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セコイア&キングス・キャニオン国立公園にて(1)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2012年02月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

カリフォルニアの山々の奥深さ……
と言うとあまりイメージが湧かないかもしれない実に深いのだ。自然も、その背景も

キングス・キャニオン国立公園のビジター・センター付近のトレイル
▲キングス・キャニオン国立公園のビジター・センター付近のトレイル。この一 角は狭い飛び地として盲腸のようにセコイア国立公園の北西角に付属している

聖俗ふたつの顔

カリフォルニア州のほぼ中央にあるこの公園は、通称「セコイア&キングス・ キャニオン国立公園」とひと括りで呼ばれている。正確には「セコイア」と 「キングス・キャニオン」のふたつの国立公園だ。ここから北西60マイルには ヨセミテ国立公園があり、ほんの30マイル東にはデスバレー国立公園がある。ただしデスバレーとの間には峻険なシェラネバダ山脈が連なっており、ふたつの公園を近くて遠いものにしている。
セコイア国立公園は、今から120年余りも前の1890年にアメリカで2番目の国立公園として制定された。世界最大のジャイアント・セコイアの木と米本土の最高峰ホイットニー山(4,418メートル)があるからという理由で公園となったとすればあまりにベタ過ぎるが、その当時から今に至っても、この国には「世界一」とか「世界最なんとか」に妙にこだわる癖があるから、あながち的外れでないかもしれない。大変長い歴史のセコイア国立公園だが、北のシェラネバダ山脈西面の谷が1940年にキングス・キャニオン国立公園となった。隣接するこの2公園併せて鳥取県ほどの広さがある。

例えば、レニア山のサンライズとパラダイス。あるいはヨセミテのバレーとハイ・カントリー、グランド・キャニオンのサウス・リムとノース・リムのように、 このセコイア&キングス・キャニオン国立公園も聖俗の2面を併せ持つ。アメリカに国立公園数あれど、聖俗のギャップの大きさはこの公園がいちばんかもしれない。
その2面とはハイカーやバックパッカーの聖地としての東側(シェラネバダ山脈の西面)と、行楽客が訪れる西側(巨木を廻る道路沿い)の観光地の ふたつの面だ。
山脈の主稜線が公園の東辺となっており、その西斜面をパシフィック・クレスト・トレイル※1が通っている。花崗岩の乾いた岩肌がビャクシンや松の深い緑に縁取られ、高地の澄んだ湖と草原、そして花畑が広がる天上の景色である。
世界中のバックパッカー達にとっての聖地と言っても良いジョン・ミューア・トレイル。その南半分は、このセコイア&キングス・キャニオン国立公園内を通る。パシフィック・クレスト・トレイルから東へ分岐して、アメリカ本土の最高峰ホイットニー山の山頂がその南端となっている。※2
以前この連載で紹介したマンザナー日系人収容所史跡(キャラバン#103、#104)からは、この公園の東辺にそびえる山並が見える。と言うより人をまったく寄せ付けぬ塀のように高く長く立ちはだかり、実際もそのように機能した。あるいは2面と言うより西から順に俗、聖、険の3面と言うべきだろうか。

キングス・キャニオン・ハイウェイ▲谷の遥か先にシェラネバダの主稜線を望む。眼下に見える道はキングス・キャニオン・ハイウェイ
レニア山国立公園、スティーブンス・キャニオンにある森(Grove of the Patriarchs)
▲レニア山国立公園、スティーブンス・キャニオンにある森(Grove of the Patriarchs)。山の懐に抱かれている気分になる
オリンピック国立公園のホウ・レイン・フォレスト
▲霊気に包まれるオリンピック国立公園のホウ・レイン・フォレスト


