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美しき“騙し絵”グレイシャー国立公園

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2004年05月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

このところの陽気のせいだろうか、隊長がヘンなことを言い出した。
グレイシャー国立公園のことを「インディー・ジョーンズも真っ青」とか「本当は人に来て欲しくない世界遺産」とか挙げ句の果てに「あれは騙し絵だ」とも。まあ、とにかく落ち着いて話してください、隊長!!

マウント・フッド
▲道が屋根を越すたびに目の前に大きな景色が次々と現れ、山並みがアングルを変える。針葉樹林に混ざり、広葉樹が初夏の新緑、秋の紅葉、黄葉で彩りを添える。

米加2カ国にまたがる美しい公園

グレイシャー国立公園は世界でたったひとつ、2つの国にまたがる国立公園で、正式名称はウォータートン・グレイシャー国際平和公園(Waterton / Glacier International Peace Park)と言う。1995年にユネスコの世界遺産に登録されたこの公園は、アメリカのモンタナ州とカナダのアルバータ州にまたがり、大陸の分水嶺(雨水が異なる方向に流れる境界)であるロッキー山脈の主稜線を南北にカバーしている。

このロッキー山脈を100マイル余り北上するとバンフ国立公園がある。隊長は以前バンフ、ジャスパーの両公園を訪れ、雄大なカナディアン・ロッキーに感動したものだった。しかし、後日グレイシャー国立公園に来てみると、なぜかこっちの方が美しく目に映る。同じく両方を訪れた日本人に尋ねてみると、ほとんどの人が「グレイシャーの方が好きだ」と答える。ある時、居合わせた面々で、それはなぜだという話題になった。そこでは、湖、針葉樹林、岩肌、雪の景観までは同じだが、グレイシャーは南にあるから、山麓の森林にメープルなどの広葉樹帯の裾模様が加わる。それが新緑や紅葉の時期に彩りを添えるからだろう、ということに落ち着いた。グレイシャー国立公園はどこか日本人好きのする美しい公園なのである。

アプローチと見どころ

シアトルとポートランドからグレイシャー国立公園へのアプローチについて。飛行機のゲート・シティーはモンタナ州のカリスペル(Kalispell)かグレート・フォールズ(Great Falls)、またはカナダのカルガリー(Calgary)。アムトラック鉄道(Amtrak)のEmpire Builder号に乗るとグレイシャー国立公園の東口か西口へ着く。車でのメイン・ルートはI-90だが、コード・レーン(Coeur d’Alene)からカリスペルへはI-90を避けてUS Hwy. 2号線を通るルートがお勧め。北辺の深い森林を抜ける古道はシーニック・ドライブになっていて、時間もさほど変わらない。

園内の谷には氷河に刻み込まれた大小多数の湖がある。中でも公園の西側にあるマクドナルド湖(Lake McDonald)と東側のセント・メリー湖(St. Mary Lake)の畔には、それぞれビジターセンターがあり、東西の玄関口になっている。この2つの湖を結ぶ自動車道路は、“Going To The Sun Road(GTTSR)”と呼ばれ、公園内のメイン・ルートになっている。道が尾根を越すたびに目の前に大きな景色が次々と現れ、山並みがアングルを変える。カーブごとに歓声が上がり、溜息がもれる……そういう道である。この道の分水嶺が、標高2,025mに位置するローガン・パス(Logan Pass)。観光スポットとして公園の中心となっており、ビジターセンターもある。

山脈東側の谷、メニー・グレイシャー(Many Glacier)は、岩山と湖に囲まれた素敵なキャンプ地だ。グリンネル氷河(Grinell Glacier)を始め、多くのハイキングやトレッキング・コースの発着地になっている。
南のトゥー・メディスン(Two Medicine) 湖畔は、景色が穏やかで森とクリークの楽園。朝・夕方は水辺に出てくる動物達と出会うチャンスも多い(隊長はこの近くでグリズリー・ベアを見かけた)。

グレイシャー国立公園はGTTSRを通るだけでもロッキー主脈の美しい景観を満喫できるが、ほかの自然公園と同様、自分の足で歩くことで、楽しみと発見は何倍にも膨らむ。主なトレイルについては、右のインフォメーションを参照してほしい。

トレイル・ウォークのほかに園内で楽しめるアクティビティーは、ボート、ホース・トレッキング、キャンプ、ハイキングなど。写真撮影スポットにもこと欠くことがない。

マウント・フッド
▲公園の西側にあるマクドナルド湖。ボートやカヤックで湖に出る人も多い。湖畔にはビジターセンター、キャンプ場、ロッジ、郵便局などがある
マウント・フッド
▲目立たないガードレールと見事な石組の法面処理。園内のメイン・ルートGTTSRの険しい峠に差しかかる所では、景観と安全の維持を両立すべく、最大限の努力が払われている


見事な“騙し絵”

GTTSRの建設当時、特に西側からローガン・パスに差しかかる区間の工事は難を極めたらしい。その後も道の整備は行われているが、改めて見事な造り方だと感心する。特に法面の石組み処理が素晴らしい。山肌の岩の節理と見分けがつかないように石が組んであるのだ。また、国立公園内の車道の常で、ガードレールも極力少なくしてある。安全上ガードが必要なカーブには、約60cmの高さに輪留めの石垣が構築してある。その石も道の周囲の岩を使っているので、遠くから眺めると山腹を2車線の道路が通っていることには気付かない。映画『インディー・ジョーンズ:最後の聖戦』に出てくる、空中の石組みの橋を見た時「あ、グレイシャーのあの道!」と思ったほどだ。

