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オレゴン話のたね|バックナンバー 2011

オレゴン話のたね

オレゴン州在住の日本人ライターが、食、自然、文化と魅力あふれるオレゴンを、ローカルの視点から紹介。(2011年掲載記事)

*掲載の情報は( )に記された年月時点のものです。
*連載は2013年6月に終了しています。

要らない薬は警察へ トイレに流すのはNG
(2011年12月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。 ビールも好き

ハリウッド映画を見ていて、ふとしらける場面がある。(少なくとも私の)現実からあまりにもかけ離れている場面だ。例えば、たわむれる男女が、靴や服が濡れるのも全く構わず海や川にざぶざぶ入っていったり、朝起きぬけの女性がアイメイクばっちりだったり。たかが娯楽映画にリアリズムを追求したって仕方なかろう、とも思うが、なんだか気になる。朝目覚めたばかりの男女がいきなりブチューッとしたりするシーンもいただけない。歯磨きしてからにしようよ、と言いたくなる。水洗トイレに薬をざらざらーっと流す場面も、こちらはしらけるというよりは、見るたびに違和感を覚える場面だ。要らなくなったものだからといって、トイレに流しちゃっていいのかなぁ、と。だから、地元紙『オレゴニアン』で「ウィラメット川の底から抗うつ剤や胸焼けの薬の成分が検出された」と読んだ時には、「ほらね」と思ったものだ。記事には、それらの薬を飲んだ人の体から排泄されたものが汚水処理場では取り切れずに川に戻されてきたのだろう、と書かれていたが、その一方では、その昔には要らなくなった薬はトイレに流すよう指導されていたから、そのようにして薬の成分が川にたどり着いたことも大いに考えられる、とも。ちなみに、川底からはほかにも、カフェインや殺虫剤なども検出されたそうで、これらの成分が川に棲む魚にどう影響するのかを調査中とのことであった。

というわけで、要らなくなった薬をトイレに流してはいけないのである。では、どうしたら良いか? 普通のゴミとして捨てても問題ないのだろうか? 不要な薬は、警察に持っていくのが正しい。前述のような環境保護の観点からだけでなく、薬物乱用を防ぐという目的からも、ポートランドでは薬物類をきちんと処理しようという動きが広まっている。

若者の薬物乱用は、親の薬棚に置きっ放しになっている痛み止めを見つけたのがきっかけ、というパターンが多いのだそうだ。不要になった薬物は、市警に持っていけば、その後しかるべき方法で処分してくれるそうである。受け付ける薬物は、処方箋あり、なし、どちらでも。ビタミンのサプリメントやペット用の薬、軟膏、それに咳止めシロップなどの液状薬(こぼれないような容器に入れること)も受け付ける。吸引器や注射針、点滴、体温計などは対象外。

わが家にも期限の切れた薬がたくさんあったので、ざらざらーっとジップ付きのビニール袋にまとめて、ダウンタウンの警察署に持ち込んだ。建物に入ると左側に専用の箱があって、そこに入れるだけという簡単さであった。薬物中毒を断ち切ろうというような人にも、気軽に薬物を持って来てもらいたいという配慮なのだろう。こちらから話し掛けない限り、警察署の人が質問してくることはない。ポートランド警察だけでなく、ビーバートン市役所にも同様の薬物収集箱があるそうだ。折しも年末。要らない薬をきちんと処分して、すっきりした薬箱で新年を迎えるというのはどうだろうか。

ポートランド警察中央署
1111 SW 2nd Ave., Portland, OR 97204
※24時間受け付け、イーストサイド、ノースにも収集箱を設置した警察署あり
www.portlandonline.com/ONI/index.cfm?c=52241&a=364900

ビーバートン市役所
4755 SW Griffith Dr., Beaverton, OR 97005
※月~木曜7:00 a.m.~9:00 p.m.、金曜7:00 a.m.~5:00 p.m.のみ受け付け
www.beavertonoregon.gov

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新鮮なカキを存分に 海沿いのシーフード料理店
(2011年11月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。 ビールも好き

食べ物の好き嫌いというのは、不思議なものだ。子供がピーマンやニンジンが嫌いとか、シイタケが苦手とかいうのはわからないでもない。が、いい年をした大人が、ひとつも口に入るなよとばかり必死に皿の上のネギをよけているのを見ると、そこまでムキにならんでも、と思う。また、「魚介は苦手だが貝類だけは好き」という人もいて、「貝類のほうが難易度が高いでしょ」と心の中でつぶやく私。「タマネギは大丈夫なんだけど、ポテトサラダに入ってるヤツだけはダメ。あのクニャクニャした感じがどうにも」という人もいた。熱く語る当人にとっては一大事なのだろうが……。年齢と共に好みが変化するところも面白い。私はその昔、生クリームが嫌い、カスタードプリンも苦手、というかわいくない子供だったが、今は好き。昔は一切受け付けなかったカキもそう。その昔、カキフライの断面を見て以来食べられなくなったのだが、大人になって、ニューヨークでオイスター・バーに入り、ふと生ガキを試してみてから、大好物になった。カクテルソースよりも、レモンを絞るか、刻みシャロット入りのビネガーをかけるのが好み。こんなにおいしいもの、なんで今までダメだったのかしら―これまでの分を取り返すべく、せっせと食べている。

