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2011年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2011年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2011年3月から9月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。
 

来季の展望と今シーズン終盤戦の見どころ

(『ゆうマガ』2011年9月号掲載)

  
 7月の17連敗で今季が終わったマリナーズだが、結果として再建の流れを守ることができた。トレードでは将来有望な若手野手を獲得。マイナーには逸材がそろい始め、来季以降に向けて楽しみなチームになってきたと言えそう。残り1カ月の見どころは、イチローの200安打挑戦か。 
  
 

トレードにより強化された投手陣
7月にオールスターを挟んで17連敗を喫したマリナーズ。そこで地区の優勝争いから脱落すると、そのままの流れでトレード期限に突入。エリック・ビダードとダグ・フィスターの先発ふたりを放出することで、事実上今シーズンの白旗を挙げた。

複数の選手を獲得したが、目玉はフィスターとの交換でデトロイト・タイガースから獲得したフランシスコ・マルチネスと、ボストン・レッドソックス、ロサンゼルス・ドジャースとの三角トレードで、ビダードの見返りとしてドジャースから移籍してきたトレイボン・ロビンソンのふたり。打者に的を絞った辺りに、今季前半の打線の苦しみがうかがえる。

マルチネスは、9月1日に21歳となったベネズエラ出身の選手。タイガースのマイナー・リーガーの中では、4番目の有望選手として位置付けられていた逸材で、マリナーズとしては2、3年後のレギュラー定着をもくろむ

一方のロビンソンは早くも昇格し、チャンスを与えられている。マイナーでは今季、26本塁打を記録したが、本来はパワーヒッターではなく、俊足のスイッチヒッターだ。本塁打が打てるならなお良いが、率を残せる選手になれれば、マリナーズとしてはビダードを出した価値があると言えそう。

リーグ屈指だった先発陣は、結果として手薄になったが、昨年クリフ・リーをテキサス・レンジャーズに放出した際に獲得したブレイク・ビーベンが昇格してから安定した投球を続けており、来年は4番手として期待できそうである。来年の開幕までには5番手を探さなければならないが、なんとフリーエージェントとなるビダードと再契約をするのでは、とも言われており、案外彼が復帰しているかもしれない。

来季、野手の布陣は
野手に話を戻せば、7月途中でレギュラーの座をつかんだマイク・カープが4番に定着し、暗い中にも光が灯る。来季は指名打者が予定されているが、1塁、左翼も守れることから、彼のレギュラーはほぼ確定。計算のできる戦力になったと言えよう。

2塁のダスティン・アクリーも本物。今や不動の3番という感じで、来季も3番アクリー、4番カープという打線が今から想像できる。これで、6月から不振に陥ったジャスティン・スモークが5番に定着できれば、今年よりは得点力のあるクリーンナップになると予想できよう。

こうなってくると、来季への課題は、サードとレフト。サードに関しては、ショーン・フィギンスの契約があと2年残っていることから、オフにトレードできなければ、まずは彼にチャンスを与えるしかない。

レフトは、カルロス・ペゲロ、マイケル・サンダース、ロビンソンらが争う形。ベスト・シナリオとしては、ペゲロの長打力を生かしたいだけに、彼にポジションを奪って欲しいところか。

駒が足りないセットアッパーに関しては、お金を掛けて補強するところではないので、若いジョシュ・ルーキ、ダン・コーテス辺りに期待したい。

こうして見てくると、あまりオフの補強ポイントというのがなく、投手も野手も、成長待ちという感じだ。若い選手がそろってポテンシャルを発揮してくれれば、今年のように途中で失速することはないと見られる。

イチローの200安打は?
あとは、ファンやフロントが今の路線で我慢できるか。来年1年はまだ苦しいかもしれないが、とりあえず方向性が見え始めている、というのが現在のマリナーズである。

残り1カ月のシーズンは、そうした若い選手の成長を見るのが楽しみ、ということになるが、一方でイチローの記録との戦いも気になるところ。

今のペースだと10年続けてきた年間200安打が厳しい。しかし9月の成績次第では、絶望的という数ではない。とにかく彼の巻き返しに期待したい。仮に200安打に到達するようなら、11年連続3割も見えてくる。

今月の注目
トレイボン・ロビンソン外野手 Trayvon Robinson 背番号12

7月31日にトレードで移籍してきた後、8月5日に昇格すると、すぐに本塁打を放つなど活躍したが、その後はメジャーの壁に突き当たっている。しかし、出塁すれば足もあり、守備範囲も広い。外野の定位置争いを面白くしてくれそうだ。

マリナーズ、後半の見どころは?

(『ゆうマガ』2011年8月号掲載)

  
 オールスター前の5連敗で、地区の優勝争いから大きく後退したマリナーズ。8月前半までにプレーオフ・レースに復帰できなければ、おそらくこれからは若手達のオーディションのシーズンとなる。イチローの記録の行方も後半の見どころか。 
  
 

調子が良い時期もあったのだが……
7月上旬までは、地区首位のテキサス・レンジャーズとの差が2、3ゲーム。マリナーズが勝ってレンジャーズが負ければ、首位逆転という時もあったけれど、オールスター前の5試合を全敗したことで、その差は一気に7.5ゲームにまで開いた。

前半を終えた段階での7.5ゲーム差ならまだまだとも言えるが、これまでができ過ぎだったとも、逆にレンジャーズ、ロサンゼルス・エンゼルスがもたついていたとも言えるだけに、今後7.5ゲームという差は、広がることはあっても縮まることはないかもしれない、残念ながら。実際、後半戦の初戦でレンジャーズに完封負けを喫すると、その差は8.5ゲームにまで開いた。

トレードの行方にも注目
こうなってくると、チームはトレード期限の7月31日までに、来季以降を見据えたトレードをする必要が生まれるが、さて、ジャック・ズレンシック・ゼネラル・マネジャーはどう動くのか。

彼らの場合は、言わば“売り手”。ベテランを放出して、若い選手を獲りたいところだが、実のところ今のマリナーズには他チームが興味を持つような……例えば、去年のクリフ・リーのようなベテランがいない。

確かに、エリック・ビダードならいくらでもオファーがあるかもしれないが、7月中旬の時点では、膝を痛めて故障者リストに入っている。彼を放出したところで、見返りは限られそう。また彼の場合、故障の連続で他チームからのオファーも足元を見られたものとなりそうだ。

ほかのトレード候補としては、ジャック・ウィルソン、アダム・ケネディー、デビッド・アーズマ、ジャック・カストらがいるが、それぞれどこかのチームがぜひとも欲しい、という戦力ではない。「今季の残りの年棒も払いますからどうぞ」と差し出して、ようやく引き取り手があるかどうかだろう。

いずれにしてもチームは、地区優勝が見えなくなった時点で、彼らの代わりに若手を起用して、来季のためのオーディションをする必要があるわけで、枠を空けるためにベテラン選手を整理しなければいけないのは確かだ。ウィルソンら、契約が今年いっぱいの選手なら、そのまま解雇という可能性も考えられる。

イチロー、200安打達成に向けて
おそらく、10ゲーム程度開いた段階で明確な動きが見えるだろう。カルロス・ベゲロ、グレッグ・ハルマン、マイク・カープ、カイル・シーガーらが、そろってラインナップに名を連ねるようになれば、それが合図。そして彼らがどの程度の選手なのか、向こう2カ月で見極めていくことになる。

おそらく、左翼と指名打者はペゲロとカープの併用。ハルマンはセンターで起用し、シーガーは3塁というのが、8、9月に掛けての布陣となるのではないか。特に、レフトと指名打者にめどがつかなければ、今年のオフに補強をする必要が出てくる。まあ、これからのシーズンというのは、そういう中で誰が出てくるのか、というのが見どころとなるはずだ。

さて、ほかの着目点といえば、イチローの記録になる。11年連続で200安打を達成できるのか。3割は大丈夫か? 前半を終えた時点では、90試合に出場して101安打。このペースでは、当然シーズン終わりまでに200安打に達することは無理で、残りのシーズンでペースアップを求められる。

