アメリカに住む日本人の離婚問題とは?|井上奈緒子(WA州弁護士)

2017年10月掲載

2017年10月 特別インタビュー

日本人米国認可弁護士が離婚に悩む日本人のための非営利団体を設立
『アメリカに住む日本人の離婚問題とは? 』

アメリカ在住の日本人にとっての離婚は、経済面でも、また煩雑な手続きでも難しいことが多々あります。今春、ワシントン州の弁護士、井上奈緒子さんが、離婚に悩む日本人のため、非営利団体「International Families Justice Coalition」(以下、IFJC)を創設しました。創設に至るまでの経緯や、日本人ならではの離婚の問題点についてうかがいました。

 

ーIFJC設立の経緯を教えてください。
私は企業・雇用関係専門の弁護士ですが、2010年、後にIFJCの共同創設者となるガイプ弁護士から「日本人の離婚案件を手伝ってほしい」と請われ、それ以来、離婚問題に関わるようになりました。今では年間20~25件の離婚の案件を扱っています。
 
仕事をする中で、日本のことをよく知らない弁護士が日本人の離婚の弁護をして、うまくいかない場合があると知りました。また、弁護士に相談や弁護を依頼すると費用が発生するわけですが、ある時、離婚の弁護士費用が払えず、それを苦に自殺した日本人女性がいました。以来、私は日本人の離婚について深く考えています。そこで、ガイプ弁護士と共に、離婚の弁護士費用を払えない人でも駆け込める場として設立したのが非営利団体のIFJCです。

ーどんな団体ですか?
弁護士と離婚を望む日本人のマッチングをします。アメリカで日本語のできる弁護士の数には限りがありますが、日本文化に造詣の深い弁護士なら大勢います。彼らに通訳が付けば、日本人の案件を受けられると考えています。弁護士はライセンス維持のため、定期的に弁護士教育に関わるクレジット取得が義務付けられ、奉仕活動もその一つです。そこで、IFJCを通じて日本人の弁護をすればクレジットが得られる仕組みを作りました。基本的に、世帯収入が一定の額に満たない人が、奉仕活動をする弁護士を付けられます。

ーどんな人が利用できますか?
世帯収入が郡の定める貧困レベル以下の方は無料で利用できます。もしくは世帯収入が年間4万ドル以下の方は弁護士を割引料金で利用できます。ただ、低収入でも財産がある場合は対象外など、いくつか条件があります。

ー日本人の離婚にはどんなケースがありますか?
一番多いのは日本人妻とアメリカ人夫の離婚で、次の4種類がよくあるケースです。

①専業主婦の妻
妻の生活が日本人コミュニティー中心の場合、アメリカでの法的手続きの知識に欠けることが多いようです。

②米軍で働く夫がいる妻
ミリタリーの夫を持つ妻で多いのがDVです。警察に通報しても軍に連絡が行き、夫に通報が分かると再び暴力を受け、だんだん鬱状態になり、外へ出られなくなってしまいます。閉ざされた場所に住み、①同様、法的知識に欠ける傾向にあります。

③共働き夫婦
親権や経済サポートの話し合いが主です。親権は半々になることがほとんどで、夫婦の収入バランスが悪い場合、多い方が少ない方に生活費などを出すこともあります。

④日本人同士の夫婦
①~③と少し異なるのが、日本人同士の離婚です。例えば夫が自分と子どものビザだけ更新して妻がアメリカに住めなくなるなど、移民法が絡んで煩雑になりがちです。

ー日本人特有の傾向は?
アメリカでの離婚の法的手続きの知識のない人が大勢います。日米の離婚手続きが大きく違うからでしょう。離婚を考える際、自分にどんな権利や選択肢があり、どんな流れで離婚するのか押さえるべきです。アメリカでは、法に従って手続きすれば、必ず今の状況から抜け出せます。一人で抱え込まず、まず、周りの人への相談から始めてほしいです。

アメリカでの離婚で知っておくべきこと

1 お金は夫婦2人のもの
妻が無収入でも夫に収入があれば、そのお金や財産は公平に分ける義務があり、妻にも所有する権利があります。離婚時には裁判所を通じて銀行口座や給与明細を公開するので、お金を隠すことはできません。

2 親権は夫婦2人のもの
母親だけで子育てをしていても、父親が家族を捨てた、アルコールかドラックの問題がある、DVのいずれかでない限り、母親のみが親権を得ることはほぼ不可能です。

3 アメリカでの離婚は裁判所を通す
日本の一般的な離婚と異なり、アメリカでは協議離婚でも裁判所を通して離婚が確定します。相手から離婚申請書に協議離婚のサインを迫られても、すぐにサインせず、まずは周りの人や弁護士に相談を。

4 子どもも裁判で証言できる
18歳未満の子どもは裁判で証言できませんが、子ども専門の代理人(GAL)を立てれば証言が可能です。つまり、代理人を通じてDVを子どもに証言してもらえます。

ワシントン州の弁護士、井上奈緒子さん
▲ 井上弁護士
ワシントン州の弁護士、井上奈緒子さん
▲ 井上弁護士とIFJC共同創設者のガイプ弁護士
◎井上奈緒子
ワシントン州およびニューヨーク州弁護士。シャッツ法律事務所代表。International Families Justice Coalition共同創設者。企業法や雇用法、それらに関する訴訟が専門。また、現在は、在シアトル日本国総領事館の外部顧問弁護士も務めている。
【離婚に関する問い合わせ】

● 在シアトル日本国総領事館
TEL : 206-682-9107 consul@se.mofa.go.jp

● 在ポートランド領事事務所
TEL : 503-221-1811 ryojiportland@se.mofa.go.jp
※領事館、領事事務所では、日本の戸籍に関する手続き、DV、ハーグ条約、離婚に関する一般的な情報提供をしています。

● International Families Justice Coalition(IFJC)
http://ifjc-us.org

 

*情報は2017年10月現在のものです