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ノースウエストの巨峰 レ二ア山

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2003年08月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

シアトルを訪れる多くの人が仰ぐレ二ア山は「タコマ富士」とも呼ばれるカスケード山脈の盟主。1899年に国立公園に指定され、米国本土最大の氷河もある。高山植物が盛りの今、出掛ける前に知っておきたいレ二ア山を楽しむTipsをご紹介。 


▲夏には多くの人がレニア山頂を目指す

▲積まれた石が風格を漂わせる『ジョン・ミュア・ヒュッテ』


タコマ富士(4,392メートル)vs.富士山(3,776メートル)

シアトル近郊に住んでいれば、よほどの悪天候でない限り、南にレ二ア山が大きく見える。もちろん、レ二アの山頂からもシアトルの街がよく見える。以前登った際には、ダウンタウンの高層ビル街、I-5とI-90のスパゲティ状のハイウェイ、そしてその上に米粒のように車が走るのがつぶさに見え、元旦に富士山頂から見た景色ーー新宿副都心の高層ビル街と山手線、中央線の電車が新宿駅に発着するのが肉眼でもはっきりと見られたーーを思い出させた(隊長の視力はいい。おかげで今はリーディング・グラスのお世話になっているが)。

同じように、東京近郊に住んでいる人はそこから富士山がよく見えるだろうか? 都内からは天気が良く空気が澄んでいる日、例えば冬の快晴の日などは、ビルの上の階や高台など、ある程度の高さがあれば富士山を望むことができる。ただし、遠くて小さい。

「そういえば、山手線の車内からでも夕焼けをバックにしたシルエットの富士山が、ビルの谷間から見えたっけ」と思いつつ、富士山と東京、レ二ア山とシアトルの間の距離を調べてみた。

富士山→新宿副都心93キロ
レ二ア山→シアトル97キロ

両山からそれぞれのダウンタウンへの距離は約100キロ(約60マイル)でほぼ等距離だ。でも、東京から富士山への距離がレ二ア山とシアトルのそれより、うんと遠く感じるのはなぜだろう?600メートルの標高差だけではない、レ二ア山の大きさやシアトル近辺の空気がきれいなことを改めて知る。また、両山の年間の登山者数も比べてみると富士山は約25万人、レ二ア山は1万人で、うち約半数が登頂するそうだ。その差は数十倍。頂上まで登れない理由には天候のほか、高度障害(高山病)によるものも大きい。個人差はあるが標高3,000メートルを越えると頭痛や眠気などが始まる。でも富士山くらいの高度であれば、普通の人でも頑張れば何とか登れる。しかし、4,000メートルを越えると空気が薄いことを実感する。靴は鉛のように重く感じられ、一歩ごとにハアハアと息をついても倦怠感が押し寄せてくる。おまけにレ二ア山の上部はタコマドームを何百倍にもしたような広い雪原の登りで、どれだけ歩いてもキリがない(ように思えてくる)。高緯度ならではの氷河歩きの難しさも加わり、なまじっかなことでは山頂を踏めない。夏の大衆登山が可能な富士山とは大きく違う点だ。

パラダイスは本当にパラダイス

レ二ア山の南面中腹、標高1647メートルの辺りがパラダイス(Paradise)。森林限界の常緑針葉樹群の合間に夏場、お花畑が点在する。ルピナスの赤紫、ベアグラスのクリーム・イエロー……、雪解けの山腹に次々と花々が咲き競う。頭上には多くの氷河を従えたレ二ア山の雄姿があり、振り向けばカスケードの蒼緑色の峰々が果てることなく連なっている。まさしく山上の楽園だ。見晴らしのいいトレイルがここから何ルートも延びており、レ二ア山の登山口にもなっている。

公園の中心施設(ビジターセンター、ロッジなど)もここに集まっている。そのひとつ、『パラダイス・イン』は90年近く前に、ほとんどこの山の杉材だけを使って建てられた、風格ある木造建築物だ。高緯度の高山だけあって、冬は15メートル以上の積雪がある(世界の観測史上最深の積雪はこの地で記録された28.5メートル!)。ここからのトレイル・ウォークは、まるでスイス・アルプスの氷河のほとりのトレッキングのようである。十分に注意すれば、初級者にも可能な日帰りの登山に挑戦してみてはどうだろう?

