれました。労働者の味方というイメージが強いオバマ大統領ですが、実は前回の大統領選挙では証券会社などからも巨額の政治献金を受けており、巨額のBail-outに踏み切った背景にはこうした理由もあると考えられています。

最近のアメリカ政治の特徴として、「ウォール街占拠デモ」や前回取り上げた「ティ-・パーティー運動」のように、草の根レベルの政治活動が全国的に展開していることが挙げられます。こうした活動は保守とリベラルという明確な区別はありますが、主に一般市民によって組織されており、民主党や共和党といった既存政党が主導しているものではありません。これは急激に変化する現代社会で、既得権益に縛られた既存政党が有権者のニーズに応えられず、政治不信を起こしたことが原因のひとつと考えられます。既成政党への不信の高まりは日本でも起きており、これまでの政治のあり方を大きく変えていく可能性があります。保守派からもリベラル派からも責められる苦しい状況にあるオバマ大統領ですが、11月の大統領選挙までに、アメリカ経済の舵取り役としてのリーダーシップを発揮して景気回復を実現し、国民の信頼を回復することが重要な課題です。それが成功すれば選挙には大いに有利ですが、できなければ選挙戦は非常に苦しいものとなるでしょう。

もうひとつの金融不況政策

金融不況への対策のひとつに、金融緩和政策があります。直接主導するのは、アメリカの中央銀行である連邦準備銀行(FRB)ですが、方針はオバマ政権の意向を反映したものと言えます。金融緩和政策は主に、金利を引き下げ通貨の流通量を大幅に増加させることで、資源繰りに苦しむ企業が低コストで資金を調達できるようにし、同時にドル安を誘引しアメリカ企業の海外での競争力を高めることを目的としています。最近の報道を見ると、破産したGMやクライスラーの黒字化や、失業率の低下、株価も金融危機以前の水準を取り戻すなど、米経済回復の兆しが見えてきました。しかしドル安によって、物価の上昇が起きたり、国際通貨としてのドルの信用が低下するといった弊害もあり、いつまで緩和政策を続けるのか慎重な判断が要求されます。

(2012年4月)

第4回:財政赤字が選挙に与える影響

今回の大統領選挙の最も重要な争点として挙げられるのは、経済問題でしょう。世界経済が長期間不況に苦しんでいる理由のひとつに、ヨーロッパでの金融不安があります。ギリシャなどの国が深刻な危機に陥った主な原因は、これらの国が巨額の財政赤字を抱えていることです。財政赤字は、簡単に言うと政府による借金。政府の支出(公共事業費、社会保障費、国防費など)が収入(税収)を上回った場合に生じた財政赤字を穴埋めするために、政府は国債を発行し資金を調達します。

アメリカの2011年の財政赤字は1.6兆ドルで、これはアメリカのGDPの約11%に相当。これまでの借金の総額である債務残高は15兆ドル(約1,200兆円)にも上ると言われています。アメリカの国債を大量に保有しているのは、主に中国や日本なので、アメリカ経済は外国からの借金で支えられている状態と言えます(日本の国債は大部分が国内で保有)。アメリカ国債の信用が落ち、国債による資金調達が難しくなった場合には、欧州の金融危機のような深刻な事態に陥る可能性もあります。

こうした危機感から、オバマ大統領は2011年4月に財政赤字削減案を発表しました。この削減案は、富裕層への増税、国防費の削減、高齢者・低所得者向け医療補助の削減などを行い、政府支出を今後12年で4兆ドル削減するというもので、全国民で財政赤字削減の負担を分かち合うというものでした。しかし、共和党が支配する連邦議会下院からの強い反対を受け、最終的に合意できたのは10年間で1.2兆ドルの削減にとどまりました。これは財政赤字削減への重要な1歩ですが、15兆ドルに上る累積赤字額を考慮すると、根本的な解決策とは言えません。オバマ大統領は更なる赤字削減の努力を野党に呼び掛けています。

