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新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&休職制度

新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置

新型コロナウイルス(COVID-19)による経済的打撃から、会社や個人を守るべく、現在、アメリカではさまざまな救済措置が発表されています。そこで、本特集では、現時点(2020年4月23日)で分かっている国や州による主な支援プログラムから休職制度まで、その内容を分かりやすく紹介します。(2020年5月)

※特集の内容は、4月23日時点のものであり、今回紹介した新型コロナウイルス救済措置は、今後も内容変更の可能性があります。また、国、自治体、その他さまざまな団体などが、新たな救済措置を実施していくことも予想されるため、国や自治体からの発表やニュース、各機関の公式ウェブサイトを随時チェックするか、会計士や人事労務管理会社など、各専門家に相談することをおすすめします。

 

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アメリカでは、2020年3月27日に、新型コロナウイルス経済救済法として「CARES Act:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act」が連邦議会で可決されました。史上最高額の2兆ドルを投じたこの法律は、融資、税務控除、現金給付、休職制度、失業保険など多岐にわたっています。今回は、その中でも、注目されている救済措置をご紹介します。

融資プログラム

現在、連邦政府が定めたCARES Actの中でも注目したいものの一つに、中小企業を対象にした融資プログラムがあります。これらは全てSBA(米国中小企業庁)のネットワークに加盟する金融機関を通して進めます。全米の州と地域が対象となります。

返済免除額あり!従業員の給与を守るプログラム「PPP」

ペイチェック・プロテクション・プログラム(PPP:Paycheck Protection Program)」は、CARES Actの中でもベネフィットが大きい融資プログラムで、従業員の雇用や給与額を維持することを目的としています。従業員500人以下の会社(条件によっては500人以上も可。また個人事業主や自営業も可)が対象となります。
 
最大1000万ドル(または正社員合計給与の月額平均の2.5カ月分)まで借り入れが可能ですが、2020年2月15日~6月30日までの従業員の給与や賃料などの支払いのために充てた一部または全額の返済が免除となります。例えば、100万ドルを借り入れた場合で、うち30万ドルを従業員の給与などに充てると、30万ドルは返済免除、残り70万ドルは最長2年以内に年利1%で返済していくことになります。返済免除の対象は、以下のような人件費(Payroll Cost)や、その他の諸経費です。

返済免除となる対象の内訳(一部)

給与(休暇やシックリーブの費用を含む)
健康保険
年金プラン
退職金
給与税(州税・地方税)
オフィス賃料
電気・ガスなどの光熱費 
 

ローンの借り入れ額や免除額の算出方法は、財務省がガイドラインを発表する予定です(2020年2月13日現在)。

もし、2月15日以降に、新型コロナウイルスの影響で、いったん、従業員数や給与額が減ったとしても、6月30日までに元の状態に戻っていれば、借り入れ金の返済は免除可能となります。

このプログラムは、SBA(米国中小企業庁)の管轄ですが、申請は認定の金融機関を通して行うため、まずは取り引き先の銀行などに相談を。プログラムの予算には限度があるため、できるだけ早めの申請をおすすめします(4月21日時点で、追加法案が上院で可決され、PPPには、約3100億ドルの予算が追加される予定。詳細はニュースなどで確認を)。また、2020年2月15日からの給与計算が必要となるため、会計士にも確認してください。

融資却下でも、補助金1万ドルは返済不要!「EIDL」

エコノミック・インジュリー・ディザスター・ローン(EIDL:Economic Injury Disaster Loans)」は、20年1月1日まで遡って、そこから新型コロナウイルスが理由で、経営に影響が出ている中小企業を対象にした融資プログラムです。申請から3日以内に、EIDL補助金(EIDL Grant)として1万ドルを受け取ることができます。さらに、運転資金として、最大200万ドルまで、3.75%(非営利団体は2.75%)の金利で、最大30年ローンを組むことが可能です。

特筆すべきは、EIDL補助金の1万ドルは、融資が受けられない場合でも、返済の必要がないことです。また、EIDLとPPPの両方に同時に申請することは可能ですが、その場合、EIDLの借り入れ金額は、PPPの返済免除額から差し引かれることになります。  

条件などは、SBA公式ウェブサイト「Disaster Loan Applications」で閲覧でき、一部はGoogle翻訳(日本語)が利用できます。融資は、金融機関が行うため、銀行などにも詳細を確認しましょう。

 

【POINT 1】どの救済措置を使うべきか。専門家の意見を聞こう!

