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ロング・ドライブで自然探訪(ウインター編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2007年12月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

北米の冬の自然には冬ならではの魅力がある。この季節、自然探訪に出ると、
その地へ来た人達だけに天は一瞬美しい情景を見せてくれる。
安全への心掛けがすべて、冬季のロング・ドライブの準備とTipsを紹介しよう。

冬ならではの自然探訪

冬のシアトル、ポートランドは雨が降りがちで、太平洋岸までそんな天気だ。オレゴン・コーストでは冬の太平洋の荒波と強風が押し寄せる。「ストーム・ウォッチング」なる、半ばヤケッパチな自然探訪(?)もあるが、冬の海岸からは南下するクジラの群れが見られる。その北西部の海岸の南北両端には、厳しい季節風を受け止め、和らげるかのような懐の深い原生林が広がっている。共に世界遺産に指定されている、ワシントン州のオリンピック国立公園と北カリフォルニアのレッド・ウッド国立公園だ。公園は通年開いていて、冬でも雨も落ちてこないような鬱蒼とした森林の中を歩くことができる。

北へのドライブでは、北米の「冬」という大自然にガッツリ取り組むことになる。目的地へ着くことだけが目標となった途端、景色は単調になり、ドライブは苦痛になるが、動物も冬の天気も冬景色の一部、大いに道中を楽しもうではないか。

キャラバン#17、18の「ロング・ドライブで自然探訪」では春夏の準備編とドライブ編について述べたが、以下は冬のロング・ドライブに関する隊長のメモである。

車も気持ちも段取り八分

冬季の運転に関する要点を以下にまとめたので、冬シーズンやロング・ドライブの前にはチェックしてみよう。

出発前に目的地への道順をしっかり把握しておく。ネット、地図、GPS、先方と連絡が取れれば、二重三重に経路を確かめておく。冬は日が短く、雪や霧で視界が狭まり、道路標識やサインも見づらい。分岐点は特に気を付ける。事故や工事、降雪でやむなくルートを変えることもある。そんな時、行き先からの指示が役に立つし、先方と連絡が取れていれば不測の事態があろうと気持ちの余裕が持て、それが道中の安全につながる。

慌ただしく出発し、挙句に忘れ物を取りに戻ったりすることのないように、準備には十分な時間を取ろう。その上で余裕を持って早めに出発する。ドライブの所要時間は長めに見ておく。心にゆとりを持ち、明るい気持ちで運転する。焦ったりイライラしないことが安全につながることは誰もが知っている。

安全運転の基本は、良好な視界の確保から。とりわけ冬場はそれを怠らぬようにしたい。そのためにまず暖機運転を十分に行い、窓の曇りと霜をなくす。また、走り出す前に屋根の雪を入念に落とす。食事や休憩、給油の際にも窓とライト回りの雪、汚れをこまめに取り除いておく。それを習慣にすることで潜在する危険を少しでも減らすことができる。

国道101号線
▲マウンテン・ゴートが道を横切る。朝夕が最も動物の出る時間帯である。暗くなってからは注意が必要
フォート・クラットソップ砦
▲フリージング・レインは、冬のドライブで最も避けたい危険のひとつ。降り始めが最も危険


ドライブ中に気を付けること

雪道でいつも気を付けたいことは、安全な車間距離を取ることである。どのくらいが十分な車間距離かは条件によって異なり、これはドライブの中で感覚を掴むしかない。

冬のアメリカで遭遇する、日本ではほとんどないドライブの危険のひとつに「フリージング・レイン」がある。これは上空で氷点以下に過冷却された雨粒が、地表に当たった瞬間に凍り、氷の膜を作る現象である。出発前も走行中も気象情報/警報を、こまめにチェックしておく。警報が出ている時は行動を見合わせることも必要だ。走行中に疑わしい空模様で雨が降ってきた時は、車の窓から手を出して屋根に触り、氷のフィルムができていないかチェックする。さらに対向車やほかの車、道路際の樹木などを見て、フリージング・レインが降ってきていないか注意を払う。

