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映画・ゲーム音楽作曲家 陣内 一真さん


特集「映画・ゲーム・広告 アメリカで活躍する日本人クリエイターたち」より

ボストンの名門音楽大学・バークリー音楽大学を卒業後、超人気ゲームの作曲を担当。現在はフリーの作曲家として数々の人気ゲームや映画の音楽を手掛ける陣内一真さんに、作曲家活動の原点、ゲーム・映画音楽の魅力について伺いました。
(※このページは、ライトハウス・2025年5月号特集記事に掲載の、映画・ゲーム音楽作曲家 陣内 一真さんへのインタビューを元に作成しています。情報は同号の発行時点のもの)


映画・ゲーム音楽作曲家 陣内 一真さん

陣内 一真
じんのうち・かづま◎広島県生まれ。高校留学を経て、バークリー音楽大学に入学。2006年にコナミデジタルエンタテインメントに入社し、『メタルギアソリッド』シリーズなど数多くのゲーム音楽作曲に携わる。2011年に渡米し、Microsoftのゲームスタジオ・343 Industriesに入社し『Halo』シリーズの作曲を担当。2018年に同社を退職し、以来フリーの作曲家として、『Batman: Arkham Shadow』などのゲーム音楽『Star Wars Visions: The Ninth Jedi』などの映画・アニメーション音楽を手掛けるほか、2022年公開の映画『すずめの戸締まり』ではRADWIMPSと共同で音楽を担当し、日本アカデミー最優秀音楽賞を受賞。
https://www.kazumajinnouchi.com/

 

”映画やゲーム、作品に寄り添い映像を生かす音作り ”

ー 音楽の仕事を志したのはいつ頃でしょうか。
作曲を始めたきっかけは、子どもの頃に大流行したテレビゲーム、ファミコンでした。自分はゲーム機を買ってもらえず、親が代わりに買ってきたPCで、プログラミングを勉強しながら、音楽も付けたいと考え、自分で曲を作るようになりました。

仕事として音楽を意識するようになったのは高校3年生の時でしょうか。1年間の交換留学で、ワシントン州フェデラルウェイに留学しました。中学・高校では英語は得意で自信があったのですが、留学で打ちのめされて(笑)。他に自分に何があるかと考えたときに、音楽だと思ったのです。留学中の音楽の授業がとても楽しくて、ミュージカルに参加したりフットボールの応援をしたり、ディズニーランドで演奏したりと、音楽に触れる機会も増えました。高3でしたから、勉強するなら仕事につなげたいと考えるようになっていました。幸い、交換留学から帰るときにはバークリー音楽大学への推薦をもらうことができました。

バークリーでは、多様なバックグラウンドを持つ音楽家の方々とコラボする機会があり、刺激になりました。上原ひろみさん(世界的ジャズピアニスト)が同級生で、彼女にピアノを弾いてもらうことも多々あって。今思えば非常にぜいたくでしたね。

ー コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)に入社された経緯を教えてください。
卒業後の4年間は、日本のCM制作会社で作曲家のアシスタントをしたり、シンガーソングライターの友人と曲を作ったり演奏したり、インディーズアルバムの編曲や、企業の販促に使う音楽を作ったりとさまざまな制作に携わりました。2006年に、バークリーの同期で、コナミですでに『メタルギアソリッド』(全世界でシリーズ6000万本以上販売のステルスゲーム。以下、メタルギア)の音楽に携わっていた戸田信子さんから突然「ゲーム音楽をやらないか」と電話が来まして。当時の自分とはあまりにもスキルが違い迷ったのですが、「テクニックは後から付いてくる。重要なのはいい曲が作れるかどうか」と背中を押され、コナミにデモテープを送り、採用に至りました。コナミではメタルギアシリーズのチームに所属しながら、『ウイニングイレブン』『遊戯王』なども担当しました。

チームでの制作は初めてで、進め方がそれまでと全く違いました。それまでは規模は違えど「自分の色を出す」ことが求められましたが、メタルギアには「メタルギアらしい曲」を書けなければいけません。また、自分を含めて4人の作曲家がいたので、例えば他の作曲家が作っているメロディーを把握しながら、同じキャラクターには同じテイストの音楽を充てるといったことも求められました。

ー その後、再びワシントン州に戻り、Microsoftのゲーム部門、343 Industries(以下、Microsoft)で働くことになるのですね?
メタルギアチームの同僚のRyan Paytonさんが、Microsoftのゲーム部門で『HALO』シリーズ(全世界でシリーズ3600万本販売のシューティングゲーム)のチームに入っていて、サンフランシスコのゲームカンファレンスで再会した際に、彼から「『HALO』をやらないか」と声をかけられたのがきっかけです。それから約2年かけて話がまとまり、シアトルに来ました。

Microsoftでは、音楽担当が私一人というのがコナミとの大きな違いでした。また、開発環境が英語になり、外部の作曲家への発注・ディレクションから、上がってきた音楽の組み込み、レベルデザイナー(ゲームのステージを構成・設計するデザイナー)とのやりとりまで全て自分を介すという工程で、全てが勉強でした。音楽面では、オーケストラとの仕事は初めてで、まさに新境地でした。コナミの頃とは仕事の仕方は全く異なり、より規模の大きな制作を求められる場面が増えました。

ー 2022年の映画『すずめの戸締まり』では日本の人気ロックバンド、RADWIMPSと共同で制作されたそうですね?
Microsoftを退職後、フリーの作曲家として携わった作品です。新海誠監督とRADWIMPSは本作品で3作品目で、すでに信頼関係が出来上がっている中に入っていく形でしたから、最初は手探りでした。お互いのデモテープを聞き合って、「このシーンにはこの曲が印象的ですね」「この場面で使うならこういう音楽演出ができますよ」といった具合に表現を構築したり、クライマックスの音楽は密にやりましょうと、監督にデモを送って、洋次郎さん(RADWIMPSのボーカル・作詞・作曲家の野田洋次郎さん)のアイデアを聞いてブラッシュアップしたりといった進め方をしていました。監督とRADWIMPSのバランスを崩したくない気持ちは常にあって、さじ加減のところで気を遣った部分はありました。逆に「もっと陣内さんのアイデアで振り切ってください」と言われたこともありましたね。

ー 映画・ゲーム音楽ならではの、作曲手法について教えてください。
ゲームは、一つ一つのシーンに組み込む形で曲を作ります。戦闘シーンなら焦りや高揚感を与えるような曲、潜入シーンなら緊張を感じるような曲、といった具合です。一方、映画音楽は、違う場面・場所でも、感情の流れに沿って一つの音楽で演出することもあります。より大きな流れの中で、登場人物が何を話し、シーンが何を表現すべきかを意識します。

音を作る工程としては両者に大きな違いはないのですが、歌モノと比べると、映画音楽ではセリフの邪魔にならないように、例えば爆発シーンでは音楽は少しトーンを落とすなど、目に映るものを最大限生かすことが求められます。

映像のある作品に音を付けるという立場であることから、制作の際は作品に寄り添うことを常に意識しています。映像を作るアーティストの中には音楽に詳しい方も多く勉強になることも多いですし、作品が出来上がっていく工程を見るのは非常に楽しいですね。

ー 最後に、今後の展望について教えてください。
今はアメリカと日本で仕事をしていますが、これが広がっていったらいいなと。いろいろな国のアーティストとコラボレーションしてみたい気持ちも大きいです。映画もアニメもやっていきたいです。今は日本のアニメ作品に関わることが多いですが、一昨年、ノミネートいただいたアニー賞に参加したところ、アニメーションにも本当にいろいろな表現があるのを目の当たりにし、日本のアニメはそのほんの一角、という印象でした。今後は日本発以外のアニメーションにも挑戦していきたいですね。

映画・ゲーム音楽作曲家 陣内 一真さん
2023年にスペインのUbedaで行われたJerry Goldsmith Awardsにて。『Marvel’s Iron Man VR』のサウンドトラックがBest Original Score for Videogame部門を受賞。

 

映画・ゲーム音楽作曲家 陣内 一真さん
ロンドンのAngel Studiosにて。『Batman: Arkham Shadow』の録音風景。

 

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*情報は2025年5月時点のものです