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Maxで行く自然3(イーストサイド編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪2005年09月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

オレゴン州の北辺、ポートランドを通り東西の街を結ぶ電車網マックス(Max)。
沿線の自然景観も西と東で微妙に異なる。原生自然が多く残るウエストサイドに対し、
イーストサイドでは人々が19世紀末から築いてきた街の歴史の内に自然が息づいている。

シャクナゲ

3回のキャラバンで沿線の自然を紹介している最終回はイーストサイド編。ブルー・ラインのRose Quarter駅からGresham Central駅までと2つの支線(イエロー・ライン、レッド・ライン)を紹介しよう。

2つの支線とデルタ地帯

1. ウエスト・デルタ・パーク(West Delta Park)

東西の基幹路線ができ上がった後、マックスの電車網はかねてからの計画どおり南北へ路線を伸張し始めた。今世紀初頭にはポートランド空港までの空港線(レッド・ライン)に続いて、コロンビア河を挟んでバンクーバー(WA)の対岸に当たるエクスポ・センターまで続くイエロー・ラインが開通。後者の終点近くはコロンビア河とウィラメット河に挟まれたデルタ地帯を通っている。

Delta Park / Vanport駅の西側にあるウエスト・デルタ・パークと呼ばれる遊水地はポートランド市の鳥「青鷺(blue heron)」の一大繁殖地(rookery)である。春から夏にかけて、ひながかえりとても賑やかである(ほかにも大きな繁殖地としては、前号で紹介したサムトラックの沿線オークス・ボトムがある)。

当駅名の後半部のVanportという地名、じつはつい半世紀前にはバンクーバーとポートランドに挟まれたデルタ地帯にあったVanport(Vancouver + Portlandの意)という大きな市(ベッドタウン)に由来する。学校が9校もある本格的な街だったが、ここにも自然と人間のせめぎ合いによる小さな歴史が刻まれている。

その街は自然の猛威への備えに致命的な誤りがあった。この市の堤防の設計は、大河に挟まれたデルタ地帯のものとしては安易過ぎたのだ。自然は当時の人間達の防災計画と運営のずさんさを見逃さなかった。1948年の春に高さ12フィート(3.6メートル)にも上る大水が街を襲い、この市は一夜にして壊滅してしまう。これがこのデルタ・パークのいわば前史である。

グロット(Grotto)
▲小川が流れ、よく手入れされた花壇が美しいグロット上部の庭園は、空中に浮かんでいるようなたたずまいだ
大十字架
▲空港線の駅のホームからポートランド方向を望む。グロットの目印は正面の山の中腹にある大十字架
グロット下部
▲岩壁と高い木立、野外聖堂を囲むグロット下部の庭園は冷厳な雰囲気が漂っている


風格漂う空中庭園

2.グロット(Grotto)

東のGateway / NE 99th Ave.駅から北へ、もうひとつの支線がポートランド空港へ延びている。これがレッド・ライン(空港線)。この線のParkrose / Sumner駅の南、徒歩10分の所にあるグロットは、この地に入植した人達の信仰のよりどころとして1923年に造られたカトリックの野外聖堂である。そこは原生自然ではなく自然植生を生かした広い庭園なのだが、入り口のレッドウッド並木の大きさを見るとすでに「古刹」の風格が漂う。園内は、高さ110フィート(約33メートル)の岩壁によって基部と上部に分かれている。岩壁を穿って岩窟が造られ、ミケランジェロの代表作、大理石のピエタ像(レプリカ)がまつられている。基部はダグラスファーと石楠花の鬱蒼とした森、上部は雰囲気が一転し、「空中庭園」のような明るい庭園となっている。ここからコロンビア河やセント・へレンズ山の景観が楽しめる。どちらの庭園にも小径が通り、道沿いに彫像、絵画など各種の宗教芸術作品が展示されている。そのほかに、よく手入れされた花壇、礼拝堂や瞑想堂などもあるが、この建築の内部外部と共に訪れる人々の心を洗うたたずまいも、この庭園が隊長お気に入りスポットのひとつである理由だ。

歩いて、食べる

3. グレンドバー・ゴルフ・コース(Glendoveer Golf Course)

マックスのE.148th Ave.駅の1ブロック北にあるグレンドバー・ゴルフ・コースはグリーンを囲む針葉樹の木立を縫うようにウォーキング・コースが敷かれている。ここには天気の許す限り、いつも散歩やウォーキングのために集まってくる人達が絶えない。このコースにはバーク・ダストが敷いてあり、ウォーキングやジョギングの足にも心地良い。リスや小鳥も集まり、イーストサイドの街の人々にとって格好の運動と憩いの緑地となっている。ここはポートランド市の公園でもあるので、北東のコーナーにはトイレやベンチ、水道、駐車場が完備。しっかり歩いてお腹がすいたら、クラブハウスの隣にあるレストラン「リングサイド・ステーキハウス」へ。ここは常に全米のトップクラスにランクされるポートランドを代表するステーキハウスである。

