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この冬挑戦しよう。レニア山でスノーシュー!

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2008年12月号掲載 | 文・写真/小杉晶子

冬の山。「生き物はみんな眠ってる」「素人が冬の山を登ることができるの?」
……なんて思ってませんか? 
パーク・レンジャーと一緒に冬のレニア山を体験してみましょう。

うっとうしい日常から脱出!

「今年は、シアトルの冬を楽しみたい!」
という私の懇願に、少ない知恵を絞って夫が出してきた提案。
「冬の山を体験する」
「えーっ、あのでっかいバックパック背負って足にのこぎりの刃をつけて、登る冬登山? 無理だよそれは……」
「いや、君が履くのは、コレ」
と、アウトドアの広告写真のスノーシュー(かんじき)を指して、夫は説明を始めました。

レニア山国立公園では、毎年12月から翌年の3月まで、冬の山を一般の人に理解してもらおうと、パーク・レンジャーが簡単なツアーを行っているのです。冬の自然環境、動植物の生態などをおもしろく説明しながら、さらにスノーシューも履いての、2時間のトレッキング・ツアーだそうです。料金は無料(国立公園入園料は必要)。スノーシューも無料で貸してくれるので、ギアは一切いらず(防寒着、靴は持参)、全くの初心者や子供もOKとのこと。
「おぉ、それなら私にもできそうだ!」
その冬は、冬のレニア山を楽しむことに決定しました。

ツアーは1日2回、正午と午後2時から(今シーズンは午後12時半と午後2時半)。予約は受け付けていないので、「早いもん勝ち」です。定員が決まっているので早目に行くこと。私達は事情がよくわからなかったので、午前11時半頃にレニア山山頂ビジター・センターのパラダイスに到着しました。

受付カウンターには、たくさんの人だかり。申し込みのことを聞いてみると、正午の部はすでにいっぱいで、今から2時の部の受付をするそうです。私達もその場で次の部の申し込みをしたのですが、その人だかりは2時の部を申し込む人達で、10分そこらで定員に達しました。どうやら非常に人気のあるツアーのようです。


▲さぁ、出発! エッチラ、オッチラ……
ツアー風景
▲ツアーでは30分ごとに止まり、パーク・レンジャーが動植物の生態を丁寧に説明してくれる

▲除雪車が通った後は、雪の壁が!

▲大きな坂は、おしりで滑って行きましょう


初めてのスノーシュー

さて、午後2時になりました。簡単な点呼の後、パーク・レンジャーについて階下へ。倉庫の中から自分に合ったスノーシューを選ぶのです。種類は2種類。ビーバー・テイルと呼ばれる昔のタイプのものか、小型化されたモダン・タイプのもの。ビーバー・テイルは長さがあり、雪の上ではどこでも歩きやすいのですが、足の裏に刃が付いていないので、少し滑りやすいのが難点。でも昔の雰囲気たっぷりです。モダン・タイプは、小さめで小回りが利き、早く歩きやすいし、裏には刃が付いているので、初心者や子供にも良いかと思います。もちろん子供用のスノーシューも用意されています。私はモダン・タイプ、夫はビーバー・テイルを選んで外へ出ました。

この日は見事に晴れ上がり、真っ青な空に白い山々がくっきりとそびえ、雄大な自然に「うおぉぉーっ」と叫びたくなるようなお天気でした。ビジター・センターの横っちょで、パーク・レンジャーからスノーシューの履き方、歩き方などを教えてもらい、さぁ、出発。ツアーのメンバーは、比較的若い人が多い中、孫を連れた坂上二郎似のおばちゃんも参加していたり、マイ・スノーシューを持参してる中級者もいたりのごっちゃ煮グループです。

スノーシューを履いて歩いていると、意外にらくらく雪の上を歩けるものですが、引率の若いパーク・レンジャーの歩くスピードが速いこと。みんな、最初はおしゃべりしながらリラックス・ムードで歩いていましたが、だんだん無口になり、「はぁ、はぁ」と息の切れる音だけが白銀の中にこだましていました。
私:「空気が薄いのかなぁ~、はぁはぁ」

夫:「あぁ、かなり薄いと思うよ、はぁはぁ」

そう聞いてしまうと、もっと「はぁはぁ」と息が上がってくるようで、聞かなければ良かったと、反省しました。もちろん坂上二郎似のおばちゃんもかなり後ろで遅れをとっていました。


▲ビーバー・テイルと呼ばれる古いタイプのスノーシュー

▲ビーバーテイルは裏に刃がないので、ちょっと滑りやすい


自然に適応して生きるということ

30分ほど経ったところで、パーク・レンジャーが集合をかけました。しかし、坂上二郎はまだだいぶ後ろです。若きパーク・レンジャーは、遅れをとっているメンバーをちらちら確認しながら、少しずつ雪山の動植物の生態について話し始めました。

