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祝100回突破番外編/自然探訪の旅路

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2010年12月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

「よく書くことがありますね」と、人に言われる。この記事のテーマのことだ。
「まだまだ行ってみたいところだらけ、知りたいことばかりです」と隊長。
本当にそうなのだ。これまでも、そしてたぶん、これからも……。

来し方をふり返る

さて、この連載も100回を超えました。なぜに、私こと隊長はこのノースウエストの自然についてあれこれと書きたいかは、“祝50回特別編/自然探訪の書”で述べました。心境は今も同じ。人と自然をつなぎたいのです。

思い返してみると、記事を書いて読者の皆さんにそう働き掛けたことより、現地を訪ね、調べ、書くことで自身が大いに学び、目を開かれたことのほうが大きい。“ノースウエストの海と魚”“木と飛行機/船/車シリーズ”“ルイス&クラーク探検隊二百年紀”“オレゴン・トレイル”“合衆国大統領と自然”ほか、いずれもとても良い勉強をさせてもらいました。視野も少しは伸びやかになったように思われます。

50回目以降の執筆では、マイナーなスポットも取り上げ、人との結び付きを描出したいなと思っていました。“動物達との出会い”“バンダリズム考”“自然世界「南オレゴン」の蠱惑”“時の大河が流れるアストリア周辺”“タコマとその周辺”など、当初の意図以上に書けた回もあり、思いだけで書けなかったテーマもあります。

これから書きたいこと、やりたいこと

自然……木、山、岩、雪、湖、川、海、大地、空、生き物達と人、地球はいつでもどこへ行ってもそういうものででき上がって動き続け、自然には繰り返しもあり、法則性もある、気まぐれもあれば定向進化しているようにも見えます。……そういうことを知れば知るほど面白くて、隊長がそう感じている間はきっと皆さんに何らかの情報発信を続けるでしょう。 

これから書きたいテーマは、まだ取材していないものも含め、テーマだけで80近くあります。ひとつひとつは挙げませんが、これからは“アメリカの歩き方シリーズ”と銘打って、アメリカでの旅についての隊長のオピニオンや、引き続きマイナーなスポット“○○とその周辺”シリーズで、北西部各エリアの風土のようなものを描き出してみたいと考えています。

(この拙文も含め)本やネットを見ることで、ノースウエストの自然へ行った気になってはいけません。「知っていること」と「本当に知っていること」は、まるで違うのです。たとえばオーロラの映像や画像、写真を見ても、それは「映像や画像や写真」であって、オーロラではありません。それは「絵に描いた餅を見ること」と、「本物のこんがり焼けた餅にタレを付け、海苔で巻いてハフハフと食べる(うまっ!)こと」くらい違います。常々そのことを思っていたら、機も熟したのか、昨年からポートランドを拠点に月例ハイキングが始まりました。定着してきています。今年からは自然探訪ツアー(宿泊込み)を始め、これも続いています。

自然探訪のエッセンスは、やはり現地を探訪することだとの思いを深めているので、さらに広く続けて行きたいです。また、100回はひと区切りと考えて、2011年中にウェブの過去記事の記述を手直ししようと思っています。それと「エコキャラバン」自体のウェブサイトの再構築を考えています。

誌面をお借りして……

50回特別編のQ&Aで、小隊長こと小杉晶子さんのことについて短く紹介しましたが、今でもことあるごとに「奥さんですね」とか、ついには「娘さんですか」という人も現れてきたので改めて書きます。隊長にとって彼女はとてもありがたい共同執筆者です。さらに厳密に言うならば、会ったこともない、赤の他人です。隊長の母の名前も“小杉晶子”であり、実はそのことを書いた月に母は病没しました。その2006年9月号の記事を母にも見せましたが、読まれることはなく霊前に供えられました。

母が亡くなる前にすっと現れた同姓同名の女性が、隊長の執筆を助けてくれている。事実は小説より奇なりと言いますが、隊長にとってのこのささやかなファンタジーの夢は、もう少し見続けたいと思っています。だから小隊長とは会いたいような、いつまでも会いたくないような、アンビバレントな思いです。

