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2004年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2004年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2004年2月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

2004年マリナーズの展望

  
 1月20日現在、佐々木主浩投手の退団がほぼ確定的となった。今後、自由契約の手続きを踏むが、今号が出るまでには正式発表もあるはずだ。残念だが、家族を優先しての決断。マリナーズも申し出を受け入れる方針の模様。
なお、彼の退団でマリナーズの来季の陣容がほぼ固まった。浮いた佐々木の年棒で新選手の獲得を目指すとの憶測はあるが、フリーエージェント市場に望まれる選手はおらず、このままのメンバーでキャンプに入ると見られる。
今号は佐々木退団のニュースも含め、オフ・シーズンの動きを総括したい。(取材・文・予想/丹羽政善)(取材・文/丹羽政善)
 
  
 

佐々木退団!

佐々木主浩投手
▲2000年からシアトル・マリナーズのストッパーとして活躍した佐々木主浩投手。日本人メジャーリーガーとしては2人目の新人賞に輝くなど、数々の偉業を果たした。ありがとう、大魔神!

退団の一報が流れたのは、1月19日の午前。代理人を通じてマリナーズに退団の申し入れがあり、午後になってマリナーズ側も電話会見でそれを認めた。MLB.COMのジム・ストリート氏のリポートによると、代理人のトニー・アタナシオも佐々木の退団を認め、「彼はもう帰らない。家族と一緒にいることを望んでいる」
と発言したことを伝えている。

佐々木が日本球界に復帰するのではないか、との噂が流れたのは昨年11月中旬のこと。その時はそのまま立ち消えになったが、家族のことを懸念し、また、今年開催のアテネ・オリンピックへの出場も希望していたというから、そうした複数の要素が重なっての決断のようだ。

しかし、マリナーズへのダメージは少ないと見る向きも多い。昨年、ミネソタ・ツインズで41セーブを挙げたエディ・ガーダド投手を獲得しており、ガーダド、もしくは長谷川滋利投手がそのままクローザーになることが予想されるからだ。両投手とも経験、実績共に豊富。マリナーズのブルペンが崩れる心配は少ないだろう。

オフ・シーズンの動きを総括

ショッキングなニュースから紹介しなければならなかったが、ここからはキャンプ前の総括として、オフ・シーズンの動きをまとめてみたいと思う。まず、レギュラー・クラスの新加入から。

野手では、アナハイム・エンゼルスからフリーエージェント(FA)になっていたスコット・スピージオとサンフランシスコ・ジャイアンツからFAになっていたリッチ・オリリア。この2人が、新たに三遊間を組むことになる。昨年まで三遊間を担っていたジェフ・シリロ三塁手、カルロス・ギーエン遊撃手はそれぞれ、サンディエゴ・パドレスとデトロイト・タイガースにトレードされた。

スピージオは、オークランド・アスレチックスとエンゼルスでそれぞれ4年のキャリアを持つ中堅選手。成績よりも印象に残るプレーをするタイプで、2年前のワールド・シリーズでも大活躍をした。マリナーズは、スピージオにチームを引っ張っていく役割までは期待していないが、守備でも打撃でもある程度、計算できる選手として考えているようだ。

オリリアは、2001年シーズンに37本塁打を放ち、オールスターにも選ばれた逸材。過去2年はケガなどに泣かされ、満足なシーズンを送ることはできなかったが、彼が1年を通してグラウンドに立てるならば、期待以上の成績を残せるはずだ。また、本来は中距離打者なので、広いセイフコ・フィールドも彼にとっては有利に働くだろう。さらにチームは、オリリアにリーダーシップ的な役割も期待している。王様バリー・ボンズがいたジャイアンツには、そのボンズと対立するグループもあり、必ずしも一枚岩ではなかった。しかし、一昨年はワールド・シリーズに進出、昨年はディビジョンを制したチームの陰でオリリアがキャプテンとして果たした役割とその手腕は広く知られており、マリナーズもそこに目を付けたと言える。「まだまだ、すぐにそういうわけには」
と、本人は入団記者会見で語ったが、遅かれ早かれ、彼がブレット・ブーン、イチローと共に息のあったリーダーシップを発揮できれば、マリナーズのクラブハウスは、今まで以上に固い結束を見ることになろう。左翼に入るラウル・イバニエスに関しては先月も触れたが、やや不安が残る。マリナーズを離れてからの3年間、確かにカンザスシティ・ロイヤルズで堅実な成績を残したが、おそらくその過去3年がキャリアのピーク。彼がマリナーズの中軸を打つ選手として活躍するとは、到底考え難い。守備は中の下。一応打順は、クリーンアップを期待されているようだが、シリロの二の舞を連想してしまう。

投手陣に関しては、さほど変化は見られない。フレディ・ガルシアは一時はトレードの噂があったが、マリナーズと1年契約を結んでいる。結果、たった5人で先発ローテーションを回した昨季のメンバーが、そっくり今年も帰ってくることになった。飛び抜けた投手はいないが、どの選手も2ケタ、いや、15勝は挙げられるポテンシャルを持つ。昨年来守り続けている5人ローテーションがどこまで続くのかも楽しみだ。

ブルペンは、アーサー・ローズが抜けて宿敵アスレチックスのクローザーとなったが、冒頭で触れた通り、ガーダドの獲得、フリオ・マテオやラファエル・ソリアーノに上積みが期待できることから、全体としてはグレードアップしているかもしれない。長谷川の残留も決まっており、佐々木の退団は寂しいが、昨年同様メジャー屈指のブルペンと呼ぶことができよう。

将来への布石が打てぬまま

ラインアップ

今オフの補強で不安な点は、将来に向けての布石が打てなかったこと。おそらく来シーズン終了後、エドガー・マルチネス、ジョン・オルルドは引退する。ダン・ウィルソンも衰えが見られるだけに、マリナーズが新契約をオファーするかは怪しい。となると、マリナーズをここまで支えてきた主力がポッカリ抜ける可能性があるにもかかわらず、今のチーム構成では投手陣以外、将来図が見えてこない。サラリー枠をセーブして、来年のFAマーケットで、バートロ・コロン、ブラディミール・ゲレーロといった大物を獲得した今年のエンゼルスのように使うかどうかはわからないが、例えばボルチモア・オリオールズと契約したミゲール・テハダを無理してでも獲得していれば、イチローと2人、チームを背負う未来図が描けたのに。今ではそれも叶わない。そうした将来を考えた時の不安をファンは感じているに違いない。

 

マリナーズタイトル

  
 雨のシアトルから抜け出して、青空の広がるアリゾナで野球観戦はどうだろう? 今月は間もなく始まる、オープン戦の観戦ガイド。1カ月も続くのだから、 今からスケジュールを立てても遅くないんじゃない?
(取材・文/丹羽政善)
 
  
 

