| 「カフェに耳あり、ジョージにメアリ」。カフェの街シアトルは耳学問にうってつけ。観察大好きエイリアンのカオルが覗き見たアメリカ生活をおもしろおかしく大暴露。
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第12回「不満の行方」
今日のゲストはメグ。職場の軋轢に耐えかねて退職し、老後を心配しつつも今は専業主婦。とにかく話し好きで、カオルは専ら聞き役である。
彼女の暮らしぶりはつつましい。カフェにも滅多に行かない。で、その日、ワタシは彼女のお宅に伺っていた。「おいしいお茶を淹れてあげるからねー」と元気よくキッチンに向かうメグ。ま、おいしいお茶といったって、ティーバッグを入れたマグに、コーヒー・メーカーから直にお湯を注ぐだけである。こんなやり方は初めて見たね。やかんを使わんのかい、この人は? と訝しむカオルの視線が年季の入ったレンジに向かった時、突然メグが言った。
「そのレンジ、古いけど、私は大好きなのよ。新しいのを欲しいなんて絶対思わないわ。ねえ、ベジタリアン・メニューは好き? 今度ディナーを食べに来ない?」
不自然に明るく力のこもった喋りであった。そして、いつもなら、愛着のあるレンジにまつわる逸話のひとつやふたつやみっつ、矢継ぎ早に飛び出すはずなのに、ディナーのお誘いへと急激な方向転換。何だか変だな、と思いつつも話題の変わるのにまかせたカオルだった。
数週間後、再びメグを訪ねた。出迎えてくれた彼女はエラく興奮して嬉しそうである。キッチンを見てワタシは仰天した。そこはリニューアルの真っ最中。彼女は、改装作業がいかに大変かを思い入れたっぷりにまくし立てる。
「まだ大仕事があるのよ。このレンジ、ガレージに運ばなきゃいけないの。新しいのを入れるから」
えっ、大好きだったんじゃないの? 新しいのなんて欲しくないんじゃなかったの? と面食らうカオルをよそに、メグはお払い箱になるレンジに何の感傷も見せない。
彼女はワタシに嘘をついていたわけではなかろう。嘘をついていたとすれば、自分自身に対してだ。アメリカ人と話していると、彼らは、不満などないと声に出して自分に言い聞かせているように見えることがある。日本人なら、不満を意識しつつも自分の中に封印し、飲み屋でそれを発散するところなんだろうけどね。メグの話におとなしく相槌を打ちながらも、カオルの内心はちょっと複雑だったよ。
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