あーあ、またやっちゃった。去年の正月に誓った約束、守らないまま、また新しい年がやって来ちゃったわ。ああ、そう言えば、その前の年も。そのその前の年も。そのそのそのそのその前の年も……。
毎年初日の出に誓っていること、それは減量。14年前にシアトルへ引っ越して来て以来、じわじわと勝手にわたしのあごや、腕や、腹回りや、お尻にべったり繁殖していったぜい肉30パウンド。「不法滞在だ! 撤去しやがれ!」と揉み殺そうとしても、ぶにゅぶにゅとかっ達の悪い応答しかしない。「焼肉にして食ってやるぞ!」と脅してはいるが、包丁さばきに自信がないため食用化できずにいる。
日本に行く度に「でぶでぶでぶでぶ」と、皆に連呼される。その度に「ちきしょう。絶対やせてやる!」と闘志に燃え、ダイエット本を買い込みシアトルに戻って来るのだが、シータック空港の税関を抜けた辺りで気が緩む。お相撲さんのような税関のオネエチャンに「おかえりなさい」と言われると、「ああ、でぶの国に戻って来たんだ〜」と安堵して、日本での屈辱をきれいさっぱり忘れてしまう。でぶモードぶっちぎりで暴飲暴食の暮らしを復活させてしまうのだ。
ついこの前日本に行った時も、泣きたくなるほどの屈辱を受けた。わたしは、昔勤めていた会社の同期達と、入社20周年を祝うパーティーに出席するため、わざわざシアトルから駆け付けた。90人が集まる同窓会のようなもの。同窓会と言えば、昔好きだった男と再会して、きゃー!心ときめき青春復活!みたいに盛り上がるはず……と、うきうきわくわく出掛けていった。
もう10年以上会っていない面々に会い、わたしは興奮していた。「わー!きゃー!K君じゃないの〜」「わあ、N君も変わんないね〜」なんて、かわいこぶってぎゃーぎゃー騒いでいると、「ひえ〜、どうしたんだおまえ!」「どうやったらそんなでぶになれんだよー」と、男共がわたしに群がり、二の腕や腹をばんばんたたいて笑いまくるではないか。
同期の仲間達は、やせていた。日本でメタボが流行っていると聞いて安心していたのに。男も女も皆シックに黒やグレーのすっきりファッション。かっこいい。わたしは……。わたしは、この日のために!と選りすぐった蛍光黄緑色のシャツを着ていた。すかした麻布のクラブで、ほかの女達の2倍の幅を利かせ、輝き目立つ蛍光黄緑でぶ。「めでたい=派手な色」というアメリカおばさんファッション根性が知らぬうちに染み付いてしまっていたのだ。ああ、悲しい。
「わはははは」「すげえ変わりよう」。笑う笑う、みんなが笑う。「うるせー! てめーらは貧しくて食うに食えねーだけだろが! アメリカは潤ってるからなあ、毎日分厚いステーキ食えるんだよ、バーカ!」。
ちきしょう。心ときめく青春復活はどこへ……。叫んで暴れて大酒飲んで夜はふけていった。
「おい、この夏また同期会やれよ! ばっちりやせてくるからな、びっくりすんなよ!」。大見得切った捨てぜりふを残し、わたしは日本を後にした。
やせてやる!今度こそ!絶対!もう笑われないぞ!うおおおおおおおおお! やせるぞパワーをみなぎらせ、鼻息荒くシアトルの税関を出ようとすると、「おかえりなさい」。ああ、まただ。相撲のネエチャンがいる。「ああ、わたしはこの国では全然でぶじゃない。日本の感覚が狂ってるだけなのさ」。スーツケースをガラガラやっているうちに、さっきまでのやせるぞパワーは食欲に変わり、「ねえ、帰って来たんだけど食べ放題行かない?」なんて、早速食い倒れ友達に電話をしてしまうのである。
2010年。今年こそ、どうにか霜降り人間から脱皮したいんだけどなあ。でぶの国の居心地が良過ぎるんだよなあ。なんか良い方法はないのかなあ。一応、今年も新年の誓いは、「今年こそ!」だ! 今年こそやせたいぞー! 今年こそマジだぞー! そういうことで今年も皆さんよろしくね。
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