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アメリカでの離婚 〜手続きや注意点、ビザの問題、ハーグ条約など〜

アメリカでの離婚 手続きや体験談

日本とアメリカでは大きく異なる離婚の制度。さらにアメリカでは、州が法律を定めているため、州によっても多くの違いがあります。このページでは、ワシントン州とオレゴン州における離婚制度のほか、専門家のアドバイスや、経験者の声など、アメリカで離婚を考えたときに役立つ知識をお届けします。(2022年9月)

※情報は2022年9月時点のものです。

弁護士に聞く アメリカでの離婚手続きと注意点(Q&A)

実際にアメリカで離婚を決意したとき、どのような手順を踏めばいいいのか、また、離婚の手続き上の注意点を、ワシントン州とオレゴン州の弁護士に伺いました。
【WA】:ワシントン州/ジョン比嘉 弁護士
【OR】:オレゴン州/田辺かおり 弁護士

Q1:離婚を決めた、または考えている場合、まず何から始めればいいでしょうか? 

【WA】夫婦によって離婚の状況は異なります。多くの弁護士は30分の無料相談サービスを行っているので、そこで自分の状況を相談しては?また、キング郡やピアス郡のSuperiorCourtのウェブサイトには、さまざまな情報やフォームが掲載されているので、これから自分が何を決めていくのかの参考になると思います。ワシントン州法が基本なので、他の郡にお住まいの方が見ても参考になるでしょう。

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【OR】まずは弁護士と相談し、自分の場合は何が問題になりそうで、何を用意すべきかを把握するといいでしょう。また、財産分与に向け、銀行の情報などを集めておきましょう。離婚を決定していなくても、気になる段階でコンサルテーションを受けておくことは後で役に立つと思います。

Q2:離婚の一般的なプロセスを教えてください。また、一般的な費用も教えてください。

【WA】子どもも財産もない夫婦なら、いくつかの書類の提出で離婚の手続きは終了できます。一般的には、片方が裁判所に申請書を出し、提出から1年後に裁判の日程が決定されます。理論的には裁判後に裁判官が財産の分配やParenting Plan(親権、子供と過ごすスケジュールなど)を決めますが、大半は、その前に当事者同士の調停で決着をつけます。だいたい1年程度で解決できますが、こじれれば長くなります。

もっとシンプルな方法は、離婚当事者がJoint Petitions(共同誓願書)を出すことです。当事者が自分自身で離婚の条件を決めて同意、署名して裁判所に提出し、申立後に裁判官がこれを承認するまで90日間待つ必要があります。しかし、子どもがいるとParentingPlanが必要なので、そう簡単には決まりません。

料金もいろいろで、場合によってはProBono (無料の弁護士)をつけられる人もいます。シンプルなケースではフラットレートで払えるかもしれません。弁護士の時給はおそらく250 ~450ドルくらいだと予想しますが、ケースによるのでなんとも言えません。

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【OR】一般的には裁判所に離婚届を出し、裁判所に受理された届けを相手側に手渡し、協議して離婚を成立させます。協議で解決できないなら裁判になりますが、私の体感的に、法廷に立って争う裁判に発展する離婚は全体の10%くらいでしょう。そうなる前に、弁護士や調停人(Mediator)を雇い、協議で離婚の同意に至ることが多いです。

また、もめる要素の少ない夫婦の中には、離婚届を出す前に問題点を全て協議してジャッジメント(最終的な同意書)を作り、離婚届とジャッジメントを同時に裁判所に出して離婚を成立させることもあります。私の経験から、届けの提出から離婚成立までは6~ 12カ月くらいが平均ですが、もっと長引くこともあります。

ポートランドの弁護士費用はおそらく1時間あたり200 ~ 550ドルくらいで、離婚のペーパーワークだけを依頼するなら、少なければ2000ドル程度で済むこともありますが、協議や裁判が長引けば、もっとかかるでしょう。

Q3:子どもがいる場合の親権の決め方について教えてください。片方の親だけが完全に親権を持つことはありますか?

