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ある映画作家の死

ロゴ 第17回
隣国の国粋的映画に熱狂する日本人

バトル・ロワイヤル
「バトル・ロワイヤル」
© 2000. 「バトルロワイアル」製作委員会

監督
深作欣二

原作
高見広春

脚本
深作健太

出演
藤原竜也、前田亜季、山本太郎、栗山千明、紫咲コウ、安藤政信、ビートたけし 、塚本高史

公式サイト
http://www.ntv.co.jp/ghibli/index.html

深作欣二監督が死んじゃいました。別に彼の特別なファンという訳ではなく、観た映画もそんなにある訳ではない。「仁義なき戦いシリーズ」、「誇り高き挑戦」、「ガンマ3号・宇宙大作戦」、「宇宙からのメッセージ」、「復活の日」、「バトル・ロワイヤル」、「仁義の墓場」、「柳生一族の陰謀」、「いつかギラギラする日」、「火宅の人」、「黒蜥蜴」、「軍旗はためく下に」、「蒲田行進曲」、「狼と豚と人間」……、って結構観てるじゃねえか。映画ファンはもちろんのこと、深作ファンならずとも一度は彼の映画を観ているはずだ。それは映画監督にとって大変名誉なことだろう。

私は基本的に東映やくざ映画が大嫌いで、暴力団や、やくざを美化しているような映画も到底好きではなかった。「ゴッドファーザー」みたいに優れたドラマになっていれば別だけど、松方弘樹や竹内力の出ている映画(彼らの映画はすべて同じ)や「極道の妻たち」シリーズの薄っぺらな人間描写と中途半端なアクションは、これで本当に客を呼ぼうとしているのか、作り手の見識を疑うものばかりだった(ちなみに一部映画人は暴力団と密接な繋がりがあるのでは、と私は本気で疑っている)。

そんな中、深作欣二の「仁義なき戦い」は一線を画していた。劇中の手持ちカメラを多用したバイオレンス・シーンや、かっての美化された着流しスタイルやくざを全否定した生々しいやくざ世界の描写。彼の戦争体験が影響されているのか、劇中に登場するやくざは仁義もへったくれもない弱肉強食の世界で生きるアウトローだった。あくまでやくざは人間を描くための手段であった。クエンティン・タランティーノやジョン・ウーなど、海外の映画作家にも大きな影響を与えたことから、彼の表現力はユニバーサルだった。彼はプログラム・ピクチャー監督としてでなく、立派に映画作家としてこの作品で認知されるに至った。

ここで勝手に彼の映画ベスト3を選出したい。3位は「ガンマ3号・宇宙大作戦」だ。暴力映画の旗手が初期に撮ったSF映画で、宇宙飛行士が宇宙からエイリアンを連れてきてしまい、襲われるというストーリーは、あの傑作「エイリアン」に酷似している。しかし、「エイリアン」の10年近く前の作品である。日米合作のB級低予算映画だが、本作や「宇宙からのメッセージ」などが全米公開されたため、アメリカのマニアの間では、深作氏はB級SF映画の監督として有名だったとか。

2位は「黒蜥蜴」。この映画、キワモノとして実に素晴らしい。江戸川乱歩の原作というだけでもキワモノだが、それを文豪・三島由紀夫が戯曲にし、ヒロインの女盗賊を当時三島の愛人(?)だった美輪明広が演じ、何と三島自身も出演し、迷演を披露している。骨太の映画作家がこんな楽しい映画を作るなんて、実に大好きな映画でござんした。

そして栄光の第1位は遺作「バトル・ロワイヤル」である。私は最後のビートたけしが電話で娘に言う「人を嫌いになるっていうことは、それなりの覚悟が必要なんだ」という台詞がとても大好きだった。この作品、フランスを始めヨーロッパでは絶大な評価を受けたとか。偉大な監督の代表作は最新作だと言うことを聞いたことがある。私は偉大な映画作家・深作欣二に敬意を払い、彼の遺作を最高傑作として推薦したい。

ちなみに彼が死ぬ数日前には日活で「俺は待ってるぜ」、「執炎」などの傑作を撮り、「南極物語」等でも有名な蔵原惟繕監督も世を去った。彼と深作欣二は奇しくも映画「青春の門」を共同で監督した仲だ。日活と東映のエースとして日本娯楽映画を支えた二人の死は、何か映画のある時代が終わりつつあるような寂しい気がしてならない。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。