そんな遅まきのカキ好きである私が、狂喜した店がある。オレゴン・コースト、ベイ・シティーという街にある海沿いのシーフード・レストラン、ザ・フィッシュ・ペドラーだ。

シーフード・レストランと言っても、蝶ネクタイのウエーターに白いテーブルクロスなどを想像すると当てが外れる。魚が並んだショーケースがある店内に、テーブルといすがついでのように並べられているだけだ。左手奥のほうには大きなガラス窓が続いていて、その向こうは何やら作業所のよう。実はカキの加工所で、平日に来ればカキの殻むき作業を見学できるのだそうだ。私が行ったのは週末だったので作業を見ることはできなかったが、生ガキをオーダーしたら、目の前で鮮やかに殻をむいてくれた。

半ダースで$8。ぷりっぷりの身にレモンをちゅっと絞り、口に入れると―あああ。磯の香りがふわりと漂ったかと思ったら、とろけるように消えて行った。立て続けにカキをかき込んだ後に心落ち着けてメニューを見たら、カキの加工所のシーフード・レストランだけに、まさにカキ尽くし。フライ、焼きガキ、サンドイッチなどなど。焼きガキは、ペスト・ソースやブルーチーズ、ハーブ入りバターなどのチョイスがあり、どれもどんな味がするのかと興味を引かれる。

同店は今夏にリニューアル・オープンしたばかり。新装開店に尽力したのは、マコーミック&シュミックスで20年以上レストラン経営にかかわったジェフ・スキール氏だ。地元産の素材を生かしたメニュー作りを心掛けたとのこと。見掛けばかりすかしていて肝心の料理がいまひとつというレストランにはがっかりするが、こういう実のある店に出合うと、宝物を見つけたようで心が躍るのである。

The Fish Peddler
5150 Oyster Dr., Bay City, OR 97107
TEL 503-377-2323
営業時間:10:00 a.m.~7:00 p.m.(金・土曜~8:00 p.m.)
休み:なし
※カキ加工所見学は平日8:00 a.m.~3:00 p.m.

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妖精が現れる? ギネスも認定、世界最小の公園
(2011年10月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

猫カフェなるものをご存知だろうか。アメリカではなくて、日本の話。

「おかえりなさい、ご主人様」と迎えてくれるメイドカフェや執事カフェ、懐かしいメニューが並ぶ給食カフェなどの変わり種カフェについては小耳に挟んでいたが、現代日本には、猫カフェというものがあるのだそうで。リビングルームのようなしつらえのカフェに猫がいて、店内をうろうろ歩き回ったり、ごろりと寝転がっていたり、ということらしい。

「猫カフェの猫は、人ズレしちゃっているんですけどね」とは、猫カフェ利用者である知り合いの談。猫が好きだけれど自宅では飼えないので、時々猫カフェで好きなだけ触ってくるという。不思議なことが商売になるものだ。

ポートランドでは猫カフェは聞いたことがないけれど、猫がいる本屋ならある。マルトノマ・ビレッジのアニー・ブルームズ・ブックス。1978年から続く個人経営の本屋だ。落ち着いた雰囲気の店内には選りすぐりの本が並び、そしてカウンターの脇には猫店員、モリーの定位置がある。モリーは3歳の黒猫で、私が行くとたいてい寝ているが、これでも一応店内を監視するという任務を帯びているらしい。

この本屋のことを知ったのは、我が家の8歳の娘が近所のおばあさんからもらった誕生日プレゼントの本がきっかけだった。「どんな本が良いかよくわからなかったので、店の人に聞いたのよ」と2冊の本をくれたのだが、どちらも娘のレベルにちょうど合っていて、しかもとても面白い本だったのだ。

こういう本を薦める店員がいる本屋はいいなあと好感を持った。そして、さらなる好印象のポイントは、その本屋のしおり。黒い猫の顔の上半分がしおりの上部に印刷してある。読みかけのところにちょっと上部を出して挟むと、黒猫が、まるで「読んで」と言わんばかりに、こちらをじーっと見つめているという具合。

「このしおりがもっと欲しい」と言う娘を連れて店に行ってみたところ、しおりと同じ黒猫店員がいて、娘は大喜び。ウェブサイトにあるスタッフのオススメ本コーナーに、猫のモリーのオススメ本も掲載されているのがユニークだ。

猫好きにとっては猫がいるというのはボーナス的な楽しみだが、この本屋の真骨頂は、その隅々まで行き届いた雰囲気だ。大きなチェーン店とは違ってスペースが限られているから、なんでもかんでも置いているというわけではない。よく吟味された本だけが並んでいる。

さらに無料ギフト・ラッピングがあり、本が贈り物になるのがうれしいといわんばかりの様子の店員が、きれいな包装紙で手早く包んでくれる。また、名前、住所、電話番号などを登録すると、毎回の購入金額が積算され、$100に達すると5オフの割引券がもらえる(登録は無料)。子供用プログラムもあり、上記の基本情報と子供の誕生日を伝えておくと、誕生月に割引券が送られてくる。大手の本屋に対抗するための割引システムなのだろうが、どんどん利用して、この個人経営の本屋を支援したいと思っている。猫好きはぜひ。猫好きでない方も、ぜひ。