さまざまな救済措置がありますが、どれを選択すれば良いのか迷うことも考えられます。まずは、会社の規模や条件に合っていて、ベネフィットが大きいものを利用しましょう。併用できないプログラムもあるので注意が必要です。プログラムの内容によって、金融機関や会計事務所、人事労務管理の専門家など、それぞれの分野のアドバイスを取り入れることをおすすめします。(石上洋会計士

【POINT 2】返済期限を考慮した借り入れを!

CARES Actの多くは、支払い繰り延べや借り入れを目的としたプログラムです。繰り延べや返済期限を考慮し、会計士などの専門家にも相談をして、具体的な会社の立て直しや返済プランを立てましょう。また、これを機に、5~10年先を見据え、運営やビジネスプランの見直しをすることが大切です。(石上洋会計士

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税務控除・納税猶予

今回のCARES Actには、所得税や給与税、消費税における、税額控除や納税猶予といった措置が含まれています。法人向けはもちろんですが、個人を対象とした給付金や退職年金プランのペナルティーの免除など、そのプログラムは多岐にわたっているのが特徴です。

約9カ月間の給与税を控除!全ての会社を対象とする「ERC」

給与税は会社、そして従業員が連邦と州に収める税金ですが、IRSは、この給与税を控除できる「エンプロイー・リテンション・クレジット(Employee Retention Credit)」という救済措置を発表しました。2020年3月から約9カ月間にわたり、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、業務を停止または一部停止しなければならなくなった会社を対象(会社の規模は問わない)としています。また2020年の売り上げが、前年の該当四半期と比べて、半分以下に減った場合も対象になります。  
 
控除される税金は、四半期ごとに従業員1人につき、最大1万ドルの給与に対し50%、つまり最大5000ドルとなります。2020年3月12日~21年1月1日以前に支払われた給与が対象です。給与税はいったん支払わなければなりませんが、2020年度の確定申告時に調整され返金されます。
 
もし支払えない場合は、IRSから先に返金してもらうことも可能です。なお、融資プログラム「PPP」との併用はできません。詳細や申請方法は、IRSの公式ウェブサイトで確認してください。

給与税から消費税まで 税延長措置について

また、CARES Actが可決された3月27日以降に発生した給与税は、一部の支払いを延長することができます(Payroll Tax Delay)。支払い期限ですが、50%は2021年12月31日まで、残り50%は2022年12月31日までとなります。個人事業主も対象になるようですが、2020年4月13日時点では算出方法が出ていません。雇用を維持するために給与税を控除できる「エンプロイー・リテンション・クレジット」に対して、Payroll Tax Delayは、もし従業員を解雇しても、それまでの給与税の一部の支払いを遅らせることができます。ですので、状況によって、どちらかまたは併用することを検討する必要があります。
 
そして、第一四半期に続き、第二四半期の予定納税日も、2020年6月15日から7月15日に延長されました。これによって、最新予定納税日は、以下のようになります。

第一四半期:7月15日
第二四半期:7月15日
第三四半期:9月15日
第四四半期:2021年1月15日

【POINT 3】IRA転換の見直しを!

2020年度は、新型コロナウイルスの影響で、税率や株価の大きな変動が起きているので、条件によっては、Roth IRAへの転換(コンバージョン)を検討したほうが良いかもしれません。例えば、税率が低くなる場合は、 Traditional IRA よりも、積み立て時に納税し引き出す際に無税となるRoth IRAが有利です。一度、ファイナンシャル・プランナーや会計士に相談してみてください。(石上洋会計士

新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置
【NEWS 1】

届いていますか?現金給付1人当たり1200ドル!

IRSは、4月半ばから、「Economic Impact Payment」と呼ばれる給付金を支払っています。対象は、アメリカにおける税務上の居住者で、確定申告の年収が独身者7万5000ドル以下、夫婦の場合は合算で年収が15万ドル以下であれば、大人1人あたり1200ドル、子ども1人につき500ドルを受給できます。また、非婚で扶養家族がいる世帯主で年収が11万2500ドル以下の場合も1200ドルを受給できます。
 
2018年度、2019年度の確定申告に基づいて行われますが、まだ2019年度の確定申告をしていない場合で、その間に子どもが生まれている人は、2020年度の確定申告時に調整されます。この「Economic Impact Payment」は、銀行口座を利用して納税している場合は、直接振り込まれます。そうでない場合は小切手が郵送されてきます。ソーシャル・セキュリティー・ナンバー(SSN)保持者で、無収入のため確定申告をしていない人は、IRSの公式ウェブサイト「Non-Filers: Enter Payment Info Here 」で登録する必要があります。


▲ 注意!

IRSの名を語った電話やテキスト、SNS詐欺が横行しています。IRSによると、小切手の確認などで、IRSから個人に電話をかけることはありません。また、これらの詐欺では、正式名称「Economic Impact Payment」の代わりに、“Stimulus Check” や”Stimulus Payment”などの名称を使うケースが多いとしています。税金関連の詐欺や個人情報の漏洩につながる恐れがあるので、くれぐれも注意を!

【NEWS 2】

ペナルティー免除!退職年金プランの早期引き出し

新型コロナウイルスによる経済的危機から、59.5歳前にもかかわらず、退職年金プランの早期引き出しをする人が増えています。そのため、2020年は、一定の退職年金プランの早期引き出しが、新型コロナウイルス感染のための治療費捻出や、解雇、労働時間短縮などの理由による場合は、10万ドルまで、10%のペナルティーが免除されます。(石上洋会計士

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休職制度

雇用を維持しつつ、従業員が就労から外れることができる休職制度。有給のものと無給のものに分けられ、その種類はたくさんありますが、今回、全米における新型コロナウイルス拡大の被害により、連邦政府による新たな制度が導入されています。

有給休暇で、働く従業員を守る 時限立法「FFCRA」

ファミリー・ファースト・新型コロナウイルス対策法(FFCRA:Families First Coronavirus Response Act)」は、急遽制定された連邦法で、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために発令された州や自治体の条例によって仕事ができない場合に対応するものです。有給で、最大80時間のシックリーブや、最長12週間にわたって休校中の18歳未満の子ども(障がいを持っている場合は、18歳以上でも可)の世話のための休職を付与するもので、「EPSLA:Emergency Paid Sick Leave Act」と「EFMLA:Expanded Family and Medical Leave Act」の2つの対策があります。
 
従業員500人未満の会社が対象で、そこで働く従業員を守るための時限立法です。施行期間は2020年4月1日~12月31日です。

エマージェンシー・ペイド・シック・リーブ・アクト(Emergency Paid Sick Leave Act)

従来のシックリーブに加えて、会社が従業員に対して2週間(最大80時間)の有給休暇を与えるもの。従業員が新型コロナウイルスに感染し、在宅もしくは隔離されている場合は、2週間の有給休暇を与え、、家族などに感染者がいて世話をしているか、あるいは休校中の18歳未満の子どもの世話をしている場合は、給与(通常レート)の3分の2の金額(1日最大200ドル/2週間の合計最大2000ドル)を支払う必要があります。

エクスパンデット・ファミリー・アンド・メディカル・リーブ・アクト(Expanded Family and Medical Leave Act)

従来の「ファミリー・メディカル・リーブ・アクト(FMLA:Family Medical Leave Act)」の部分的改正措置です。新型コロナウイルスを理由とした休校により、18歳未満の子どもの世話が必要な場合、会社が、最長12週間(「Emergency Paid Sick Leave」の2週間に加えて10週間)の有給休暇を与えるものです。またその間は、給与(通常レート)の3分の2の金額(1日最大200ドル、12週間の合計最大1万2000ドル)を支払う必要があります。
 
適用するには、従業員が、その会社で30日間以上働いていることが条件です。
 
なお、FFCRAで、会社が負担した給与は、IRSに指定のフォームを提出し、確定申告時に申請することで、所得税払い戻しの対象となります。ちなみに、FFCRAと「エンプロイー・リテンション・クレジット(ERC:Employee Retention Credit)」は併用できないため注意してください。FFCRAでカバーされない分を「エンプロイー・リテンション・クレジット」で補うことは可能です。

また、従業員50人以下の会社は、有給休暇付与によって経営が悪化する場合、適用外となることがあります。詳細は、アメリカ合衆国労働省の公式ウェブサイト「Families First Coronavirus Response Act: Employer Paid Leave Requirements」にて。

 

新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置

【NEWS 3】

どう対応する? 外出禁止令が解けた後の働き方

HRM Partners, Inc.

