シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

あの人は今:シルベスター・スタローン

ロゴ 第55回
あの人は今:シルベスター・スタローン

あのシルベスター・スタローンが「ロッキー6」と「ランボー4」を製作中だそうだ。最近スタローンはすっかり落ち目で、主演作品が劇場公開されることなくダイレクトにビデオ・レンタルに回されるケースも少なくない。往年のアクション・スターは誰も似たり寄ったりで、スティーブン・セガールやジャン=クロード・バンダムも主演作品が全米の劇場で上映されることはなくなった。そう言えば、ドルフ・ラングレンなんて人もいた。

「コブラ」や「ランボー3」公開時、日本でのスタローン人気はスゴかった。スタローンが自家用機で成田に到着した写真が、夕刊社会面でトップ扱いで報じられていた。日本人はスタローンが好きだった。もっとも、アメリカではゴールデン・ラズベリー賞を通算9回も受賞(ノミネートは29回!)し、2000年には長年の功績(?)に対して今世紀最大の最低男優賞を授与されている。アメリカではスタローンが好きだというだけで、変人扱いされそうだ。

かく言う私もかつてはその変人のひとりで、子供のころはスタローンの映画に大変お世話になった。「ロッキー」は「ET」以来通算2回目、私の涙腺を刺激した記念すべき作品となった。「ランボー 怒りの脱出」では、自分がランボーのように日本の街を弓で爆破していくシーンを夢想をする、いけない少年になってしまった。そんな影響力を秘めたカリスマのスタローンがくだらなく思えてきたのは、やはり「オスカー」で見せた脱力感必至のコメディー演技からだと記憶している。シュワちゃんの「ジュニア」辺りはおもしろく見たが、スタローンのコメディー演技は彼特有の悪声と共にとてつもない嫌悪感として私を襲ったのだ。それ以来、スタローンに対する信頼感は失せ、好きだった「ランボー 怒りの脱出」も、主題歌を歌う実弟フランク・スタローンのプロモーション・ビデオにしか思えなくなってしまった。一度失った信頼は、男女間の恋愛と同じでなかなか取り戻せないのだ。

ジャッキー・チェンの映画は親しんだ記憶がない。あのコミカルなストーリー展開が大嫌いだった。もともと私はTV「必殺シリーズ」など心に闇を抱えた暗い話が好きな嫌なガキだったので、ジャッキーの健康的(本当はガチンコだが)なストーリーがバカバカしかった。それは今も変わらない。ジャッキーよりはチョウ・ユンファの陰気なストーリーのほうがしっくり来たし、一度でいいからジャッキーが物語の中で死なないか、などと不謹慎なことも考えている。やはりスタローンも、あの無口なヒーローが爆発する気持ち良さが日本の大衆を引き付けたのだろう。だからコメディーになんか進出すべきではなかったのだ。高倉健のヤクザ映画に親しんだ日本人だからこそ、スタローンの映画が琴線に触れたのだろう。

そのジャッキーとスタローンが共演した作品があることは、あまり知られていない。「アラン・スミシー・フィルム」という映画だ。タイトルにあるアラン・スミシーとは、監督が編集の問題などでプロデューサーや会社と揉め、自分の名前をクレジットに出したくない時に用いられる仮名で、日本の原田眞人監督「ガンヘッド」や、NHK制作とアメリカの合作「クライシス2050」でも使用された。このアラン・スミシーが実際にハリウッドで存在していたら?というコメディー映画なのだが、皮肉なことにこの作品を監督したアーサー・ヒラーも結局、アラン・スミシー名でクレジットされている。作品の出来はかなり酷いのだが、ジャッキー・チェンとスタローンは劇中の映画に主演する本人として登場している。脚本を執筆したジョー・エスターハスは「氷の微笑」などでハリウッド随一のギャラを取る脚本家だったが、この作品でハリウッドを完全に干されている。

ちなみにスタローンはカメオ出演なのに、翌年のゴールデン・ラズベリー賞最低助演男優賞に堂々ノミネートされた。新作「ランボー4」では、監督としてオファーしたジェームズ・キャメロン、リドリー・スコットやリチャード・ドナーなどの有名監督からは断られたそうだ。そりゃそうだろう。


前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。