Annie Bloom’s Books
7834 SW Capitol Hwy., Portland, OR 97219
TEL : 503-246-0053  www.annieblooms.com
営業時間:9:00 a.m.~10:00 p.m.(土、日曜~9:00 p.m.) 休み:なし

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ビルの屋上のバーで夏気分を締めくくる
(2011年9月)


今月のレポーター/Yuka M.
デザイナーなどのクリエーターを対象にPR関連サービスを個人で行う傍ら、某国際ファッション誌で記事を執筆するライター業もこなす。

普段は電話など掛けてこない友人から突然1本の電話が……。

とにかく一緒に飲みに行って欲しいという誘いだった。この友人はファッション・デザイナーで、ポートランド近郊に小さいが自分のブティックも構えている。そのうえ9歳になる娘もおり、夫婦共々、両親は米国にいないから、子育てを手伝ってもらったり、ちょっとした用事ができた時に店を見てもらったりなどできる人がいない。今回は夫が休みの日に子供を見てもらって、本人は息抜きを兼ねて街に繰り出したいということだった。

せっかくだから素敵なところに連れて行ってあげたいと思い、彼女の会計士に電話をして良いバーはないか聞いた。この会計士、若干27歳にして会社社長で、毎晩街へ繰り出してはバーやナイトクラブを制覇しているやり手で知られている。そんなバー事情を知り尽くしている彼のポートランドいちばんのオススメは、デパーチャーだった。

金曜夜、そのデパーチャーに彼女と訪れた。ロケーションは完璧。パイオニア・コートハウス・スクエアから1本通りを挟んだメーシーズ隣のホテル屋上にある。天気が良い日にはテラスに出て、眼下にポートランドの街を眺めながらカクテルを1杯、ということもOK。最初に行くまで気付かなかったが、アジア料理をモダンにひねったフード・メニューがそろい、私にも、中国人である友人にもぴったりの味だ。にぎり寿司や巻き寿司、串焼き、シュウマイなどが小皿で出される。外食時にはついつい食べ過ぎに悩まされる女子にアジア系のバー・フードは最適。ちなみに私達のお気に入りは「Citrus Cured Salmon Roll」($9)と「Spicy Carrot and Avocado Salad」($7)だ。

もちろん、カクテルの種類も豊富でとてもおしゃれ。いろいろなカクテルを試してみたが、私が好むのはピーチの甘みを感じる「The Arrival」($10)。それからさっぱりしたドライ系では、日本酒、焼酎、シトラスをミックスしてキュウリを飾りに添えた「The China Sea」($9)。友人はピリッとした辛さが決め手のタイチリ・ウォッカとジンジャー・ビールが利いた「Tasho Macho」($10)が気に入った様子だった。「飲むならストレートに焼酎や日本酒じゃなきゃ」という硬派な男子もご安心を。特に日本酒は大吟醸から吟醸までさまざまある。

ガールズ・ナイトで欠かせないのはやはりデザート。今回は「White Chocolate Mousse Terrine」($6)をシェアして味わった。さらに友人はデザート用に甘いポート・ワインをオーダー。デザートを食べ終わるころには、もう夜の10時。この時刻になるとDJが大音量で音楽を流し始める。曜日によって音楽のジャンルや音量などは異なるが、この日は騒々しくガールズ・トークも進まなくなってきたので、私達は次のバーへと繰り出すことにした。

天気が良いうちに、こんな風にビルの屋上で1杯交わして過ごすのも悪くない。また、あの雨の季節がやって来る前に……。

Departure
525 SW Morrison St., Portland, OR 97204
TEL : 503-802-5370
営業時間:4:00 p.m.~12:00 a.m.(金・土曜~2:00 a.m.)
ハッピー・アワー:4:00 p.m.~6:00 p.m.、10:00 p.m.~ 閉店(金・土曜4:00 p.m.~6:00 p.m.、11:00 p.m.~閉店)
休み:日・月曜
http://departureportland.com

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生地もデザインもこだわった愛着の持てる1着を
(2011年8月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

娘が生まれてからというもの、自分の服や靴を買うことがめっきり減った。子供相手に大わらわで、身の回りに構う余裕がなくなり、せいぜい買っても、娘がいない時や寝ている間にオンライン・ショッピング。届いたものが期待外れだったり、サイズが合わなかったりも度々で、「返品しよう」と思いながらも気に入らないまま着たことは数知れず。同じTシャツを色違いで何枚も買った時には、なんとなく寂しい気持ちになった。「無難」「便利」がファッション・キーワードになりつつあったのだ。

そんなこんなで7年。最近は店に出掛けるようになったが、何を買って良いものやら、見当が付かない。頭の中には、ベーシックな形でプリーツや柄などにちょっぴり遊び心があるスカートや、七分袖で丈が少し長めのシンプルなTシャツなどと欲しいものは浮かぶが、店内にそういうものが見当たらないのである。