ただ過去10年、1試合あたり1.4本ペースでヒットを放っており、同じペースでヒットを積み重ねれば200安打に届くことから、イチローにとってはそれほど高いハードルではない。

達成はギリギリになるかもしれないが、最後の最後には200本に達するのではないか。そこにたどり着ければ、打率も必然と3割に乗っているはずだ。本当は、そのイチローのペースアップにつられてチーム状態も上向きとなり、プレーオフ・レースに復活しているような状況になれば理想的なのだが……。

今月の注目
カイル・シーガー内野手 Kyle Seager 背番号15

4月号で紹介したダスティン・アクリーとは、大学時代の同級生。ドラフト時はさほど注目されていなかったが、マイナーで好成績を残し、一気にメジャー昇格を果たした。将来的には打率の残せる3塁手との評価があり、ショーン・フィギンスの不振もあって、チャンスをつかんだ。

マリナーズ、プレーオフ・レースに復帰?

  
 5月上旬に6連敗を喫し大きく後退したかに見えたマリナーズだが、5月16日からの20試合で15勝をマークすると、勝率を5割に戻すなど、地区の優勝争いにも加わってきた。この力が果たして本物かどうか……。 
  
 

先発投手は安定しているが
6月中旬の時点では、地区2位。首位のテキサス・レンジャーズも射程圏にある。このままついていけるのかどうか。シーズン前の評価を考えれば、いずれ息切れするのかもしれないが、フェリックス・ヘルナンデス、マイケル・ピネダを柱とする先発陣は安定しており、それなりの計算はできよう。

抜け出してプレーオフに進出するには、得点や打率など、ほとんどのオフェンス部門でリーグ最下位の打線がもう少し奮起しなければ、というところだが、その前にリリーフ陣についても少し触れておきたい。

5月の6連敗では、ことごとく救援に失敗したブランドン・リーグだが、その後は安定。とりあえずは安心して9回を任せられるようになった。しかしながら勝ちゲームの7、8回の継投が、優勝争いをするうえでは不安である。現時点では、デビッド・パウリーひとりしか安定した投手がいない。開幕当初はセットアッパーを担ったジェイミー・ライトは、6月に入ってから投げては失点するケースが続いている。

本来ここに過去2年、クローザーを務めたデビッド・アーズマが戻れば形になるが、彼の復帰はまだ見えてこない。であるならば7月にトレードしてでも、チームは補強を考えなければならないかもしれない。もしくは、マイナーから誰かを上げるか……。

指名打者、定着せず
懸念の打線はレフト、指名打者が穴。レフトは開幕から、マイケル・ソーンダース、カルロス・ベゲロ、マイク・ウィルソンらがチャンスを与えられたが、誰ひとりとして定位置をものにできなかった。ここには6月に入って、マイク・カープも加わり、生き残りをかける。

カープは、3Aのタコマ・レニアズの試合に57試合出場すると、打率.348、19本塁打という成績を残している。彼の場合、1塁が本職で左翼は不慣れなため、指名打者としての起用も多くなるだろう。

その指名打者は開幕からジャック・カストが務めてきたが、やや期待外れ。5月は2割7分6厘の打率を残したものの、6月に入ってまた低迷。おそらく、カープがある程度の実績を残せば、カープが指名打者として定着することになるかもしれない。

得点アップのかぎを握るのは
さて、打線に関して加えて不安なのが、イチローとショーン・フィギンスの不振である。それぞれ、キャリア平均を大きく下回ったままだ。

イチローは4月こそ3割2分8厘という数字を残したものの、5月は2割1分と低迷。6月に入ってもスランプは続き、6月9日には2割4分8厘まで下がった。翌10日にスタメンを外れ、その後の3試合ではすべてマルチ安打を記録して復調の兆しが見られるものの、本人は「自分のことで精一杯」と余裕がない。このままでは、11年連続の年間200安打到達も微妙で、彼が普通の状態に戻らなければ、チームは今後のプレーオフ争いにおいて、大きな不安を抱えることになる。