今年もベースボール・シーズンの幕開けが、すぐそこまでやってきた。シアトル・マリナーズは2月20日、バッテリー陣がアリゾナ州ピオリアに集合し、25日には野手組が合流。そしていよいよ今月4日にはアリゾナでキャンプを張るチームによるオープン戦カクタス・リーグが開幕する。アリゾナでのキャンプ&オープン戦観戦をオススメする理由はいくつかあるが、あなたの“メジャーリーグ・ファン度”をベースに、参考プランを考えてみた。

1. ダイハード・メジャーリーグ・ファン

あなたがもし、自称“ダイハード・メジャーリーグ・ファン”なら、やはりフロリダよりもアリゾナのキャンプがオススメ。ほとんどのキャンプ地が車で1時間以内で移動できる範囲にあり、遠くてもツーソンの2~3時間ドライブ。時間が掛かると言っても、ツーソンで過ごすのも悪くなく、1泊2泊の小旅行と思えばいい(道のりは平坦で、ドライブは飽きるが)。
ピオリアには、マリナーズのほか、大塚晶則投手が所属するサンディエゴ・パドレスがキャンプを張る。ピオリアをベースにするならわずか7マイル離れたサプライズという所でキャンプを張っているカンザスシティ・ロイヤルズやテキサス・レンジャーズも含めて、午前中だけで4チームを見学することが可能。
また、渋滞にはまらなければ、ミルウォーキー・ブリューワーズやオークランド・アスレチックスがキャンプを張るフェニックスへも30~40分のドライブで着き(いや、うまくいけばそれ以下かも)、1日で6チームをはしごできないこともない。
スコッツデール、テンピ、メサでは、それぞれサンフランシスコ・ジャイアンツ、アナハイム・エンジェルス、シカゴ・カブスがキャンプを張り、バリー・ボンズやサミー・ソーサのバッティング練習を見ることもできる。ピオリアからは車で1時間かかるが、この3地点間の移動はラクラク。1日のパッケージとして行動できる。
どうだろう? 2泊3日さえあれば、ツーソンを飛ばしたとしても、約9チームを見学可能。週末を利用して、フェニックスにひとっ飛びすれば、数え切れないほどのサインが手に入るかもしれない。

2. いや、そこまでじゃないけど……というファン

そんなに忙しいのは嫌!という人は、オープン戦観戦に絞ったらどうだろう? 試合が行われるのは午後からなので、午前中はゴルフやアウトレット・モールでのショッピングに費やしてもいい。同じように週末に訪れるなら、2試合の観戦が可能だが、対戦カードをばらせば4チームも見ることができる。
話が前後してしまうが、オープン戦が始まると、選手のスケジュールは「午前中:練習、午後:試合」となる。サインをかき集めるなら午前中の練習の合間が確率が高い。試合前もサインをもらえるチャンスはあるが、保証はない。
さて、対戦カードの選び方だが、やはりマリナーズが見たいなら、混むピオリアは避け、アウェイで見ることをオススメする。“まったく”といっていいほど混んでいないし、チケットも当日簡単に買える。さらなる利点は、混んでいないのでのんびりと試合を観戦できること。「トイレに立つたびに、周りの人に気を使う」なんてこともなく、手足を存分に伸ばして試合観戦ができる。あの開放感の中でメジャーの試合を見る贅沢は、スプリング・トレーニングならでは。もちろん、カンザスやオークランドに行けば、レギュラー・シーズン中でもそんな雰囲気だが……。

3. 1試合で十分。ほかに何かないの……というファン

フェニックスをベースにするなら、1日は試合。もう1日は、例えばセドナへの日帰りドライブなどがいい。しばらくセドナには行っていないので、正確な時間は忘れてしまったが、2時間程度の距離のはずである。赤土の岩肌に囲まれた景観は圧巻。行けば思わず、泊まりたくなってしまうかもしれない。手頃な価格のホテルがたくさんあるので、セドナで1泊してもいい。夕焼けも素晴らしいが、日の出のセドナも、岩肌が輝いて美しい。
フェニックスを飛ばし、直接ツーソンに行く手もある。マリナーズも3月22日~24日までツーソンに遠征予定なので、そこにスケジュールを合わせてもいい。アリゾナ大学周辺には多くの古着屋があり、賑やかなレストランも軒を並べる。1週間もいたら飽きてしまうが、2~3日の滞在なら、野球を観て余った時間に観光すれば、ちょうどいい。ちなみに3月24日は、高津臣吾投手がいるホワイト・ソックスとの対戦が組まれている。

4. 何が何でもダブル松井が見たい!というファン

ニューヨーク・ヤンキースはフロリダ州タンパで、ニューヨーク・メッツも同州のポートセント・ルーシーでキャンプを張っている。
フロリダの開放的な雰囲気は悪くないが、各キャンプ地が離れているのが難点。よって、いろんなチームを見たいなら、1週間でも少ないと感じるほどだ。ヤンキースとメッツに絞るなら、1週間でも大丈夫だが、ヤンキースが絡むオープン戦は売り切れになることもあるので、出発前に手配をしておいたほうが無難。なお、両松井が遠征に同行しないこともあるので、2人の情報を事前にチェックすることも必要だ。同行しない場合は、それぞれのキャンプ地で軽い調整を行うことが多い。

ヤンキース参照ウェブサイト:www.yankees.comまたはwww.legendsfieldtampa.com
メッツ参照ウェブサイト:www.newyorkmets.com.stluciemets.com

シアトル・マリナーズ オープン戦スケジュール(3~4月)

 

2004年マリナーズの行方

  
 開幕まであとわずか。今年のシアトル・マリナーズはどんな戦力でプレーオフを目指すのか? ピオリアでのキャンプの様子を織り交ぜながら、チームの行方を探ってみた。
「イチロー・3番」構想も現実的で、2004年のマリナーズも見どころたくさん!(取材・文/丹羽政善)
 
  
 

3番・イチローの可能性
マリナーズが、ピオリアで順調なキャンプを送っている。今年は開幕が4月6日と例年より1週間ほど遅いため、4月1日の試合も含めてあと3試合オープン戦を残しているが、大きなけが人もなく、開幕にはベスト・メンバーで臨むことができそうだ。