それならばと、以前から気になっていた、ポートランドにある洋服の仕立て屋さんを利用してみた。リンジーさんという若い女性が構える、マグノリアというスタジオだ。きっかけは、雑誌で見たウールのスカート。太いプリーツが上品で、生地も紺と濃茶のざっくりした織り目が素敵であったが、ポートランドでは手に入らぬブランドだった。いや、たまさか手に入ったとしても、高価過ぎてとても手が出ない。それで、これに似たスカートが欲しいのだけれど、と彼女に相談したのだ。
リンジーさんはいろいろと懇切丁寧に教えてくれて、おまけに手持ちの生地を少し切って、厚さの参考にと持たせてくれた。それで、生地屋で生地を選び、リンジーさんのところに持って行き、採寸をしてもらう。そして数週間後に仮縫い。ウエストが合っているかどうかなどをチェックし、またスカートの丈を最終的に決めたら、1週間ほどででき上がり。試着してみると、まあピッタリ!……って、それもそのはず。自分用にあつらえた服は既製品では味わえないフィット感だ。それに、生地も自分好みのものだし、何よりも世界にひとつしかないオリジナルというのがうれしい。

リンジーさんは、仕立てだけではなくて既製服の直しも行う。私はこの夏、20年前に買って以来、なかなか履く機会がなかった麻のワイドパンツをスカートに直してもらった。これで$65。これまでクローゼットの隅に眠っていたパンツが、この夏大活躍のアイテムになった。

仕立てに関しては、生地代まで含めると、決して安い買い物とは言えない(生地代別途で、パンツ$100~$300、スカート$75~$150が目安)。が、自分が生地選びにもデザインにもかかわり、そしてプロの職人によるカスタムメイドと考えれば、リーズナブルだと私は思う。何よりもうれしいのは、その服に愛着が持てるという点。「丁寧に作られたものを大切に着る」。これからは、これが私のファッション・キーワードになりそうだ。

Magnolia
1722 NW Raleigh St., #110, Portland, OR 97209
TEL : 503-380-1419(予約制)
www.lindsaypantano.com

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何もないのが魅力 バーベキューもできる公園
(2011年7月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

このコラムを書き始めて早3年。毎回私が担当するわけではないけれど、それでも話題探しはなかなか大変だ。最近はほとんど自転車操業状態と言っても良いのだが、実はそんな私が今まで紹介せずに取っておいた「教えたくない」場所がある。それは、ソービー・アイランドにあるハウエル・テリトリアル・パーク(Howell Territorial Park)という公園だ。
「教えたくない」などと言うと、さぞや素晴らしい穴場なのだろうと思われてしまうかもしれないが、実際のところ、何もない。ただの野原に木が生えているだけ。いつ行ってもほとんど人がいない。その何もない、誰もいないところが、私は気に入っているのだ。

元々は誰かの住まいだったらしいその地には、19世紀半ばに建てられたという白い家と納屋がある。以前はどちらも週末に一般公開していたけれど、今は閉じられている。奥のほうにはちょっとした果樹園があって、リンゴの木が植わっているが、明らかに手入れされていないので、酸っぱくてとても食べられたものではない。
そんな何もないところへ何をしに行くのか。いや、何もしないのである。持参した弁当を食べて、あとはひたすらだらだらするのみ。だらだらに飽きたら、ちょっとその辺を歩き回って、バッタを捕まえたり、小さなカエルを追いかけ回したり、隅に茂っているブラックベリーをつまんだり。何か遊具を持って行けば良いのかもしれないが、そもそもアウトドア派ではない私は屋外で何をしたら良いのかわからない。また、ここは何もしないでぶらぶらする場所、と決めているところもあり……。

ところでこの公園には、バーベキューができる簡素なグリルがふたつ設置されている。昨夏、東海岸から友人家族が遊びに来た時に、このグリルを使ってバーベキューをしてみた。リブアイ・ステーキに、玉ネギ、赤ピーマン、アスパラガス。その日はポートランドにしては珍しく、寒がりの私も暑いと思うくらいの良い天気で、木陰のテーブルでわいわい言いながらのバーベキュー・ランチは格別であった。
この記事を書くに当たり、初めてウェブサイトを見てみたところ、この公園は175人までのパーティーに貸し出されているとのこと。ちなみにお値段は、12:00 p.m.~5:00 p.m.で$225(要予約)。以前人気だった、近くの農場での結婚式(1度招かれたことがあるが、それはそれは素晴らしかった)が住民の反対にあって今は行われていないけれど、この公園がその代わりに使われているのかもしれない。これまでのところは、パーティーに使用されているところを私は見たことがないけれど……。パーティーに使われていなければ、バーベキュー・グリルの使用は予約も要らず、無料だ(25人以下に限る)。

バーベキューをしに行くと決めたら、持ち物リストを作ろう。食べ物はもちろん、炭、テーブルクロス、皿、塩、コショウ……。ライターと、焼き網をごしごし掃除するためのブラシもお忘れなく。すべて用意し、いざ出掛けたらパーティーをやっていた、となってはガッカリなので、前日にでも電話で確認しておくと安心だ。

Howell Territorial Park
13999 NW Howell Park Rd., Portland, OR 97231
TEL: 03-665-4995 www.oregonmetro.gov/index.cfm/go/by.web/id=152
料金:$175/週(平日9:00 a.m.~3:00 p.m.)ほか

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お楽しみいろいろ サマー・キャンプ情報
(2011年6月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて19年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

