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アラスカ・ハイウェイ(後編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2008年02月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

美は乱調にあり、アラスカ・ハイウェイのだいご味は
変化自在な道行きにある。
寄り道、枝道、道草で旅の魅力は無限に広がる。

寄り道のススメ

でアラスカ・ハイウェイへ行こう」と考えているお父さん。走り出して間もないのに

「ネエ、マダァ?」

「まだまだだ」

「エー、ドンダケ~」

「あと4日だ」

「・・・・・・・・」

車中でこういう流れに入ったお父さんはアッツ島の日本守備隊と同じ運命をたどる。隊長はキャラバン隊長であって守備隊長ではない。こんな場合の対応策は知らない。 

アラスカ・ハイウェイは長い。シアトルからフェアバンクスまでだと約3,700キロ以上のドライブ。走るだけで4,5日掛かり、途中の観光を含むと1週間以上の旅となる。そして、かなり単調で退屈なドライブなので、同じ道を帰ろうという気にはならない。アラスカから米本土への車の陸送サービスというのもあるらしいが(1台約2千ドルとか)、往路をひた走って帰路が飛行機というのはあまりにももったいない。

北米大陸北西部の茫漠とした原生自然の中を延々とアラスカへ導く幹線※1アラスカ・ハイウェイ。その楽しみ方のエッセンスは、海、山、森の大自然と風土を探訪する寄り道のバリエーションの中にある。

海へ・・・・・・

隊長のイチオシは、アラスカ・マリン・ハイウェイ。こちらは海のハイウェイ、つまりアラスカ州営フェリーである。

内陸のハイウェイと海のハイウェイは「これが同じアラスカか?」と思うほど自然景観が異なる。特に東南アラスカのインサイド・パッセージが魅力的だ。温帯雨林をバックに、山、氷河、街、海陸の野生生物が訪れる人々をもてなしてくれる。船は沿岸の各地に寄港するので、車の旅と組み合わせて、さまざまなバリエーションが考えられる。※2

ロッキー山脈
ロッキー山脈
▲ロッキー山脈も南へ向かうに連れて植生も色彩も豊かになっていく
ドーソン・シティー
▲かつての栄華の地、ドーソン・シティー
ユーコン川
▲ユーコン川を渡る渡し船
動物
▲北の大地ではさまざまな動物が姿を現す。特に活動が活発な朝夕のドライブには注意を


山へ・・・・・・

山としては世界一広い世界遺産のランゲル、セント・エライアス、クルアニ山群がある。この山塊は広大過ぎるので、全容を肉眼で一望して把握できる場所は(宇宙から以外には)ない。群盲象を撫でるがごとく、山の大きさにあきれながら東西南北よりアプローチしてみよう。

カナディアン・ロッキーは、アラスカ・ハイウェイの道中で越すものの、往路か復路で南の基点のドーソンクリークからさらに南に下ってジャスパー、バンフの美しい山並みを楽しむという旅程も面白い。

森へ・・・・・・

そして森。アメリカ最大のトンガス国有林※3は「温帯雨林で覆われた大きな世界」と呼ぶほうが実感に近い。千年、斧の入らぬ森の迫力は、訪れる人々を金縛りにしてしまうだろう。最北端のスキャグウェイへ車で訪れることはできるけれども、この現代まで地球に残された最大の温帯雨林地帯へのほとんどのアプローチは海上からである。トンガス国有林の南端はミスティ・フィヨルド国定公園となっている。

アラスカ州営フェリー
▲アラスカ州営フェリーと組み合わせると海と内陸の旅が楽しめる

街や風土

アラスカ・ハイウェイの寄り道の中でもひときわ面白いのは20世紀初頭のゴールド・ラッシュの跡をたどる旅だ。あの有名なクロンダイク・ゴールド・ラッシュにちなんだ、その名もクロンダイク・ハイウェイは、ホワイト・ホースでアラスカ・ハイウェイとそれぞれ南北と東西にクロスしている。

基点のスキャグウェイからの道沿いが絶景である。歴史の峠チルクート・パスを越えて北へ向かう道は、ユーコン川に沿った長い道のりである。かつての栄華の地ドーソン・シティーは、町全体がゴールド・ラッシュとはどんなものだったのかを現代に伝えている。ドーソン・シティーの北へは、ダンプスター・ハイウェイが北極海の近くのイヌービクまで延びている。※4

直線距離ではスキャグウェイとは指呼の間でありながら、車ではアラスカ・ハイウェイを通って丸1日掛かるヘインズは、フィヨルドの奥の美しい佇まいの町だ。その近くに白頭鷲の群生地があり、11月中旬という季節外れのサーモンの遡上めがけて3千羽を超す白頭鷲が集まってくる。

アラスカ・ハイウェイの南端からのバリエーション・ルートとしては、プリンス・ルパート、カナディアン・ロッキー(南部)、イエローナイフなどと組み合わせると、いっそう自然の景観の変化が楽しめるだろう。

