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田中克幸さん(Kiriko Made代表)


特集「サステナブルを考える。」より

■ 2013年、オレゴン州ポートランドを拠点にスタートしたライフスタイルブランド「Kiriko Made」。その特徴は、価値がないと見なされていた日本の古い繊維や織物を使った手作り感のある物作り。無価値とされているものに新しい価値を与えるこの考えは、いわゆるアップサイクルと呼ばれるジャンルでもあります。創業者でクリエイティブディレクターの田中克幸さんにお話を伺いました。
(※ライトハウス・2022年3月号特集「サステナブルを考える。」掲載の田中克幸さんへのインタビューを元に、作成しています。)

Kiriko Made代表 田中克幸さん
田中克幸
たなか・かつゆき◎オレゴン州ポートランド在住。2013年に、大量生産・大量消費のファストファッションの対局をなすライフスタイルブランド、「Kiriko Made」を創業し、現在、同ブランドのクリエイティブディレクターを務める。「Kiriko Made」は、日本の「もったいない」の精神を、クラフトマンシップあふれる物作りで体現し、コアなファンを獲得。
https://kirikomade.com

ー「Kiriko Made」を立ち上げたきっかけを教えてください。
僕はアメリカで大学を卒業して、1990年代にNikeやLevi’sなどの古着の卸事業を立ち上げ、2007年からは、現在もやっている「Compound Portland」というストリートファッションの店を始めました。その中で、2008年くらいからファストファッションの動きが出てきて、大量生産・大量消費が当たり前のようになってきました。このままだとサステナブルでないし、商品を通じて自分たちの思いを表現することもできないと感じて、「Kiriko Made」を立ち上げたんです。

ー具体的にどんな部分がサステナブルでなかったのでしょう?
いろいろありますが、一番分かりやすいのは新作を出すシーズンの数です。それまでは、春と秋とホリデー、大きく3つのフルシーズンがあって、そこにそれらの半分くらいの規模の夏シーズンがある、つまり年間で3.5シーズンでした。それが、春、秋、ホリデーがそれぞれ実質2シーズンに分かれ、夏も半分でなくフルシーズンの商品ラインナップが求められるようになり、年間で7シーズンになってしまいました。当然、作る物が増えますし、またすぐに次のシーズンが来るので割引をしてでも売らなければなりません。僕たちとしてはそんなことはしたくないのに、他のファストファッションの企業を競合と考えると、同じサイクルで商品を作らないとお客さんにアピールできないのでやめられない…。その負のサイクルから抜けて、もっと商品自体にバリューのあるものを作りたい、という思いが「Kiriko Made」になりました。

ー業界の主流から外れることへの不安はなかったですか?
もちろん、ありました。当時、「Compound Portland」の経営がうまくいっていたので、チャレンジできた部分もあると思います。また、その頃のポートランドは、ちょうどクラフトコーヒーやクラフトチョコレートといったクラフト文化が見直され始めた時期で、サステナビリティーといったことが注目されてもいたので、その動きにうまく乗った感じもありました。ただ、最初の5年は、自分たちの情熱や、かけている労力に対してのフィードバックが小さくて、試行錯誤しました。当初は日本のファブリックを使ったスカーフなどを販売していましたが、手応えが返って来るようになったのは日本のファブリックをアメリカのファッションと掛け合わせるようになってからです。

ー日本の古いファブリックを使う、「もったいない精神」のアイデアはどこから来たのですか?
今、改めて振り返ると、日本の「もったいない」精神というコンセプトが最初からクリアにあったわけではありません。ただ、職業柄、日本に帰ると、着物など昔の本当に美しいファブリックが全く何の価値もなくなっているのを目にすることが多くて、それが心に残っていたんですね。僕は、ファッションには、本当に美しい物と、作られた美しい物があると思っています。50年なり100年なりサバイブしたファブリックというのは、手で作るのに何十時間と時間がかかってしまうものもたくさんあって、それ自体に価値がある、本当に美しいものだと思っています。それなのに何も価値がないとされてしまったそういうファブリックに、自分たちで価値を付けることができれば、作って消費して終わりでない、もっと長いスパンの何かをやっていけるんじゃないか。そういう気持ちが僕の頭のどこかにあって、それが今の形になっていったのだと思います。

Kiriko Made

 

ー「Kiriko Made」では、ゼロウェイストならぬ、ノー・ファブリック・ウェイストという取り組みもなさっています。
はい。ファブリックを全部使い切るというのはさすがに難しいのですが、使えるところまで使うことを基本としています。どうしても残ってしまうのは最後の最後、端っこの細長いファブリックなのですが、それを帽子のバンドや、ネックレス、ブレスレットにしています。