何が長いって、アメリカの学校の夏休みほど長いものはなかろう。肌寒い6月からスタートし、新学期は9月初めのレイバー・デー後だから、休暇はほぼ3カ月に渡る。1年の4分の1が夏休み――日本の学校の夏休みは40日くらいがスタンダードだから、アメリカでは日本の倍である(ちなみに、年間総授業日数ということになると、日本のほうが冬休みや春休みが長くて国民の祝日も多いから、アメリカが180日、日本が200日と、20日ほどの差になる)。3カ月もの間ずっと子供に家にいられたら大変……ではなくて、この機会に、普段できないような活動をさせようという高い志で子供をキャンプに送り込む。スポーツ、アート、料理、音楽、ダンス、語学、映画作りなどなど、実にたくさんのキャンプがあって楽しそうだ(いや、キャンプはタダではないから、物入りな夏に親は悲鳴を上げているのだが)。

昨年は、わが家から5分ほどのところで行われていた自然キャンプが、送り迎えにあまりにも便利だったので5週間続けてそこに通わせてしまい、ちょっと手抜きだったな、と反省した。だから、今年は気合を入れてリサーチしたので、その成果を報告したい。

まずは、オレゴン・エピスコパル・スクール(OES)という私立校のサマー・キャンプ。170のプログラムは、プリスクールから12年生までが対象。アカデミックなものからアウトドア、レゴ、クッキングまでテーマは幅広く、キャンプ終了後のチャイルドケアも日ごと、時間ごとに選べるというきめ細かさだ。

ジェルドウィン・フィールド(旧PGEパーク)のすぐそばにあるダンス・スタジオ、カミ・カーチスでは、夏のプログラムとして、バレエやタップ、ヒップホップなどのダンスだけではなく、ボイス・トレーニングも含めたドラマのクラスもある(対象年齢は3歳からレベルに応じて)。

夏の間に中国語に挑戦という向きには、べサニーにあるグッドタイム・チャイニーズ・センターのキャンプはどうだろうか。対象年齢は、4歳半から12歳まで。毎日、午前中はレベルごとのクラスでのレッスンがあり、午後は習字、料理など週ごとのテーマに沿ってのアクティビティー。先生やスタッフは基本的に中国語で話すが、英語でのサポートもあるそうだ。半日から申し込めるので、気軽に試してみよう。

イーストサイドには、ユニークなロック・バンドのキャンプも。サウンド・ルーツでは、バンド名を決めるところから、チラシ作り、演奏、作曲などを体験できる。6歳から14歳までが対象。キャンプ最終日には、ライブ演奏も行う。友達を5人集めて、1バンドとしてグループ参加もできる。楽器、レベルは問わない。

前述のキャンプはどれも、例年6月中旬までは、まだ若干の空きがあるそうだ。興味がある方は、各ウェブサイトで詳細をチェックしてみて欲しい。

Oregon Episcopal School
6300 SW Nicol Rd., Portland, OR 97223
TEL: 503-768-3145 www.oes.edu

Cami Curtis Performing Arts Center
1932 W. Burnside St., Portland, OR 97209
TEL: 503-227-8649 www.camicurtis.com

Goodtime Chinese Center
15160 NW Laidlaw Rd., #108, Portland, OR 97229
TEL: 503-553-9666
www.goodtimechinesecenter.com

Sound Roots School of Modern Music
3954 N. Williams Ave., Portland, OR 97227
TEL: 503-282-9999
www.soundrootsmusuic.com

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にぎわうフード・カートは新人シェフの登竜門
(2011年5月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて18年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

以前住んでいたニュージャージーに、昨年遊びに行った時、友人の娘さんが出し抜けに「ポートランドってフード・カートがたくさんあるんだってね」と聞いてきたので面食らった。

最後に会った時に高校生だった彼女が、今や成人してすっかり大人びていたのにもビックリしたけれど、ポートランドについての第一声が「フード・カート」ということにもたいそう驚いたので、一瞬、どう反応したら良いのかわからなかった。オレゴンって素晴らしいワインができるんだってね、とか、サーモンがおいしいんだってね、とか、ブリュワリーがたくさんあるんでしょ、といったことがより一般的だと想像していた私にとって、フード・カートはどちらかというと裏情報的な部分であり、思わず「なんでそんなこと知ってるのっ」と気色ばんでしまった。

フード・カートとは、ポートランドのダウンタウンにちらほら見られる屋台。たいていは、複数の屋台が駐車場の中で“Pods”と呼ばれる固まりを形成していて、その数は400とも言われている。私がポートランドに移って来た8年前頃には、ぽつ、ぽつと肩身狭そうに置かれていたカートだが、今は数が増えて知名度も上がり、すっかり市民権を得た感じ。
カートは色も形もさまざまで、楽しいと言えば楽しいが、そこはかとなく漂う手作り感も相まって、素人くさいというか、文化祭っぽいというか。屋台だけに、せいぜいサンドイッチやメキシカンのタコスぐらいかと思いきや、コリアンあり、ポーリッシュあり、イタリアンあり、日本の弁当あり、クレープやワッフルもあり。店構えはどれも洗練にはほど遠いが、レストランを構えるよりもフード・カートのほうがコストが低いので、シェフ達の力試しの場となっているのだそう。競争も激しいようだから、おのずと味のレベルも上がると見た。

