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日本映画がアカデミー賞をとれない理由

ロゴ 第5回
日本映画がアカデミー賞をとれない理由

赤い橋の下のぬるい水
「赤い橋の下のぬるい水」

監督
今村昌平

原作
辺見庸

キャスト
役所広司
清水美砂

公式サイト
www.akaihashi.com/

映画賞のシーズンである。オスカーに向け、AFI賞やゴールデン・グローブ賞など、前哨戦ともいうべき映画賞の発表も続々と行われている。これまでの流れからすると、今年のアカデミー賞は「In the Bedroom」、「Mulholland Drive」。「Beautiful Mind」などが有力らしい。でも何が受賞するかどうかの予想なんて、どうせどっかほかがやるんだから、書いたってしょうがないよね。それに、最近アカデミー賞の選考も面白みがないと思っているんだよね。なんか政治的な匂いも感じられるし。

そのアカデミー賞、数々の部門の中でも「外国語映画賞」という部門が一番日本人に近い賞である。邦画では1951年に「羅生門」が初めてこの賞を獲得して以来、「地獄門」、「宮本武蔵」とたて続きに受賞。1950年代の日本映画は本当に力があり、毎年のように、アカデミー賞にノミネートされていた。しかし、その後、45年以上も日本映画は受賞ゼロ、1982年の「泥の河」を除いてノミネートもされていない。これは異常だ!

日本映画がそれほど不調だったかというと、そんなこともない。カンヌやベルリンなどの国際映画祭では、日本映画は毎年賞をとっている。ということは、もっとほかの理由があるはずだ。実は、アカデミー賞の外国語映画賞は、オスカーのほかの部門と比べて異質の選考形態をとっている。外国語映画賞以外のすべての部門は、前年アメリカで商業的に劇場公開された映画の中から、アカデミー会員がノミネート作品を選考する。しかし、外国語映画賞の場合は、前年アメリカで封切られたか否かに関わらず、各国の公的な映画連盟(日本は映画製作者連盟)がその国で1年以内に公開された作品から独自に選考した一本を出品し、その中からアカデミー会員が予備選考を得て、5本のノミネート作品を選考する形をとっている。そのため、当然ノミネートされるべき作品が、その国の推薦を得られなかったために選考から漏れることもある。各国から送られてくる作品は膨大な量となり、よって中には全く作品を観ないで投票する会員もいたりするのだ。そのため、会員に対する広報活動や、全米規模での公開はノミネートにとても有利である。また、外国語映画賞に出品する作品を選ぶのはその国の選考委員なので、彼らの責任は重大である。

では、ここ数年日本はどんな作品を出品したのだろうか? 5年前から順に見ていくと、「学校 III」、「愛を乞うひと」、「もののけ姫」、「鉄道員(ぼっぼや)」、「雨あがる」となっている。こりゃあ駄目だ! 何をやっていたのか、選考員ども! 「Shall We ダンス?」がその年公開されていながら、なんで「学校 III」なの? 世界中で反響を呼び、世界一権威のあるベネチア映画祭でグランプリを受賞した「HANA―BI」がありながら、なんでわざわざ「愛を乞うひと」なんて地味な作品を選ぶの? 「もののけ姫」は確かに素晴らしい映画だが、この部門でアニメは絶対ノミネートされないのだ。傾向と対策ができていれば誰でも判るはずだ。カンヌ映画祭でグランプリを穫った「うなぎ」を送っていれば確実に受賞していた。翌年の「鉄道員」というのもひどい。「ワンダフル・ライフ」や「御法度」、「カンゾー先生」など有力な作品はあったはずだ。なんか、みすみすノミネートを逃しているようなひどい選考ぶりである。

断っておくが、私はこれらの映画をけなしているのでは決してない。ただ、アメリカの批評家受けする作品というものがあるし、やはり欧米で評判になった作品を外し、地味な作品を選ぶのはどう考えてもおかしいと言っているのだ。しかし「鉄道員(ぽっぽや)」はないわな。どう考えても歴代のノミネート作品のような重さがないもの。お涙頂戴的な映画が大好きな韓国と日本だけで受けたというだけでも、おセンチな映画だと判る。

選考作品を見ると、どれも日本アカデミー賞を受賞した大手の作品ばかりである。ここに、なにか政治的匂いをプンプン感じてしまう。ちなみに今年の日本代表は宮藤官九郎監督の「GO」である。くどいようだが、このタイプの作品でノミネートされるのは難しいのである。おかげで、「赤い橋の下のぬるい水」や「ユリイカ」などの本命がノミネートされる可能性がなくなってしまった。今年もダメかな。やっぱり。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。