シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

都市近郊のトレイル

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2003年04月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

夜明けが早くなり、日脚もドンドン長くなってきた。家の周りや街中のそこここで白やピンクの花が開く。私達をいざなうように一斉に木々が芽吹き始める。今回は「♪歩くの大好き」のキャラバン隊長が、シーズン・インの足慣らしにシアトル・ポートランド近郊のトレイルを紹介する。

ウォーキングのすすめ

忙しい毎日の生活に流され、いつの間にか車ドップリのアメリカ生活。「これではいかん」と思っている人達には、ぜひウォーキングをおすすめする。晴れた日の気持ちがいい週末には、まず近くの緑の中や水辺へ歩き出してみよう。森や空気、水、生き物と自分達とのつながりを思い起こすひとときだ。うーん! 空気がうまい。だんだん体がほぐれ、気分が上向く。体と心が自然の息吹に満たされていくのを感じる。

健康、美容、若さの維持……。そんな体への効用を上回って、ウォーキングは心の豊かさと安らぎを私達に与えてくれる。波や水の流れの音、そして鳥の音を耳にしながら緑の中をゆっくりと歩いていくと、仕事や日々の心配事がそれほどのものでもないと思えてきて、ポジティブな考えすら浮かんでくる。“浮世の野暮用”に対しても、楽しみつつ立ち向かう元気が沸いてくるだろう。

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トレイルA to Z

トレイルは“小径”のこと。家の近くの公園から地の果ての踏み跡まで、北西部には延べ何万マイルものトレイルが続く。すでに代表的なトレイルについては、キャラバン#3「トレイル・ウォークのすすめ」(2002年9月号)で紹介したが、今回は都市や街にあるトレイルを取り上げたい。昼休みにダウンタウンの散策路。朝夕、家の周りで2時間の散歩。週末に、ちょっと車で出掛けて2時間~半日ぐらいの散策。ランチを持っての日帰りハイキング。計画を事前に立てて、足回りをしっかり整えたトレッキング……。とても1回では語れないので、今後もいろいろな場所、おすすめのコースを折につけて紹介するつもりだが、今回はこの10カ所。 近くに住む人々にとっては、毎日の散歩やジョギング・コースなのかもしれないが、街のすぐ近くに、素晴らしい自然ーー森や山、岸辺が広がっていることに喜びを覚えるだろう。ストローラー(乳母車)を押して、犬を連れて、カメラ、スケッチ・ブックを携えて、自転車にまたがって……。ノースウエストの素晴らしい環境をありがたく楽しむことにしよう。

また、日頃、車で走り抜ける公園をゆっくり歩いて初めて、車中心にできているアメリカの都市や街の大きさ、たたずまいを感じることができる。自分たちの住んでいるノースウエストが、じつは地球上でも希有の多様な自然が広がる宝の山であることも知るだろう。

トレイルを歩く際に、当コラム「トレイル・ウォークのすすめ」(2002年9月)を参照のこと。

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トレイルまでの交通手段

目的地までバスや電車などの交通手段を使う日本と異なり、アメリカでは公園やトレイル・ヘッドに車を止め、ウォーキングを楽しんだら車に戻るというパターンが主。しかしルートによってはうまくループにならない所や、山を越えるルート、同じ道を引き返したくないというルートなどが当然出てくる。そんな時、同行者や家人の協力が得られるなら、コースの起点と終点に車を1台ずつ置いて、あるいは起点まで送ってもらって歩き始めるという方法がある。携帯電話でお迎えを呼ぶという手もあるが、念のためタクシー会社の電話番号とトレイル・ヘッドで携帯電話が通話可能かどうかも調べておこう。

シアトル・ポートランド近郊では電車、バスのルートが延びているので、お目当てのトレイル・コースの近くに利用できる交通手段があれば、コースの選定にぐんと幅が出る。シアトルなら「キングカウンティー・メトロ」のウェブサイト(transit.metrokc.gov)、ポートランドなら「トライメット」のウェブサイト(www.tri-met)にアクセスして調べてみよう。