私はこれまで、平日のランチ時のにぎわいを横目に見るばかりだったのだけれど、「ノン」というタイ料理のカートが提供するカオマンガイの評判をあちこちで見聞きし、どうにも我慢ができなくなって試してみたのである。カオマンガイとは、ご飯の上に茹でたチキンが載っているだけのシンプルな一品で、ショウガとニンニクが利いた辛いソースをかけて食べるというもの。いかにもアジアっぽいこのソースが、自分で作れるようでいて、なかなか再現できそうにない絶妙な味わい。紙に包まれたご飯とチキン、それにソースとスープが付いて$6。メニューはこれだけ、というのがカートらしい潔さである。
旅番組などで、東南アジアの屋台の映像が流れるたびに胸躍らせていたのだが、気が付いてみれば、我が街にも屋台料理文化が花開いているのであった。ちなみに、友人の娘さんは、『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事でポートランドのフード・カートについて知ったそうだ。我が街の屋台料理文化は、全国区になりつつあるらしい。

Nong’s Khao Man Gai
SW 10th Ave. & SW Alder St.,
Portland, OR 97205
TEL.971-255-3480
営業時間:10:00 a.m.~(土曜11:00 a.m.~)※売り切れ次第終了
休み:日曜
www.khaomangai.com

ポートランドのフード・カート情報
www.foodcartsportland.com

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選ぶのが楽しい 小さな町のお菓子屋さん
(2011年4月)


今月のレポーター/林 広祥
京都外国語大学を休学し、ポートランドに留学中の22才。現在はジャーナリズムを専攻。地方紙「Oregonian」を読んで、英語力アップを目指している。アニメと昭和歌謡が好き。カラオケの18番は尾崎紀世彦の「また逢う日まで」。

その昔、東京でマーケティングの仕事をしていた時のこと。勉強会と称し、ディスカウント紳士服店の店長を招いて話を聞いたことがあった。その時に店長が言っていたことのほとんどはすぐに忘れてしまったが、ひとつだけ印象に残った話がある。それは「選ぶ楽しさを客に提供する」ということ。いかにも売れそうな無難な色のジャケットだけを売り場に置いていてもダメ。あまりに突飛過ぎて売れないとわかっていても、鮮やかな赤や青のジャケットも一緒に置いておく。そうすると、客は数ある色の中から「選ぶ」という行為を楽しむことができる。また、「自分はこれを選んだ」という満足感を得られる。そんなことを、その店長は言ったのだった。

20年以上も前に聞きかじった話だが、ふいに思い出したのは、マルトノマ・ビレッジという小さな町にある、スイーツ・エトセトラという店で、お菓子をあれこれ選んでいた時だ。店内には、右側に自家製チョコレート、トリュフ、ファッジが並ぶガラス・ケースがあり、その向こう側にはいろいろな種類のキャンディーが詰まったガラス瓶がずらり。いちばん奥には、アイスクリームのショー・ケースもある。

それだけでも目移りするのに十分だが、さらに心引かれるのが、左側の壁の棚。レトロっぽいキャンディーやチョコレートがこまごまと並んでいて、駄菓子屋さんという風情である。子供の目線に合わせた低い棚には、ちょっとジャンクな色合いのキャンディーがあるかと思うと、オーストリア製のマジパン入りチョコレートなどもあり、子供でなくても選ぶのに手間取ってしまう。

7歳の娘は、「ゴールデン・チケットが入ってるかも!」というミスター・ワンカの板チョコを見つけて興奮していた。『チョコレート工場の秘密』(映画版は「チャーリーとチョコレート工場」)の話の中では、チョコレートの包みの中にゴールデン・チケットを見つけた子供が、ワンカさんのチョコレート工場に招待してもらえるのだ。私は、パラソル型のチョコレートを手に、「私が子供のころ、日本にもこういうのあったよ」としみじみ。あれこれ選ぶのが楽しくて、親子共々、時の経つのを忘れるのであった。

窓のそばにあるテーブルでアイスクリームを食べていたら、脇の棚にリコリス(甘草)菓子がいくつも並んでいるのを発見。店の人に、「以前、デンマーク人の友達からもらった、アンモニアっぽい匂いがする、しょっぱいリコリスが妙においしかったんだけど、そういうのありますかね?」と聞いたら、「これだな」と即座に答えが返ってきた。店で扱っているものはすべて知り尽くしているという感じが頼もしい。勧められたリコリスは、私が求めていた通りの味であった。
選びに選んでようやく買うものを決めたはずなのに、レジでお金を払いながら、「あっ、このセクションはちゃんと見てなかったぞ」とまだ目移りしている。今度来たら自家製トリュフを試してみよう、などと、店を出る前からもう次のことを考えているのである。

Sweets Etc.
7828 SW Capitol Hwy., Multnomah Village, Portland, OR 97219
TEL : 503-293-0088
営業時間:11:00 a.m.~8:00 p.m.(金・土曜~8:30 p.m.、日曜12:00 p.m.~5:00 p.m.)
休み:なし
www.sweetsetc.com

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ペットなしの日々にさよなら ポートランドでシェルター体験
(2011年3月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて18年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