佐々木主浩投手
▲今年もチームの牽引役となりそうなイチロー選手©Kiyozumi Goto

今年から、ひょっとしたら「3番」を任されるかもしれないイチロー。リードオフへのこだわりも捨てきれないないだろうが、「チームが必要なら、喜んで監督に従う」と話し、その現実的なシナリオに前向きな発言。2年前の「3番・イチロー」は本人曰く「応急処置」だったが、ボブ・メルヴィン監督も過去2年間プレーオフを逃した経験を踏まえ、はっきりと「チームに変化が必要なら、イチローに3番を打ってもらうこともある」と話している。開幕からすぐ、というわけではないだろうが、打線のつながりが悪くなったり、クリーンナップにけが人が出た場合はその可能性が非常に強いので、ファンとしても「イチロー・3番」の実現のタイミングを図りながら、マリナーズの行方を追うと試合の見どころが増える。
現時点では表1が開幕の予想オーダーだが、イチローが3番に座った場合、表2のようになると予想される。
イチローが1番を打つ場合、2番がまだ流動的。ジョン・オルルド、ランディ・ウィンの可能性も残され、2番に据えた新加入のリッチ・オリリアが6、7番に下がることも考えられる。一方、イチローが3番を打つ場合は、ほぼ表2のオーダーか。というのも、イチローが3番を打たなければいけないとしたら、エドガー・マルチネスやオルルドの調子とも連動するだろうから。彼らの打順を下げてイチロー、ブレット・ブーン、ラウル・イバニエスでクリーンナップを組むことなるだろう。このオーダーで面白いのは、1番~9番まで、見事に左右の打者が交互に続くこと。もちろんウィン、スコット・スピージオ、ベン・デイビスがスイッチ・ヒッターということもあるが、昨年に比べて変化もあり、興味深いオーダーと言える。
「イチロー・3番」に頼ることがベストなのか、イチローがリードオフを打ち続けることがチームに理想的なのか、現時点では判断が難しいが、個人的にはシンプルに「チーム最強打者が3番を打つべき」と考えるので「イチロー・3番」を支持したい。もちろん、シーズン中盤までに3番を打てるパワー・ヒッターを獲得し、イチローの1番定着が理想とは思うが。
いずれにしても打線に関しては、年齢による衰えが懸念されるエドガー、オルルドの調子が大きなポイントとなりそうだ。

ほぼ安泰の投手陣
投手陣に関しては、ほとんど懸念がないと言って良い。キャンプ序盤、ラファエル・ソリアーノが左わき腹を痛め、スロー調整を強いられたが、3月中旬に入って遠投を開始するなど、順調な回復ぶり。開幕が通常より遅いことから、当初は危ぶまれた開幕ベンチ入りも問題はなさそうだ。
古傷の左ひざを痛め、練習のマウンドからしばらく遠ざかっていた新クローザーのエディー・ガーダドも、もう心配ない様子。先日も、「この痛みは前からのもの。付き合い方は知っている」と明るい顔で話していた。朝6時半には、キャンプ施設に到着し、トレーニングを開始。「メジャー入り以来、11年続けてきたことだから」と苦にする様子もなく、逆にガーダドに刺激された若手がやはり朝早くトレーニングを開始するなど、いい影響も与えているようだ。
キャンプを取材していて、失礼ながら驚いたのは、フレディ・ガルシアが実に精力的にトレーニングをしていたこと。本人は「今オフはフリー・エージェントだから、頑張らないと」と話すが、朝から体を動かし、8時半、9時の時点で、もうTシャツは汗でびっしょり。午前中の全体練習が終わっても、ひとりトレーニング・ルームで体を動かすなど、別人のようだった。痛めていた両耳の鼓膜の回復具合も順調で、その影響もあるのだろうが、ブライアン・プライス投手コーチからも「昨年とは集中力が違う」と言われるほど、今季の復活に掛ける意気込みは凄まじいものがある。3月18日現在だが、これまでオープン戦は2試合に先発し、1勝0敗。5イニングで許したヒットは1本と、結果も出している。
ほかの先発、ジェイミー・モイヤー、ギル・メッシュ、ライアン・フランクリンも、まずは順調な仕上がりか。開幕戦の先発投手に指名されたモイヤーは、41歳でシーズンを迎えることになるが、体調も良さそうだ。心配なのは2番手の先発を任されるジョエル・ピネイロか。3月18日現在、2試合に登板し、共にピリッとしない。2試合で4.2イニング。被安打は12本で、失点、自責点共に「12」。防御率は23.14で、いくらスプリング・トレーニングとはいえ心配だ。本人は「制球が今は納得がいかないが、徐々にリズムは良くなってきている」と話し、メルヴィン監督もさほど心配していない様子だが、開幕までの登板できっちりとしたアピールを望みたい。
長谷川滋利投手は、「いつでも開幕OK」というくらい、キャンプを通じて順調な仕上がりを見せていた。3月18日までに4試合に登板。トータル5回を投げ、許したヒットは4本ながら、無失点に抑えている。昨年は佐々木主浩投手の故障を受け、クローザーを担ったが、今年はガーダドの加入でセットアッパーに戻る。ただ、監督は、「さまざまなシチュエーションに対応できる長谷川をセットアッパーで使えることは心強い」と話し、その役割は抑えにも増して重要との認識を示している。ブルペンでもリーダーとしての役割を担う今年、長谷川のさらなる活躍は間違いなく期待できそうだ。

2004投手オーダー予想

 

マリナーズタイトル

  
 開幕直後の連敗で心配されたマリナーズだが、4月20日現在4連勝を飾り、いい流れ。
このまま5月までに5割復帰。その後はいつも通り貯金と、そんなシナリオを期待したいが、前半のもたつきで
懸念も見える。今月はプラス要素に加え、今後のペナントレースを戦っていく上で不安な点にも目を向けてみた。(取材・文/丹羽政善)
 
  
 

スコット・スピージオの復帰がもたらした効果
マリナーズ4連勝の立役者は、なんと言っても腰の痛みから復活したばかりのスコット・スピージオ。もちろん、このインパクトがずっと続くかどうかはわからないが、復帰初日(4月18日)から勝利に貢献し、2戦目には初ホームラン。3戦目はチャンスで何度か凡退したが、最後の最後、ボークでマリナーズが得点を挙げた時、バッター・ボックスにいたのはスピージオだった。これも、彼の持つ強運かも知れない。スピージオの復帰は、待望されていたものだった。チームメートから好かれ、クラブハウスではムード・メーカー。彼の復帰は、連敗にあがくチームメートに活力をもたらしかのようだった。エンゼルス時代からスピージオをよく知る長谷川滋利投手も、昨年12月にマリナーズが彼を獲得した時から「いい補強だ」と話していたと言い、その裏には単なるグラウンド上の戦力にとどまらず、そうしたクラブハウスでの役割にも、期待するものがあったのだろう。腰を痛めた時は、長期的な離脱も懸念されたが、開幕わずか2週間で復帰できたことも強運。マリナーズはこうした運を、今は生かしていきたい。