共和党の候補者として指名されることが確実視されているロムニー氏は、財政赤字問題に関してどのような政策を持っているのでしょうか。彼は、マサチューセッツ州の知事時代に州の財政を立て直した行政手腕を評価されています。この財政改善策は、社会保障費の削減などで大幅に支出を削減し、法人税・所得税の減税や規制緩和によって景気回復を促すと共に、雇用を増やして税収を増やすことで財政赤字を削減しようとするもので、市場における自由な競争が経済成長につながると考える自由主義経済理論を反映しています。社会保障を削減する一方で、企業や富裕層を優遇しているとの批判もありますが、今のところ世論調査ではロムニー氏の経済政策の方が支持率が高いようです。

人種問題への関与
今年2月にフロリダ州で起きた黒人少年射殺事件によって、再び人種問題に注目が集まっています。2009年にオバマ大統領が、史上初の黒人系大統領に就任した際には、アメリカ社会に存在する見えない壁(Glass ceiling)が打ち破られたかと思われました。オバマ大統領はアメリカ社会の融和を訴え、不法移民が市民権を取得することを可能にすることや、犯罪捜査における人種差別の撤廃などを実現することを公約していました。しかしそれらの公約はいまだに果たされず、これまでオバマ政権において人種問題に関して目立った進展はありません。これはオバマ大統領が黒人などのマイノリティーに肩入れし過ぎると、白人層からの支持を失ってしまう可能性もあり、ある程度の距離をおく必要があるからとも考えられます。今後オバマ大統領が人種問題にどれだけ踏み込めるかが注目されます。

(2012年5月)

第5回:2012年共和党予備選挙の総括

共和党の予備選挙は、正式には6月26日(ユタ州)まで続きますが、大多数の代議員票を集めたミット・ロムニー氏が8月の党大会で党の公認候補に選出されることが確実視されています。ロムニー氏勝利の要因と言えるのは主に2点あります。第1に、アメリカや世界経済が直面する喫緊の経済問題を切り抜けることができる人物として、企業経営者と州知事としての経験を持つロムニー氏に支持が集まったと言えるでしょう。第2に、共和党内で大きな影響力を持つ保守派の支持を集めることができる人材がおらず、保守票が割れてしまったことです。

今回の予備選挙で注目を集めたもののひとつに、「スーパーPAC」と呼ばれるものがあります。大統領選挙で巨額の資金が動くのは毎回のことですが、候補者への献金を集めるのが「Political Action Committee(PAC)」で、日本風に言うと政治資金団体のようなものです。これまでPACへの個人献金は年間5,000ドルまでという制限があったのですが、候補者と直接関係を持たない団体に対する献金の制限が2010年に廃止されました。このため勝手連的に候補者を支持する団体であれば、無制限に資金を調達することが可能になり、以前にも増して、より巨額の資金が動くことになりそうです。

ロムニー氏が、副大統領候補に誰を指名するかも注目される点です。副大統領候補は、ランニングメイト(Running Mate)とも呼ばれ、大統領候補と共に選挙戦を戦い、大統領候補の欠点を補うことを期待されます。例えば、黒人系で若いオバマ大統領は、白人で政治経験の豊富なベテラン議員のバイデン氏を選びました。ロムニー氏のように北部出身で中道派の候補は、南部に支持層を持ち保守派の支持を集められる人物が良いランニングメイトになるのでは。またロムニー氏が高額所得者ゆえに「庶民との接点がない」と見られがちなので、こうした点を副大統領候補で補いたいところでしょう。

最後に最近の注目すべき点として、5月初旬にオバマ大統領が、同性愛結婚を支持する声明を表明しました。これまでこの問題に関して立場を明確にしていなかったのに、この時期にこうした声明を出した狙いは、当然大統領選を見据えたもので、リベラル票を取り込む狙いがあります。しかし保守層はもとより保守寄りの中道派からも強い拒否反応が起こり、共和党内の保守票が「打倒オバマ」を目標にロムニー支持でまとまってしまう可能性もあるため、これはオバマ陣営にとって大きな賭けだと言えます。

グリーン・ニューディール
オバマ大統領の目玉政策のひとつに「グリーン・ニューディール」というものがありました。これは代替エネルギー開発やエネルギー効率化などの分野に、10年間で1,500億ドルを投資することで数百万人の雇用を創出し、石油依存を減らすという政策。そして2009年2月に「アメリカ再生・再投資法」を可決させ、環境関連分野に約950億ドルもの公共投資が行われることになりました。この政策の環境保護・雇用創出といった点の効果はいまだ不透明ですが、アメリカ政府の環境政策の大きな転換点になったと言えます。しかし環境面での規制強化が経済停滞につながっているとする共和党からの強い圧力を受け、その後はあまり積極的な環境政策を打ち出せずにいます。気候変動や地球温暖化といった重要問題への抜本的な政策を実現できるかが、今後の課題と言えるでしょう。

(2012年6月)

第6回:オバマ政権、外交実績アピールで票獲得なるか

これまで内政・経済問題を中心に取り上げてきましたが、今回からは外交問題に焦点を当てます。まずは対テロ戦争(War on Terrorism)と中東問題に関して。2001年9月11日の同時多発テロを実行した国際テロ組織アルカイダの掃討を目的としたアフガニスタン戦争が2011年10月に勃発し、米軍を中心とした多国籍軍は、当時アフガニスタンを支配しアルカイダを庇護していたタリバン政権を倒しました。しかし反政府勢力による爆弾テロ・ゲリラ攻撃はいまだに続いています。

2003年にはフセイン政権の打倒を目的としたイラク戦争が勃発し、アメリカは同時にふたつの戦争を戦うことになります。アフガニスタンのケースと同様に、米軍は短期間でフセイン政権を倒すことに成功しましたが、その後反米武装勢力による爆弾テロ・ゲリラ攻撃などによって戦闘が長期間継続し、双方に多大な死傷者が出ました。

また、近年イランが核兵器を開発しているのではないかという疑惑が浮上し、欧米諸国は経済制裁を加えています。これに対し、イラン政府はあくまで平和的な核開発であると主張し、重要航路であるホルムズ海峡の封鎖をほのめかし、中東は非常に緊張した状態にあります。

このような外交上の難題をブッシュ政権から引き継ぐことになったオバマ政権は、非常に難しい対応に迫られました。前回の選挙では、対話路線を打ち出していたオバマ大統領ですが、現状打開の難しさと国内での弱腰批判の高まりを受け方針を転換し、イランや中国に対して圧力を強めています。しかし、対テロ戦争の分野では一定の成果を挙げ、イラクからの米軍の早期撤退という選挙公約は、2011年12月に完全撤退が完了し実現しました。こうした実績をアピールすることで、外交経験のないロムニー候補に差をつけたいところでしょう。またオバマ大統領は、アフガニスタンからも米軍を2014年までに撤退させると発言しています。

一方、ロムニー候補の討論や演説におけるこれまでの発言は、内政や経済問題に関するものが中心で、外交政策はまだ明確になっていませんが、オバマ政権の外交政策が弱腰であると批判を繰り返し、アメリカ政府はイランや中国などに対してより強硬な姿勢を取るべきとの主張をしています。今後、外交担当の人材を集め、具体的な外交政策を打ち出すことになりますが、いわゆる「ネオ・コン」と呼ばれる強硬派とロムニー陣営が、どのような関係を取るのかによってロムニー候補の外交政策の中身も変わってくるので、非常に注目されるところです。


オサマ・ビンラディン容疑者の殺害
オバマ政権の最も重要な成果のひとつと言えるのが、アルカイダの主導者、オサマ・ビンラディン容疑者の殺害です。2011年5月、パキスタン北部にあった同容疑者の潜伏先に海軍特殊部隊SEALsが強襲し、銃撃戦の末に殺害しました。ビンラディン容疑者殺害の知らせを、アメリカ国民の多くは好意的にとらえ、星条旗を掲げ歓喜の声を上げる人々の姿もありました。しかしパキスタン領内での作戦遂行による主権侵害や、容疑者殺害に対する国際法上の問題が指摘されています。ですが、同容疑者の殺害とイラク撤退によって対テロ戦争にひとつの区切りができたことは確か。就任前は外交経験の無さを不安視されていたオバマ大統領ですが、対テロ政策に関しては一定の実績を挙げていると言えます。

(2012年7月)