東京は江戸時代、100万都市でしたが、その巨大都市がうまく回っていたのはリサイクルというコンセプトが国民の中に当たり前にあったからだと言われています。ファブリックを、補強や保温のために重ねて刺し縫いしたり、繕ってボロにして、さらには切り裂いて糸にしてまた新しいものにしていく…僕たちはそういったコンセプトを確認しながら商品を作っています。

ー「Kiriko Made」のファンには、やはり環境問題への意識が高い人が多いのでしょうか?
そういう方ももちろん多いのですが、僕たちが考えていたほどには多くないという印象で本当に好きな物を身に付ける。結局はそれがサステナブルにつながっていくのではないでしょうかす。どちらかというと多いのは手作り感のあるクラフトやファブリックが好きな人。自分の着る物には意味を持たせたいというような人たちです。

「Kiriko Made」は、「もったいない」精神を掲げてはいますが、商品づくりのポリシーは、使えば使うほど味の出るもの、そして、それ1枚まとうだけでたくさんの人の中でもちょっと目がいくようなもの。さらに、最も大切にしているのが、西洋と東洋のカルチャーが交わるような物作りです。例えば、僕たちの商品の中には、 1960年代のLevi’sに、100年前の日本のファブリックでパッチ加工をして、新しい物にしたデニムジャケットがあります。そんなふうに、これまで50年愛されてきた物を、この先50年持ち続けたいと思ってもらう物にするにはどうしたらいいか? 僕たちはファッションの最先端を目指しているわけではなくて、過去50年と、この先50年、その真ん中になる物を、という発想で商品を作っています。西洋と東洋、文化が全く違うものを掛け合わせるから、どうしてもエキセントリックになりがちなので、むしろどのようにすればとんがり過ぎず、皆に使ってもらえる物になるかを考えています。

ーカツさんご自身は、特にファッションにおいて、私たち消費者ができるサステナブルな取り組みは何だと考えていらっしゃいますか?
先日、日本のファッションデザイナー、NIGO が、世界的なブランド、KENZOのクリエイティブディレクターに就任(2021年9月20日付)したと聞き、感動しました。また、日本のユニクロが世界を目指している、その頑張りも素晴らしいと感じています。そのように僕は日本の良い物が世界に出ていくことに関心があって、必ずしもファストファッションをすごくネガティブに見ているわけではないんです。また、「Kiriko Made」でもとりわけサステナブルということを強調してはいません。ファッションにおけるサステナブルとは、僕は、結局は、本当に好きな物を身に付けることではないかと考えています。本当に好きな物なら、自然といつまでも長く着ていたいと思うでしょうし、もし自分が使わなくなったとしても大切な人にあげたいと思うでしょうから。言葉にすると当たり前のことなのですが、時代や流行に流され過ぎず、自分に合うと思える、いつまでもいいなと思える物を見つけ出して、そういった物を身にまといながら生きていくのが本当のサステイナブルにつながっていくのではないでしょうか。

同特集「サステナブルを考える。」でのその他の方々へのインタビューはこちら » 

【サステナブルとは】

sustainable
(形容詞)維持[継続]できる;〈開発などが〉(環境を破壊せずに)持続可能な、環境に優しい

サステナブル
持続可能であるさま。特に、地球環境を保全しつつ持続が可能な産業や開発などについていう。「サステナブルな社会作り」

SDGs【エス・ディー・ジーズ】
2015年に国連が採択したsustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。具体的には人類が快適に地球で暮らし続けるために2030年までに達成したい17の国際目標を掲げている。

Permaculture【パーマカルチャー】
パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、人と自然が共生できる、持続可能な社会システムをデザインすること。農業だけに限らない。

Climate Change【クライメイトチェンジ】
気候変動。気候変動自体は自然にも要因があるが、問題視されているのは、人間の活動による地球温暖化。その原因の一つが大気中のCO2( 二酸化炭素)濃度の上昇と考えられ、大気中のCO2をいかに減らすかが課題とされている。

Upcycle【アップサイクル】
不要となった物のもともとの形状や特徴などを生かしつつ、新しいアイデアを加えることで別の物に生まれ変わらせること。ゴミを一度素材に戻してから再利用するリサイクル、不要物そのものを再利用するリユースとはまた異なる考え方。

Fast Fashion【ファストファッション】
最新のトレンドを取り入れがなら低価格に抑えた衣料品を大量に生産し、短期間で販売すること。飲食業の「ファストフード」になぞらえて生まれた言葉。

Zero Waste【ゼロウェイスト】
ゴミをゼロにすることを目標に、できるだけ廃棄物を減らすための活動。資源やエネルギーの浪費、無駄遣いをやめるという考えも含まれる。

Circular Economy【サーキュラーエコノミー】
循環型経済。「資源を取って」「作って」「捨てる」という一方通行のリニア経済モデルでは破棄されていた資材や商品を、資源として使い循環させていく経済モデル。これに取り組む企業が増えている。

*情報は2022年3月現在のものです