Safety Tipsなど

ほとんどの人はむしろそのことを目的にアラスカ・ハイウェイを走るのであろうが、ここではさまざまな北の大地の自然と触れ合うことになる。ムースやカリブー、ヤギ、野牛、クマなどの野生動物に出合う。危害を加えることも加えられることもないように心積もりしておこう。

北方の道では永久凍土地帯(ツンドラ)を通ることがある。直下の地面が凍結したり溶けたりして、路面は波打ったようにデコボコになっているので十分に注意すること。走行中の多くの危険を避ける基本はスロー・ダウンである。そして走行中、ライトは常にオン。

道路工事は夏に行われる。走っていると嫌でも工事箇所を通る。そこには信号機があったり、パイロット車が出たり、片側通行、時には全面通行止めで作業をしているが、その待機時間はうんと長いこともある。また、山火事や崖崩れによる通行止めも起こる。隊長も山火事で半日停められたことがあった。車の長い列ができるが、いすやテーブルを持ち出して食事をする家族、ポーカーに興じる人達、しっかり熟睡する人などなど、皆そんな時の過ごし方をよく心得ている。運転の気持ちを都会モードから大陸モードへ切り替えられないまま来た人には大変不幸である。要は焦っても仕方ないのだ。そして通行の再開にあたっては、トレーラーやトラックが先に通される。迂回路のないこのルートでは生活や産業物資の輸送が優先される。

アラスカ・ハイウェイの枝道は、概して未舗装の林道だ。対向車の石ハネがあるから、すれ違う時は極力スロー・ダウンしよう。交通量は希薄だ。車を停めていると人々は親切に止まって「Are you OK?」などと声を掛けてくれることが多い。この北辺の地には人々の助け合いの精神が強く残っていると感じさせるひとコマである。

アラスカ・ハイウェイの原風景

この道は、対日戦のための米本土とアラスカを陸路で結んだ軍事道路だった。決してシーニック・ドライブではない。それでも「遠くはあっても確かにつながっている」と人々の心の「道」の役割もアラスカ・ハイウェイは担っている。

ハイウェイ沿いに、道路の付け替えで打ち捨てられた旧道や、凍土層で路面の傷みが激し過ぎて廃道になった区間があったりする。景勝地でも観光地でもないが、往時に思いを馳せたくなる原風景である。アラスカ・ハイウェイはそんな道である。

※1 アラスカ・ハイウェイは、米本土から車で太平洋沿いにアラスカへ向かう、いちばん海沿いの幹線道路である。ブリティッシュ・コロンビア州37号線は支線で一部未舗装だが、アラスカ・ハイウェイのさらに西側を通りワトソン・レイクの西でアラスカ・ハイウェイと合流する。かなりの悪路であり、往時のアラスカ・ハイウェイの様子をしのぶことができる。
※2 キャラバン#42「水の回廊インサイド・パッセージ」参照
※3 トンガス国有林の面積は1,680万エーカー(680万ヘクタール)で、日本の国有林面積の9割(=東北地方全域ほど)もの広さがある、アメリカで最も広い国有林。
※4 ダンプスター・ハイウェイ。この道こそハイウェイとは名ばかりのダート・ロードで、延々と地の果てイヌービクへと続く。かつてのアラスカ・ハイウェイはかくありなんと思わせる、存分にチャレンジャブルなアウトバックの道だ。北アラスカのダルトン・ハイウェイと自然景観がよく似ている。

Information

■アラスカ州DMVの道路交通情報
電話“511”で最新情報を聞くことができる。
511. Alaska.gov
ウェブサイト:http://511.alaska.gov
■ブリティッシュ・コロンビア・ドットコム
プリンス・ルパートからワトソン・レイクへ抜けるワイルドな道、37号線を解説。
Stewart-Cassiar Hwy 37
ウェブサイト:www.britishcolumbia.com/regions/towns/?townID=3952
■アラスカ・ハイウェイ交通情報
アラスカ・ハイウェイの道路情報を一括したポータル・サイト。
Alaska Highway Road and Travel Conditions
ウェブサイト:www.usroadconditions.com/ak.shtml#link2
■アラスカ・ステイト・フェリー
「マリン・ハイウェイ」と呼ばれるアラスカ州営フェリーの公式サイト。南はワシントン州ベリングハムから、北はアンカレッジ(ウィッティア港)まで。さらにアリューシャン列島まで航路がある。
Alaska Marine Highway System
ウェブサイト:www.dot.state.ak.us/amhs/
■ランゲル-セント・エライアス国立公園
4千メートル級の山系と氷河から成る公園。隣接するカナダのクルアニ国立公園と合わせ、世界最大の自然世界遺産。
Wrangell-St. Elias National Park and Preserve
ウェブサイト:www.nps.gov/wrst/

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。ウェブサイトをリメイク中。