第7回:対アジア政策、中国との関係性

今回のテーマは対アジア政策です。オバマ政権は発足当初、対中関係重視の政策を取り、アメリカと中国が世界のリーダーとして機能する「G2構想」の実現を目指して、米中間の協調行動や軍事交流などの促進を図ると共に、中国に人権や民主化などに関して圧力を掛けるようなことは控えていました。この背景には、近年中国の経済力・政治的影響力が拡大したため、中国に大国としての役割分担を促したいアメリカの思惑があります。さらに中国が米国国債の最大保有者となったことで、巨額の財政赤字を抱えるアメリカが中国に経済的な依存を深め、中国に米国国債の購入を続けてもらわないと、財政が破綻しかねないという懸念も理由のひとつでした。

しかしその後オバマ政権は、価値観が全く違う中国との協調行動が容易ではなく、大国としての責任を担うことに消極的な中国との役割分担は望めないと考えるようになり、対中政策を大きく方針転換。2011年11月には「アジア太平洋シフト」構想を提案し、アジアをアメリカの安全保障に再重要地点として認識し、拡大する中国の影響力を牽制するために、同地域におけるアメリカのプレゼンスの維持・強化を目指すことになりました。そのためアジアにおける同盟国としての日本の重要性が再認識されましたが、それはアメリカのパートナーとして日本が重要というよりは、米軍がアジア地域に駐留するにあたって、戦略的な拠点として日本が重要であると認識されているように考えられます。

ロムニー候補は一貫して、オバマ政権の中国に対する弱腰の姿勢を批判してきました。人権や民主化といった問題のほかにも、中国が人民元の為替レートを不当に低く抑えていることが重大な問題であるとして、中国への圧力強化を訴えています。元安・ドル高の状況では、中国製の輸出品がアメリカ市場で競争力を持ち、アメリカ企業に不利であるため、人民元の切り上げを要求。安全保障の面でも中国を封じ込める政策を取ることが予想されます。ロムニー候補も日本の同盟国としての必要性は認識しているようですが、さほど重要視してはいないようです。

両候補の現時点での対アジア政策を比べると、そこまで大きな違いはないように思われます。両者共対中戦略において在日米軍の重要性は非常に高いと認識しており、普天間基地やオスプレイ配備などといった問題で、アメリカが日本に対して妥協する可能性は低いでしょう。


中国人人権活動家の亡命受け入れ
中国政府は、民主化や人権尊重を訴える活動家を弾圧していると批判を受けてきましたが、当初オバマ政権は中国への配慮から批判を控えていました。その後オバマ大統領も首脳会談の席などで人権尊重に言及するようになりましたが、中国は内政干渉だとし平行線に……。こうした中、2012年5月に自宅軟禁状態にあった盲目の中国人人権活動家が、北京のアメリカ大使館に逃げ込み亡命を求める事件が発生。しかしすぐに亡命が認められなかったため、人権活動家が大使館を離れてしまい、人権保護に失敗したとの批判が起こりました。その後、米中両政府の話し合いの結果、中国政府が(亡命ではなく)留学目的での出国を認めましたが、オバマ政権が中国に対して弱腰であるとの印象を与えた事件でした。

(2012年8月)

第8回:対日政策

アメリカの大統領選で、日本人にとっていちばん関心が高いのは、選挙結果が日米関係にどのような影響を与えるかという点でしょう。

近年オバマ政権はアメリカを「太平洋国家」と位置付け、オーストラリアに海兵隊を駐留させるなど、太平洋地域に重点を置いた外交政策を打ち出しています。日本は同地域における重要な同盟国なのですが、最近は両国の関係がぎくしゃくしています。

これは、オバマ政権が日本を同盟国としてというよりは、太平洋地域の米軍の駐留先として重要視していることに一因があるように思われます。米軍の抑止力維持・強化が最優先されているため、普天間基地の県外移転やオスプレイ配備の中止といった地元の要望を受け入れる可能性は低いでしょう。また、日本が日米安保条約に基づいたミサイル防衛などで、より積極的な役割を果たすことを期待しています。

