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マトリックス・リローデッド

ロゴ 第21回
「マトリックス・リローデッド」

© Warner Brothers

「タイム・スライス」(人間が宙に浮いた状態で時間がとまり、その状態のまま、カメラが別のアングルに移動する撮影のこと)など、革新的な撮影手法でアクション映画に革命をもたらした「マトリックス」。実は私、この前作を劇場で観ながら寝てしまったのである。いつでも観られるという安心感から、ビデオを観ながら寝ることは多々あるが、劇場で寝たのは「スターウォーズ・エピソード2」と、この「マトリックス」くらいである。映画での仮想現実の世界には入られず、自分で仮想現実の世界(夢)を楽しんでしまったわけだ。しかし、「マトリックス」がつまらなかったと言うつもりは毛頭ない。だってほとんど寝てたから話の筋もわかんないんだもん。

さて、続編「マトリックス・リローデッド」について。仮想現実世界マトリックスに入り込んだキアヌ・リーブス達が人類を守るため超人力を全開させてマシン軍団との総力戦に挑む、というのが大まかなストーリーだが、詳細に説明するにはA4サイズで50枚は必要なくらい複雑である。しかも、前作で寝ている私にとって、この複雑さは致命的であるといってよい。しかも3作目への伏線が随所に張り巡らされていると鑑賞前に聞いていたので、気が抜けない。よって、観終わった後の疲労感は途方もなく大きかった。

でも、意外におもしろかった。いや、結構好きかも。いやまて、これは傑作だ。主人公が空を飛んだり、敵役が100人になって襲って来たり、白人がカンフーやったりすれば、途端に見る気が失せる私だが、それが全く気にならない、いや、むしろ必要でしょうと思わせるような監督(ラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟)の特異な世界観、複雑なキャラクター設定。また、人間が住んでいる世界そのものが仮想であり得るという前代未聞の発想で、科学技術と人間の本質という現代社会の問題を正面から取り上げるという、その緻密なストーリーは感服に値する。以前、「トータルリコール」をSFという領域を超えた大傑作と感じたが、この作品も映画というより人間の意識に関する研究論文というべき次元にまで達している、と言っても過言ではない。高速道路を実際に建設してしまうなど膨大な製作費を投入し、CGも多用していながら、やはり監督の一貫したスタイルと途方もなく豊富な想像力を映像化するために、見事に効果を挙げているので文句を言う必要はない。

日本のアニメーターが監督したアニメ「アニマトリックス」というのも制作されている。別名「1.5弾」と呼ばれるほど、マトリックスの話を直接・間接的に連結している。単なるサイド・ストーリーではなく、「マトリックス・リローデッド」への序章となる「ファイナル~」や、“マトリックス・ワールド”形成の知られざる歴史を描く「セカンド~」、「リローデッド」に出演する新キャラクター、キッドの目覚めを描く「キッズ~」など、映画とリンクするのはもちろん、いままで語られなかった9つのエピソードで構成されている。これをビデオやDVDで観て、ゲーム版「エンター・ザ・マトリックス」を体験してから映画を観ることを推奨するというのがワーナー・ブラザーズの戦略で、その金儲けのうまさはさすが大プロデューサー、ジョエル・シルバーである。

ちなみに余談だが、主役のキアヌ・リーブスがこの作品で手にする報酬は最大3億ドル(約360億円)に上るということだ。日本のサラリーマンの生涯給料が2億5千万円なのにソニー会長の退職金が16億円だというニュースで全日本人がぶったまげたばかりなのに、キアヌは、CDやMD発展に貢献し、コロムビア映画を買収し、ソニーを現在の世界的大企業に躍進させた、かの名誉会長の退職金の22倍を1本の映画で貰ってしまったのだ。私は、以前「スピード2」出演を断ったキアヌがこの作品に出たことを意外に感じたが、そりゃ出るよ、だって360億円だもん。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。