【WA】ワシントン州では、子どもに対する親の権利を定義するために「Parenting Plan」という言葉を使います。つまり両方の親が子どもの対応を決めるということです。しかし、Parenting Planにおいては、片親に100%子どもの居住権や一緒に過ごす時間を与える場合もあります。DV、両親どちらかが信用できない、またはどちらかの親が子どもに会いたがらないようなときです。Parenting Planは、平日と休日で過ごす日を分けるとか、1週間交代で過ごすなど、当事者の状況に合わせて設定できます。また、離婚の届けを出す際、離婚が成立して最終的なParenting Planが決定するまでの間、子どもをどうするのかを決めるため仮命令の申し立て書も出します。

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【OR】オレゴン州では一人の親または両方の親が親権を持つことができます。両方の親が親権を持つことをJointと呼びます。Jointが基本である州もありますが、オレゴン州は両方の親が「Jointにしたい」と申し出ない限り、裁判官はどちらか片方の親を選びます。親権者は、子どもの医者、治療の判断、学校、宗教などを決められます。最も重視される要因は、誰が子どもの主たる養育者であったかです。また、Joint だからと言って、それぞれの親が50%ずつの育児時間を持てるわけではありません。親権とParenting Time(いつ、どれだけどちらの親と過ごすか)は別の問題で、親権を持っている親に、もう片方の親と子どもが過ごす時間を決める権利はありません。Parenting Timeを決める方が親権の問題より難航します。

また、養育費を得ることは子どもの権利です。子どもが父母と過ごす時間が半分ずつだったとしても、お金と時間は別の話で、収入の高い方が低い方に養育費を渡すケースが多いです。たとえ、子どもが養育費を払う親と会わなくても、親には養育費を払う義務があります。

Q4:アメリカでの離婚において、両者の間で決めるべき項目について教えてください。

【WA】大まかには、資産、負債、子どもに関することです。車は資産だけど車のローンは誰が払うのか、家はどちらが手に入れるのかなど。端的に言えば、どちらがどれだけ何を持って、どちらが何を払うのかということです。

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【OR】なるべく自分たちで離婚を解決できれば家族にとって良いと思います。ですが、一人が結婚の間全ての財政を管理し、もう一人は財政について知識がなければ、両者の間で決める前に弁護士と相談した方が良いです。決める項目の中でも難しいのは「Spousal Support(またはAlimony)」です。収入の多い方が、収入のない、または、少ない元配偶者へお金を出すことがあります。Child Support(養育費)は、親たちの所得、Parenting Time(子ども達との時間)、年齢や状況によってはいくらと計算してくれるオレゴン州が提供するウェブサイトがあります。しかし、Spousal Supportはそういう計算式がないため、弁護士を通して話し合うといいでしょう。また、DVがあって相手の方が交渉力がはるかに高い場合や、相手だけが財務情報を持っている場合は,絶対に当事者だけで決めようとせず、第三者を交えて話をしてください。

Q5:離婚で特にトラブルになりやすい、もめやすいケースはありますか?

【WA】最も多いもめるケースは子どもがいる場合です。Parenting Planは、子どもがそれぞれの親と過ごす時間を定めています。時間はほとんどの場合、均等ではありません。また、一方の親が定義されたことを行わず、問題が発生することがよくあります。裁判所はParenting Planに従って行動していない親を罰することができます。Parenting Planの変更は困難であるため、Parenting Planを締結する前によく考えることが必要です。そして、子どもと過ごす時間は、一方の親が他方に支払う養育費の額に影響を与える可能性があるでしょう。

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【OR】もめやすいのは子どもを連れての移住です。ケースバイケースですが、1人の親がオレゴン州を出たくても、子どもを連れて州外に出るのは難しいです。子どもを連れての日本帰国(旅行以外)は困難かもしれません。親がオレゴン州で子どもを育てるのが無理な場合や、やむを得ない理由がある場合、裁判所は移転を許可することもあります。また、オレゴンでは子どもが18歳になるまで親を選ぶ、または親と一緒に過ごすかどうかを決める権利がありません。ですが、子どもは成長するにつれてスケジュールを自分で決めたがり、親を拒否することもあります。仮に子どもが「片方の親ともう会いたくない」などと言っても裁判所の判決があれば、親の義務は子どもをもう片方の親に会わせることです。しかし、物理的に不可能な場合もあり、このような状況の解決は難しいです。弁護士に、親の義務をどう果たすべきかアドバイスをもらうと良いでしょう。

Q6:ワシントン州・オレゴン州の離婚制度の特徴は?また、日本人が注意すべきことはありますか?