経済面では、日本のTPP(環太平洋パートナーシップ)参加問題があります。TPPとは、アメリカやオーストラリア、ASEAN 諸国など、太平洋地域の12カ国を含む多国間の貿易自由化協定で、参加予定国の間で協定内容の協議が現在行われています。オバマ政権はTPPを利用してアメリカ製品の日本市場への参入促進を図っていますが、アメリカにも日本のTPP参加に慎重な意見があります。よく「日本市場は閉鎖的だ」との意見が出ますが、近年は多くの分野で市場自由化が進んでいます。例えば日本の自動車市場(完成車及び部品)の関税は、すでに撤廃されています。一方アメリカの関税率は、自動車が2.5%でトラックは25%もあります。もしTPPに日本が参加すれば、利益を得るのは日本企業だけなので、アメリカ自動車業界は日本のTPP参加に反対しています。日米両国で利益が複雑に絡み合っており、TPP への日本参加がどうなるのかは不透明です。

課題山積の日米関係ですが、大統領選ではほとんど言及されていません。今回の最重要課題が経済問題であることと、有権者の日本への関心が低下していることが原因と言えるでしょう。従って、ロムニー候補の対日政策も明らかではありませんが、オバマ大統領とそれほど大きな違いはないようです。ただロムニー候補は、日本を経済が停滞した衰退国家と認識しているようで、日本を「10 年あるいは1 世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国」と評した発言をしています。一般的に共和党は日米関係を重視すると考えられ、前回の共和党大統領候補だったマケイン氏は、同盟国としての日本の重要性を認識していましたが、ロムニー候補は違うようです。


自動車産業の業績回復
オバマ政権が強調する実績のひとつに、自動車産業の業績回復があります。リーマン・ショック後、GM やフォードは経営破綻に追い込まれましたが、今年これらの企業が経営黒字化に成功したと報じられました。ロムニー候補は、過去にこれらの企業に対して政府支援を行わず、倒産させるべきだと主張していましたが、オバマ政権は政府支援を通じたGMの再建策は正しかったとし、ロムニー候補を厳しく批判しています。自動車産業は大統領選の重要な激戦区のひとつであるオハイオ州の基幹産業なので、オバマ大統領にとってはこの成功例を大いにアピールしたいところです。しかし、アメリカの製造業全体としては依然として厳しく、オバマ大統領も楽観はできない状況です。

(2012年9月)

第9回 最終決戦に向けラストスパート

11月6日投票の大統領選挙は、いよいよ大詰めを迎えています。9月中旬に行われたCBSと『ニューヨーク・タイムズ』紙の支持率調査によると、オバマ氏48%に対しロムニー氏46%と拮抗しており、かなりの接戦になることが予想されます。

9月上旬に開催された共和党・民主党の党大会で候補者指名が行われ、両党共に最終決戦に向けて盛り上がっているようです。共和党は、ウィスコンシン州選出のポール・ライアン下院議員を副大統領候補に指名しました。ライアン氏は42歳という若さですが、連邦下院予算委員会の委員長という議会の要職を担っている有力な政治家です。

ロムニー氏はあまりスピーチが上手ではなく、資産家で人間味がないといった印象を持たれており、一般有権者の間で好感度が低いのが欠点とされています。若いライアン氏は、精悍な風貌で人当たりも良く、スピーチも非常に上手なので、ロムニー氏の欠点を補うことができるということで白羽の矢が立ったようです。さらに、ライアン氏の地盤は中西部なので、ウィスコンシン州だけでなく近隣のオハイオ州やアイオワ州、ミシガン州での勝利に貢献できるという点が重要視されたと思われます。

政策の面では、ライアン氏は歳出削減・減税を非常に重視しており、アメリカ政府の財政立て直しを目指しています。こうした主張は、一般の共和党支持者やオバマ大統領の政策に疑問を持っている無党派層の賛同を集めるでしょう。しかし大統領選の重要選挙区のひとつであるフロリダ州は退職者が多く、歳出削減が高齢者向け医療保険制度(メディケア)の縮小につながる懸念から、ライアン氏を指名したことでフロリダ州での勝利が難しくなったとの見方もあります。

両党の党大会では、大勢の政治家や有名人による応援演説が行われましたが、今回特に印象的だったのが、民主党のビル・クリントン元大統領でした。2008年の民主党予備選挙でオバマ氏とヒラリー・クリントン氏が対決したこともあって、クリントン元大統領とオバマ氏との関係は良好でないとの見方もありましたが、そうした懸念を払拭し、民主党の結束を印象付けました。引退後も人気が高いクリントン元大統領ですが、党大会でも素晴らしい応援演説で観衆を魅了し、いまだ衰えない影響力の強さを見せつけました。フロリダ州などの無党派層(特に若者やマイノリティー)の票を獲得したいオバマ陣営としては、クリントン氏の応援は非常に心強いものだったと言えるでしょう。


内助の功
オバマ政権のファースト・レディーであるミシェル・オバマ氏は、ハーバード・ロー・スクール出身の敏腕弁護士としての輝かしいキャリアを持っています。同じく弁護士出身のヒラリー・クリントン氏は、ファースト・レディー時代に公的医療保険問題などで政治的な活動もしましたが、ミシェル氏はこうした活動は控え気味のようです。しかし大統領選挙では、優れたスピーチ力を生かした演説で夫を強力にサポートしています。共和党の党大会ではロムニー氏の妻であるアン氏が、専業主婦として5人の子供を育て、自身の難病と夫婦で闘った経験を披露。ロムニー氏のイメージ・アップに貢献しました。候補者の配偶者のイメージによる女性票へのアピール合戦も見どころのひとつです。

(2012年10月)

第10回 アメリカの選挙と投票率

アメリカでは、一般市民が積極的に政治に参加する姿をよく見掛けます。家の庭に候補者のポスターを設置したり、街角で支援を呼び掛けたり、候補者のタウン・ミーティングに参加したり、個人献金をしたりと、さまざまな形で政治に参加しているのを目にした方も多いのではないでしょうか。

その一方で選挙の投票率は意外なほど低く、大統領選がある年で50~55%程度、大統領選がない中間選挙になると35~40%程度しかありません(最近は、受刑者など投票権を持たない人口を差し引いて計算した投票率が使われることもありますが、その場合はこれより10%ほど高い値になります)。ちなみに、 日本の投票率は衆議院選挙で60~70%程度、参議院選挙でも60%程度です。

ほかの先進国と比べても、アメリカの投票率はかなり低いのですが、その理由のひとつに「有権者登録制度(Voter Registration)」があります。日本では居住している自治体から「投票所入場券」が郵送されてきますが、アメリカでは事前に所定の場所で有権者登録をしなければ投票することができません。また投票が平日(11月の第1月曜の翌日)に行われること、投票する選挙の種類の多さも投票に行くことをためらわせる要因となっています。アメリカではさまざまな選挙が一斉に行われるので、大統領、上院議員、下院議員、自治体の首長・議員、教育委員、裁判官などを選んだ上に、条例などに関する「住民投票 (Proposition)」の賛否も投票します。

このように登録制度や選挙制度が煩雑になると、政治に関心が薄い有権者(若者、無党派層、貧困層、マイノリティー等) があまり投票しなくなり、こうした有権者の意見が政治に反映されにくくなるという問題があります。一方で、政治活動に熱心な勢力(特にラディカルな保守・リベラル団体)の影響力が過剰に反映され、政党の分極化が深刻化する原因にもなるのです。

さらに投票率が低い選挙で選ばれた大統領・議員に対する正当性の問題があります。例えば、投票率が40%の時に、50%の票を集めて勝った候補の場合、全有権者の20%の支持しか受けていないことになりますが、これは民意を代表すると言えるのかという疑念が生じます。投票しないことも意思表示のひとつと言えますが、投票率が低すぎることは民主主義の根幹にかかわる重要な問題と言えるでしょう。

前回の選挙では、マイノリティーや若者の間で投票率が高かったことが、オバマ大統領の勝因のひとつとなりましたが、今回も投票率が勝敗を大きく左右する重要な要素となるかもしれません。


「アラブの春」への対応
ここ数年、アラブ諸国で民主化を求める運動が頻発し、非民主的な政権が倒されるケースが相次いでいます。この「アラブの春」と呼ばれる運動に対して、意外なことにオバマ政権は積極的な支援を行っていません。特にシリアでは、民主化勢力に対して政府軍が残虐な行為を行っていますが、オバマ政権はシリアへの介入には消極的です。この背景には、アラブ諸国での反米感情が高いこと、民主化の結果として反ユダヤ色の強いイスラム政権が誕生することへの懸念、非民主的な同盟国であるサウジアラビアなどへの配慮などがあると考えられます。しかし多数の民衆が殺害されている状況を傍観していることには、国内外から批判が上がっており、今後の対応が注目されます。