フィギンスは開幕から不振が続き、5月の終わりには打率が2割を切ると、なかなか2割台にさえ戻せないでいる。彼の場合、守備にも不振が伝染し、失策のシーンも度々目にする。

いずれにしてもふたりのスランプで、オフェンスの核となるべき1、2番コンビが出塁して得点するという構想は崩れた。逆に言えば、今後の得点力アップは彼らの復調に掛かっているとも言える。まあ、彼らが低迷しているにもかかわらずマリナーズは勝っているのだから、なんとか彼らが復調するまでは、今のチーム状態を保ちたいところだろう。

さて、実際にプレーオフを意識するのは、オールスターが終わってからになると思うが、なんとかそれを意識できるような位置で、前半を折り返したい。

今月の注目
アダム・ケネディー内野手 Adam Kennedy 背番号4

(C)Seattle Mariners.

当初は内野の控え選手と見られていたが、シーズンに入ってみれば、レギュラー選手のような頻度で試合に出場している。期待の低かった打撃でチームを助けている面もあり、何気にオフ最大の補強となっている。今後、ますます彼の存在が大きくなりそうだ。

やっぱり今年は再建の1年?

  
 一瞬淡い期待を抱いたものの、5月に入るとマリナーズの今シーズンは予想通りの展開に。チームはすでにベテラン選手らを解雇して、若手に切り替えを図った。今後は、エリック・べダードらのトレードを視野に入れながら、さらなる再建が進むことになりそうだ。 
  
 

5月に入り大きく後退
4月の終わりから5月1週目までのマリナーズは強かった。4月26日のデトロイト・タイガース戦から5連勝を飾り、5月5日のテキサス・レンジャーズ戦までの9試合で7勝2敗。勝率5割まであと一歩と迫った。しかしながら6日からのシカゴ・ホワイトソックス3連戦で負け越すと、続く遠征ではブランドン・リーグが4試合で3度のサヨナラ負けを喫し、勝率5割から大きく後退してしまった。チームについても、リーグについても、ああ、やっぱりか……という展開である。
リーグは、それまで失敗なしの9セーブをマークしていたが、それができ過ぎと言えばでき過ぎ。元々コントロールに難がある投手。クローザーを任せるには、あまりにも怖い投手だったのである。
過去2シーズンで69セーブを挙げたデビッド・アーズマが戻ってくれば、そのまま彼にクローザーの役割を引き継ぐこともできたが、アーズマは復帰を焦ったのか、5月中頃までには戻れると言われていたものの、リハビリ登板で右ひじを痛めて、再離脱。復帰は7月にずれ込んだ。

チームは若手の育成モードへ
これで僅差の勝ちゲームを拾うパターンが消え、今後もそういう展開では綱渡りが続くと予想されるわけだが、今年1年は若手の成長などに主眼を置き、我慢のシーズンと位置付けていた開幕前の考え方に立ち返れば、良かったとも言える。
実際、チームは5月に入って、そういう舵取りを始めた。チームがまだ好調だったにもかかわらず、5月9日にはミルトン・ブラッドリーとライアン・ランガーハンズというふたりのベテランを解雇(ランガーハンズはマイナーへ)。カルロス・ペグエロ、マイク・ウィルソンのふたりを昇格させ、若い選手にチャンスを与える方向性を示した。おそらく今後、セカンドを守るジャック・ウィルソンも解雇対象で、2009年のドラフトで1位指名をしたダスティン・アクリーを上げてくるのだろう。
そんな中、期待されたジャスティン・スモーク、マイケル・ピネダのふたりが着実に実績を残しつつあり、心強い。ピネダは4月のリーグ最優秀新人賞を受賞し、スモークも父親の死という逆境を乗り越え、今やチームに欠かせぬ立派な3番打者だ。
彼らに続く形でペグエロ、マイケル・サンダースあたりが成長してくれれば、来年以降に向けた今年の犠牲がさらに生きてくる。

