「いやあ、わたしデブだから」
「そんなことないわよ」
……と周りのアメリカ人に言われ続けて11年。ふと気が付くと、わたしはやつらよりもかっぷくのよろしい中年女になっていた。やつらは毎日ジムに通い汗を流し、11年前と変わらぬ体型をキープしながら、わたしのことを
「あなたはグッドシェイプよ〜」
「やせたらかっこ悪いわよ〜」
とおだて続けている。
しまった……やられた……。うそつきアメリカ人におだてられ、食べ飲み続けてきたわたしは、「裸の王様」ならぬ「霜降りの大女」になってしまった!……と気が付くのは祖国日本に里帰りをする時である。
まず飛行機を降り、成田で駆け込むトイレの鏡がおかしい。「な、なんだこのデブは!」と息をのむ。鏡の中の人物は妙に膨張したブーなのである。振り返り、どこのデブが映っているのかとデブ探しをするが、そこにデブの影はない。「わ、わたし?」どうやらアメリカの鏡もうそつきだったのである。
アメリカの鏡よ鏡よ鏡さんは、いつも「まだまだイケてるわよ〜」と言ってくれていたのに……。
あ然としてトイレから出ると、そこには棒のように細っこい日本人がうようよとひしめき合っている。皆がわたしのおいしそうな霜降りボディーをもの珍しそうに眺めている。
「わたしは神戸の姉妹都市からやって来てはいるが牛ではない!」
そう言って追っ払わないと、炭火で焼かれて食われてしまいそう。そして、皆が意味不明な言葉でわたしを迎える。
「思いっきりメタボってるわね」
「やっぱりアメリカのメタボは違うわね」だと。思ったことをはっきり言わないのが日本人の美徳なんじゃなかったのか! デブにやさしいアメリカ人を見習え! と、ぶりぶり言いながら、赤の他人の皆さんの迫害から逃げ、信頼する出版社の、お品の良い女性編集者のところに避難すると、
「やっぱり次の本のタイトルは『デブで悪いか!』でいかせてください」
と自信満々に宣言する。
「売るためにはこれっくらいのタイトルではないと」と彼女は言うのだ。
「いじりさんがそんなに太ってるって意味じゃないですから」とも言った。
そうだ、そうだ。売るためだ。仕方がない。……『女性の品格』を率先して生きているようなお品の良い彼女が言うんだから、と編集者を信じ、承諾して数カ月が経ったころ、本の見本が届いた。
本の紹介には、「おまえはそれでも日本人か!」「猛獣妻デブ道一直線!」の文字が……。「……大食い・酒乱・暴君!」「……米国人も圧倒する大食い、大デブ!」……とも。思いっきり人のことデブ、デブ、デブ、デブ言ってるじゃないか! おまえの品格はどこへ行ったんだ!!!!!
「デブに磨きをかけるように」
「やせるなよ」
お品の良いはずの女性編集者がわたしを脅す。アメリカ人に「デブじゃないわよ〜」と言われ続けてきたから安心して太れたのに、「デブ、デブ、デブ、デブ」って言われたら脂肪細胞もいじけて増殖できないだろうが!
日本は国をあげてメタボ撲滅に乗り出しているというのに、国に逆らってデブに磨きをかけねばならぬとは心が痛む。入国審査のおっさん! わたしの脂肪は「やらせ」だからね〜。成田で「メタボ入国禁止」なんて追い返さないでよ。
お品の良い編集者に逆らえぬまま『デブで悪いか!』出版されました。サブタイトルは「爆笑!猛獣妻の国際結婚バトル」だってよ。誰が猛獣じゃあ! 口から火吹いて暴れろってかー!!
ここまでボロクソに言われても、わたし泣かないわ。本が売れればいいのよ。だからみなさん買ってね〜。まわし読みは禁止よ〜。どうぞよろしくね〜。
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