【WA】Community Property Stateであるワシントン州では、結婚中の夫婦の収入は全て共同財産とみなされます。従って、結婚中は、夫と妻の給料は共同所有となります。共同収益で購入したもの(例:家、車、宝石、家具)も共同財産となり、離婚の際は分けなければなりません。しかし贈与は共同財産ではありません。例えば、日本人の親が結婚している娘に贈与でお金を贈った場合、そのお金は娘のもので、夫に権利はありません。しかし、注意すべきは、個別の財産が共有財産に変わることが多々あることです。なので、夫はその贈与を共同財産として主張することがあるかもしれません。

また、日本との大きな違いはParenting Planでしょう。かなり細かく決めますが、個人的には、裁判官の主観でParenting Planが決まってしまうように感じています。

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【OR】オレゴン州では結婚期間中に築いた財産はほぼ半分に分けますが、遺産などは年齢や状況で分ける割合が変わってきます。また、リロケーション(州から引っ越しで出たい場合)は、ワシントンとオレゴンで法律が違います。もしオレゴン州かワシントン州で離婚届けを出そうかと悩んだ場合はオレゴン州とワシントン州の弁護士と話し合ってどっちの州で離婚した方が自分に良いのかを調べてから離婚届けを出した方が良いと思います。

また、日本と違うのは「無過失離婚(No Fault Divorce)」と言い、不倫やDVなど離婚のきっかけを問わない点で、日本と違い「慰謝料」というものがありません。しかし、オレゴンでは日本と違い「Spousal Support(またはAlimony)」があります。

Q7:アメリカで離婚を考え始めている人に伝えたいことやアドバイスはありますか?

【WA】離婚は非常に複雑で、同じものは二つとありません。家族構成や家族関係、家庭の状況は皆違いますし、そして家族法はとても複雑です。なので、まずは弁護士に相談をしてみてください。無料相談会や、30分の無料コンサルテーションを行う弁護士は多いので、そこで自分の状況に合わせたアドバイスや情報をもらうといいと思います。

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【OR】離婚相手には自分がしてほしいと思う行いで接してください。怒って脅したり、悪口を言ったりすると、裁判で証拠として突きつけられ、自分に返ってきます。特に子どもがいる場合、ケンカの勢いで「子どもを連れて日本に帰る!」などと言ったりテキストしてしまうと、裁判で「子どもを連れ去る可能性が高い」と判断されかねません。これは、日本への旅行や移転の機会を損なう可能性があります。

また、離婚のプロセスは長いので、マラソンのつもりで構えること。焦ってもすぐには終わりません。そして、サポート団体を頼る、精神科医に会う、友達と会うなど、誰かに支えてもらい、うつ病を回避するようにしましょう。

ジョン比嘉 弁護士


ジョン比嘉 弁護士

フェデラルウェイにあるClement Law Centerの弁護士。沖縄県出身。ワシントン州、ネバダ州、コロラド州の弁護士資格を持ち、弁護士として20年以上のキャリアを持つ

Clement Law Center
https://www.clementlawcenter.com
jhiga@clementlawcenter.com
TEL : 253-815-8440

田辺かおり 弁護士


田辺かおり 弁護士

ポートランドにあるMargolin Family Lawの家族法弁護士。日本生まれのコロンビア育ち。Lewis and Clark Law School卒。オレゴンの家族法に従事して16年のキャリアを持つ。

Margolin Family Law
https://www.margolinfamilylaw.com/
info@margolinfamilylaw.com
TEL : 503-546-6374

離婚後にアメリカでの滞在資格は維持できる?気になるビザの問題

もしも離婚してしまったら、アメリカを離れなければいけないのでしょうか。移民弁護士のクリフ坂田さんに詳しく聞きました。

離婚のケース① グリーンカードでアメリカに滞在

所持しているグリーンカードが、アメリカ市民や永住権保持者との結婚によるものである場合、もし結婚後2年を経過していなければ、所持しているのは2年間の「条件付きグリーンカード」です。この2年間のうちに離婚をした場合、その後もグリーンカードを維持するためには、USCIS(米国移民局)に対し、結婚が正当なものだったと証明し(できるだけ多くの証拠を提出する)、配偶者無しで申請することの承認を得る必要があります。