事故はフリージング・レインの降り始めに多発する。辺り一面がスケート・リンクと化してしまうため、気を付けていてもすぐにはとまれない。ストップ・サインも信号もほかの車も信じてはいけない。そうなる前にその日の旅程を見合わせ、切り上げ、あるいは延期してでも明らかな危険は避けるべきである。運悪くドライブ中にフリージング・レインが降り始めたら、できるだけ坂道は避け、ゆっくり走る。チェーンを付けることをちゅうちょしない。そして最寄りの街に泊まる。

おもに朝夕、冬眠しない動物が食事をしに出てくる。特にシカ、ムースなどが車とぶつかることがままある。冬の間、彼らは林の中の少ない緑の葉や木の小枝などを食べるので、森林帯を走る時は「動物が出るかもしれない」と心掛けて運転する。暗い時は、手前の数十メートルを照らす補助ライトがあると早く見付けることができる。何もない所でほかの車がとまっていたり、徐行している場合は、道沿いに動物がいることを考えて気を付ける。

厳冬期に雪道を走る時は、吹雪でなくとも車が舞い上げる雪煙で視界が妨げられ、眼前が真っ白になり何も見えなくなる。ホワイト・アウトという現象だ。対向車との場合は2、3秒で終わるが、問題は追い越される時だ(5秒から先は無限に感じられる。雪煙の先の道がカーブしていると……!!!)。要は流れに合わせて走っていると良いのだが、急ぐ車が自分の後ろに付くことがある。その時はできるだけ早く安全な場所で後続車に道を譲ることだ。冬季ドライブの基本は冬の道の危険を知っていて、それらを早めに察知することである。

米西岸の要衝
▲冠水、濃霧、山火事などはロング・ドライブにつきものの自然現象。通行止め、迂回などは「よくあること」と思っておこ


タイヤ・チェーンのこと

冬のロング・ドライブでは、必ずタイヤ・チェーンを車に積んでおく。これは規制や規則以前に自分の身のためである。特にカスケードの峠越えの道では“Carry Chains”、“Chains required”のサインが出ており、タイヤ・チェーンの携行が義務付けられる。4WDで“all-season”、“all-weather”、“Mud and Snow(ほとんどの車のタイヤがそうである)”であれば、それは“Traction device”として認められるが、それでもタイヤ・チェーンの携行が条件だ。
チェーンは事前に付け方を練習し、装着のコツや不具合を確かめておく。確実なのはジャッキ・アップして行う方法。チェーンを着脱する際は対向車が装着しているかどうかも判断材料にしながら、慎重に安全な場所で行うこと。路側帯は大変危険なので避ける。主要なハイウェイにはチェーン装着場所が設けられているのでそこを利用する。

実際にチェーンを付ける時は、暗く、濡れていることが多いので、作業できる服の準備を。なお、レンタカーにはチェーンは積んでいないし、オフィスにも置いていない。装着を認めないレンタカー会社もある。車を借りる際にはこれらの条件を良く知っておく。

国道101号線
▲ロング・ドライブには標準タイヤを2本積んでスペア・タイヤとする
フォート・クラットソップ砦
▲トランペッタースワン。すぐに車をとめること


冬のロング・ドライブの極意

雪道の運転に慣れるいちばんの近道は、雪の積もった平らな広い駐車場などで練習することである。近くに広い場所があれば、雪の積もった時の週末の早朝などに出掛けてみよう。

急ハンドル、急ブレーキ、急発進をしてタイヤのグリップ感覚、限界制動距離を体感しておく。最近はほとんどの車はABS付きだが、その感覚も知っておくこと。そしてABS車でもポンピング・ブレーキの使い方を知っていると、パニック・ブレーキ時の車体のコントロールに役立つ。そして、ターンしつつサイド・ブレーキを使う方法も試してみよう。要はいろんな操作を通して雪面と車の感覚を知っておくことが実際の雪道ドライブに役立つ。

