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ラスト・サムライ

ロゴ 第27回
ラスト・サムライ

ラスト・サムライ
© Warner Brothers

日本を描いたハリウッド映画の歴史はまさに死屍累々だった。戦後、日米親善の一環として多くのロケ隊が来日して映画を撮った。ジョン・ウェインやマーロン・ブランドなど当時のトップ・スターの来日に日本のファンは一喜一憂したが、でき上がった作品を観て誰もが失望した。中には国辱映画として公開されなかったものも多々あった。日本人のステレオ・タイプというと、日本人男性は弱々しくて卑屈、日本女性は白人男性に身も心も尽くす(白人の)理想の女性像だった。前者の典型がオードリー・ヘップバーン主演の名作「ティファニーで朝食を」に登場するユニオシ氏である。ヘップバーンの住むアパートで彼女の部屋の上階に住む日本人のユニオシ氏は、ハゲ頭で出っ歯。これ以上ないくらいの間抜けな男として描かれていた。後者はほぼ全ての映画でワンパターンのような描き方だった。

思えば、どれも日本に対して悪意のある映画は少なかったかもしれないが、日本人が経済成長を遂げ、醜いエコノミック・アニマルの様相を呈してくると、ハリウッド映画もその世相を反映してきた。「ライジング・サン」や「ブラック・レイン」がその例だ。後作の松田優作は無表情だが突然残虐に人を殺すという、外面では理解できない、つまり何を考えているのかわからない日本人(アジア人)に対する白人の恐怖が込められていたに違いない。若山富三郎扮するヤクザの親分が原爆を落とされた復讐から、偽札でアメリカ経済を混乱させようとしているという微妙な台詞もその辺から来ているのだろう。

そんな一抹の不安と、大いなる期待を込めて観た「ラストサムライ」。結論から言うと、かなりの満足度だった。何よりも日本の武士道をかなり好意的に描いていてびっくりした。武士道といえば、太平洋戦争の軍国日本と直結するイメージがあり(そのため戦後の日本はしばらくチャンバラ映画が禁止された)、あまり良い印象を持たれなかった。しかも、この映画での悪役は近代化日本を推進した米国人と日本人である。アメリカの批評家達の間では、武士道肯定を批判する意見も多かった。しかし日本人として、ここまで褒めてくれると嬉しい。実際、現在の日本に武士道なんかありゃあしないのだが。

主役のトム・クルーズを食う名演を見せた渡辺謙、寡黙だが存在感を見せた真田広之、ステレオタイプの日本人女性像を見事に打ち破り、目だけで自分の境遇を表現した小雪、憎々しげに演じた映画監督の原田眞人(一番の収穫!)など日本人俳優の演技はどれも及第点。アメリカでは渡辺謙にアカデミー助演男優賞の下馬評が挙がっている。

話は変わるが、アカデミー賞といえば今年の外国映画部門の日本代表作品は「たそがれ清兵衛」だった。この外国映画部門は、各国の製作者連盟が代表作品を選考し、1本をアメリカのアカデミー協会に出品。それら各国の作品から協会が最終的に5本のノミネート作品として選考するというシステムになっている。よって日本から何を出すかはとても重要になってくる。日本はここ20年この部門でノミネートされていない。なぜなら、「うなぎ」「HANA-BI」「ワンダフル・ライフ」など、出品すればノミネート確実の作品をことごとく選考からはずしているからだ。特にここ数年の出品作品の選考の酷さは目に余る。「平成狸合戦ぽんぽこ」「学校?」「愛を乞うひと」「鉄道員(ぽっぽや)」「GO」「OUT」といった作品群は、いくら国内で評価が高くても、とてもアメリカで注目される作品とは思えない。今年の「たそがれ清兵衛」にしても、「座頭市」という真打ちがありながら、なんではずしたのか。ベルリン映画祭で受賞を逃した作品とベルリンより格上のベネチア映画祭で賞を総なめにした「座頭市」では比較にならないと思うのだが……。現在まで「たそがれ…」はシカゴ映画祭でも賞を逃し、「座頭市」はマラケシュ映画祭で監督賞、シチェス映画祭でグランプリを受賞。ヨーロッパ・アカデミー賞の外国映画賞にノミネートされた。選考委員から世間知らずの評論家をはずして、もっとアメリカの事情に詳しい国際人を加えた方がよろしい。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。