イチロー
▲ファンのサインに応じるイチロー選手。“ニュー・イチロー”が誕生すれば、さらに多くのファンの声援を浴びることだろう

新しいスタイルに挑戦するイチロー
日米通算2,000本安打まであと41本と迫ったイチローは、今年も順調な出だし。開幕3連戦こそ、当たりが止まっていたが、オークランドに遠征した頃からリズムを取り戻し、打率も3割に安定。「今年こそ首位打者奪回」の執念が見える。
イチロー個人としては、新しいバッティング・スタイルに取り組んでいる。今まではファースト・ストライクを積極的に打ちにいったが、今はポール・モリター新打撃コーチの指導もあって、「待つ」ことも意識にある。もちろん、積極的なバッティングがあくまでも優先的なスタイルだが、無理をする必要のない投手にはいい球が来るまで、じっくりと見ていこうとしている。それは、3年の経験がもたらす余裕。相手投手の攻めにも慣れ、例え2ストライクとなっても、対応できるピッチャーが増えた。ピッチャーのイチロー攻めのセオリーとして、「早いカウントではくさい球」というのがあるが、イチローはこうした球をもう振らなくなり、相手がカウントを悪くしたところで投げてくる甘い球を叩こうとしているのである。
このスタイルが確立するには、まだ時間が掛かるだろうが、もう少しすれば、手のつけられないニュー・イチローが誕生するかもしれない。

セット・アッパー、長谷川に不安なし。
守護神は安定欠く滑り出し。
昨年に比べれば、開幕3試合目の内容といい、まだまだ不安定な投球が続く長谷川だが、スプリング・トレーニングを順調に送れた余裕からか、それ程深刻には捉えておらず、ボブ・メルヴィン監督からの信頼も変わらない。むしろ監督は、長谷川をセット・アッパーとして使えることでブルペンの融通性が増したと考えており、長谷川はこれからもピンチの場面での登板が増えるだろう。彼自身もその起用法に納得して、昨年前半のように、終盤、ランナーが出たらすぐ長谷川に繋ぐという展開をプレッシャーを感じながら楽しんでいるのかもしれない。 それよりも佐々木主浩投手の抜けた穴を托された、エディー・ガーダド投手の出遅れが気になる。スプリング・トレーニングでは、ほとんど実戦登板ができず、開幕してからもなかなかスムーズなピッチングが見られない。4月19日の試合でも9回、ジェメイン・ダイに同点ホームランを浴びるなど、安定感を欠いている。

メッシュ、ピネイロら、
開幕から苦しいピッチング

結局、マリナーズが現時点で抱えている懸念は、ガーダドも含めた投手陣。ラファエル・ソリアーノは、開幕から球が走らずファームで再調整を命じられ、先発陣も早い回に得点を許して試合を苦しくしている。ライアン・フランクリンとジェイミー・モイヤーは復調振りを見せているが、18日に登板したジョエル・ピネイロは今季初勝利を挙げたものの、内容は良くない。ギル・メッシュも今季初先発となったアスレチックス戦で、中盤まではいいピッチングを見せたが、脆く崩れている。その次の登板でも、5回を投げて7安打、5失点と冴えなかった。先発5人の中で一番安定しているのが、フレディー・ガルシア。なかなか白星には結び付かないが、本来の調子を取り戻している。今季フリーエージェントになるだけに、さすがに気合が違う。

5月攻勢のカギは、4人の投手
今のところ打線は2番を固定できないでいるものの、スピージオが復活、ラウル・イバニネスにも当たりが戻って大きな穴はない。となれば5月攻勢のカギは投手陣。ブルペンはソリアーノが戻り、ガーダドが復調すれば、懸念はない。先発もピネイロ、メッシュに調子が戻れば安定するだろうが、課題はそのすべてがいつ揃うのか。名前を挙げた4人が本来の調子を取り戻した時、マリナーズはオフ・シーズンに描いていたとおりのチームになるだろう。

 

マリナーズタイトル

  
 相変わらず勝てないマリナーズ。どうしたの?を通り越し、ファンの間ではマリナーズ関連の会話を避けるような諦めムードさえ漂う。いったい何がおかしいのか? まあ、言ってみれば全体的なもので、一部に特定するのは難しいのだが、どうやら数字は嘘をつかないようだ。(取材・文/丹羽政善) 
  
 

数字で見る不調さ── 打撃編
悪いには、悪いなりの理由がある。それは勝敗を含め、如実に数字に表れる。シーズン116勝を挙げた2001年と今年、その数字を比較すれば、違いは一目瞭然である。比較に何の意味もないことはわかっているが、その驚きの違いを列挙してみた。

表1

※2001年はシーズン終了時、2004年は5月19日、38試合終了時のデータ。カッコ内は共にメジャー全30球団での順位

見事な差。2001年には主要部門のほとんどがトップなのに対し、今年は主要部門のほとんどで下から数えた方が早い。例えば、得点。5月19日現在156点だが、これを全162試合に換算すると665点で、2001年と比べてざっと262点も下がることになる。これを1試合当たりに直すと1.62点のマイナス。一見、たいしたことなさそうだが、今年、1点差負けが何試合あるかご存知だろうか? この時点でなんと6試合もあるのだ。単純に1.6点分を加算すれば、6試合すべてで勝っている計算になるから、この時点での勝敗は19勝19敗の五分となり、まだまだ踏ん張っているという状況だろう。
打点もひどい。144打点を162試合換算したら614点。3年前との差はマイナス267点で、これも1試合当たり1.6点減っているという計算になる。今年は本当に、タイムリーが出ない、後1本が出ない、という印象があるが、それは印象ではなく事実なのである。
本塁打はこんなものとして、やはり打率、出塁率の低下は、直接的な敗因へと結び付いている。レギュラー・クラスで3割を超えているのは、イチローとダン・ウィルソンのみ。4月の段階では、イチローさえ3割を切り、ウィルソンだけが3割をキープしていたのだから、中軸に誰ひとりとして3割打者がいない状況では、さすがに勝てないだろう。ブレット・ブーンも、エドガー・マルチネスも、ラウル・イバニエスもいまだに2割5分前後をウロウロ。不振のジョン・オルルドに至っては、休養ではなく、スタメンを外されるケースさえ増えてきた。5月に入って4割のペースで打率を上げ、出塁率も上がってきたイチローだが、クリーンアップが揃ってこんな状況では、得点につながるはずはない。
チーム盗塁数も大幅ダウン。今のペースでは、シーズンを終えて100個にも遠く及ばず、80個台すら危ない状況だ。今や、盗塁できるのはイチローとウィンぐらい。マイク・キャメロンもマーク・マクレモアもいないのだ。
唯一、状況が改善されたのは三振数。これは、キャメロンがいなくなったことと無関係ではなかろうが、三振数が減ったからといって勝利に結び付いていないので、三振の多いキャメロンの放出が逆に得点減につながっているのは、皮肉である。