ベテラン選手が向かう道は
さて、そういうシーズンと覚悟したなら、次にチームが模索するのは、復活したエリック・べダード、7月の復帰を目指すアーズマのトレードか。べダードは勝ち星こそ少ないが、あれだけ投げられることが証明できれば、ニューヨーク・ヤンキースなど、先発投手のやりくりに苦しむチームが放っておかないだろう。プレーオフを狙うチームからは確実にオファーがあるはずだ。
マリナーズは昨年7月、クリフ・リーをトレードしてスモークらを得たが、そこまでの見返りは期待できないとしても、それなりの若手を獲得できるだろう。アーズマも、プレーオフを狙える位置にいながらブルペンの不安を抱えるチームには理想的な投手。やはりマリナーズは、アーズマの見返りに若い選手の獲得を目指す。
ただ、若い選手にとっては自分を磨く1年と割り切れるが、イチローのようなベテラン選手にはつらい1年。昨季のサイ・ヤング賞を受賞したフェリックス・ヘルナンデスにしても、どこにモチベーションをおいて戦うのか、難しいところだろう。しかし、そんな中で今年もイチローは安定した数字を残している。そうした状況で重ねる1本1本のヒットは、よりいっそうの価値を持つような気もする。開幕から勝ったり負けたりが続き、ややフォーカスを失っているように感じられるヘルナンデスには見習ってもらいたい部分である。

今月の注目
カルロス・ペグエロ外野手 Carlos Peguero 背番号8

(C)Seattle Mariners.

強肩で、パワーのある外野手。三振が多いのが気になるが、この時期にコールアップされたということは、それだけのポテンシャルを持った選手ということ。今後、マイナーとメジャーを行ったり来たりするかもしれないが、数年後にはレギュラーとして定着することが期待されている。

マイケル・ピネダ、デビュー!

  
 開幕から苦しい戦いが続くマリナーズだが、マイケル・ピネダというルーキーの出現で明るい兆しも。フェリックス・ヘルナンデス以来の本格派投手には、早くも全米が注目。彼の活躍にはこれからも注目したい。 
  
 

「規定外」の大型選手
マリナーズは開幕から2連勝。幸先の良いスタートを切ったかに見えたものの、直後から7連敗。地区最下位に落ちるまで、あまり時間は掛からなかった。
しかし、そんな一方で明るい話題も。開幕前にも触れたが、2メートル4センチの巨漢、マイケル・ピネダがメジャー・デビューを果たすと、初戦(4月5日)のテキサス・レンジャーズ戦でこそ負け投手になったが、12日のトロント・ブルージェイズ戦では、8回1死まで快投。初勝利を挙げた。負けた試合でも、メジャー屈指のレンジャーズ打線を相手に6回を5安打、3失点と噂に違わぬピッチングを見せており、2度目の登板では最速99マイルのストレートで、相手が真っ直ぐを狙っているとわかっていて、それを投げ込んだ。

ピネダ投手の経歴
1989年1月18日生まれの22歳。生まれはドミニカ共和国サン・クリストバル。風貌、体格共に、イチローに言わせれば「規格外」だが、子供のころから大人に間違われるほど体が大きく、身長は14歳の時すでに190.5センチまで達していたそうである。
2005年、大リーグとの契約が解禁される16歳でマリナーズと契約。翌年からドミニカのサマー・リーグで投げ始めると、あとは1A、AA、AAAの各マイナー・チームで着実に成長。2009年、右ひじに張りを訴えて故障者リストに入ったことがあったが、それ以外は大きな故障もなく、ここまで上がってきた。
フェリックス・ヘルナンデス以来の本格派ということになるが、ヘルナンデスが感情を表に出すタイプなのに対し、ピネダは試合中それを顔などに見せることはない。ピンチの時でも飄々としており、それを切り抜けてもガッツ・ポーズなどはしない。イチローも「そこがちょっと、いちばんびっくりするところですねえ」と話している。
彼の登場は、それまでのチームの重い雰囲気をも消し去った。4月6日のテキサス・レンジャーズ戦では、2失策を犯したジャック・ウィルソン2塁手が、勝手に交代。激怒したエリック・ウェッジ監督は、ウィルソンをしばらくスタメンから外したが、それ以外にも問題が立て続けに起きており、チーム内の雰囲気はぎくしゃくしていた。しかし、ピネダのピッチングでクラブハウス内の空気が一変。4月11日の試合では、7点差をひっくり返して勝利。その流れの中でピネダが好投したのだから、もやもやが一気に吹っ飛んだ。

