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SAYURI

ロゴ 第51回
SAYURI
東洋趣味を露骨にアピールした「SAYURI」が、公開前から話題に上っていた。ハリウッドがゲイシャを題材にするというだけで、どんなマチガイ・ニッポンを描いてくれるのか期待してしまうのは私だけではあるまい。

特に日本人に恨みでもあるのか、主役格の女性3人にすべて中国人スターが選ばれ、日本のマスコミの物議を醸したことで公開前から何かと話題になっていた。しかし、作品を見終わると、日本人の女優には演じられる人はいないのではないかと、失礼な感想を持ってしまうほど、チャン・ツィイー、ミッシェル・ヨー、コン・リーの3人は素晴しかったと思う。日本から出演した渡辺謙、役所広司、工藤夕貴はさしたる見どころもなく、賞レースに入ることは無理だろう。

チャン・ツィイーは、既にゴールデングローブ賞候補に選ばれ、アカデミー賞の呼び声も高い。でも、「ラストエンペラー」でゴールデングローブ賞候補になったジョン・ローンが全くアカデミー賞では無視された過去があるので、白人至上主義を貫く老体アカデミー委員会から評価を得て主演賞にノミネートされるという関門は、なかなか高いと言わざるを得ない。むしろ、コン・リーの助演賞のほうがかなりノミネートのチャンスがあるだろう。

ところで肝心の作品の内容だが、日本をどのように描くのか、相も変わらずステレオ・タイプの奇妙な日本を描いてくれるのか、と構えて見始めたのだが、意外にファンタジーとして良くできていた(正しい日本を描いているかという心配は途中からどうでもよくなったのだが)。

前に述べた通り、主役3人の中国人が素晴しいのと、芸者ひとりのメロドラマをよくここまで大河ドラマ並みにスクリーンへ引き付けた監督の手腕も評価に値する。当初話題になった宮沢りえや藤谷美和子、松田聖子らがキャスティングされなくて本当に良かったね。人々は日本が舞台でキャラクターも日本人なのに、何ゆえに英語をしゃべっているのかと作品を批判するが、そんな事は今さらどうでもよい。アメリカ人は字幕嫌いなのは通説だが、だったら「忠臣蔵」を英語でやったって、そのことで世界公開を可能にできるのなら大きな問題ではないのではないか。それがマーケティング戦略であって、それで「SAYURI」が拡大公開されるのなら、それはそれでいいのです。世界に通用する映画を作れない映画人が、「ラスト・サムライ」の映画で英語をしゃべる侍を非難するなんて、全くの職務怠慢のくせして何を言えるのか、である。

ところで、スピルバーグ監督が当初主役に決めていた日本人ダンサーのリカ・オカモトさん(第50回参照)はどうなってしまったのでしょうか。せめて工藤夕貴の役くらいやらせてあげれば良かったのではと同情してしまいます。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。