数字で見る不調さ── 投手編

表2

※2001年はシーズン終了時、2004年は5月19日、38試合終了時のデータ。カッコ内は共にメジャー全30球団での順位

昨年に比べれば、開幕3試合目の内容といい、まだまだ不安定な投手の主要部門も、軒並みトップからボトムへ。これまでのところ、防御率は1点以上のプラスで、もしこのペースでシーズンを終えるなら、自責点は767点(プラス191点)、失点は814点(プラス187点)にもなる計算だ。
打撃に比べ、「計算できる、安定している」と言われた投手陣だが、蓋を開けてみれば、先発陣で踏ん張りを見せているのはフレディ・ガルシアだけ。ジェイミー・モイヤー、ライアン・フランクリンは良かったり、悪かったり。ジョエル・ピネイロは良くなっているものの勝ちにはつながらず、ギル・メッシュに至っては自信喪失気味で、この号が出る頃にはローテーションを外されているかもしれない。
ガルシアは、今シーズンのオフ、フリーエージェントになる。他チームへの移籍が濃厚とも言われ、もしそうならば、マリナーズは7月31日のトレード期限までに彼をトレードに出さなければいけないのだが、そうなればマリナーズは先発陣の柱を失いかねない……。情勢はますます厳しくなる一方だ。幸い、マイナーには良い投手が控えており、逆に彼らにはチャンスだが。
中継ぎもピリッとしない。象徴的なのはラファエル・ソリアーノ。三振の取れるセットアッパーの切り札的存在だったが、去年の球速が戻らず、平均で5マイル前後遅い。結局、今はヒジを痛めて故障者入りしているが、彼が万全であれば、何試合かは落とすことなく勝てた試合もあったと思う。ボブ・メルヴィン監督としても、相当計算していたはずだから、彼の離脱でブルペンのやりくりは厳しくなった。長谷川滋利投手もこれまでのところ、残念ながら期待を裏切ってしまっているひとり。4点を追い付かれた、5月11日のミネソタでの試合がもっとも記憶に残っているが、カウントを悪くして打たれるケース、もしくは四球から崩れるパターンが目立ち、いずれも彼らしくない。
唯一の明るい材料は、マイナーから上がってきたJJ・パッツ。5月19日現在、9試合に登板して計13イニングを4安打、無失点。おそらく今の中継ぎ陣では、一番安定している投手だろう。もっとも投手陣に関しては、打撃陣に比べれば復調の期待が持てる。モイヤーにしても、ピネイロにしても、長谷川にしても、このまま終わるはずがない。ソリアーノも本調子で復帰してくるなら、去年同様の態勢は整えられよう。となると、やはりカギは打撃。今季ではなく、来季意向を見据えた場合……。

来季に向けて? トレードの噂
実は、5月17日付の『タコマ・ニュース・トリビューン』紙に、複数のマリナーズ関係者の証言としてこんな記事が紹介されていた。・ リッチ・オリリア選手をトレード。相手先が見つからない場合は放出。・ ギル・メッシュ選手をトレード。・ クィントン・マクラッケン選手をトレード。相手先が見つからない場合は放出。・ ジョン・オルルド選手をトレード、放出、もしくはベンチに下げる。これを書いたのは、ベテランで信頼できるラリー・ラルゥー記者なので、相当現実味を帯びたもの。まるでオフ・シーズンのような動きだが、マリナーズはもう、来季以降に向けて動き出しているのかもしれない。

 

2004年オールスター・ゲーム

  
 7月13日実施予定の今年のオールスター・ゲームまで、あと2週間を切った。
だが、今回はチームの不調もあって、マリナーズにとっては厳しいオールスターになりそう。
現時点ではイチローが選ばれるかどうかだが、4年連続ファン投票トップの座は守れそうにもない。
今月はマリナーズ+ア・リーグの選手を中心に、オールスター出場選手を予想してみた。(取材・文/丹羽政善)
※本文中の順位は6月16日の第3回中間発表。また、最終予想もこの発表をベースに行った。投手は選手と監督の投票などで選ばれるため、最終予想から外した。
 
  
 

何人のマリナーが選ばれるか?
今年のオールスター・ゲームは、テキサス州のヒューストンで行われる。ナショナル・リーグは、地元アストロズのロジャー・クレメンスの先発が有力で、引退への花道としては最高の形となりそうだ。
さて、そのオールスターに、マリナーズの選手は何人選ばれるのか? 過去数年は複数の選手が選ばれて賑やかだったが、今年はファン投票の中間発表を見てもやや厳しそう。まだどうなるかわからないが、ポジションごとに彼らのチャンスを追った。
ポジション別予想

●投手候補:ジェイミー・モイヤー、フレディ・ガルシア、エディー・ガーダド
選ばれる可能性があるとしたらこの3人に絞られるが、いずれもやや厳しい。モイヤーは、6月21日の時点で6勝を挙げているが、ア・リーグで6勝以上を挙げている投手は20人もおり、7勝以上の投手は15人を数える(6月21日現在)。おそらく先発枠は7~8人だから、よほど辞退者が続出しない限り無理だろう。ガルシアにしても、防御率ではトップ10に入るが、わずか4勝では圏外と言うしかない。わずかな可能性を残すとしたら、ガーダド。もし、マリナーズが連戦連勝で勝ち星を伸ばしたなら、セーブも稼げる。昨年は20セーブでオールスターに選ばれたが、セレクションまでにせめて18セーブぐらいまで数字が伸びていれば、防御率は1点台だけに可能性はある。そのためには、当然チーム・サポートが必要だ。

●捕手候補:なし
ダン・ウィルソンもいい成績を残しているが、ここは層が厚い。現在のところ、イバン・ロドリゲス(デトロイト・タイガース)がファン投票のトップに立ち、ホルヘ・ポサダ(ニューヨーク・ヤンキース)が第2位。その差は僅差でもないが、逆転できないほどでもない。しかし、最終的にはロドリゲスが抜け出すのではないか。ナ・リーグは、捕手としての最多本塁打記録を更新したマイク・ピアザ(ニューヨーク・メッツ)がリード。2位との差も36万票近いので、ピアザは当確か。
最終予想 ア・リーグ:イバン・ロドリゲス(タイガース)
ナ・リーグ:マイク・ピアザ(メッツ)

●ファースト候補:なし
第3回の中間発表を見ても、ジョン・オルルドの名はトップ5から漏れていた。第3回でトップ3に入れないようでは、ファン投票での出場は難しく、また、現在の成績では選手投票、監督推薦の道も極めて限られる。ファーストのポジションは、現在ジェイソン・ジアンビー(ヤンキース)がファン投票のトップだが、2位との差は倍以上開いており、これはほぼ決定だろう。ちなみにナ・リーグでは、アルベルト・プーホルス(セントルイス・カージナルス)がリードしているが、2位には地元のジェフ・バッグウェル(アストロズ)が付けており、逆転の可能性もある。
最終予想 ア・リーグ:ジェイソン・ジアンビー(ヤンキース)
ナ・リーグ:ジェフ・バッグウェル(アストロズ)