チーム自体の懸念は依然……
ただ、彼の存在だけでチームの懸念が覆い隠せるのかといえばそうではなく、マリナーズ打線の低い得点力は相変わらず。また13日の試合では、7回までリードをし、勝たなければいけない試合を落とした。開幕前から僅差で終盤を迎えた場合、誰がセットアッパーを務めるのか不安視されていたが、それを見事に露呈してしまったのだ。本来、若い投手らの台頭を期待していたが、ジョシュ・ルーキーらにその役を任せられるほどではない。
打線は、マイケル・ソーンダース、ジャスティン・スモークに成長が感じられるも、ジャック・カストが指名打者としてラインナップにいる状況では、依然苦しい。
ブルペンの方は故障で出遅れているデビッド・アーズマが復帰すれば、8、9回に関しては、ブランドン・リーグとアーズマで計算ができよう。打線もフランクリン・グティエレスが戻れば、少しはつながりが出るかもしれない。彼の復帰はセンターの守備でも大きなプラスになるので、いろんな面で効果が大きい。ただ、それでもブルペンと打線は、まだ駒がそろわない感じ。やはり今年は勝敗よりも、将来の戦力をどう育てるか、我慢の年……。開幕してから、それが改めて明確になった。

今月の注目
トム・ウィルヘルムセン投手 Tom Wilhelmsen 背番号42

(C)Seattle Mariners.

1Aから、いきなりメジャー昇格を果たした選手。2002年のドラフトでミルウォーキー・ブルワーズに入団するも、2005年にはマリファナの使用が発覚して、そのまま野球を辞めてしまった。その後、ヨーロッパなどを放浪し、バーテンダーに。2010年に再起を試み、その夢を叶えた。

うれしい誤算と不安

  
 いよいよ開幕。昨季のようにプレーオフ進出の期待が高いわけではない。地区争いは苦戦が予想される。しかし、次代を担う若手の成長も見られ、彼ら次第では面白いシーズンになるかもしれない。メジャー11年目、プロ20年目のイチローには、11度目の年間200安打というメジャー記録が懸かる。 
  
 

4月1日、オークランドで開幕
マリナーズは今年、4月1日にオークランドで開幕を迎える。昨年のオフに松井秀喜がオークランド・アスレチックスに移籍。日本人野球ファンにしてみれば、初日からビッグ・カードが組まれている。
おそらく何も異常がなければ、マリナーズの開幕マウンドにはフェリックス・ヘルナンデスが立っているはずだが、同じく何もアクシデントがなければ、2戦目のマウンドには昨シーズンを左肩の故障で棒に振ったエリック・ビダードが先発予定。これは、マリナーズにとってうれしい誤算だ。
昨年は、夏ごろに復帰予定だったが、マイナーでの調整登板を終え、メジャー復帰が見えたところで戦列を離れた。再び肩にメスを入れ、今季開幕までの復帰は危ぶまれたものの、オープン戦では3月14日現在、3試合に先発。5回3分の2を投げ、3安打、1失点と復調をアピールしている。8三振も奪っており、残りのキャンプを順調に過ごすことができれば、先発2番手として計算できそうである。