わが家の猫が昨夏に死んだ。93年、ニュージャージーに住み始めてすぐにもらってきた猫で、享年18。私達が日本に里帰りしていた間のことで、最期を看取ることもできず残念であった。預けていた獣医が火葬を済ませており、小さな紅茶の缶のようなものに灰になって納まっていた。

ペットが死ぬと、「別れが辛いからもう飼わない」「○×ちゃんが忘れられない」などと次のペットを飼わない人がいる。情が厚い感じがして憧れるが、私はすぐに次を飼いたくなった。「猫がいればいいなぁ」とつぶやいては、夫に「まだ四十九日も済んでないのに」とたしなめられた。そんな私の心に大いに響いたのは、オレゴン・ヒューメイン・ソサエティー(OHS)の「End Petlessness(ペットなしの日々にさよなら)」というコピー。運転中、ふと気付くと目の前のビルボード広告に、かわいらしい犬猫のイラストと共にそう書かれていた。「ペットなしの寂しい日々を終わりにしたいよなぁ」としみじみ思わされたのである。

矢も盾もたまらず、「見に行くだけ」とほとんど騙し討ちのように家族を連れて行ったOHSは、思いのほか大きくてきれい。犬部門は迷路のように個室として仕切られ、それぞれに犬が入れられている。たまにフンをしてしまって途方に暮れているのもいたけれど、大抵は清潔。金網状のドアに、犬の名や種類、年齢、性格などの情報が書かれた紙が下がっている。犬と少しの間だけ遊ばせてもらえる小部屋も、ところどころに用意されている周到ぶりだ。
キャンキャン鳴くのもいて、にぎやかな犬部門に比べると、猫部門はゆったり。個室は少なく、大方は相部屋、大部屋だ。やはりお試し部屋があり、気に入った猫としばしの時を過ごせる。娘が猫アレルギー気味なので、もしも猫を連れて帰って、やっぱりダメとなったらどうしよう?と尋ねたところ、返品(返猫?)もできるとのこと。お試し部屋で一緒に過ごしてよく確認するよう勧められた。

いろいろ目移りした末、少し毛足の長い黒猫を連れて帰ることに。生後5カ月のメス。養子縁組料は$100であった(人気の子猫はもっと値段が高く、高齢の猫は安い)。すでに数種の予防注射と避妊手術がしてあり、固体識別のためのマイクロチップも埋め込まれていることを考えればリーズナブルか。OHSは運営のすべてがこのお金と寄付で賄われているそうだから、少し高く感じられるのは仕方がないのだろう。それに、少しハードルを高く設けることで、かわいいからと安易に犬猫を連れて帰っては結局飼いきれないというような人々を退ける意味もあるのかもしれない。

私達が猫を連れて帰った土曜、同じように引き取られていった動物は50匹。意外にハイペースなので安心した。が、それでもシェルターがいつも満杯なのだと聞かされると、行き場のない犬猫の予想外の多さに圧倒される。新しい飼い主を待つ犬猫は、オンラインで見ることもできる。

Oregon Humane Society
1067 NE Columbia Blvd.,
Portland, OR 97211
TEL: 503-285-7722
開館時間:10:00 a.m.~7:00 p.m.(木~土曜~9:00 p.m.) 休み:なし 
www.oregonhumane.org

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子供も巻き込んで 寄付を気軽に
(2011年2月)


今月のレポーター/大石洋子
夫の海外勤務でアメリカに暮らし始めて18年。以前は東海岸に住んでいたが、03年からオレゴンに。雨ばかりの冬にもだいぶ慣れた。趣味は映画鑑賞と読書。ビールも好き。

時々、「うわ、困っちゃったな」という電話をもらう。寄付を募るものだ。わが家の番号はNational Do-Not-Call Registry※に登録しているので、こういう電話は掛かってこない(というか掛けてはいけない)はずなのだが、たまにある。いまどき、電話でクレジットカードの番号を教えるはずがないことは彼らも知っているから、どういう団体かを早口で説明した後、「○○ドル寄付すると約束してくれますか?」とくる。ここで「イエス」と言うと、後日、その額の請求書が送られてくるらしい。

詐欺まがいの団体は論外だが、真面目に活動している団体からの電話は、なかなか対応が難しい。これまで、英語がわからないふりをしたり、「興味ありません」の一点張りで通したり、「お金がない」と言ったり、さまざまな手を使ってきたが、後味はいまひとつ。真摯な対応ではなかったと後悔するのだ。それで最近は、「急に電話で寄付するかどうかは決められないから、パンフレットなどを郵送して欲しい」と言うことにしている。電話を早く切りたいがための逃げ口上ではない。郵送されたものはきちんと読むつもりだし、そのうえで手助けしたいと思ったら、寄付もありだと思っている。面白いのは、こう言った後、実際にパンフレットが送られてきたことは1度もないということ。

結局のところ、星の数ほどの団体がある中で、どこに寄付するかというのは、活動内容にどのくらい共感を持てるか、だろう。家族や友人、知り合いに同じような悩みを抱えた人がいれば、その団体の活動に共感を持ち、いくばくかでも寄付する気になろうというもの。いきなり掛かってきた電話では、自分達の活動に並々ならぬ情熱を持った人が、あたかも世界で最も重要な活動をしているかのようにまくしたて、こちらが共感しないと、「どうして?」と責め立てるような口調になるからどうもいけない。

