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自然・庭・人

アメリカ・ノースウエスト自然探訪2005年06月号掲載 | 文・写真/小杉晶子

6月、日本の梅雨なんて信じられないくらいノースウエストの爽やかな初夏。
花があちこちで咲き乱れ、「さて、今年は庭をどうしようか?」なんて考えながらの
ガーデニングは楽しいものです。今回はいつもの隊長に代わって、
ガーデナーの私が庭を通して知った日米の文化の一面をお話しします。

シャクナゲ
▲針葉樹とシャクナゲのコンビネーション。裏庭のデザインの参考に
シャクナゲ
▲茂り過ぎたシャクナゲの枝を切ると、庭が透けて見えて遠近感が出る
シャクナゲ
▲ワシントンの州花、シャクナゲ


ノースウエストの一番いい季節

爽やかな風がダグラスファーの緑の中を通り抜ける中、ミツバチが音を立てて忙しそうにブラックベリーの花を行ったり来たり。湖や海の水もキラキラと幸せそうに輝いて、ノースウエストの一番いい季節の到来です。日曜に聞こえてくる芝刈り機の音、刈られた芝のにおい、「あー、シアトルの夏だー」と体で感じられるようにもなりました。日本にいた時は、ほのかな梅の花の香りをかいで早春を感じたり、祇園祭りの“コンチキチン”の音で「あぁ、夏が来る」と季節を感じていましたが、私がシアトルに来たばかりのころは、においも音も親しみがなく、知らない土地にいることに不安を覚えたものです。

ワシントン州花 「シャクナゲ」

6月に入ると、だいたいの庭木は花を終え、枝をぐんぐん伸ばし始めます。そろそろアジサイの花が咲き始めたり、フラワー・ポットやハンギング・バスケットが色とりどりの花で飾られたりするでしょう。ノースウエストの庭を見回してみると、ほとんどのお庭にシャクナゲが植えてあるのに気付きます。早咲き種は2月から咲き始め、6月ごろに遅咲きがピークを迎えます。またこの時期にハイキングやキャンプに行くと、ダグラスファーやヘムロック、シーダーの針葉樹の陰で凛と野生のシャクナゲが薄い桃色や紫色の花を咲かせているのを見掛けます。シャクナゲはおよそ900種からなる大きなグループのツツジ属(Rhododendron)の花で、世界でもいろいろな場所で自生しています。特に品種改良が進んだヒマラヤや中国、日本のシャクナゲは強くてカラフルな花を咲かせるため、とても人気があります。

ちなみに皆さん、ご存知でしたか? ワシントン州の州花が自生するシャクナゲの花だということを。

さて、皆さんのお庭でも毎年大輪の花を咲かせているかもしれないシャクナゲですが、大きく茂り過ぎて、家の窓を覆ってしまったり、2階の窓に届くほど育ってしまったりしていませんか? シャクナゲは剪定に強い木なので、思い切って時にはいらない枝を下ろしてみるといいでしょう。ただし、剪定はただやみくもにするのではなく、大きくなり過ぎた枝を付け根から取り除いていくようにしていくと、形良く仕上がります。時期は花が終わった後、もしくは冬にやると木に対するダメージを少なくすることができます。

また、家のそばに植えてあることが多いシャクナゲですが、裏庭などに針葉樹と一緒に植えると、立体的なノースウエストの森のような雰囲気が出て、自然な感じのデザインの庭になります。

松
▲断崖に生える雄々しい松を庭で表現
プリモローズ
▲湿ったところに生える、ピンクの花を付けたプリモローズ。苔・ツツジなども小川に沿って植え、自然を写した庭
シャクナゲ
▲自生するシャクナゲ


ガーデニングとは……

「日本と違って庭が持てるなんてぜいたく」と実感されている方がいらっしゃるかも知れませんが、皆さんのお庭はどんな感じに造られているんでしょう? 私がいろいろな人から受ける質問の中で一番多いのが「庭を良くしたいんだけど、何からどうやって手を付けたらいいのかわからない」というもの。そうですね、庭は人の性格のように一つひとつ違うので「これがいい」と言うのは難しいです。日当たりが良い庭、悪い庭、水はけの良い庭、悪い庭、風の強いところなどいろいろあります。でも一番大切なのは、その環境にあった植木をまず選ぶこと。

ガーデニングを始めた時、私はどちらかと言うと日本風の庭より、多くの若い女性が好む西洋風の花いっぱいの庭に憧れていました。バラのアーチに青い芝生、ハンギング・バスケットにフラワー・ポット……。どれも明るく躍動的で、日本で育った私にはとても魅力的に見えました。ところが、こちらで園芸の授業を取り始めて驚いたのは、クラスメートの何人かがあの静まった日本庭園に大きな憧れを抱いていたこと(特にランドスケープ・デザイナーを目指す人達に多い)。そんなクラスメートに、私が京都の近くで生まれ育ち、お寺の庭を特別なものに感じないまま日常の一部として生活していたころの話をすると、うっとりとした顔で「わぁー、なんてうらやましい」なんて言われたものでした。きっと私もその人達も隣の芝生が青く見えたのかもしれません。

庭は“守(も)り”をするもの

私がアメリカで園芸を勉強してまず感じたのが、「この国に住んでいる人達の日常の生活と自然の間に、何かしらの隙間があるんじゃないかな」ということ。違う言葉で表すなら文化と自然があまり密着していない。私は文化人類学者や社会学者ではないので詳しいことはわかりませんが、アメリカは「自然と対立した社会」、日本は「歴史が長く、衣・食・住と自然が絡み合った社会」だと思います。