●セカンド候補:ブレット・ブーン
昨年もオールスターに出場したブーンだが、目下のところ、ファン投票では第3位。しかし、トップのアルフォンゾ・ソリアーノ(テキサス・レンジャーズ)がブーンの3倍近い得票を稼いでおり、この差を覆すのは難しい。選手投票、監督推薦の道も今の成績では難しく、ブーンの出場は極めて難しい状況だ。ナ・リーグは、地元のジェフ・ケント(アストロズ)が決定的。
最終予想 ア・リーグ:アルフォンゾ・ソリアーノ(レンジャーズ)
ナ・リーグ:ジェフ・ケント(アストロズ)

●サード候補:なし
腰のケガで出遅れたスコット・スピージオ。残念ながら、第3回の中間発表でもトップ5に入れなかった。しかし、ここは元々アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)で決まり。太刀打ちできるポジションではない。ナ・リーグは、スコット・ローレン(カージナルス)が有力で、2位以下の選手を大きく引き離している。
最終予想 ア・リーグ:アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
ナ・リーグ:スコット・ローレン(カージナルス)

●ショートストップ候補:なし
ファースト、サード同様、リッチ・オリリアの出場も厳しい。元々、ア・リーグのショートは激戦区。ファン投票では、今年もデレック・ジーター(ヤンキース)、ノーマー・ガルシアパーラ(ボストン・レッドソックス)らがしのぎを削っている。だが、ガルシアパーラはつい最近ケガから復帰したばかり。最終的には、ジーターで決まりだろう。ナ・リーグは、地元アストロズのアダム・エベレットが逃げ切りそうだ。
最終予想 ア・リーグ:デレック・ジーター(ヤンキース)
ナ・リーグ:アダム・エベレット(アストロズ)

●外野手候補:イチロー
過去3年間は、トップ得票でオールスターに出場したイチローだが、今のところ、ア・リーグ外野手部門の6位に甘んじている。トップのブラディミール・ゲレロ(アナハイム・エンゼルス)と、2位のマニー・ラミレス(レッドソックス)は、すでに100万票以上を獲得して抜け出た感があるが、3位のゲーリー・シェフィールド(ヤンキース)の得票数は69万票余りで、イチローとの差は10万票ほど。このあと、日本からの票が加わることも考えれば、十分逆転は可能だ。しかし、5位には松井秀喜(ヤンキース)も付けており、同じく日本からの票が期待できることを考えれば、3位への滑り込みを逃す可能性がある。それでも、選手投票、監督推薦などでの出場は濃厚だと思うが……。
ちなみにナ・リーグは、バリー・ボンズ(サンフランシスコ・ジャイアンツ)、ケン・グリフィーJr.(シンシナティー・レッズ)、サミー・ソーサ(シカゴ・カブス)ら大御所がトップ3に君臨し、彼らの出場が濃厚。
最終予想 ア・リーグ:ブラディミール・ゲレロ(エンゼルス)、マニー・ラミレス(レッドソックス)、イチロー(マリナーズ)
ナ・リーグ:バリー・ボンズ(ジャイアンツ)、ケン・グリフィーJr.(レッズ)、サミー・ソーサ(カブス)

●6月25日現在の最新結果
(投票締め切りはアメリカ東部時間6月30日の11:59 p.m.)

ア・リーグ   
ポジション選手名チーム名得票数
捕手ロドリゲス・I デトロイト・タイガース1,192,347
ファースト ジアンビー・J ニューヨーク・ヤンキース943,094
セカンドソリアーノ・A テキサス・レンジャース1,756,146
サードロドリゲス・Aニューヨーク・ヤンキース1,460,978
ショートジーター・ Dニューヨーク・ヤンキース1,019,599
    
ナ・リーグ   
ポジション選手名チーム名得票数
捕手ピアザ・Mニューヨーク・メッツ1,188,858
ファーストプーホルス・A セントルイス・カージナルス 1,149,068
セカンドケント・Jヒューストン・アストロズ1,340,101
サードローレン・Sセントルイス・カージナルス 1,310,385
ショートエベレット・Aヒューストン・アストロズ725,629

 

マリナーズタイトル

  
 ここまで来ると、さすがに後半戦の見所を探すのが難しい。地区の優勝争いからは4月の時点で脱落し、
ワイルド・カード争いなどは別世界の出来事だ。だが、活躍し始めたルーキー達のひたむきさは、新鮮そのもの。
あと2カ月のシーズンは彼らに注目してみよう!(取材・文/丹羽政善)
※本文中のデータは、7月19日現在のものです。
 
  
 
▲豪快なスイングでファンを魅了する
バッキー・ジェイコブソン

マリナーズの新しい若武者達

まだシーズンは2カ月もあるのに、マリナーズはもう消化ゲーム・モード。ベテランを整理して、マイナーから若手を昇格させ、来季のための経験を積ませている。現時点では最善の策なのかもしれないが、知らない選手ばかりがスタメンに並んで、まるでタコマ・レーニアズ(マリナーズ傘下の3Aチーム)の試合を見ているようだ。

だが、プラスに考えれば、それはそれで楽しいもの。スタメンに起用され、いきなりバッキー・ジェイコブソンが放った1発は豪快だったし、ジャスティン・レオーネの2試合連続弾も鮮やかだった。ここまできたら、ファンも開き直りが大事。
後半戦は、将来のマリナーズを背負う選手らに声援を送ろうではないか。そんなわけで今月は、メジャー・デビューを果たした若手選手達に焦点を当てる。

長打力が魅力のジェイコブソンとレオーネ

▲ベテラン、ジョン・オルルドを放出してまでも活躍の場を与えられたジャスティン・レオーネ。ファンや首脳陣の大きな期待を背負う

7月17日、スタメン2試合目でジェイコブソンが放った当たりは、目の覚めるような1発だった。マリナーズにはここ数年彼のようなパワー・ヒッターがおらず、また、毎回のようにホームランを期待できる打者もいなかった。それだけに、彼の打席は16日の初スタメン以来注目され、空振りでさえ、その豪快さでファンを沸かせている。

28歳のジェイコブソンは、1997年にプロ入りするも、今年7月まではマイナー暮らし。昨年はカージナルス傘下の2Aのチームで31本塁打を記録したが、上から声が掛かることはなかった。今年からマリナーズ傘下のレーニアズに移籍し、前半だけで26本塁打を放ったものの、マリナーズのフロントはジェイコブソンの昇格に消極的。今回のメジャー・デビューは彼の熱心なファンや、ローカル・メディアの強烈なプレッシャーから実現したものであった。

彼の魅力は、なんといってもその長打力。その魅力に取り付かれたファンらは、独自の応援ウェブサイト(buckybackers.com)を6年前に立ち上げ、ジェイコブソンのマグカップなども販売している。
ボブ・メルヴィン監督は「ホームランを打とうと力むな」とジェイコブソンにアドバイスをしているらしいが、ジェイコブソンはいつでもフル・スイング。彼の打席は、これから常に楽しみだ。

一方、6月に昇格してきたのがレオーネ。しばらくは不規則な起用が続いたが、マリナーズは彼のポジションを空けるためにジョン・オルルドを放出し、3塁のスコット・スピージオを1塁にコンバートしている。それだけの期待に応えたレオーネは、オールスター明けの試合で逆転2ランを放ち、チームの勝利に貢献。その翌日の試合でも、レフトに豪快な3ランを放っている。体は細いがジェイコブソン同様、レオーネも3Aでは前半だけで21本塁打を記録し、長打力に定評がある。本来は中距離打者なのだろうが、オルルドをほうふつとさせる力みのないスイングは、今後の活躍を予感させる。

そのほか、まだ3Aにいるが、フレディ・ガルシアとのトレードでやって来たジェレミー・リードも、9月にはセイフコ・フィールドで見られるかもしれない。シカゴ・ホワイトソックスのトップ・ルーキーと言われた選手で、来年のメジャー・デビューも噂されていた選手。タコマでもその片鱗を見せ、7月17日現在、打率.304を打っている。俗に言う「セプテンバー・コールアップ」での昇格は確実。その時はメジャー定着のチャンスをも与えられるはずだ。

▲ブラックリー両投手は、将来の先発投手として期待されている
 
 ▲マイナーとメジャーを行き来しながら調整を重ねるナジオッテ
 

将来を期待したい若手投手達

投手に関しては、4月以来多くの若手がメジャーに昇格したが、その多くは、十分な実績を残せぬまま再びマイナーに戻って再調整を強いられている。

J.J.プッツは、とりあえずロング・リリーフの役目を与えられてメジャーに残っているが、マット・ソロントン、クリント・ナジオッテらは制球力に難があり、マイナーへ逆戻り。初先発でメジャー初勝利を挙げたトラビス・ブラックリーも、7月16日の先発では3者連続本塁打を浴びるなど、厳しい内容となっている。
ブラックリー、ナジオッテらは、数年後の先発ローテーションを期待されているだけに、これまでの投球内容は首脳陣にとっても、ファンにとっても期待外れ。ただ幸いなことに、チームは今、勝ち負けを目的として試合を行ってはいない。あくまでも目的は若手の育成とその見極め。彼らにはこれからもチャンスが与えられるだけに、今後のピッチングに期待をしたい。ブラックリーはまだ21歳で、ナジオッテも23歳。彼らの将来はこれからなのだ。

デビューはもう少し先だろうが、現在、2Aのサンアントニオにいるフェリックス・ヘルナンデスには今から注目。10代でデビューを飾ったドワイド・グッデンの再来と言われ、現在18歳だが、彼もまた10代でのメジャー・デビューを期待される逸材だ。ストレートはすでに最高97マイルを記録し、体の成長に伴って100マイル前後のスピードも予想されている。マリナーズは来年いっぱいマイナーで経験を積ませ、2006年のデビューを考えているようだが、それまで彼の才能を抑えておくことができるかどうか。来年も今年のような状況になれば、彼のメジャー・デビューは早まるかもしれない。

 

マリナーズタイトル

  
 イチローの記録はどうなっているのだろう? 順調に行けばもうメジャーのシーズン最多安打を更新している頃なのだが……。打っていないものを記事にはできないので、今季最後のマリナーズ・アップデートは、来季のマリナーズに焦点を絞る。
(取材・文/丹羽政善)
※本文中のデータは、9月14日現在のものです
 
  
 

最終戦はエドガーに注目

この原稿を書いているのは9月14日。前日の試合でノーヒットに終わったイチローのシーズン通算安打は231本で変わらず、ジョージ・シスラー(ブラウンズ:現ボルティモア・オリオールズ)が持つ257本のシーズン最多安打には、残り19試合で26本となっている。このところ、4試合でヒット2本。そのうち3試合が無安打なので、ややペース・ダウンといったところ。依然、シスラーの記録を上回るペースでヒットを重ねてはいるが、プレッシャーが掛かり始めるこれからが本当の戦いだろう。9月中にイチローが記録を更新しているとすれば、10月1日から始まるテキサス・レンジャースとのシリーズは、エドガー・マルチネスにファンの目は集中する。マリナーズ一筋18年。彼の引退と共に、マリナーズの歴史もひと区切りだ。

以下、来季の戦力について触れていくが、エドガーの抜けたマリナーズはガラっと顔触れが変わる可能性がある。遅すぎた世代交代が、今始まろうとしている。

大き過ぎるエドガーの穴

まずエドガーが抜けるDHだが、現状では後半戦から昇格し、9本塁打、28打点を挙げたバッキー・ジェイコブセンが有力だ。ひざを痛めて、9月中旬から故障者リストに入ってしまったが、キャンプまでには間に合うとのこと。チーム唯一の長距離砲との期待が高い彼だが、同時に、変化球に弱く、足もエドガー並み。研究されたら使い物ならないとの声もあり、マリナーズ首脳陣が彼に絶対の信頼を置いているわけではないだろう。

一塁も穴。9月までは、ジェイコブセン、スコット・スピージオで回したが、ジェイコブセンが戦列を離れた後は、スピージオの調子が不安定なため、ボブ・メルヴィン監督はラウル・イバニエスを試したりもしている。これは、まさに来季の構想を睨んだ使い方。イバニエスをファーストに入れて、ランディー・ウィンをレフトに。センターには、シカゴ・ホワイトソックスからフレディ・ガルシアとのトレードで獲得したジェレミー・リードに入って欲しいという希望が、マリナーズ首脳にはある。だがもちろん、リードの経験不足は明らかで、来年のキャンプを通してどれだけ彼が成長できるか──それが、来季の外野布陣のカギを握る。

セカンドはブレット・ブーンで決まりとして、三遊間が未定。チームは今、ホセ・ロペスをショートで使っているが、肩が強いとは言えず、守備範囲もそれほど広くない。どちらかと言えば彼はサード向きだろう。となると、誰がショートを守るのか? ウィリー・ブルームクィスト? ホルベルト・カブレラ? 手っ取り早いのはFA選手の獲得だが、今のマリナーズに来てくれる選手がいるかどうか。大物選手なら、より強いチームを選び、ワールド・シリーズを狙いたい。マリナーズのような再建中のチームには、当然、見向きもしないだろう。

捕手は、ミゲル・オリーボで決まり。しかし、捕球に難があり、バックアップとしてダン・ウィルソンにはチームに残ってもらいたいところ。ウィルソンはこのオフFA選手となるが、チームにとっては将来の参謀的な逸材。フロントは是が非でも、残留を働き掛けるに違いない。

ミラクル・マリナーズ、最後の世代

エドガーは、マリナーズの象徴的な選手だった。思い出すのは、やはり’95年にヤンキースとの間で行われたプレーオフでのサヨナラ・ヒットだが、考えればあの年の“ミラクル・チーム”の中で、マリナーズでいまだプレーしているのは、エドガーとダン・ウィルソンぐらいだ。エドガーが去り、ウィルソンも今季終了後にフリー・エージェント。マリナーズは、ミゲル・オリーボ捕手をすでにフレディ・ガルシア投手とのトレードで獲得しているので、ウィルソンとの再契約は微妙。仮にサインをしても、オリーボのバックアップとしてだろう。

あれから9年。「新しい時代」と言えばそれまでだが、今のマリナーズ人気はあの’95年を起源とするだけに、ファンも世代交代の必要性を感じているものの、今のマリナーズ・フロントほどドラスティックにはなれない。

メルヴィン監督更迭も?