開幕ロースターに名を連ねるのは?
先月も紹介したマイケル・ピネダも予想以上に良い。やはり14日現在3試合に登板し、7イニングを投げて、5安打、2失点。重い速球を武器に安定している。すでに先発ローテーションの力は十分にあり、開幕のロースターに登録されるなら、いきなり先発3番手の可能性もある。
ただし、彼のデビューは6月までずれ込むかもしれない。あまりに早い段階でデビューさせると、フリーエージェント資格を早く得ることになり、また、年棒調停の権利を2年後には得てしまう可能性がある。昇格を6月まで伸ばせば、その2つの権利の発生を遅らせることができるため、チームとしてはそんな決断を下す可能性もある。
同じく有望株のダスティン・アクリー内野手にしても、チームは同じような理由でデビューを意図的に遅らせるかもしれない。打撃だけなら、すでにメジャー・レベル。しかし、二塁の守備にやや不安。彼の場合、そんな大義名分が立つので、昇格を遅らせることが確実だが、マリナーズの二塁にレギュラーがいるわけではないので、ベストな戦力で開幕を迎える、ということであるならば、本来、アクリーも4月からラインナップに名を連ねていてもおかしくない。

春季キャンプの仕上がり
さて、そんな彼らと対照的に不安なのは、一塁を守る予定のジャスティン・スモーク。12日のアスレチックス戦で本塁打を放つなど、4打点の活躍を見せたが、それまでは全くの不振。レギュラー定着さえ危ぶむ声があった。本来彼は、今年のクリーンナップを打つことを期待されているが、この春のキャンプでは全く期待を裏切っている。残りのキャンプで彼が状態を上げられるかどうか。現時点では、開幕スタメンに対する不安の声さえある。
イチロー、ショーン・フィギンス、ヘルナンデスらの主力に懸念はない。今年は大きな補強を見送り、若い選手の成長にかけた面もあるだけに、特にスモークのもたつきは心配。ミルトン・ブラッドリーからレギュラーを奪うことを期待されたマイケル・サンダースも伸び悩んでいる。
春のキャンプの結果は、キャンプの結果でしかないけれど、若い選手にとってはキャンプの好成績が自信につながることもあるだけに、開幕までにある程度の結果を残したいところだろう。
ところで、3月14日の試合を終えて、マリナーズはオープン戦の成績を10勝4敗とした。アリゾナで行なわれているカクタス・リーグでは、前年度のワールド・チャンピオン、サンフランシスコ・ジャイアンツに次いで2位。ア・リーグ全体では1位である。これこそ、あまり意味のあるものとは思えないけれど、昨季101敗もしたチーム。少しでも勝ち癖をつけることは、プラスかもしれない。いや、そうであって欲しいものだ。

今月の注目
ダスティン・アクリー内野手 Dustin Ackley 背番号13

(C)Seattle Mariners.

今季、オークランド・アスレチックスから指名打者として獲得したニューフェイス。過去4年で97本塁打を放ち、長打力が魅力。しかしながら、同じ4年間で673三振。言ってみれば、30本の本塁打を打つかもしれないが、200三振するかもしれないよ、という選手。マリナーズとしては前者のカストを期待しているのだろうが、さて、どうなることだろう。

我慢、辛抱の1年?

  
 同地区のライバルが着実に補強を重ねる中、マリナーズはほとんど動きを見せなかった。どうやら、若手選手を育てることに今季は重きを置くようだ。数年後に向けた本格的な再建。ファンはじっと我慢して、若手らの成長を信じて待つしかない……。 
  
 

大型補強はなし
2月中旬からアリゾナ州のピオリアでキャンプが始まり、月末からはいわゆるオープン戦が開始。いよいよ球春到来、という雰囲気だが、今年のマリナーズに対する期待は、やや低め。
マリナーズが所属するア・リーグ西地区を見てみると、元マリナーズのエイドリアン・ベルトレらを獲得してますます打線の破壊力が増したテキサス・レンジャーズ、賛否あれど、バーノン・ウェルズら大物選手の補強に踏み切ったロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム、若手先発投手陣が充実し、松井秀喜らを加えたオークランド・アスレチックスに比べて、ほとんど補強をしなかったのだ。必ずしも補強がチーム状態の向上を保証するものではないが、他チームとの戦力差は否定し難い。多くは3強1弱の地区争いを予想する。