授業では、最新の科学論文を読んだり、いかに早くたくさんの仕事ができるかというメンテナンス中心の強い考えを教えられた気がします。それならば「なぜ私は庭を造りたいのか?」「人は庭が必要なの?」 ── そんなことを毎日学校に通いながら悶々としていた時、ある京都の庭師さんが書いた本を読んで、はたと気が付きました。

「造った庭というのはずっと見てやらなあきませんわ。みなさんはこれを手入れするといいますな。手入れするからあきまへんのや。守(も)りをせなあきまへんのやわ」

庭は人間より寿命が長い。庭、樹木は一過性の消耗品ではないので、“守り”とは相手の性格に合わせて、子供を育てるように、世話をしてあげることなのです。それに対して“手入れ”とは、散髪をするように一時的なもの。たくさんの機械や道具を使って早く奇麗に仕上げるという目的で手入れされている庭は、その時だけ奇麗であればいい、駄目になったらまた取り替えればいい……。最近の何でも使い捨てという考えが、今の庭のデザイン、メンテナンスに出てきているのではないのでしょうか。私には手入れの段階で庭は既に自然と掛け離れていて、自然という生きた相手が見えなくなります。人はそこから深い意味を感じ取ることはないでしょう。

日本庭園で考えたこと

デザインも、西洋と日本の庭にはかなりの違いがあります。西洋のデザインは量と色彩を重視し、「質より量」という、今アメリカに住む私達にとても身近な文化が庭にもよく出ています。それに対して日本の庭は、俗に「自然の写し」と言われます。日本の庭で一見、人工的に剪定されているような松。私もその良さや美しささえ、最初はさっぱりわかりませんでした。人間はそこから何を見て何を読み取るんでしょう。

例えば、ワシントン州やオレゴン州の沿岸に生えている松。崖っぷちで海からの強い風を受けながら“体”をくねらせ、立ち向かっている素晴らしい松の姿を見て、外国生活で大きな壁にぶち当たってもたくましく生きているあなたの姿が重なりませんか。

「庭をただ奇麗と見るのか、そこから何かを読み取っていくのか……」。そんなことを考えながら「シアトル日本庭園」でインターンとして働いていました。庭という空間に身を置くと違った世界が見えてくるようでした。

そして、「庭から何かを読み取る」ことが日本の庭の魅力なのではないかと思い始めました。日本の庭では樹木の形、枝の曲がりを美しいと見ます。どうして曲がった枝が魅力的なのでしょう。まっすぐでは退屈だからです。人間もそうではないでしょうか? 魅力的な人ってどこかちょっとしたクセみたいなものを持ち合わせていますよね。クセのある木はいろいろな困難、例えば雨や風、雪、それと隣の木との競争などを乗り越えて、枝を曲げたりねじったり工夫をしながら生き抜いています。そのクセを生かして、私達ガーデナーは心地よい空間を造り、剪定していくのです。そのころから「あー、やっぱり日本の庭はなんて奥が深いのか、ここから勉強しないとなぁー」と思い始めたのです。

これは私が実際に庭で働いて肌で感じ、気付いたことなので、まったく独自の見方。でも、なんとなく現代の間違った人の価値観が庭を通して浮き彫りになって見えているように思います。もちろん日本の庭は時代を超え、宗教・文化・建築などの影響を強く受けて造られていますが、昔の人達の自然に対する尊敬や感謝と共に、人がその中でどうやって共存していくかも強く語っているようなのです。

まだまだ経験の浅い私は「あぁ違う、こう違う」と思いながら、自然と対話しながらの勉強の日々です。でも、いつか形だけの庭ではない庭を造り、自然と人間の関係を深く語れるガーデナーになりたいと思っています。

ここノースウエストには、庭のお手本にできる美しい自然の景観がまだ数々残されています。気に入った場所をアレンジしてみて、それを自分の庭に取り込んでいく。それこそ、昔の日本人が始めた日本庭園の本来の姿なのです。

Information【日本庭園】
■シアトル日本庭園
ワシントン・パーク植物園の一部にある日本庭園。
Japanese Garden
1075 Lake Washington Blvd. E., Seattle, WA
206-684-4725
ウェブサイト:www.ci.seattle.wa.us/parks/parkspaces/japanesegarden.htm
オレゴン日本庭園
全米にある日本庭園でもっとも人気がある。日本並みの素晴らしい手入れがされている。
Japanese Garden
611 SW Kingston Ave., Portland, OR 503-223-1321
ウェブサイト:www.japanesegarden.com
ベルビュー植物園
ロック・ガーデン、日本庭園、多年草の花壇、水のほとんどいらない庭など、アイデアがいっぱいの植物園。
Bellevue Botanical Garden
12001 Main St., Bellevue, WA 425-452-2750
ウェブサイト:www.bellevuebotanical.org
【シャクナゲの見られるスポット】
シャクナゲ園
数多くのシャクナゲを見ることができる。隣にある盆栽コレクションもユニーク。
Rhododendron Botanical Garden
2525 S. 336th St., Federal Way, WA 253-838-4646
ウェブサイト:www.rhodygarden.org/page/page/1083572.htm
Akiko Kosugi Phillips
サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジでLandscape & Horticulture(園芸学)のDegreeを取得。シアトル日本庭園でのインターンシップを経て、現在は地元のランドスケープの会社で働く。最近、自ら庭の手入れのビジネスも立ち上げた。