一方、既に「条件付きのグリーンカード」ではなく、10年間有効なグリーンカードを所持している場合、または離婚の時点で結婚期間が2年間以上継続していた場合は、そもそもグリーンカードの維持に配偶者のサポートは必要ありませんから、そのままアメリカに滞在して問題ありませんし、次回以降の更新の際も、単独での申請が可能です。

離婚のケース② 就労ビザ所持者の配偶者としてアメリカに滞在

「H-4」「E-2」「L-2」など、就労ビザを持つ人の配偶者・家族としてアメリカに滞在している場合は、主たるビザの保持者のステータスに依存しています。つまり、離婚した場合にはこのステータスは維持できなくなりますので注意が必要です。

また、これは離婚のケースからは少し離れますが、日本の企業の駐在員として家族にアメリカに来て、帰任の要請が来たけれども、子どもが現地の学校を卒業するためにアメリカに残りたいというケースも聞きます。しかし、ビザが維持できなくなった時点で、家族全員がアメリカを出る必要があります。場合によっては、「I-539」という書類を提出することで、Visitor / Touristとして滞在を延長し、帰国の準備をすることは可能です。しかし、Visitor / Touristのステータスになった時点で、子どもは学校に通い続けることはできなくなるので注意してください。

クリフ坂田 弁護士


クリフ坂田 弁護士

カズミ&坂田法律事務所所属弁護士。米国司法省サンディエゴ移民局裁判所での勤務、米国国務省(ロサンゼルス)でのインターン、石川県七尾市役所国際交流課公務員の経験を持つ。

カズミ&坂田法律事務所
https://www.ksvisalaw.com/

 


外務省ハーグ条約室に聞く、子どもの権利を守る「ハーグ条約」とは?

子どもを連れての離婚で気になるのが、ハーグ条約です。どのようなものなのか、また、日本に子どもを連れて行くことはできるのかなどについて、外務省ハーグ条約室の前小屋さんに話を伺いました

まず、ハーグ条約とはどんなものか教えてください。

外務省のハーグ条約室では「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」、通称「ハーグ条約」に基づき、国境を越えた子どもの不法な連れ去り問題の当事者を援助しています。ハーグ条約の目的は迅速な「返還」の確保と「面会交流」の促進です。一方の親の同意なくもう一方の親が子どもを連れて国境を越えることを「連れ去り」と呼びます。また、「留置」とは、例えば夏休みの間だけ子どもが日本に行くことに同意していたのに、夏休みを過ぎても一方の親と日本に留まりアメリカに帰らないようなケースで、アメリカに残された親から見ると「子どもが不法に日本に留め置かれている」=「留置」となります。「返還」とは、条約の締約国間で一方の親に国境を越えて不法に連れ去られた、または留置されている子どもを迅速に元いた国(常居所地国)に戻すことです。「面会交流」とは、子どもと離れて暮らしている親子が何らかの形で交流することを指します。ハーグ条約室に援助の申請がされた事案のうち、日米事案が全体の3分の1を占め、一番多くなっています。

子どもを連れて日本に帰り、残された親がハーグ条約に基づく返還の援助申請をすると、何が起こるのですか?

ハーグ条約に関する実務を執り行っている中央当局は、日本では外務省、アメリカでは国務省に置かれています。アメリカに残された親は国務省に申請書を提出し、国務省から日本の外務省に申請書が送られ、日本の中央当局であるハーグ条約室が支援を行います。もしくは直接、日本の外務省のハーグ条約室に申請する方法もあります。どちらに申請しても、手続は子どもがいる国である日本で行われます。申請内容をハーグ条約室で審査し、要件を満たしていると判断した場合、援助決定を行います。

子どもの返還の問題が話合いで解決できないような事案では、裁判手続に進む場合もあります。ハーグ条約に基づく子の返還の裁判は、東京か大阪で行われ、代理人だけではなく本人(親)も出廷するケースが多いようです。裁判は申し立てから約6週間後には判断が出るようなスピード感で行われます。残された親が申し立てるので、連れ去った親が裁判を予期していなければ、ある日突然裁判所から通知が来ることになり大変驚かれることと思います。ハーグ条約の原則は、子どもを常居所地国に返還することです。「日本への帰国にはもう一方の親の同意があった」「アメリカにいると子どもに重大な危険がある」などの証拠を出せば例外が認められることもありますが、裁判所が子どもの返還申立てに対してどう判断するかは、ケースバイケースです。裁判にならないよう事前に必要な準備をしてから帰国されるのが一番ですが、もし裁判手続に進む可能性が高いような状況になった場合には、裁判の代理人探しなどに時間を要すると思いますので、早めに準備しておくことも一案です。

ハーグ条約の当事者にならないため、離婚時にどのように取り決めておくことが得策でしょうか?

アメリカで離婚後、子どもを連れて日本に帰国することを希望するのであれば、日本への移動について相手の同意を得ておく、または裁判所の許可を取っておくことが必要です。子どもの移動について整理しておけば、移動後に相手からハーグ条約に基づく子どもの返還裁判の申立てがあっても、それに対応することができると思われます。また、同意なく子どもと州・国外に移動することは、アメリカで誘拐罪に問われる可能性もありますので注意が必要です。

ハーグ条約に違反すると罰則などあるのですか?

ハーグ条約は、締約国間における子どもの返還と面会交流に向けた協力や手続の仕組みを定めたものであり、不法な連れ去り行為に対する罰則の規定はありません。残された親が何も手続きをしなければ、ハーグ条約上の手続きは始まりません。

国際結婚夫婦ではなく、日本人夫婦(元夫婦)もハーグ条約の対象ですか?

子どもが元いた国と移動した先の国が共にハーグ条約の締約国であれば対象となり、親の国籍は関係ありません。つまり、アメリカにビザで滞在している日本人家族も対象です。返還裁判では、どこが「子どもの常居所地国」になるかが争われることもあります。常居所地国は居住期間、目的、居住することになった経緯、状況などが総合的に考慮されますので、在米期間が短くてもアメリカが常居所地国となるケースも考えられます。

在米日本人によくあるケースは?

日本でハーグ条約が発効した2014年当初は、配偶者の同意を得ずに子どもと移動することをあまり深刻にとらえずに、子どもの連れ去りをした方も多かったかもしれません。また、ある日突然、外務省から書簡が送られてきたことに、戸惑う親も多くいました。子どもを連れ去った親の中には、DVやハラスメントを理由に、やむを得ず親子で日本に帰国したと主張される方もいらっしゃいます。DVなどを理由に返還拒否を裁判で主張したとしても、必ずしも子どもを返還(アメリカに帰国)しなくてよいという判断に至るわけではありません。ハーグ条約で定めているのは常居所地国への返還であり、残された親の元への返還ではありません。例えば、アメリカにはシェルターや裁判での保護命令など、DV被害者と子どもの安全を守る制度がありますので、残された親が、仮にDV被害があったとしても、そうした制度を利用することで子どもが安全にアメリカで生活できると主張し、裁判所がそれを認めれば、子どもをアメリカに戻す判断が出ることになります。DVやハラスメントを主張しても、裁判所が、子を返さなくてよいとの判断をするとは限らないと感じています。

最後に、子どもを連れての日本帰国を検討している人に、一言お願いします。

まずは、ハーグ条約についての正しい知識を持つことが大事です。軽い気持ちでお子さんと日本に帰国した後に、自分の行動が子どもの連れ去りだったとして、裁判手続などに関与することになるのは負担になると思いますし、お子さんの心情や生活にも影響を与えるかもしれません。不明点があれば、ハーグ条約について詳しく説明いたしますので、ハーグ条約室までご連絡ください。

【監修者】外務省領事局ハーグ条約室/前小屋千絵さん、在シアトル日本国総領事館/杉本憲一さん

ハーグ条約室 相談窓口

TEL : +81-3-5501-8466
時間:月~金 9:00am-5:00pm(12:30pm-1:30pmを除く)*日本時間
E-Mail: hagueconventionjapan@mofa.go.jp
Webサイト:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html
YouTubeチャンネル(ハーグ条約Playlists):
https://www.youtube.com/playlist?list=PLz2FHGxPcAli1Z8OHsuyA0potoXFk8zM