レニア山の冬の降水量は、全米でもトップを争うほど多いとのこと。ものすごい量の雪(雨)なんですね。冬になると、ハワイから湿った暖かい雲がノースウエストへ注がれます。パイナップル・エクスプレスと呼ばれる低気圧です。ふもとに住んでいる私達にとっては嫌な雨ですが、山頂に積もった雪の雪解け水によって、私達の生活水がまかなわれていると思えば、ありがたき雨と感謝しなければなりません。

そして、その水源から豊かな森が支えられ、サーモンを始めあらゆる生き物が生かされているのです。冬山の厳しい環境で、動植物はあらゆる工夫をしながら生きています。車でビジター・センターに着く30分前頃から、まわりの針葉樹の種類が一変するのに気付いたことのある人はいますか? ふもとの森や公園に多いダグラスファーや、レッドシダーが急になくなり、サブアルパイン・ファーやマウンテン・ヘムロックといった高地針葉樹に変わります。

若きパーク・レンジャーの話によると、サブアルパイン・ファーは、湿った重い雪を降らすこの環境で生き残るために、体は小さく、枝をゴムのようにぎゅうっと曲げられるほどに変形しながら生きているそうです。ノースウエストに降る重い雪は、樹木の枝全体にのしかかります。重い雪に押しつぶされそうになったサブアルパイン・ファーは、おじぎをしたような格好で長い冬を耐え抜き、春、雪が溶け出す頃にまた、ゆっくりと頭を持ち上げていくのです。

シアトルの街でも、雪が降ることがありますね。雪の重さで耐えられなくなった街路樹の枝が折れているのを目にしたことがあると思います。普通の樹木の構造的に考えれば、雪の重さで絶対に折れてしまうものですが、こういった環境で生き抜いていくために自分の形をも変えてしまうのが、生き物なのです。

なんて、けなげに生きているんだろうと、心打たれました。こういった厳しい環境で生きている動植物の適応の仕方には、いつも驚かされ、思うことがあります。「自らを変えて環境に適応しようとする生き物と、自ら変えずに環境を変えようとする人間の存在」。人間って、どうしてこう不自然な生き物なんでしょうね。いつも私は、そう考えてしまいます

さて、坂上二郎似のおばちゃんもやっとこさ、グループに追いついて再出発。雪道は上りがあったり、下りがあったりと変化に富んでいて、お天気の良かったこの日は、汗をかくぐらいの2時間でした。広い場所に出た時は、大人も子供も思いっきりフカフカの雪の上に倒れたり、「エンジェル」を作ったりと、みんな大はしゃぎで楽しみました。

たった2時間のトレッキングでしたが、夏には見られない冬のレニア山の姿と、ただただ広がる真っ白い山々を眺めていると、人間社会で起こっている小さな問題が大したことではないような気分になり、日常などすっかり忘れて雪の山を楽しむことができました。

冬になると、寒い、寒いと避けてしまう、雨や雪ですが、冬こそ楽しめるものを見付けていけば、シアトルの冬もまんざら悪いものではないように思えてくるのでした。ぜひこの冬、家族や友人、仲間と、雪を楽しんでみてください。

Information

■レニア国立公園
レンジャー・ガイド・スノーシュー・ウォークス
スノーシュー・ガイドは、12月中旬から3月まで。月によって週末だけという日程もあるので、しっかり確認を。
Ranger Guided Snowshoe Walks
ウェブサイト:www.nps.gov/mora/planyourvisit/winter-recreation.htm

■レベンワース無料スノーシュー・ツアーズ
ドイツ村でおなじみのレベンワースで、1月の土・日曜だけ開催している、スノーシュー・ツアー。ギアの貸し出し可。要予約。
Winter Life Snowshoe Tours
TEL: 509-548-7641

■クレーター・レイク スノーシュー・ウォークス
オレゴン州唯一の国立公園であるクレーター・レイクでも、パーク・レンジャーによる、スノーシュー・ガイドが行われている。
Crater Lake Snowshoe Walks
ウェブサイト:www.nps.gov/crla/planyourvisit/guidedtours.htm

Akiko Kosugi Phillips
サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジで園芸学(Landscape & Horticulture)の学位を取得。シアトル日本庭園でのインターンシップ、エドモンズ市の公園課での仕事経験を経て、現在は、小杉剪定サービスとして庭の手入れを行うビジネス・オーナー。年に2回ほど小杉礼一郎氏の代わりに「ノースウエスト自然探訪」の執筆を務める。