日本の車評論家の第一人者で元プロ・ドライバーの徳大寺有恒氏は、『間違いだらけの運転テクニック(講談社)』でこう書いている。

「私はドライブの中で一番むつかいしいものは止まることだと思う。眠くなったときストップするのもそうだが、景色のいいところで止まるのもなかなか決断を必要とする。だから、私は容易にストップできる人を最も勇気あるドライバーとして尊敬している」

これは、かねがね隊長も思っていたことなので同感しきりだった。危険を察知した時だけではなく、動物が出て来た、夕焼けがきれいだ、たなびく霧に差す陽光が美しい……などなど、別に写真を撮らずとも、ただ目に映るものをその場の光や風と共に感じ、楽しむために車をとめる。それがロング・ドライブでの自然探訪の極意のように隊長は思う。

Information

道路交通情報のほか、冬のドライブに関する役に立つ情報を提供しているウェブサイト
■ワシントン州交通局
Washington State Department of Transportation
ウェブサイト:www.wsdot.wa.gov/traffic/(道路交通情報)
ウェブサイト:www.wsdot.wa.gov/winter/(冬季ドライブについて)
■オレゴン州交通局
Oregon Department of Transportation
ウェブサイト:www.oregon.gov/odot/(道路交通情報)
ウェブサイト:www.oregon.gov/odot/comm/(冬季ドライブについて)
■その他の全米各州とカナダのDMVのサイト一覧
Department of Motor Vehicles (DMV)
ウェブサイト:www.onlinedmv.com

冬季ドライブのTips

準備
●出発前の点検(対寒冷)/オイル、ワイパー、ウォッシャー、バッテリー、クーラント、デフォッガー、ジャッキ
●あると役に立つ寒冷地装備(レンタカーを選ぶ時など)/ドア・ミラーのヒーター、シート・ヒーター、ヘッド・ライト・ワイパー、フォグ・ランプ、補助ライト
●4WD車は冬のドライブには向いている。ただし、制動時(ブレーキ)は車体の重さのため、逆に制動距離は2WD車より長めに必要な場合がある
●車に積む装備など/窓拭き用のタオル、スペア・タイヤ、タイヤ・チェーン、ゴム・フック、ウォッシャー液、手袋、毛布、牽引ロープ、ブースター・ケーブル、プライウッドなどの板、解 氷スプレー、スクレイパー、雪落としブラシ、フラッシュ・ライト、ヘッド・ランブ、修理工具  一式、予備ヒューズ一式、スペア・キー、訪問地の地図、AAAカード
●視界確保/凍ったガラスはしっかり溶かす。ドア・ミラーの汚れを拭く。車に付いたり積もった雪を落とす。タイヤ・ハウス(フェンダーの内側)や特にライト類の雪は確実に落とす
●燃料の残量に気を付け、半分になったら給油する
●次の目的地までの道順をメモしてインパネ(計算盤)に貼っておく
●飲食物、音楽などの準備
●トイレを済ませておく(渋滞するかもしれない)

走行時
●「急」のつくドライブを避ける。すなわち発進、スピード、曲がる、止まるなど。エンジン・ブレーキもやんわりと有効に使う
●停車距離の確保と、前方、路面の状況の把握のため、車間距離は広めに取る
●車の速度は流れに合わせるのが良い。ただしカーブと路面の状態をよく見て、前方の道の 様子がよくわからない時はスピードを落とす
●冬のドライブはバッテリーを酷使する。アンペア・メーターには注意を払い、渋滞時には、バッテリー上がりを防ぐため、リア・デフォッガーとカー・ステレオを切る

車をとめる時
●本線から十分に離れた場所(パーキングなど)に入ってとめる
●路側帯には停車しない(特に夜間や雪、霧の中では後続車に追突される危険度が大変高い)。やむを得ずとめる際にはハザード・ランプを点滅させ、後ろに反射板を立て、あとは後続車が間違わないよう、スリップしないように祈る
●長時間の停車の際は、できるだけ平坦な場所に建物からの雪氷の落下を避けて停車し、車 のフロントを風下か建物側に向ける。ワイパーを立てておき、サイド・ブレーキは引かない。 バッテリーの起電力が低くなる不安がある時は、外して屋内へ持ち込む

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。ウェブサイトをリメイク中。