人を取り上げるでもない、本や映画評のように豊富な題材があるわけでもない。自然のシーンには目新しいニュースなど、まずありません。妻に言わせると「全然面白くない記事」を8年余りも読んでくださっている読者の皆さん、ありがとうございます。また、ほぼ毎回ご迷惑をお掛けしている歴代編集担当の方々、100回分のお詫びとお礼を申し上げます。たぶんこれからも悪夢は続きます。

ついでに連載100回目のわがままで、ちょっと誌面を貸してください。「あなたの記事は読んだことがない。大体あんなに字が多いのは読む気がしない」と辛らつ……もとい、親切な助言をくれる妻へ。それにカチンときて思い切り文章を削り、写真を大きくした“樹上ホテル”が「良かったですよ」との反響が多く、それには再度凹んだけど、日頃なにくれと執筆に理解(と無視)をしてくれてありがとう。

ともあれ、そういうことがあって今号は、字を少なく最近のハイキング・ツアーの写真で組んでみました。どうせこれも読まれんだろうけどなぁ……。

※当連載のバック・ナンバーはすべて
www.youmaga.com/odekake/ecoで閲覧可能

リシア・パーク
▲レッドウッド国立公園、スタウトグローブにある堂々としたセコイアの大木。樹齢千数百年だろうか?

リシア・パーク
▲セントラル・オレゴンのきれいな円錐形の火山、ブラック・ビュートの山腹。撮影日は2010年10月19日、素晴らしい黄葉だった

リシア・パーク
▲日本からオレゴンへ訪れたハイキング・ツアーの一行と。トム・ディック山頂でフッド山をバックに記念撮影
リシア・パーク
▲レッドウッド国立公園にて。巨木林のトレイルで遊ぶ
リシア・パーク
▲オレゴン・コースト、フローレンスの南にあるオレゴン・デューンでの一風景。素足で歩くと実に気持ちが良い
リシア・パーク
▲クレーター・レイク国立公園が運航するツアー・ボート。ファントム・シップ(と呼ばれる岩)の周りを回って岸辺に戻る船。カルデラの内部に残るこういう岩は、地中でマグマがゆっくりと冷え固まったもの
リシア・パーク
▲クレーター・レイク国立公園のツアー・ボートでは、パークレンジャーが熱の入った解説をしてくれるので、地形のひとつひとつの成り立ちが「なるほど」とわかる
リシア・パーク
▲カスケード山脈の前衛峰テーブル・ロックの山頂付近。このハイキングは雨のため今年は中止となった。2011年に再び挑戦する予定


Information

■ナショナル・トレイル・システム
全米の19の歴史トレイル(National Historic Trails)と11のシーニック・トレイル(National Scenic Trails)について紹介された、国立公園局の公式サイト。個々のトレイルについては、それぞれに詳しい紹介のサイトがいくつも用意されている。 
National Trail System
www.nps.gov/nts

■ワンダーランド・トレイル
レニア山を周回する144キロのトレイルを紹介した、レニア山国立公園の公式サイト。トレイル全部を歩き通すには2週間を要する。コースのガイドブックが何冊か出ている。
The Wonderland Trail
www.nps.gov/mora/planyourvisit/the-wonderland-trail.htm
(関連本)
『Adventure guide to Mount Rainier』 / Jeff Smoot
『50 Hikes in Mount Rainier National Park』 / Ira Spring and Harvey Manning
『Best Easy Day Hikes Mount Rainier National Park』 / Heidi Schneider

■加藤則芳
1949年埼玉県生まれ、バックパッカー、作家。日本の国内外の自然を歩き、国立公園、自然公園、自然保護に関しての執筆を精力的に行っている。日本におけるジョン・ミューア研究/紹介の第一人者であり、アメリカのロング・トレイル・トレッキング実践紹介の草分け的存在。『ジョン・ミューア・トレイルを行く』(JTB紀行文学大賞)は、現地に来る日本人バックパッカーのバイブルとなっている。
(加藤氏のブログ)http://www.j-trek.jp/kato/

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。