右記のパノラマ・ポイントから上部の開けた雪の尾根を登っていくと3,105メートルのレ二ア山の南東の肩に当たるキャンプ・ミュアに至る。高度差1,400メートル、往復14.4キロ(9マイル)、6~8時間のれっきとした山登りである。広い雪の尾根なので、上りはいいが下りの時にガスに巻かれると方向を見失うことがあるので、注意が必要。天候の安定した、夏の晴天時が狙い目だ。キャンプ・ミュアはアメリカの著名なナチュラリストで作家のジョン・ミュアがレ二ア山に登った時のベース・キャンプで、今も石積みの小屋『ジョン・ミュア・ヒュッテ』が建っている。あまり詳しく述べるのも無粋な話だ。パラダイスからは結構な登りだが、その苦労を大きく上回る素晴らしい景色と爽快感が得られるとだけ言っておこう。

アプローチ

シアトルからは、タコマを経て公園の南西ゲート(Nisqually Entrance)から入る(パラダイスへはこのルートが近い)か、州道410号を通り北東から入る(サンライズへはこちらのほうが近い)。ポートランドからはI-5を北上、州道12号を東に向かい南東から入る(パラダイス、サンライズへほぼ等距離)。

南西ゲートからパラダイスへの道だけ通年で通れることになっているが、雪の状態により閉鎖されることもあるので、シーズンの初めと終わりに出掛ける人は事前のチェックを怠りなく。

ハイキング・トレイル

山岳地の国立公園であり、トレイル・ウォーク(散策)というよりハイキングやトレッキングに近い。足回りをしっかりすることと天候の急変に備えて雨具、コンパス、水、食料、フラッシュ・ライトなどを携行する。雪の上を歩くこともあるので、サングラスと日焼け止めも忘れずに。歩き出す前に脚部のストレッチをしておこう。視界が悪い時は必ず、地図とコンパスで現在地と目的地を把握して行動すること。自信のない時は出発せず、次の機会にしよう。

隊長おすすめトレイル

パラダイスから

ニスカリービスタ/Nisqually Vista1.3マイル容易ストローラー、車椅子可。
二スカリー氷河を下部より望む。
アルタビスタ/ Alta Vista1.5マイル初級二スカリー氷河を上部より望む。
展望が抜群
スカイライン/Skyline5.2マイル中級尾根を登り、標高2,074メートルのパノラマ・ポイントへ至る。

●パラダイスから

イモンズ・ビスタ/Emons Vista1.0マイル容易ストローラー、車椅子可。米本土最大のイモンズ氷河を正面に見る。
フローズン・レイク/Frozen Lake2.5マイル中級サワードー・リッジ(Sourdough Ridge)を経て尾根の上の湖に至る

登山

レ二ア山の肩にあるキャンプ・ミュア(3,105メートル)より上部に登るには、レンジャー・ステーションでの登録、また単独登山には公園長の許可が必要。キャンプ・ミュアより上部に登ることは初心者・初級者には危険なので、グループに上級者、つまりロープ(ザイル)、クランポン(アイゼン)、アイス・アックス(ピッケル)を使用して登った経験者がいることが必須。初・中級者でレ二ア山登山にチャレンジしたい人は、パラダイスにある山岳ガイド兼スクールの『Rainier Mountaineering, Inc.』を利用しよう。1日の技術講習クラスに参加後、登山するコースもある。

Rainier Mountaineering, Inc.
ウェブサイト:www.rmiguides.com

その他

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。