厳しいのは投手陣も同じ。来季の先発で確定しているのは、ジョエル・ピネイロぐらい。ジェイミー・モイヤーも衰えが目立つし、ライアン・フランクリンも安定感に欠ける。ボビー・マドリッチがいい投球を続けているが、信頼できるかどうか。ギル・メッシュは精神面が問題。調子が良ければ、ボストン・レッドソックスを完封もできる素材なのだが。

それ以上に、問題なのがブルペン。誰がクローザーになるのか、誰がセットアッパーなのか。現時点では、その青写真さえ見えない。マリナーズはこのオフ、本当に厳しい改革を迫られる。その改革の第1歩は、新監督の選考になるかもしれない。

丹羽政善
スポーツ雑誌などで活躍するライター。特にメジャーリーグとNBAに詳しい。マリナーズ・アップデートの執筆担当は2000年3月より。

 

■2004年10月号

熱いヤツ求ム!~マリナーズ弱体化の理由~

取材・文、阿部太郎

ここまで惨憺たる成績になるとはいったいだれが予想しただろう。63勝99敗。去年まではこの数字がひっくり返ってもおかしくなかった常勝軍団が、今シーズン途方もなく負け続けた。
開幕から7連敗。いつかは浮上の動機をつかむだろうと思っていたが、結局一度も日の目をみぬままシーズンを終えた。
「勝つことだけが目的ではない」イチローはシーズン終了間際に記者団の前でこう語ったが、その言葉の裏にはやはり「勝つことが最大の目的ではあるが……」という言葉が潜んでいることは明らかだった。なぜ、今シーズンこれほどまでにマリナーズは不振に陥ったのだろうか?

マリナーズの今シーズンの不振を考えた時、ひとりのキーパーソンが頭に浮かぶ。ルー・ピネラ。93年にマリナーズの監督に就任後、マリナーズを常勝軍団に仕立てた名将である。2001年にはシーズン116勝という大リーグ記録を打ち立てたが、2003年にタンパベイ・デビルレイズの監督に就任し、マリナーズを去っていった。
ピネラ監督の最大の特徴は、何といっても勝利への飽くなき執念にある。チームがひとたび劣勢に陥ると審判への暴言も辞さず、チームを鼓舞し続けた。審判に退場を命ぜられ、激昂して1塁ベースを投げた姿は今でも強烈な記憶として残っている。
そんな彼の姿勢が、マリナーズというチームを戦う集団へと変えた。エドガー・マルチネスは今シーズンの引退発表後、ピネラ監督についてこう語った。
「私の中で最もすばらしい監督である。彼はマリナーズに勝つことに対する姿勢を植え付けた。今のマリナーズがあるのは彼のおかげだ」

どんなチーム・スポーツでもそうだが、強いチームには必ず「リーダー」がいる。それは、大リーグにしても同じである。
最強軍団と言われるニューヨーク・ヤンキースにはデレク・ジーターがいるし、今シーズン首位をひた走ったセントルイス・カージナルスにはトニー・ラルーサがいる。去年ワールドチャンピオンに輝いたフロリダ・マーリンズには、パッチことイヴァン・ロドリゲスの存在が大きかった(今シーズンからデトロイト・タイガースに移籍)。
年間162試合という長丁場の大リーグでは、どんなチームでも不調な時期は必ずある。それは今シーズンのカージナルスしかり、ヤンキースしかりである。
しかし、チームが苦境に陥った時、チームの歯車が狂った時、チームをひとつにできる選手や監督がいれば、必ずチームは浮上する。そこに強いチームたる所以がある。だから、「リーダー」という存在はどんな大打者より、どんな大投手より必要なのである。ニューヨークのファンがどんな大打者よりデレク・ジーターを愛しているのは、そのことに起因している。

そう考えると、今シーズン(昨シーズンも言えるかもしれないが)のマリナーズには「リーダー」と呼ばれる人間がいなかった。メルビン監督は人間的にすばらしいことは間違いないが、チームに喝をいれて、選手ひとり一人を鼓舞するようなタイプではない。それでも、選手の中に「リーダー」がいれば展開は違ったと思うのだが、今年のマリナーズにそのような人材は見当たらなかった。エドガーにしろ、イチローにしろ実績は申し分ないが、いわゆる「リーダー」タイプではない。そこに今シーズンの落とし穴があったように思う。
戦力的には2001年とほぼ大差はなかった。先発投手陣はほぼ同じ陣容だし、抑え投手には佐々木に変わってエディ・ガダードを補強した。打撃陣にしても、中核はほぼ同じメンツ。FA で取った、リッチ・オリリア(今シーズン途中パドレスに移籍)やスコット・スピージオが加わったことで、2001年よりもそつない陣形が整ったように見えた。
しかし、結果はシーズン100敗に到達寸前の最下位。すべての歯車が狂った。イチロー以外の選手は、期待に見合う活躍ができなかった。野球に“たられば”は禁物だが、それでも考えてしまう。もし連敗が続いた4、5月にルー・ピネラがいたら、今シーズンのマリナーズは違う方向に進んでいたかもしれない。

今シーズンの最終戦を終えた10月4日、マリナーズのメルビン監督解任のニュースが飛び込んできた。メルビン監督もそのことはわかっていたのかもしれない。シーズン終了後の記者会見で「誰かが責任を取らなくてはならない」と悲しげな表情を浮かべながら語っていた。
メルビン監督の、記者団やファン、そして選手に対する優しさに満ちあふれた態度を思い出すと、やるせない気持ちになる。だが、今のマリナーズにとって、メルビン監督はそぐわない気がする。フロントにそうした意図があったかどうかはわからないが、フロントの決断はあながち間違いではないと思う。メルビン監督の更迭で新監督が誰になるか、マスコミの間でいろいろな憶測が飛んでいるが、フロントがどのような人選をするのか今のところわからない。だが、今のマリナーズを変えられるのは、チームを心から愛し、チームの勝利のために選手ひとり一人に情熱を注入できる人間。そんな「熱いヤツ」以外にいないのではないだろうか。

阿部太郎

スポーツ・ライターになりたい、大リーグを取材したいとの一心で渡米を決意。「スポーツは世界を救う」をモットーに、いつの日か自分の書いた文章が多くの人に勇気を与えることを夢みている。シアトル在住4ヵ月。本業はスポーツ・ライターと言いたいところだが、半人前の学生。上智大卒。