州や自治体による外出禁止令が解けても、会社によって、すぐに出社を再開させるのか、しばらく在宅勤務を続けるのか、違ってくるでしょう。ただ、いずれにしても以下のような準備をしておく必要があります。

出社の場合
 
連邦の公民権法第7章によると「会社は、安全で快適な職場を従業員に提供しなければならない」としています。今後、在宅勤務から出社に切り替わった後でも、新型コロナウイルスの感染を防ぐために、会社の備品や救急キットとして、マスクやゴーグル、手袋、消毒液などを過不足のないように、今からでも補充しておいた方が良いでしょう。

在宅勤務の場合
 
「Time Doctor」などの勤怠管理や在宅での仕事ぶりをリアルタイムで確認できるアプリの導入も積極的に検討するべきです。

従業員が在宅勤務を望んだ場合
 
会社が出社再開を願っても、健康・安全面で不安がある、または在宅勤務の方が生産性が上がると主張してくる従業員が出てくる可能性も。在宅勤務を認める場合は、新たに在宅勤務に向けたポリシーを確立し、従業員ハンドブックに追加して、再度従業員からの署名を得ておきましょう。いったん認可してしまうと撤回するのが難しくなるので、週に1~2日など試験的に始めてみるのも良いでしょう。新型コロナウイルスの影響により、一時的に在宅勤務を許可する旨の文書を発行し、その文書に終了期限も記しておけば、スムーズに厄災以前の勤務状態に戻すことができるでしょう。

【NEWS 4】

非常事態で、解雇通知もデジタル化。雇用主/被雇用主共に、迅速な対応を

本来、解雇の申し渡しは対面方式で行われるべき重要な手続きですが、外出禁止令が出されている現状では、SkypeやZoomなどのオンラインツールを利用したウェブ面談方式による通達が全米中で広く採用されています。会社または雇用主は、ウェブ面談の開始直前に、解雇する従業員に対して必要書類(PDF版)と共に解雇通知書をEメールで送り、次いで解雇当日まで働いた給与分を、チェックまたは電子送金で同日までに従業員のもとに届くように手配する必要があります。また、被雇用者は、通常なら1週間ある待機期間が一時的に撤廃されている失業保険の申請あるいは給付方法を予め調べておき、解雇された場合、1日でも早く給付金を受給できるように準備しておくことが賢明です。現在、失業保険の窓口は非常に混んでおり、申請が1日遅れると、失業保険の給付金はそれ以上に遅れることが常だからです。(HRM Partners, Inc.)

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失業保険

自営業やフリーランスでも申請可能に!

CARES Actの一環である「パンデミック失業支援(PUA:Pandemic Unemployment Assistance」プログラムでは、通常は失業保険を申請できない個人事業主(フリーランス、自営業、個人請負業者)にも失業保険が適用されます。新型コロナウイルスの影響を受けた時期に応じて、2020年2月2日~12月31日の間で、最長39週間まで給付金を受けることができます。また、「パンデミック追加補償プログラム(CARES Act Pandemic Additional Compensation Program)」で、会社の従業員と同じように、基本の週給付金に600ドル追加されます(20年3月29日~7月31日までの申請が600ドル追加支払いの対象)。

 

【POINT 4】失業保険の内容は変わる可能性あり!

CARES Actは、有効期限の定められている時限立法なので、状況によっては延長や内容が変更されることも考えられます。受給期間中でも、随時、情報収集に努めましょう。

取材協力

石上、石上&越智公認会計事務所|公認会計士 石上 洋さん


HRM Partners, Inc.(人事労務管理コンサルティング会社)


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*情報は2020年4月現在のものです