若手の成長がかぎ
マリナーズにとっては、若手の成長を期待する我慢のシーズンか。特に昨年7月、クリフ・リーとのトレードでレンジャーズから移籍してきたジャスティン・スモーク一塁手の成長は、チームの将来を左右しうる。数年後には35本塁打、100打点をコンスタントに記録できる逸材という評判だが、今季がその飛躍の年になるかどうか。昨季は移籍してすぐにレギュラーで起用されるも、不振でマイナーへ。9月に復帰してからはそのポテンシャルの片鱗をうかがわせたが、彼が伸び悩むようなら、懸念の得点力は今年も低いままだろう。とにかく彼の成長をファンは信じて待ちたい。
同じように、レフトを守るマイケル・サンダースが完全にレギュラーに定着できるかどうかもかぎ。過去2年、ある程度のチャンスを与えてもらったが、打率は2割を少し超える程度で、安定感を欠く。その一方で豪快な本塁打も打っているだけに、ファンとしてはその魅力に賭けたいところだろう。
本来、マリナーズが優勝を狙うような状態であれば、彼のような選手を我慢しながら育てる余裕はないが、幸か不幸か、今のチームには時間がある。それを彼には利用して欲しい。
2009年のドラフト1位(全体の2番目)で指名したダスティン・アクリーにもチャンスを与え、経験を積ませたいところ。開幕から二塁を守ることはなさそうだが、チームが早い段階で低迷すれば、昇格が早まると予想できる。彼の場合、今年すぐにというわけではなく、来年辺りからレギュラーとして活躍できるような見通しが立てば良い。打つほうに関しては、多くが将来は首位打者を狙うようなポテンシャルを秘めると評価。目下の課題は慣れない二塁の守備だが、その面でも、彼には「できる」という自信をつかんで欲しいところだ。

投手陣の注目株は?
投手陣で期待したいのは、マイケル・ピネダという巨漢投手。彼に関しては、春のキャンプでまずまずの内容なら、開幕からローテーション入りが濃厚。マリナーズは彼を、マイナーから球数を制限するなどして、ここまで慎重に育ててきた。彼が本物なら、チームはフェリックス・ヘルナンデスと合わせ、パワー投手の2枚看板をローテーションの柱に据えることができる。彼がどの程度通用するのか。その見極めは、今季の見どころのひとつだ。
さて、今年のマリナーズは結局、そうした未知数の戦力をあてにしながら戦わなければならないわけだが、スモーク、サンダース、アクリー、ピネダが期待通りの活躍を見せてくれるなら、シーズン中盤から後半にかけて、良い戦いができるかもしれない。
いきなりプレーオフとは今の時点では言えないが、彼らの成長次第では、傍目から見れば犠牲覚悟の1年が来季以降、実りを見せる可能性もある。それを信じて、今年は辛抱の1年と、今から覚悟しよう。

今月の注目
ジャック・カスト指名打者 Jack Cust 背番号29

(C)Seattle Mariners.

今季、オークランド・アスレチックスから指名打者として獲得したニューフェイス。過去4年で97本塁打を放ち、長打力が魅力。しかしながら、同じ4年間で673三振。言ってみれば、30本の本塁打を打つかもしれないが、200三振するかもしれないよ、という選手。マリナーズとしては前者のカストを期待しているのだろうが、さて、どうなることだろう。

丹羽政善
1967年愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務ののち渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBA、ゴルフなど、現地のスポーツを精力的に取材、コラムや翻訳記事の配信を行う。日本のメディアでは、『サンケイスポーツ』『日本経済新聞』などを中心に活動。海外メディアではかつて、「ESPN.COM」などに寄稿している。著書に『メジャーの投球術』(祥伝社)、『MLBイングリッシュ~メジャーリーグを英語のまま楽しむ!』(ジャパンタイムス)、『メジャーリーグビジネスの裏側』(キネマ旬報社)がある。在米生活は今年で16年目を迎える。