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上空100キロから見るセントラル・オレゴン

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2006年07月号掲載| 文・写真/小杉礼一郎

荒野、岩山、キャニオン、乾いた空気、大きな空。
カスケード山脈の東に広がる大平原を俯瞰すると、
アメリカの原風景を吹き渡るノースウエストの風が見える。

セントラル・オレゴン外縁を彩る自然

ここ数年のうちに、民間宇宙体験旅行が商業化されるらしい。料金は、ひとり約1,000万円~2,500万円だとか。だが、宇宙と言っても、この“宇宙船”は上空100キロまで昇るだけだ。「なんだ、車で1時間の距離か」と思うが、民間旅客機の巡航高度が地上10キロだからその10倍の高さである。「うーん、でもここを眺めるにはこの高さからが一番いいか」と、今回のキャラバンはひと足早く、宇宙からお伝えする。眼下に広がるのはセントラル・オレゴンである。

セントラル・オレゴンについては、これまでペインテッド・ヒルズやクレーター・レイクなど、それぞれに魅力のあるセクションを個々に紹介してきた。それらのほかにも、多くの魅力ある自然のスポットがこの茫漠とした平原に点在している。この地域をひとつのコラムで紹介するには、この大平原はあまりに広大で、とらえどころがないように思われた。しかし、上空100キロから見れば、自然は決して無秩序に存在しているわけではないことがわかる。まずは、セントラル・オレゴンを形付ける外縁部から眺めよう。

オレゴン
▲上空9キロ、旅客機の窓からセントラル・オレゴンを見る
オレゴン
▲ペインテッド・ヒルズの不思議な景色とその秘密を身近に体験できる、1/4マイルのトレイル


北辺は、コロンビア川を境にワシントン州の内陸部と分かれている。この辺りはゴージの風を使った風力発電が盛んだ。南辺は、赤茶けた南オレゴンの山地へと迫り上がっている。西に目を向けると、深緑と白のだんだら模様のカスケードの山並みが連なる。太平洋から吹いてくる大気の水分が、この山脈に阻まれて雪となり、1年を通して北西部の西側の潤いとなっているのがよくわかる。

そのカスケードの緑も、東へ向かうにつれだんだんと薄く、少なくなっていく。山脈東(内陸)側には透けた細い林が広がっている。所々の幹の赤い高い木は、ポンデロサ・パインである。セントラル・オレゴンの平原部まで下りると、かんがいされた農地とデシュート川の流域が緑色で、それ以外は白茶けている。セントラル・オレゴンの真ん中をデシュート川とHwy. 97が並行して南北に走っている。東の方角へは内陸の砂漠と草原がイースタン・オレゴンへと続いている。

水と火が織り成す稀な景観

このとらえようのないセントラル・オレゴンの大平原の自然景観を創ったのは、「水」と「火」である。 

水-雪を頂いたカスケード山脈の麓には、清冽な水が湧き出ている。森林の深い緑から砂漠のベージュへのグラデーションの間に、多くの湖水が点在する。クレーター・レイクに代表される青い火口湖や、キャニオンを浸す緑色の人造湖である。これらの湖水を結んで、緑の川岸のデシュート川が北へ流れ、コロンビア川へと注いでいる。

火-これは、火山のことを指す。カスケードのフッド山やジェファーソン山の連なる火山群を一望できるビュー・ポイントが、セントラル・オレゴンには多い。火山列島の日本を始め、世界の各地に火山はある。しかし、2桁の数の火山を整列させたようにして眺めることができるのは、ここセントラル・オレゴンならではの絶景である。しかも大火山のみならず、ミニ火山や溶岩原、クレーターが、すぐにアクセスできる近さにある(※1)。

地中でゆっくりと固まったマグマは、デシュート川とその支流の水にこれまたゆっくりと洗われて、現代の我々の前にさまざまな岩峰、奇岩となって姿を現す(※2)。火の成す仕事は、大きなものばかりではない。あらゆる色の変成岩を創り出し、黒曜石やメノウのような貴石を産み出す(※3)。ベンドの南にあるラバ・キャスト・フォレストは、その名の通り、溶岩流で固められた森林の化石である。降り積もる火山灰は、多くの古代の生き物を化石に変え、現代の我々の前に残した。これが、ジョン・デー化石層国定公園である。