そんな「共感や情熱」は寄付の大きな動機付けだが、もうひとつ、「手軽さ」もポイントだろう。クレジットカードを使って、オンラインで寄付できるのは便利。また、物品の寄付はもう少し敷居が低くてやりやすい。私は、Transition Projects(ホームレスから抜け出そうという人々を支援する団体)に、未使用のデオドラント、ハミガキ、歯ブラシ、ローションなどを持って行く。これらは、セール時に買いだめしたり、あるいはスーパーマーケットなどで買い物の総額によって割り引きを受けた際に、割り引き分を寄付用のアイテム購入に充てたりして集めておいたもの。寄付をするのにチェックを書くのはためらわれても、こうして買い物ついでにちょこちょこと集めておくと、あまり負担に感じずに済む。こうして実際に手渡しすることで、子供に「困っている人を助ける」という行為を手伝わせるという効用もある。寄付を受け付けている場所、希望するアイテムのリストなどはウェブサイトに記されている。

ほかにも物品の寄付を受け付ける団体はたくさんある。ポートランドのレクリエーション・センターには、Oregon Food
Bankへの寄付を受け付ける入れ物が置かれていることがあり、子供の水泳クラスなどのついでに、缶詰や乾物などを置いてくるのも良いだろう。

※登録すると、勧誘などの迷惑電話を差し止めにできる(例外あり)。連邦政府が管理しており、登録は無料
www.donotcall.gov

Transition Projects Inc.
www.tprojects.org

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雨の日にはこんなDVDを-日米の歴史を紐解く映画
(2011年1月)


今月のレポーター/太田美郷
6年間に及ぶメキシコシティーでの生活を終え、2年前にオレゴンへ移住。治安が悪い都市から来たせいで、道を走る人をスリと見間違えることもしばしば。せっかく覚えたスペイン語を忘れないようにとオレゴニアン達と共に勉強継続中。趣味はおいしいジャンク・フードを見つけること。

しとしと雨が降り続くこの季節。外に出掛けるのも億劫だし、家の中にひきこもってDVDで映画鑑賞……という人も多いのでは。その中の1本として、ぜひ見て欲しい映画がある。ちょっとしたオレゴン史の勉強を兼ねて、手に取ってみてはいかがだろうか。

「On Paper Wings - 紙の翼に乗って」は、ここオレゴン州ブライと、福岡県八女市が舞台のドキュメンタリー映画。第2次世界大戦中に製造された“風船爆弾”によって引き起こされた、悲しくも心温まる実話である。
「風船爆弾なんて聞いたこともない」という人がほとんどだと思うが、旧日本軍が極秘製造していた実在する戦争兵器。その名の通り、風船に爆弾をくくりつけ、ジェット気流を利用してアメリカ本土まで飛ばすという単純明快かつ大胆なもので、当時の物資不足や技術レベルを考えると画期的なアイデアであった。原料はなんと和紙。軍の命令により集められた女学生達が、想像を絶する重労働の末、直径約10メートル、総重量約200キログラムという巨大な風船を作り上げたのである。

この爆弾は約9,000個が飛ばされ、アメリカ本土に到着した数は200個以上もあったのだそうだ。紙でできた風船が太平洋を越えてアメリカ大陸に到着するなんて、不謹慎ながら日本の技術力の高さに感心してしまう。

1945年5月5日、爆弾のひとつがオレゴン州の南に位置する町、ブライにも流れ着き、5人の子供と1人の妊婦の命を奪ってしまう。報道規制があったアメリカでは、このニュースは極秘扱いされ、事実は歴史に埋もれてしまった。40年の月日が流れ、この話のキーパーソンでもある日系2世のジョン・タケシタ氏がこの爆弾の存在を知り、日本の友人に話したところ、偶然にも友人の妻が爆弾製造に携わった女学生だったことがわかった。その後、ブライを訪れ遺族を知った彼は、日本とアメリカの当事者達が連絡を取れるよう双方のつなぎ役を務める。彼を通して交流が始まり、最終的にはわだかまりを捨てて和解し合う……。

この映画を作ったのは、アメリカ人映画監督のイラナ・ソルさん。彼女は日系人強制収容問題を調べていくうちに偶然この事件を知り、映画製作を決意したのだそう。作品は中立的な視点が貫かれており、「被害者と加害者ではなく、戦争自体が愚かな行為である」ということを訴えている。登場人物の中で特に印象的だったのが仲介役を引き受けたタケシタ氏だ。日米双方の気持ちを理解できる彼だからこそ、このデリケートな問題を扱うことができたのではないだろうか。戦時中は実際に強制収容されたそうで、改めて日系人の方々が体験した苦労を考えさせられる。

昨夏、長崎で「国際平和映画フォーラム2010」が開催された。映像を通して平和を訴えるというイベントで、長崎では初めての試みだという。そんな記念すべき第1回に招待された映画がこの作品である。ノースウエストでも数々の賞を獲得しており、国内外で評価の高い作品だ。オンライン購入できるだけでなく、マルトノマ郡図書館でも借りることができる。この映画を見れば、日々暮らすオレゴンの意外な一面が見えてくるかもしれない。

On Paper Wings - 紙の翼に乗って
www.onpaperwingsthemovie.com

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