Information

トレイル探しに役立つサイト

シアトル近郊のトレイル

Cougar Mountain Regional Wildland Park
ベルビュー・イサクアの街の南に接したキング・カウンティーの自然公園。駐車場のあるトレイル・ヘッドは北・南・西面にある。ダグラス・ファーとアルダー(ハンノキ)の二次林(原生林を伐採した後にできる樹齢の若い林)だが、原生林の伐採根、立ち枯れた木、シダ、苔がすごく、オリンピック・ナショナル・パークのホウ・レインフォレスト並み。この森は若葉の頃が美しく、その頃、林床にはタラの芽、ワラビやぜんまいが一面に出てくるが、採ってはいけない。指をくわえてやり過ごそう。旧高射砲やミサイル陣地からチベッツ・マーシュ・トレイル(Tibbets Mersh Trail)を通り湿地帯を抜けるトレイルは、変化に富んでいて面白い。足回りをしっかりして歩いてみよう。

Discovery Park
534エーカーのシアトル最大の公園、ループ・トレイルは全長2.8マイルと手頃な距離で、森と海辺の高台を巡る。ピュージェット・サウンドとオリンピック半島の眺めが美しい。北側にある「ウルフツリー・ネイチャートレイル」が約1/2マイルのセルフ・ガイデッド・トレイルになっている。

●Snoqualmie Falls
カスケードの前衛峰が衝立のように背後にそびえるスノコルミーの街を通り、川に沿ってスノコルミー・バレー・トレイルが南北に延びている。駅舎を中心に森林鉄道でにぎわった往時の様子がしのばれる。観光地のスノコルミー滝は、落ち口から滝壷へ回るトレイルも歩いてみよう。近くで見上げる滝は壮観だ。

Squak Mountain State Park
ワシントン州の州立公園であるクーガー・マウンテンに比べると高さも傾斜もあり、ちょっとした山歩きとなる。トレイル・マップとコンパスを持って出掛けよう。パーキングのあるトレイル・ヘッドは南側。そのすぐ上の森の中に小さな子供でも森の生態が分かるような0.3マイルのトーマス・インタープレティブ・トレイル(Thomas Interpretive Trail)がある。

Tiger Mountain State Forest
ワシントン州の州有林。林道歩きが多く面積も広いので、マウンテン・バイクで回る方が快適かもしれない。ここもダグラス・ファーの二次林で、あまり眺望はよくない。

ポートランド近郊のトレイル

Forest Park
幅2km長さ12kmに及ぶ北米最大の都市森林公園。南端のワシントン・パークにはライト・レイルのMaxの駅がある。ここはパークと言うより山の中のトレイルに近い。ハイキングの準備で出掛けよう。

Fort Vancouver National Monument
1800年代の史跡だが、コロンビア川右岸の広いオープンスペースで気持ちがいい。砦(交易所)周辺の開拓時代を再現した作物畑、花壇、戦後日本復興の青写真であるマーシャル・プランを作ったマーシャル将軍の住居など、歩いて史跡巡りが楽しめる。

Oxbow Park
サンディー・リバー沿いの総合自然パーク。ピクニック・エリアが充実。キャンプ場もある。夏には水泳、ラフティングも楽しい。秋にはサーモンが産卵に遡上してくる様子を岸辺から観察できる。

Tryon Creek State Park
閑静な住宅街の中の州立公園。ビジター・センター、ネイチャー・トレイルが充実している。朝夕は周辺の住民がジョギングやウォーキング、乗馬を楽しんでいる。ダグラス・ファーの二次林の中のセルフ・ガイデッド・トレイルがおすすめ。

Tualatin Hills Nature Park
現在整備中の公園。近年急速に開発が進んでいるビーバートン、ヒルスボロ周辺は、水鳥が多く集まる広大な湿地と潅木帯を含む平原だった。開発以前の自然をそっくりそのまま残し、トレイルを整備している。

Reiichiro Kosugi

1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。