ウォーキング・コース
▲ゴルフ・コースに併設されたこのウォーキング・コースは、いまや近隣の人々の健康のためになくてはならない存在


半世紀前のマックス路線

4. スプリングウォーター・コリドール(Springwater Corridor)

マックスの東の終始点Cleveland Ave.駅のひとつ手前のGresham Central駅より南西の方向を目指して住宅と商店街を5ブロック下ると、Gresham Main City Parkが見えてくる。スプリングウォーター・コリドールは公園の南端を東西に走るトレイル。駅からトレイルまで2/3マイル、徒歩20分。このスプリングウォーター・コリドールのトレイル自体は17マイルと歩くには十分に長い。それもポートランド南東部の40マイル・トレイル・ループ(実際は総延長140マイル!)の一部を成している。このトレイル・ルートは、1903年から約半世紀の間使われていた電車の路線だったが、1990年に線路が撤去され、多目的トレイルとして生まれ変わった。トレイルの大部分はアスファルト舗装され、ベンチや案内板、サインなどが整備されている。距離があるので自転車で回るとかなり足を延ばせるだろう。

ウォーキング・コース
▲スプリングウォーター・コリドールは公園の南端を東西に通っている。トレイルはよく整備されている
ウォーキング・コース
▲このスプリングウォーター・コリドールのトレイルは、じつは隊長の家の前を通っている。朝夕ここを散歩しつつ、このコラム原稿の構想を練っている。ちなみに家族の一員のこのイエロー・ラブの名も「MAX」


春には沿道にワラビが頭をもたげ、春から夏にかけてはフォックス・グローブ、ヤナギラン、デイジーなど季節の花が美しい。夏の終わりにはブラック・ベリーの実がたくさん実り、それを摘む人々も多い。トレイルには野ウサギがよく現れる。

隊長の独白

マックス沿線の自然を訪ねて歩く。電車というのはいろんな意味で優れたやさしい移動の手段だなあと思う。人間とさしでかかわっている自然がそこにある。それは交通を通じて人々の暮らしてきた歩み=歴史の断面が連続して見て取れる景色でもある。

これからトライメットはポートランドを中心とした未来の都市型交通網を目指して、マックスの路線を南へ延ばしていく計画である。

それができ上がる2、30年後には私達を取り巻くエネルギー状況も、温暖化も都市化も地球規模で大きく変わっているだろう。私達は今まるでブラインド・コーナーに入っているようだ。決して交わらぬ2本の鉄路のずっと先にそれを見通そうにも、現代社会の変化はあまりにも速い。いとおしい沿線のさまざまな自然の姿よ、どうか変わらずに在ってくれと願うばかりである。

Information■ウエスト・デルタ・パーク(West Delta Park)
青鷺の観察場所はウエスト・デルタ・ゴルフ・コースの周辺。時間は朝夕が良い。
N. Denver Ave. & N. Victory Blvd., Portland, OR
ウェブサイト:www.parks.ci.portland.or.us/Parks/WDelta.htm
■グロット(The Grotto)
Parkrose / Sumner駅のホームに降り立ち、空港と反対方向を見ると正面に大きな十字架のある岩山が見える。それを目指して住宅街を抜ける。徒歩10分。岩山の基部の岩窟を中心とした64エーカーの広い野外聖堂。岩窟にロウソクというまるで黒魔術のような光景が広がり、中世ヨーロッパのキリスト教のオドロオドロシイ雰囲気がほのかにうかがえる。エレベーターで上部の空中庭園と瞑想堂へ。
NE 85th Ave. & Sandy Blvd., Portland, OR TEL:503-254-7371
ウェブサイト:www.thegrotto.org
■グレンドバー・ゴルフ・コース(Glendoveer Golf Course)
E. 148th Ave.駅より住宅街を1ブロック北へ行くとゴルフ・コースの林が見えてくる。入り口は南のGlisan St.、141st Ave.辺りと北東の角、NE Halsey St. / NE 148th Ave.。
TEL:503-253-7507 ウェブサイト:www.metro-region.org/article.cfm?ArticleID=158
■スプリングウォーター・コリドール(Springwater Corridor)
この「都市トレイル」については改めて単独で紹介したい。
ウェブサイト:www.parks.ci.portland.or.us/Trails/Springwater.htm
Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。
ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan