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黒沢清とホラーの法則

ロゴ 第2回「回路」
黒沢清とホラーの法則

Kairo
© 大映 日本テレビ 博報堂
IMAGICA 2001

監督・脚本
黒沢清

出演
加藤晴彦
小雪
有坂来瞳

配給
東宝株式会社

公式サイト
http://www.kairo-movie.net/

10月も終わりに近づき、だんだん寒くなってきたので、今年の冬は怖い映画なんぞ観てもっと寒くなってみるのはどうだろう? 私はかつて本当に怖い映画というものに出会ったことなどなかったが、「リング」という作品は非常に怖く、会いたかった初恋の人に出会ったような感慨を受けたものだ。同時上映の「らせん」がくだらなかったから、余計にそう感じたのかもしれないが。「リング」が呪いの映画なら、「らせん」は呪い落しの映画だって言うファンもいたくらいである。

日本人はやはり日本的情緒のある怪談、恨みや情念の世界が好きなようだ。アメリカのホラーは楽しくても、怖いものはほとんどない。ジェイソンの出てくる映画だって、子供のころの私にとっては怖いものでもなんでもなく、シャワー・シーンの多いことだけが唯一の楽しみだった。

そんな私が注目しているホラー映画は、もちろん日本人監督のもの。なかでもおすすめは中田秀夫監督の「リング」と、黒沢清監督「CURE」と「回路」だ。「回路」はビデオになったので、まだ観てみていない人はぜひ借りて観てみよう! 大傑作ですよ、この映画は。でも自分の周りでこの映画を誉めているのは私だけである。確かに万人受けするタイプの映画ではない。しかし、黒沢清監督はヨーロッパ、特にフランスでは非常に評価が高く、この「回路」もカンヌ国際映画祭という世界一権威のある映画祭で賞を取っている。しかもホラー映画が賞を取るのは異例中の異例というオマケ付きなのだ。今やクロサワと言えば、黒澤明でなく、彼を指すと言うほど有名な御仁である。

黒沢清監督の映画は確かに取っ付きにくい所がある。やたら知的だからだ。それが難しい映画の好きなフランス人に受けたのであろう。劇中に登場する幽霊がハ虫類のような妙な動きをする所がやたら怖い。そういえば、「リング」でもテレビから這い出した幽霊がクネクネ動いているのが不気味だった(なんでもフィルムを逆回転して撮ったそうな)。この辺もハ虫類に嫌悪を抱く我々の生理をうまく刺激している。前作「CURE」もそうだったが、世の中はすっかりダメで、世界は終わってしまうんじゃないかと思うような、絶望的な不安感を煽る雰囲気が作品を貫いている。「死は永遠の孤独」なんて幽霊が言いながら生者を死に引きずり込み、1人、また1人とこの世から消えていくなんて、この監督はやたら人生に悲観しているようだ。

ここで、前川繁流、怖いホラー映画の必要原則を挙げてみよう。
1. 幽霊は前面に出してはいけない。立ち位置は画面の左半分。
2. 難解であるべし。
3. ハッピー・エンドであってはならない。
4. 幽霊は人間にあらず。よって得体の知れない存在であるべし。

これらの原則を「回路」に当てはめると……。なんだ、全部当てはまるじゃねえかよって、だから始めに言ったでしょ。傑作だって。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。