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新しい展開を見せたスピルバーグ

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第1回「A.I.」
新しい展開を見せたスピルバーグ

監督・制作・脚本
Steven Spielberg

出演
Haley Joel Osment
Jude Law
Frances O’Connor

公式サイト
http://www.ai-jp.net/

スピルバーグの映画だと途端にけなす評論家のセンセイ方が多い。特におすぎなんかいつもけちょんけちょんにけなすことで知られている。けなすことで自分の評論家としての地位を高めようとしているのがみえみえでいやらしいと思う。しかし、本当の映画ファンはスピルバーグ作品の凄さを知っているし、楽しんでいる。私は小さい頃「ET」に感動して泣いてしまっている。ちなみに私は涙腺が強いらしく、絶対に泣かない。そんな冷酷な私が唯一泣いた映画というだけでも「ET」は傑作なのだ。

スピルバーグの新作「A.I.」はアメリカではあまり受けなかったが、日本では爆発的なヒットを記録し、化粧が涙でぐちゃぐちゃになった女性が映画館の周りにうじゃうじゃいた。日本人はスピルバーグに弱いらしい。日本人が彼を好きなのは、彼が黒澤明に影響されているからだ。「シンドラーのリスト」には「天国と地獄」へオマージュを捧げた場面(モノクロのシーンで、少女の赤いコートがパート・カラーになる場面)があったし、「インディージョーンズ」には「隠し砦の三悪人」に似たシーンがいくつかあった。そしてこの「A.I.」の中で、捨てられた主人公のロボットが街を徘徊する場面は、「生きる」のガンに冒されていることを知った主人公が歓楽街を彷徨うところに影響されたに違いない。スピルバーグは、どの映画でも、名作に敬意を払いながら、それを取り入れ、しっかり自分の作品を作っているのだ。ハリウッドの大作映画を下手に真似る(しかも低予算で)アホな日本の映画人ども反省しろ!

スピルバーグを悪く言う人は彼は人間が描けていないと批判する。いいじゃないの、別に人間が描けなくても。彼は立派に鮫や恐竜や宇宙人を描いた。それだけでも国民栄誉賞ものだ(小泉首相からもらったってしょうがないが)。ところで、今回「A.I.」を観るまで、「ET」のような感動ファンタジーを期待していたのだが、見事に裏切られた。いやー、長い間ストーカーに悩まされていたというだけあって、スピルバーグは相当な人間不信に陥っていると私はみた。主人公のロボット少年が旅する過程で見るものは、すべてが悲しい残酷な人間の現実であり、何も解決することなく終わるラストシーンも明らかに人間に対する失望感の現れだと思う。

初期の頃は人間を描かず、次に「シンドラーのリスト」で人間を描き、そして今度はロボットを描き、人間に対して失望してしまったスピルバーグという人はやっぱり凄い。

※執筆は2006年以前です。

前川繁(まえかわしげる)

1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。