木の動物園

公園の西側(へりと言って良い)には、山裾の分厚いひだを縫うように南北の道(Generals Hwy)が通っている。園内の主な施設(ビジター・センターや宿泊施設)と見どころは、ほとんどすべてこの道に沿ってある。道はこれでもかと言うほどのワインディング・ロードが続くが、1日のドライブ・コースとして申し分のない景観だ。「地上最大の生物」と言われるシャーマン将軍の木や、園内で3番目に大きいグラント将軍の木、木をくり抜いて車が通れるようにしたトンネル・ログなどの人気が高い。
ここまで読まれて、あるいは隊長のあまのじゃくをご存知の読者には充分察しがつくと思うが(偏見と毒舌をあらかじめ謝っておきます)、隊長にはこの道は木の動物園を巡る行楽ルートにしか思えない。ここの木々は森でもなければ林ですらない。国立公園と言うよりはただの庭。木のしょぼいテーマ・パークだ。ここの木々は柵で囲まれ、何千何万回とフラッシュを浴びる動物園の動物と変わらない。動物園の動物達と比べて救われる思いがするのは、ここの木々は自分で糧を得、日々訪れる自分よりはるかに強くかつ弱い短い寿命の生き物達(つまり我々)を睥睨していることであろうか?

キングス・キャニオン国立公園のグラント将軍の木
▲キングス・キャニオン国立公園のグラント将軍の木。樹高82メートル、樹齢推定2千年
シャーマン将軍の木と名付けられたジャイアント・セコイア
▲シャーマン将軍の木と名付けられたジャイアント・セコイア。世界最大の木とされている。根元の直径11メートル、樹高84メートル、樹齢2千数百年
レッドウッド国立公園の巨木林
▲レッドウッド国立公園の巨木林。自分達が小人になったように感じる。ジャイアント・セコイアと同じセコイア種だが、こちらはコースタル・レッドウッドで高く伸びる。樹高100メートル、推定年齢2千年


「山高きがゆえに…… 

尊(たっと)からず。樹あるをもって貴しとなす」と言うが、木そのものにもこのことわざは当てはまる。もちろん大木には大木のオーラがある。だがシャーマン将軍の木(の柵)の前で記念写真を撮った人達のうち何人がまた、この曲がりくねった道を走ってこの木に逢いに来たいと思うだろうか? 私達が木により引きつけられるのは、その太さでも高さでもない。「Massの迫力」なのだ。目には見えないがはっきりと感じられる、生命の集合体から出る一種のオーラと言って良い。レッドウッドの巨木林、オリンピック半島から東南アラスカにかけての雨林の広がり、見晴るかすアラスカのタイガ林がそうである。自然景観に順位や優劣をつけるのは好きでない隊長だが、ノースウエストの自然の素晴しさを改めて思う。
有名、定番、世界第何位とか、○○遺産とか、○○百選だとか、情報化時代の現代ほど、実際の現場での感動をつまらなくする時代はない。素晴らしい芸術と同じだ。子供達を見よ。能書きやコケオドシにはお構いなく、すべからくブラインド・テストで木や岩や山に相対している。すごいと感じたら「ウワー」 と声が出る。理屈ではない。いったん自然に入れば、対象と自分の間を隔てる夾雑な言葉は何もいらないと隊長は思う。

※1 パシフィック・クレスト・トレイル:アメリカ西部を縦断する代表的なトレイル。カナダ国境からカスケード山脈、シェラネバダ山脈を通り、メキシコ国境までを結ぶ。通過する州はワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州。キャラバン#99「ロングトレイルのこと」www.youmaga.com/odekake/eco/ 2010_10.php

※2 ジョン・ミューア・トレイル:パシフィック・クレスト・トレイルの一部 (=ハイライト)をなすシェラネバダ山脈の稜線を辿るシーニック・トレイル。北はヨセミテ国立公園から南は米本土の最高峰、ホイットニー山までの340キロ。ほとんどのバックパッカーはサウス・バウンド(南下ルート)を歩き、ホイットニー山頂(セコイア国立公園)をゴールとする。世界中のバックパッカーにとってジョン・ミューア・トレイルのクライマックスはあたかも神聖な祭壇にも上る気持ちがするだろう。※1サイト参照

アラスカのタイガ林
▲アラスカのタイガ林(トウヒ)。北方の厳しい自然と清冽な息吹を感じ
オアフ島にある「この木なんの木」のネムノキ▲オアフ島にある「♪この木なんの木~♪」のネムノキ。写真提供:小杉時子


参考
セコイア&キングス・キャニオン国立公園:イエロー・ストーンに次ぐアメリカで2番目の国立公園。ヨセミテと併せて車で回る人が多い。この公園の真骨頂はシェラネバダの山々の素晴らしい景観にある。5分でも10分でも良い、車を離れてトレイルに足を踏み入れてみよう。 www.nps.gov/seki/index.htm

(2012年2月)

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。