上記の電話番号とメールアドレスでは、ハーグ条約に関する相談ができます。また、外務省のウェブサイトなどでも多くの情報を提供しています。


アメリカでの離婚体験談

結婚3年後に夫婦関係に不和。離婚成立までには合計7年間を要しました 

日系アメリカ人・男性、息子3人

27歳で結婚し、相手も日系アメリカ人の女性でした。結婚して3年ほど経ったころから別居生活が始まり、そこから離婚手続きが完了するまでは7年ほどかかりました。

私はエンジニアなのですが、結婚当初から仕事でアメリカ国内を飛び回っていて、家を空けることが多くなったことが、夫婦関係の不和が生まれた最初のきっかけだったと、今振り返って感じています。車にメンテナンスが必要なのと同じように、夫婦関係も、意識して維持しないとほころびが出てきます。また、自分が無職になる期間もあり、その間は元妻のお金で生活せざるを得なくなりました。彼女を経済面でリードすることができなくなったことも、夫婦関係にヒビの入る理由になりました。

また、私たちには共通する趣味がありませんでした。私はアウトドア派ですが、彼女はインドア派。こういった要素も積み重なって、気質が合わず、ズレが生じてきていたのだと思います。こういった不幸を防ぐためにも、結婚前からマリッジカウンセリングに通ったり、長く時間を一緒に過ごしたりして、相手を見極めるといいと思います。やはり交際を始めてすぐのころは、お互いに「ブラインド」になっている可能性がありますから、しっかり地に足を着けて、お互いの人生のゴールを知り、サポートできる相手かどうか、見極められるとよかったなと感じています。

離婚が決着するまでに7年間という時間がかかったのは、資産の配分を決めるのに長い時間がかかったからです。結婚前・結婚後に得た資産や不動産を、どちらの(もしくは共有の)資産か判断するのに長く時間がかかりました。特に資産が多ければ多いほど大変になります。 また、私たちには3人の息子がいるのですが、子どもに成功してほしいと思うなら、子どもの前で夫婦げんかは見せないようにするべきですね。子どもの前で両親がけんかをしてしまうと、子どもの成長に大きな影響を与えると思います。

離婚を進めている期間中はいろいろ大変ですが、友人関係はできるだけ維持しておくのも大切だと思います。離婚が成立し、身の回りが落ち着いたころ、それまでずっと仲良くしてくれていた友人がグループイベントに誘ってくれて、それで心が救われたことがありました。

相手の浮気が原因で離婚を決断!復縁を試みるも叶わず、2度の離婚手続きを行いました

日本人・女性、息子1人

日本で出会ったアメリカの軍に勤めていた男性と、2004年に結婚し、渡米しました。

離婚に至った理由は元夫の浮気。結婚して5~6年経ったころに発覚しました。2011年に離婚の手続きを始め、その後、私は息子を連れて一度日本に戻りました。しかしその後も、お互いに修復をしようと試みて、私が日本に帰国して1年ほど経ったころに、「よりを戻そう」ということになったのです。離婚の手続きもキャンセルし、アメリカに戻りました。しかしその3日後に、同じ女性と交際が続いていると分かったのです。彼はそれでも私との婚姻を維持したいと、郊外に家を用意するとまで提案してきました。でも、私としては「これはもうだめだ」と、再度離婚手続きを最初から行うことを決断しました。

2012年、再度弁護士に依頼して、離婚手続きのやり直し。協議自体は揉めることはなかったので、弁護士は私の側だけが立て、親権や資産をどうするかなどは自分たちで話し合って決めました。話し合いの内容で大きな摩擦はなかったとはいえ、やはり、離婚をする相手、話したくない相手と話をするのは苦痛でしたね。

2回目のケースをファイルした後、私は再度日本に帰国。2017年にまた仕事でアメリカに戻ってきたのですが、その年のタックスリターンを提出する際に、なんとまだ離婚手続きが完了していないことが発覚しました。元夫の対応が悪く、手続きが途中で止まっていたのです。こんなこともあるのかと本当に驚きました。最終的に裁判所から離婚を認められたのは2018年でした。

私が離婚手続きを始めた時、まだ日本はハーグ条約に加盟していませんでした。しかし、ちょうど締結するかどうかという時期だったので、弁護士からのアドバイスで、息子を日本に連れていくことに関して元夫の同意を得ていることを、書面にしてもらいました。

離婚手続きを進める期間は、精神的に参っているし、閉じこもってしまうと思います。私自身、離婚協議中は、そのことはほとんど周りには話しませんでした。「段階を経て、時間と共に解決するしかない。今はこういう時期なんだ」と割り切って、手続きを乗り切りました

DV、貧困、メンタルヘルス、アメリカの支援団体の取り組み ~ 日本人を含む移民をサポート

離婚には、DV、貧困、メンタルヘルスの問題が関わることが多くあります。これらに悩む移民のサポート団体であるAPI Chayaに活動内容などを伺いました。

— まず、API Chayaについて教えてください。
API ChayaはAdvocacy(直接支援)とCommunity Organizing(地域の教育活動)を軸に、DV、性暴力、人身売買の被害者を安全で健康的な生活に導くことが目標の団体で、被害者の包括支援を提供します。基本的にはワシントン州のキング郡の移民コミュニティーを中心に支援し、誰でも無料かつ秘密厳守で利用できます。また、シアトル領事館と連携し、日本人の相談は同領事館管轄の3州も担当します。当団体では私が日本語でこれらのサービスに対応します。

— 離婚にまつわることでは、具体的にどのようなサポートを行っていますか?
例えばDV被害者には身の安全の心配という特有の障壁があり、パソコンの閲覧履歴や電話の通話履歴を相手に監視されたら、安全に離婚について調べたり弁護士に連絡したりできません。また、相手に離婚の召喚状を送達すると、逆上する可能性が高いため、離婚の申請前に安全な住居を手配しなくてはなりません。このように、離婚を検討しているDV被害者の安全な離婚のサポートをします。
 
また、離婚に伴う貧困で困っている相談者には社会福祉の説明や申し込みのサポートや、状況に応じて食費代や家賃代などの一時的な経済的援助を行うこともあります。低所得者が無料で利用できる生活支援サービスを紹介することもできます。メンタルヘルスについては、健康保険が必要ないメンタルヘルスのリソースの紹介や、当団体のセラピー(通訳をつけられる)を受けることが可能です。

— 日本人から多い相談の傾向はありますか?
日本ではDVは殴る蹴るなど直接の身体的暴力であると思う人が多いためか、精神的、経済的、または性的な、身体的暴力以外の暴力を受けている方から「自分はDV被害者なのか?」と相談されることがあります。このような時は相談者と相手の関係性を査定し、DVと夫婦げんかの違いや、DVの種類や特徴について説明します。

また、離婚についての法的アドバイスを求める声も多いのですが、法律上、私たちは法的問題に関わる弁護、法的なアドバイスの提供や書類作成の手伝いは禁じられており、当団体で行うのは情報提供とリソースの紹介のみになります。

さらに、多くの移民が抱える問題は孤立です。加害者が被害者を操作しやすくするため、孤立はDVでよく使われる手段です。移民の被害者の多くは近くに家族や親戚がおらず、言語の壁や加害者からの制限により、友達や近所の知り合いができにくく、極端に孤立してしまうことがあるのです。当団体では、個々に合わせた孤立支援を行ないます。

— DVで悩む人、離婚による悩みがある人にアドバイスをお願いします。
悩みは一人で抱えず、信頼できる人に相談してください。多くの人が同じような悩みを抱えているので決して恥ずかしいことではありません。何か相談があれば、遠慮なくAPI Chayaのヘルプラインへご連絡ください。

 

【取材協力】API Chaya アドボケイト/エリナさん
API Chayaにて、日本語で相談者の支援を行う。

困ったときの相談窓口

API Chaya
TEL : 206-325-0325、1-877-922-4292(無料)
時間:月~金 10:00am-4:00pm
Webサイト:https://www.apichaya.org/

相談内容は秘密厳守。支援・相談は全て無料。上記時間外には24時間対応の相談窓口Crisis Connectionsに転送されます。こちらも無料通訳が利用できるので、希望者は遠慮なくリクエストを。

 

IFJC (International Families Justice Coalition)
TEL : 206-849-6885
時間:月~金 10:00am-4:00pm
Webサイト:https://www.ifjc-us.org/
Email: contact@ifjc-us.org

連邦法規定によって収入源に制限がある方のみを対象とする非営利団体です。団体の特徴は、離婚や家族法の訴訟に巻き込まれた移民や外国籍者、特に英語が苦手な方に対して法的支援をします。法的支援希望者は、まずウェブサイト内のIntake Formを提出してください

*情報は2022年9月現在のものです

特集「アメリカでの離婚」:【取材協力】ワシントン州の非営利団体IFJCの弁護士など » 

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