この道が峠に差しかかるところで、ガーデン・ウォールと呼ばれる岩壁帯が上から覆い被さるように見えてくる。周囲の山の裾野は広くて大きい。その上に岩の屏風が立て回されているようだ。しかも森林限界の上で、周囲に目安となる木がないことから、下から登ってくると、とてつもない大岩壁のように錯覚してしまう。

その錯覚を感じたまま峠に出て周囲の山や岩峰群を見ると、実際の標高差の2、3倍高く見える。レ二ア山やフッド山などの独立峰と違って、グレイシャー連峰の一つひとつの山は実は小さい。しかし、それを感じさせない裾野の広がりがある。それは、あたかもうまく作られた映画の書割り(セット)のようだ。“騙し絵”と呼びたい思いが少しわかっていただけただろうか? 

また、公園名を標榜する「グレイシャー(氷河)」だが、この半世紀で氷河はどんどん後退・消失している。はっきり言って、ここには氷河の残滓があるに過ぎない。なんとなく枯山水の空気が漂っている──そんな景観である。氷河そのものの姿を期待するなら、アラスカ、もしくはレ二ア山やオリンピック半島へ行く方がいいだろう。では、この“グレイシャー”国立公園は誇張されているのだろうか? そうではない。冒頭のバンフとの比較で抜けていることがひとつある。それは、カナダは国策として自然を海外にPRしている一方、アメリカは国立公園局(National Park Service)のホームページ以外では、まったくと言っていいほど宣伝していないことだ。それでもシーズン中は、GTTSRが渋滞するほど多くの人がこの公園へやってくる。世界遺産には「登録してしまった」けれど、願わくば観光地化してオーバー・ユースになって欲しくない、というのが偽らない連邦政府の意向なのだろう。

それにもかかわらず、ここならば何度でも騙されに来たいと隊長は思っている。

Information

■グレイシャー国立公園 Glacier National Park
公園内の国境を通過する際には、アメリカ・カナダの出入国の手続きがあるので、パスポートかグリーンカードを携行しよう。ちなみに、夏の間、園内の要所(ロッジやビジターセンター)を結んで運行されるシーニック・コーチ(Scenic Coach)は公園の目玉でもあり、人気がある。ボンネット型コンバーチブルの赤いバスで、ドライバーがガイドを行う。GTTSRを通るルートもあり、移動と観光が同時に楽しめるのでお勧めだ。シーニック・コーチの詳細、キャンプ場、トレイルなどの情報は、下記の国立公園局(National Park Service)の公式サイトで確認を。
1406-888-7800(ビジター・インフォメーション)
ウェブサイト:www.nps.gov/glac

■グレイシャー国立公園内のお勧めトレイル
●シーダー・ネイチャー・トレイル Trail of The Cedars
マクドナルド湖からGTTSRを東へ5マイル登った沢筋にある。ガイド・ボードもしっかり設置されたセルフ・ガイデッド・トレイルやボードウォークもあり、車椅子の人も楽しめる。名前の通り、アメリカ杉(ウェスタン・レッドシーダー)の林が見事。ループ1/2マイル / 約40分。
●ヒドゥン・レイク・オーバールック Hidden Lake Overlook
一番人気があるトレイル・ウォーク。ローガン・パスのビジターセンターの裏から始まる。途中にお花畑も眺められる。6月はまだ残雪があるので、サングラスとスパッツ(gaiters)が必要。往復3マイル / 約2時間。
●ガーデン・ウォール The Garden Wall
ローガン・パスよりGTTSRのヘアピンカーブ(The Loopと呼ばれる地点、シャトル・バスのストップがある)まで、分水嶺の岩壁に沿って歩く。ここも人気のトレイル。雪の状態によってオープンが決まるので注意(通常7、8月頃)。片道12マイル / 6~8時間。
●サン・ポイント Sun Point
セント・メリー湖岸のGTTSR沿いにある。戦前まで乗下船場のある公園の玄関口として賑わっていた絶景の地だが、地名とは裏腹に、今では忘れられたスポット。往時をわずかに偲ぶばかりに静まりかえり、周辺の景色の美しさが心に染み入る。トレイルは、ループ1.3マイル / 1時間。

■アムトラック鉄道 Amtrak
グレイシャー国立公園へ行くアムトラック『Empire Builder』の運行状況と料金はここで調べよう。
ウェブサイト:www.amtrak.com/trains/empirebuilder.html

■プレーン・インディアン博物館
The Museum of the Plain Indian
公園の東に位置する街、ブローニング(Browning)にある博物館で、ロッキー山脈以東のプレーン・インディアンの各部族の歴史や風土についての展示がある。彼ら自身の歴史はもちろん、北西部沿岸や山岳のネイティブ・アメリカンの歴史とはまた異なっていて興味深い。
Junction of U.S. Hwy. 2 and 89, West Browning, Montana
1406-338-2230
ウェブサイト:www.doi.gov/iacb/museum/museum_plains.html

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。
ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan