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実作者が他を評論することについて

ロゴ 第18回
実作者が他を評論することについて

映画を斬る
「ガキ帝国」
1981. © プレイガイドジャーナル社

監督
井筒和幸

出演
島田紳助
松本竜介
大杉漣

深夜テレビのあるコーナーで、映画監督の井筒和幸が自腹で映画を鑑賞し、採点する「こちトラ自腹じゃ!」が話題となり、今や井筒監督の批評はおすぎ並に権威化している。彼がおすぎと違う点は、彼自身が実作者であるという点である。確実に言えるのは観るヒトの立場で映画を論するのが評論家であるなら、彼は作るヒトの立場の人間である。当然、評論家が映画を撮って駄作を作れば、余程心臓が強くない限り映画評論は二度とできないだろう。彼は番組出演時も映画監督として紹介されている。作る立場は過去の実績と切り離して、その言動を論じないわけにはいかない。つまり彼は相当自分の過去の仕事に自身があるか、無神経かのどちらかだと思うのだ。

井筒和幸の映画監督としての実績をどれだけの人間が知っているだろうか? 私見では、出世作「ガキ帝国」が唯一佳作の域であったきり、一部で評価の高かった「宇宙の法則」にしても、とても傑作の域とは言えず、要するにあまり映画界で確固たる地位を築いた監督だとは言えない。映画評論家・篠崎誠氏の撮った「おかえり」が、映画監督・井筒和幸のどの作品よりも傑作であった事実、そしてその井筒監督が映画評論をするという現実に皮肉を感じる。井筒監督が以前、某雑誌で黒澤明を大した監督ではないとでも言いたげな論調でコメントしていたのを読んで、そのあまりの放言に憤慨したことがあった。彼は大言壮語や放言の多い、とても冷静に映画を論じる人物とは思えない。それが彼の持ち味なのは分かるのだが、だからといって、この監督が貶したから観に行かないという番組の視聴者がいるとしたら(番組が人気があるだけにそういう方もいるはず)、由々しき事態ではないか? 関西弁で辛口コメントする姿が爽快に映るというのも分かるが、それだけで彼の批評が権威化されてしまうことには抵抗を感じずにはいられない。

かつて大島渚監督が「朝まで生テレビ」で顔を真っ赤にして意味不明の言葉でわめいたことが、大島さんは数々の傑作を残した。だから、それを知っている人は優しく、それを見なかったことにすることができた。でも井筒監督の場合、テレビに露出して自分の映画監督としてのキャリアを上げようとしているようで、はっきり言ってえげつない。作品よりテレビで顔の知れた映画監督になっちゃあ、お終いだ。映画監督の山本晋也を知っていても、彼の作品「未亡人下宿」、「痴漢電車」を知っている人は少ない。井筒監督も深夜テレビで風俗やストリップをレポートをする日が来るかもしれない。いずれにしても論客ぶるのは、まずは何かいい映画撮ってからにしろ! そうすれば、心あるファンは優しく許してくれるだろう。井筒監督の新作「ゲロッパ」、はその毒舌に恥じない傑作にほしい。

「僕の一言」
毎年恒例の「日本アカデミー賞授賞式」をTVで観ました。緊迫感のない構成は相変わらず。おまけに、今年は賞が決まる度にスタジオの「みのもんた」が登場し、次の受賞者の予想をしたりして緊張感はだれるばかり。脱税疑惑で忙しい「みのもんた」を、わざわざこんな役でひっぱり出さなくてもいいでしょう。プレゼンターが壇上に立ってマイクに向かう度にCMが入るのにも、ぶったまげました。CMが終わると丁度発表するタイミングなので、プレゼンターはCMが終わるまで壇上で待っていることになりますよね。各国の権威ある映画賞でコマーシャルを気にして進行する式なんて、世界でも類を見ないでしょう。まさにテレビ人が映画人を小馬鹿にしている式としか思えません! じゃあ、お前はなんで観たんだと言われそうですが、私はただ新人賞の小西真奈美を観たかったんです。「クロエ」の彼女も魅力的でしたが、「阿弥陀堂だより」での楚々とした盲目の女性役は本当に良かった……。間違いなく大女優になるに違いないでしょう。久々に女優に惚れました。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。