(2012年11月)

最終回:オバマ政権、第2期目へ

大統領選の総括
接戦が予想されていた選挙戦ですが、選挙人獲得数では圧倒的な差をつけてオバマ大統領が再選を決めました。ロムニー氏の敗因を挙げると以下のようなものがあるでしょう。

まず今回の最大の争点は経済問題とされてきましたが、予想以上に社会問題が有権者の投票行動に影響を与えた点にあると思われます。移民・中絶・同性結婚・マイノリティーなどの問題に対して保守的な姿勢を打ち出したロムニー氏は、無党派層からの支持拡大に苦戦したようです。以前ロムニー氏は中絶容認の立場を取っており、立場をコロコロ変える姿勢も印象を悪くしたと思われます。
ロムニー氏にとって大きなマイナス要素は、自身の税金問題でした。節税対策の結果、10億円以上の年収を得ながら、所得税率の平均(20%)より低い14%しか課税されていなかったことが明らかになり、有権者の反感を買ってしまいました。また共和党のライアン副大統領候補が、激戦区のひとつであった地元のウィスコンシン州での勝利をもたらすとの予想が外れ、そのほかの激戦区もほとんど落としてしまったのは大きな誤算でした。

今回の投票率が前回よりも5%ほど低かったのは、オバマ大統領には不利に働いたようです。前回と今回の得票数を比べてみると、共和党候補の得票数は前回とほぼ同じなので、オバマ支持層が前回ほどは投票しなかったことが分かります。そのため選挙人獲得数では圧勝でしたが、投票数の割合を見てみると、51%対48%とかなり拮抗していました(前回は53%対46%)。

オバマ大統領の今後
見事再選を果たしたオバマ大統領ですが、政権運営は先行き不透明で、課題も山積しています。これまでオバマ大統領は、「黒いアメリカも、白いアメリカも、ラテンのアメリカも、アジアのアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国だ」と国内の団結を呼び掛けてきましたが、自身の政策に対して党派を超えた支持を得ることには成功していません。今回の選挙でも、連邦議会下院は共和党が過半数を維持したので、共和党議員の協力なしには法案を通せません。2010年の中間選挙以来、このねじれ状態(Divided Government)が続いていて、日本と同様に「決められない政治」状態に陥っています。過去2年間に議会に提出された法案のわずか2%しか成立していません(アメリカの場合、提出される法案の数が非常に多いので一般的に成立率は高くないのですが)。大統領は2期までと決まっているので、早急な対応を取らないと、政権が「死に体(Lame-duck)」化してしまう恐れがあります。社会的・経済的に二極化が進むアメリカ社会を団結に導く強いリーダーシップを発揮できるのかという点が注目されます。

国民の信任を得ることには成功しましたが、アメリカ経済の実情としては、失業率が依然として高く、企業業績も低迷を続けています。さらに大型減税の失効と歳出の強制的削減が重なる「財政の崖(Fiscal Cliff)」が来年初めに迫っており、その対応策への議会の合意を得られない場合、アメリカ経済が急速に冷え込んでしまう可能性があります。超党派の協力体制を築き「決められない政治」から脱却して、法案成立の道筋を作り、抜本的な景気対策を打ち出すことが当面の最重要課題と言えます。

この連載は今回で最終回です。1年間ご愛読ありがとうございました。

Hiro Sasada

立命館大学国際インスティテュート准教授。1974年生まれ、熊本県出身。カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業後、ワシントン大学大学院政治学研究科博士課程を経て同校で政治学の教鞭を執るなど、2009年まで15年にわたりアメリカに滞在。趣味は野球と格闘技。著書に『制度発展と政策アイディア:満州国・戦時期日本・戦後日本にみる開発型国家システムの展開』(木鐸社)。またイギリスのRoutledge 社から『The Evolution of the Japanese Developmental State』を2012年8月10日に刊行。

(2012年12月)