オレゴン
▲スミス・ロック。クルックド川が時代を超え、セントラル・オレゴンの平原から削り出した岩峰群<
オレゴン
▲ハイウェイから目にすることはないが、セントラル・オレゴン北部には風力発電用風車が何基も設置されている


セントラル・オレゴンを味わう

目を閉じて五感で味わってみよう。ビャクシンやセージの匂い、ゴツゴツした溶岩原、湧水のおいしさ、静寂……。これぞ、風土と呼ぶべきものだと思う。自然の中に人々の暮らしも息づいている。先住民の地、開拓時代の遺街であるシャニコ、西部の街並みのシスターズ、各地にある牧場、そしてリゾート。この風土を慕って、人々はこの地を訪れる。
いくつかのミニ火山は、このセントラル・オレゴンを見渡すのに格好の展望台となる。セントラル・オレゴンではほんの少し高みに登るだけで、地球を見下ろす感覚が少しわかる気がしてくる。夜になると、満天の星が手に取れるかのように近くに見える。天の川が見え、流れ星と人工衛星が絶え間なく空を横切る。高度100キロからも悪くはないが、実際、ここは宇宙に近い場所なのである(※4)。

南西部のモニュメント・バレーに象徴されるように、開拓時代を思わせる乾いた原野風景は、アメリカらしい原風景のひとつかもしれない。年間の晴天日が300日に及ぶセントラル・オレゴンは、その一面も見せるが、ここにしかないテイストも併せ持っている。それは「さわやかな潤い」と隊長が呼んでいる北西部ならではの空気だ。

オレゴン
▲宇宙の青を映すクレーター・レイク。湖面の色は天候、日の高さにより刻々と変わる。日中も美しいが、朝夕、月明かりでの景色も素晴らしい
オレゴン
▲山火事跡に咲くルピナスの花。この火もまた、自然がダイナミックに変遷する、大事な役割を持つ
オレゴン
▲ジョン・デー化石層国定公園のシープ・ロック地区は、古生代の化石の宝庫である


※1 ミニ火山は、パイロット・ビュート、ラバ・ビュート、パウエル・ビュート。溶岩原は、Cascade Lakes Hwy.沿い、ラバ・リバーなど。クレーターは、クレーター・レイク、ニューベリー・クレーター、ラバ・ビュートなどにある。
※2 スミス・ロック、ステインズ・ピラーなど。フォート・ロックはクレーター状の岩峰。
※3 ピーターソン・ロック・ガーデン、リチャードソン・ランチなど。
※4 Gベンドの東の郊外にオレゴン州立大学の天体観測所があり、夏休みの間一般公開されている。

Information【ウェブサイト】

■ベンド観光局
セントラル・オレゴンの自然風土探訪において、行動基地となる中心の街がベンドだ。
Bend Visitor & Convention Bureau
917 NW Harriman St., Bend, OR TEL:541-382-8048
ウェブサイト:www.visitbend.org

■デー・ハイク・イン・セントラル・オレゴン
小冊子。ベンドを中心として半径50マイル圏内の、手ごろかつ見応えのある36のハイキング・コースを紹介している。
Day Hikes in Central Oregon Vol.1 / Vol. 2
ウェブサイト:www.sun-pub.com

■オレゴン州立公園
スミス・ロックなど、セントラル・オレゴンにある州立公園は、ウェブサイトでチェックできる。
Oregon State Parks
ウェブサイト:www.oregonstateparks.org

■デシュート国有林
ニューベリー噴火口、ミニ火山のラバ・ビュート、溶岩流の中のラバ・リバー洞窟など見どころ豊富。キャンプ場もある。
ウェブサイト:www.fs.fed.us/r6/centraloregon/

■ウォーム・スプリングス博物館
ネイティブ・アメリカン居住区にある博物館。先住民の歴史と文化を今に伝える。解説員の語る話は、とても興味深い。
The Museum at Warm Springs
2189 Hwy. 26, Warm Springs, OR TEL:541-553-3331
ウェブサイト:www.warmsprings.com/museum/

■ハイ・デザート博物館
ベンドの郊外にある、セントラル・オレゴンの動植物と風土をできるだけ忠実に展示している屋内外の広い博物館。
High Desert Museum
59800 S. Hwy. 97, Bend, OR TEL:541-382-4754
ウェブサイト:www.highdesertmuseum.org

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。新規ホームページとブログ作成中。近日完成予定。